2022/06/05

オーガニックカフェ・ウインドファームを開店

ウインドファームグループの始まりは、1987年の「有機農産物産直センター」の設立でした。翌1988年には無農薬コーヒーの自家焙煎を始めます。その後、生産者から直輸入するフェアトレードを広める中で、「有限会社有機コーヒー」という会社を設立しました。当時は「有機コーヒー」という言葉が一般に使用されていなかったため、「一般名詞」である「有機コーヒー」が奇跡的に社名として登記されました。有機コーヒー社は、日本で初めて有機コーヒーをフェアトレードで輸入した会社であり、日本で初めて有機認証のあるカフェインレスコーヒーを製造した会社でもあります。そんなウインドファームグループが創立35周年の年に、オーガニックカフェ(テイクアウト+イートイン)を開店しました。

有機農業とフェアトレードの普及に取り組んできたウインドファームグループが

「オーガニックカフェ・ウインドファーム」を開店した理由 

今から50年前の1972年にローマクラブが資源と地球の有限性に着目し『人類の危機リポート・成長の限界』を発表しました。その内容は、「人口増加や環境汚染などの現在の傾向が続けば、100年以内に地球上の成長は限界に達する」 つまり、このまま地球環境の将来に配慮しない経済活動が続けば、地球の破局は避けられないという強い警鐘を鳴らすものでした。

それから20年後の1992年、ブラジルで国連環境開発会議(地球サミット)が開催され、当時12歳の少女だったセヴァン・スズキが演壇に立って「伝説のスピーチ」をしました。

「今、動物や植物たちが毎日のように絶滅していくのを、私たちは耳にします。それらは、もう永遠にもどってはこないんです。・・・こんな大変なことが、ものすごいいきおいで起こっているのに、私たち人間ときたら、まるでまだまだ余裕があるようなのんきな顔をしています。まだ子どもの私には、この危機を救うのに何をしたらいいのかはっきりわかりません。でも、あなたがた大人にも知ってほしいんです。あなたがたもよい解決法なんてもっていないっていうことを。

・・・死んだ川にどうやってサケを呼びもどすのか、あなたは知らないでしょう。絶滅した動物をどうやって生きかえらせるのか、あなたは知らないでしょう。そして、今や砂漠となってしまった場所にどうやって森をよみがえらせるのかあなたは知らないでしょう。 どうやって直すのかわからないものを、こわし続けるのはやめてください」と。

1992年、国連環境開発会議(地球サミット)で演説するセヴァン・スズキさん

伝説のスピーチから30年が経ちました。「成長の限界」の発表からは50年が過ぎました。しかし、人類は未だに地球環境を悪化させ続けています。世界の森や海や大地で「開発」という名の自然破壊がくり返され、世界の生物多様性は過去50年で68%も失われ、その結果「生物種の絶滅」が信じられない速さで進行しています。1975年の年間絶滅数は1,000種だったのが、今は年間4万種もの生物が絶滅しています。実に40倍にもなっています。

※IPBES(生物多様性に関する政府間科学政策プラットフォーム)は、「人間活動によって生物種の多くで地球規模の大絶滅が進行しており、およそ100万種が今後数十年のうちに絶滅する恐れがある」と2019年に警鐘を鳴らしている
「鉱山開発」という名の自然破壊

それに加えて、世界的な肉食の増加に伴って、牧場をつくるために森林が伐採され、さらに家畜のエサを栽培するために森を伐採しています。エサの大半は、遺伝子組み換えの大豆やトウモロコシであり、大型機械を使って農薬と化学肥料と水を大量に使用して栽培しています。このような「工業的な畜産」や「工業的な農業」の拡大が生物多様性の減少と生物種の絶滅を加速させるだけでなく、温暖化ガスの吸収源をも減少させています。

森林が二酸化炭素の吸収に役立っていることはよく知られていますが、森の樹木が吸収するCO2以上に森の土壌が吸収しているCO2の方が5倍も多いことは、あまり知られていません。このことは、森の土壌だけでなく農地の土壌でも同様です。植物の根の周辺に共生する「菌根菌」と呼ばれる微生物がいますが、植物が生えると植物は根を伸ばして液化した炭素を土中に溢れさせて菌根菌に栄養を届けます。代わりに、菌根菌は根よりも多くのミネラルや栄養や水分を集めて植物の生育を支えています。

この植物と微生物群との共生関係によって炭素が微生物に与えられ、植物もよく育つことができるのですが、「工業的な農業」は農薬と化学肥料の大量使用によって、その重要な微生物を殺してしまいます。その結果、温暖化を加速させているのです。

近年、気候危機が進行する中で、こうした土壌微生物の重要性が国際的な研究で明らかになり、有機農業や森林農法の重要性が増しています。

森林農法の模式図

メキシコのトセパン協同組合が熱心に広めているアグロフォレストリー(森林農法/森林農業)

【今の私たちにできることから始める】

そうした状況の中で、「私たちにできることは何か?」を考えてきました。

有機農業と森林農法、そしてフェアトレードの普及に取り組んできたウインドファームは、創業35年の経験を生かして気候変動や生物種の絶滅が加速している現状を少しでも良くしていくために、(有)有機コーヒー(株)セカエルと協力して、環境団体や有機農業生産者とも連携しながら新たな事業に取り組むことにしました。

【有機農業とアグロフォレストリー】

その柱になるのは、有機農業を普及させることです。農薬と化学肥料を大量に使用して単一品種の大規模栽培や遺伝子組み換え作物を生産する工業的な農業、工業的な畜産を変えていくことです。

もう一つの柱は、森を守り森を再生できるアグロフォレストリー(森林農法/森林農業)を普及させて森林破壊をくい止め、森を増やしていくことです。

具体的には、アグロフォレストリーで生産している中南米やアジア、アフリカの有機農産物を今まで以上にフェアトレードで購入して全国に流通させていくことです。

特に、ウインドファームが長年提携してきたトセパン協同組合をモデルに、自然との共存を掲げて「国策」として森林農法に取り組んでいるメキシコを応援することは、世界に森林農法を広める上で大変重要だと考えています。今後、メキシコで増えてくる有機農産物をフェアトレードで購入する量を増やしていきたいと思います。

2019年1月17日 毎日新聞

そのためには、今まで以上に理解者を増やしていく必要があります。そこで、森林農法の有機農産物を本格的に流通させていくための実験として「オーガニックカフェ」と「オーガニックキッチンカー」を連携させて展開することにしました。4月22日アースデイに北九州でカフェを開店し、福岡と東京でキッチンカーを走らせ始めています。8月には福岡市にもオーガニックカフェを開店する予定です。

これらの店舗(と一部のキッチンカー)では、森林農法で栽培されたコーヒーやカカオ、果物、スパイスなどの他に、国内の「フードフォレスト」で栽培された有機果実も販売しています。また、福岡県の有機農業生産者が栽培された野菜や米を使用したオーガニック弁当なども販売しています。有機農業と福祉の連携(農福連携)に取り組み、有機栽培の認証と有機レストラン認証の両方を取得されているオーガニックパパさんには、特別にオーガニック・ヴィーガン弁当をつくっていただいています。福岡県赤村で40年以上も有機農業に取り組み、全国的な生産者のネットワークを構築してきた鳥越ネットワークさんとは、ウインドファーム創業以来の連携が続いています。

こうした実験的なオーガニックカフェやオーガニックキッチンカーによって、一定の経営が成り立つ「オーガニック・ビジネスモデル」が確立されたときには、弊社の志に共感していただける全国の皆さんとの連携が進展するのではないかと期待しています。

連携の一例として、東京国分寺のカフェスロー(オーガニックカフェ)では、ウインドファームがソフトクリーム製造会社とコラボして開発した有機豆乳&有機ココナッツミルク&有機コーヒーなどでつくられたソフトクリームの販売がまもなく始まります。

カフェで提供されるドリンクは全てオーガニック

カフェで提供されるコーヒー、スムージー、ジュースなどドリンクは全てオーガニックです。有機米粉と有機バナナ粉を生地にしたオーガニック・ヴィーガンクレープや有機野菜をふんだんに使ったオーガニック・ヴィーガン弁当、有機豆乳ソフトクリームなど全国的にもあまり見られないオーガニック&ヴィーガンの飲食を提供しているカフェです。カフェ内で、有機コーヒー生産農場での栽培方法(有機農業&森林農法)を動画で見たり、コーヒーの焙煎を店内で見学したり、お好みの生豆を選んで焙煎したてのコーヒーを購入することもできます。

【SDGs つづく未来へ】

環境や支援 考えるカフェ 無農薬コーヒー、有機野菜

 (2022年5月3日 読売新聞)

 途上国から有機栽培のコーヒーなどを適正価格で購入し、現地の人たちの自立を支援するフェアトレードに取り組んでいる水巻町の会社「ウインドファーム」が、カフェを同町猪熊にオープンした。環境保全に配慮しながら農産物の栽培を続ける現地農場の取り組みも紹介しており、代表の中村隆市さん(66)は「地球温暖化の問題や途上国支援に関心のある人に、気軽に訪れてほしい」と呼びかけている。 (柿本高志)

 店名は「オーガニックカフェ ウインドファーム」で、広さは約170平方メートル。遠賀川に架かる御牧大橋の近くにある飲食店跡を改装し、4月22日にオープンした。

 長年、ブラジルで農薬を使わないオーガニックコーヒーを生産している農場主にちなんで命名した「カルロスさんのコーヒー」や、エクアドルとメキシコの豆をブレンドした「ハチドリのひとしずく」などオリジナルのコーヒーを楽しめる。有機栽培した野菜をたっぷり使った筑紫野市の「オーガニックパパ」の弁当も販売する。

 中村さんは、途上国のコーヒー農場で多くの子どもたちが働き、大量の農薬を使うケースが多いことを知り、「有機農法を広め、子どもたちの置かれた状況を改善したい」と、1988年に無農薬コーヒーの取引を始めた。国内外でフェアトレードの大切さを訴え続けており、現在は、中南米や東南アジア各国からコーヒーや紅茶、カカオ豆なども輸入している。

 今回オープンさせたカフェの店内では、フェアトレードや有機農法など各国の取り組みを紹介する映像を流し、パネルも展示。メキシコを中心に中南米各国で広がっている森林農法も紹介している。

 この農法では、樹木や多様な果樹、トウモロコシといった農産物を植えた農場でコーヒーなどを栽培している。多くの人々が農法を通じて生活しながら働いており、荒れた農場の再生と森を育てる取り組みとして注目されている。

 カフェではこうした環境問題に関心がある大学生らもスタッフとして働いている。その一人、北九州市立大国際環境工学部3年の中牟田リラさん(20)は、地球温暖化や環境保全に関する啓発活動をする中で、中村さんと知り合い、スタッフとなった。

 中牟田さんは「自分たちが考案した有機バナナの粉を使ったクレープのメニューもある。気軽に来店して、環境問題や森林農法への関心を持ってほしい」と願っている。

 カフェの営業時間は午前11時から午後6時。月曜が定休日。今月5日までは、コーヒーやソフトクリーム、クレープなどの商品が割引価格となる。問い合せはウインドファーム本店(093・202・0081)へ。

2022年5月3日 読売新聞

2020/06/16

2020年6月21日夏至 キャンドルナイト・メッセージ

今から300年ほど前の日本に三浦梅園という医者がいました。
「自然哲学者」ともいわれる彼が、こんな言葉を遺しています。
「枯れ木に花咲くに驚くより、生木に花咲くに驚け」

枯れた木に花が咲くと人々は、奇跡が起こったといって驚く。だが、ほんとうに驚くべきことは、生きた木に毎年花が咲くことではないか、と梅園は言っています。

毎年、春がくると梅が咲き、桜が咲くことは、あたりまえのこと。
私たちが、朝起きて、目が見え、音が聞こえ、手足が動く、それもあたりまえ。

肺が働くから空気を吸える。胃や腸が働くから食べ物を食べられる。心臓が働くから血液が全身を巡ることができる。人間の心臓は、80年生きると、およそ30億回も鼓動を打ち、心臓を収縮させて、全心に血液を送る。それを昼も夜も寝ているときも続けている。これもあたりまえ。

あたりまえのことに対して、私たちはあまり関心を持たない。
だから私たちは、自分の身体に感謝することは、あまりない。
同様に、空気や水や食物を提供してくれる森や大地や海に対しても あたりまえだから、あまり感謝することがない。

しかし、こうした無数の「あたりまえ」が私たちのいのちを支えている。
「枯れ木に花咲くに驚くより、生木に花咲くに驚け」というのは、「あたりまえのことに奇跡が宿っている」という意味でもある。

地球という星に空気があること、水があること、土があること。山があり、川があり、海があること。草があり、木があり、森があること。虫がいて、鳥がいて、魚がいること。多様な動植物が生きていること。

全ての生命(いのち)の母が地球であり、この星に生きる皆が私たちの家族であること。
そのことに気づくことができれば、これまでの人間の行為がいかに自己中心的であったか、理解できるだろう。

1979年に米国のスリーマイル島で原発事故が起きても
1986年にソ連のチェルノブイリで原発事故が起きても
日本は原発を増やし続けた。

2011年に日本の福島で原発事故が起きたとき、多くの親たち、特に母親たちは、子どもを放射能(放射線)から守ろうと福島県や関東、東北から避難した。

避難先でお母さんたちがこう言った。「ここに子どもたちと避難してきて初めて、窓を開けることができて、安心して空気を吸うことができました。そして、安心して水を飲むことができました。」「子どもに外で遊んでいいよ、裸足で遊んでいいよ、土にさわっていいよ、落葉もさわっていいよって言えるようになりました。」「安心して森に入ったり、川に入ったり、海に入って遊ぶことができるようになりました。こんなにうれしいことはありません」と。

原発はウランを掘るところから自然の破壊と汚染が始まり、稼働中も汚染を広げ、十万年以上も毒性が残る「放射性廃棄物」を未来世代に残す。

私たちにとって、本当に大事なものは何なのか、本当に大切なことは何なのか。

46億年前、広大な宇宙の中に誕生した「地球」という奇跡
その星に生まれることができた奇跡 その星で家族と共に生きている奇跡 

そのことがどれほど幸せなことか

それを思い出すために、6月21日夏至の夜、でんきを消してキャンドルを灯したいと思います。

ナマケモノ倶楽部 
共同創設者 中村隆市

キャンドルナイト2020夏至
原発事故から9年、福島で増えている病気

[Summer Solstice June 21st, 2020 Message for Candle Night]

About 300 years ago, there was a Japanese doctor called Baien Miura, who is also known as a natural philosopher.
He said like this. “It’s more amazing to see flowers blooming on a live tree rather than to see them on a dead one.”

People say it’s a miracle to see flowers blooming on a dead tree but, he says, it’s more miraculous flowers blooming on a ”live” tree every year.

We take it for granted to see plum or cherry blossom blooming every spring, equally as we waking up every morning and seeing things, hearing things and moving our hands and feet.

We can breathe air because our lungs work. We can eat food because our stomach and intestines work. Blood can flow throughout our body because our heart works.
Out heart beats 3 billion times and pump blood all over our body during our 80 years life span. It keeps working days and nights.
We take that for granted too.

We don’t care much about ordinary things. So we rarely thank out body.
Similarly, we take it for granted that the ocean and earth that provide us air, water, and food. We rarely appreciate it.

However, these “ordinary things” support our lives.
“It’s more amazing to see flowers blooming on a live tree rather than to see them on a dead one.” means that we can see miracles in these “ordinary things”.

The earth holds air, water, and soil. There are mountains, oceans, and rivers. There are grasses, trees, and woods. There are insects, birds, and fish.
Diverse creatures live in this world. All lives belong to the Mother Earth and they are our family.
If we are aware of this fact, we can start seeing how we, human beings, behave egotistically on the planet of earth.

Even after The Three Mile Island accident happened in 1979, and even after The Chernobyl disaster in 1986 happened, more nuclear
power plants have been built in Japan.
Then, when Fukushima nuclear power plant was burst in 2011, many parents, especially mothers, evacuated from Fukushima,
the Tohoku Region and the Kanto Region in order to protect their beloved children from the radioactive contamination.

These mothers said to me after they settled in a safe place.
“I couldn’t open the window until I evacuated with the children here. Finally, I could inhale air, and drink water without any concern.
I could tell our kids to go to play outside with barefoot, okay to touch the soil and leaves on the ground. We could let them walk into
woods, rivers, and beaches. There is nothing happier than this! ”

Destruction and contamination of nature by the nuclear power plant starts from the point of digging uranium out of the underground, and spreads pollution even during the operation.
It leads to the creation of radioactive wastes that will remain toxic for more than 100,000 years in future generation.

What is really important thing for us?

4.6 billion years ago, the mother Earth was born miraculously in the vast universe.
We are so fortunate to be able to be born on this planet and be able to live with our family here.
Is there anything happier than this for us?

On the night of June 21st, the summer solstice, I would like to turn off electric lights and light up candles instead, remembering and thanking this miracle.
https://bit.ly/2ABwMDR

The Sloth Club
Co-Founder Ryuichi Nakamura

https://www.facebook.com/theslothclub/posts/3057798944308801

2020/01/17

メキシコが国策として森林農法を推進、植林エリアを拡大

HAPPY NEW YEAR 2020
年始にあたって、今年も皆さまと共に歓びを分かち合いたいことがあります。
昨年の年始ごあいさつで「メキシコの新しい大統領が国策として、森を再生する森林農法(アグロフォレストリー)をメキシコ全土に広めると表明したこと。それを推進する大臣として、私たちが長年フェアトレードで提携してきたトセパン協同組合スタッフのマリア・ルイサさんが就任したこと」をお伝えしました。


真ん中のA.M.ロペスオブラドール(愛称アムロ)大統領の左がマリア・ルイサ厚生大臣


マリア・ルイサさん


先住民の圧倒的な支持を受けるアムロ大統領夫妻

森林農法を拡大する「センブランド・ヴィダ(いのちの種をまく)」と呼ばれるプロジェクトは、100万ヘクタール(東京、神奈川、千葉を合わせたより広い面積)で森林農法の森を増やすという壮大な計画であり、「本当に実現できるのか」という声もありました。

しかし、実際にプロジェクトが始まると、参加を希望する先住民や小農民が予想以上に多く集まり、目標の年間50万ヘクタール(2年で100万ヘクタール)植林する予定が1年も経たないうちに、およそ60万ヘクタールも植林されたのです。

【いのちの種をまく「森林農法プロジェクト」100万ヘクタールをさらに拡大】
さらにうれしい出来事が起こっています。近年、メキシコも含めた中南米から米国への移民問題が大きくなっていますが、「センブランド・ヴィダ」が始まったことでメキシコを離れることを思い留まり、プロジェクトに参加する人が増えています。また、貧困や治安の悪化により近隣諸国からメキシコに逃れて移住している人たちの参加希望も増えています。
彼らの多くは南部のチアパス州に暮らしており、困難な状況にある彼らにもプロジェクトに参加してもらいたいということから、チアパス州に割り当てられていた植林面積に加え、新たに20万ヘクタールを植林予定面積として追加しました。

いのちの種をまくプロジェクトに参加した人たち(生産者)は、25名で1つのグループをつくり、各グループには技術指導者が1人、ソーシャルワーカーが1人加わって、グループごとに定期的に役所へ現状報告を行います。生産者には給与としてひと月に5000ペソ(約3万円)が振り込まれ、そのうち500ペソは貯蓄されます。これはトセパン協同組合の銀行「トセパン・トミン」をモデルにしています。

【森林農法プロジェクトが中米に広がる】
さらに、このプロジェクトは、国連の協力も得ながら移民問題の対策として、グアテマラやエルサルバドル、ホンジュラスにも広がり始めています。これらの国々においては、特に雇用を増やすことで貧困や治安悪化の状況を変えることを目指していますが、森が増えることで気候変動の抑制に貢献するという目的もあります。

特に、エルサルバドルでは、気候変動の影響だと言われる火事が頻繁に起きており、国土が荒廃してきています。これら3ヶ国はコーヒー生産国でもあるため、特に森林農法の広がりと雇用を生む「センブランド・ヴィダ」によって、小規模なコーヒー生産者がより安定した収入を得られることが期待されています。

ロペス・オブラドール大統領は、「センブランド・ヴィダは生産性と収入をもたらすだけではない。生まれた場所で働き、家族と共に生活し、幸せに暮らすことができる」と人々に伝えています。


(前列左から4人目)アムロ大統領とマリア・ルイサ大臣(前列右から4人目)

「いのちの種をまく」プロジェクトは、経済的に貧しい人たちや小規模生産者を助けるための政策であり、森林の再生を柱として、農地の再生、地域社会の再生、地域経済の活性化をも目指しています。※2019年12月14日 大統領はプロジェクト予算が2019年の130億ペソから2020年は260億ペソ(約1500億円)になると発表

植林は森林農法を基本として、何をいつどこに植えるかを短期、中期、長期の3つの段階に分けて計画しています。最初に植えるのは、伝統的な「ミルパ」と呼ばれる農法で、自分たちが食べるためのトウモロコシ、豆、カボチャを中心とした野菜類を植えます。次に植えるのは、3~4年で実をつける果樹(ここにコーヒーやカカオも含まれる)が植林され、最後に生育期間が長い木材となる樹木が植えられます。

このプログラムで実施される森林農法とミルパにより得られる農作物は、主に地域における流通と生産者の食糧になります。次の段階においては、トセパンのような組合を設立し、トセパン・トミンのような小規模金融(マイクロクレジット)システムも取り入れ、販売の知識なども学びながら地域経済を活性化させていきます。つまり、政府はトセパン協同組合がやってきたことをモデルにしてこのプロジェクトを推進しているのです。


アムロ大統領とマリア・ルイサ大臣

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トセパン協同組合で働いていた頃のマリア・ルイサさん


後列右から2人目がマリア・ルイサさん


前列中央がマリア・ルイサさん(赤い服)

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【パトリシアさんの夫が環境大臣に就任】
そして、もう一つ驚きの出来事がありました。私たちに森林農法の重要性を教えてくれて、トセパンを紹介してくれたパトリシア・モゲルさんの夫であり、私たちの友人でもあるビクトルさんが、メキシコの環境大臣に就任したのです。
2019年5月27日、ロペス・オブラドール大統領は定例記者会見において、環境・天然資源大臣として、ビクトル・マヌエル・トレドを任命したと発表しました。ビクトルさんは、メキシコ国立自治大学で博士を取得し、先住民と生物多様性の関係を主な研究分野として、これまでに200件以上の研究を発表しているほか、12の著書を出版しています。大統領は、ビクトルさんが豊富な経験を有する専門家であることに加え、公共政策を行う上で最も必要な誠実さを兼ね備えていると評価しています。


アムロ大統領(左)とビクトル環境大臣

一年前に大統領に就任したロペス・オブラドール大統領は、素晴しい就任演説を行いました。
「私たちは自然を破壊することなく生産性を向上させる森林農法を推進します。遺伝子組み換え種子の導入および使用は認めません。フラッキングのように、自然に影響を及ぼし、水源を枯渇させるようなガス、石油あるいはいかなる自然資源の抽出産業も認めません。環境に影響を与える経済、生産、商業は認めません。土壌、水および空気の汚染はくい止めます。動植物は保護します。水は民営化させません」と明言しました。

この演説にある自然保護政策を中心的に担っているのがビクトルさん率いる環境省になります。そして、森林農法の研究者としても著名なビクトルさんは、パトリシアさんと共にセンブランド・ヴィダ(森林農法)の推進、普及にも協力しています。


センブランド・ヴィダ発表:(左から)アムロ大統領(1人おいて)マリア大臣、ビクトル大臣

じつは、昨年11月にパトリシアとビクトル夫妻を日本に招待する予定だったのですが、ビクトルさんが環境大臣に就任したため来日できなくなりました。しかし、パトリシアさんは約束通りに来日してくれて、九州、関西、関東で講演や対談を行いました。

最初に訪問したのは熊本でした。その理由は、熊本で長年フェアトレードの普及に努め、熊本市を「アジア初のフェアトレードシティ」に導いた明石祥子さんを応援するためでした。
明石さんは2016年の熊本大地震で被災し、ようやく再建した店舗兼住宅を2018年の火災で全焼してしまいました。
そんな度重なる苦難にもかかわらず、今も焼け跡にテントを張ってフェアトレードの普及活動を続けています。その姿に感銘を受けたパトリシアさんは、2年続けて「フェアトレードシティくまもと」で講演してくれたのです。


(左から)パトリシアさん、明石さん


(2019年11月5日朝日新聞)

横浜の明治学院大学で開催された「しあわせの経済 国際フォーラム」では講演だけでなく、対談も行われました。タイの先住民カレン族のスウェさんと先住民ナワット族の祖父を持つ生態学者のパトリシアさん、そして、フェアトレード会社を経営する私の3人で「森林農法と地域経済」という鼎談も行ないました。


(左から)スウェさん、パトリシアさん、中村

今、世界中で貧富の格差が広がり、農村地域の貧困が深刻化する中で、生態系の破壊と汚染が広がっています。タイでは、巨大企業が進める遺伝子組み換えトウモロコシと農薬使用がセットになった農業が、これまで自然と共生してきたカレン族の村にも広がってきています。そうした状況に危機感を抱いたスウェさんは、カレン族の村々で、「トウモロコシの単品大量生産ではなく、森と共生しながら多様な食物を栽培できる森林農法をベースにして、コーヒー栽培を加える形で地域経済を活性化させていこう」と呼びかけ、2年前から有機コーヒーをフェアトレードで輸出し始めています。


 タイ・カレン族のノンタオ村にて、村人に呼びかけるスウェさん(背中)

一方、メキシコでは先住民ナワット族が42年前に設立したトセパン協同組合が近代農業によって破壊された自然を森林農法で再生してきた実績があります。1年前に誕生したメキシコの新政権は、それを高く評価し、メキシコ全土で森林農法の拡大プロジェクトを展開しており、「22万人を超える先住民や小農民がプロジェクトに参加している」というパトリシアさんの話は、スウェさんを大いに勇気づけました。

パトリシアさんの話を聞いた感想を問われたスウェさんは、「私の先生になってほしい」と答えました。

【今秋、メキシコで「しあわせの経済 国際フォーラム」を開催】
こうした流れを受けて、今年11月にメキシコで開催される「しあわせの経済 国際フォーラム」には、スウェさんも参加することが決まりました。メキシコの森林農法や環境政策、協同組合の取り組みなどから多くの学びが得られることでしょう。
ウインドファームでもその時期に合わせてスタディツアーを企画します。国際フォーラムへの参加とトセパン協同組合の訪問、そして「いのちの種をまくプロジェクト」に参加している地域を訪問する予定です。(※追記:新型コロナウイルスにより開催延期になりました)

帰国前日に、ウインドファームの社員に対して、およそ3時間に及ぶ特別講義と質疑応答に応じてくれたパトリシアさんは、帰り際にこう話してくれました。「おそらくビクトルやマリア・ルイサもメキシコでのフォーラムに参加してくれると思います」と。

パトリシア・モゲルさんと私が初めて出会ったのは22年前、1998年のコロンビアでした。
中南米で初めて開催された「国際有機コーヒーセミナー」に招かれた私は、ブラジルのカルロスさんとのフェアトレードについて講演したのですが、私自身がそのセミナーで最も学ぶことができた講演が、パトリシアさんの「森林農法の重要性」でした。


コロンビアの国際有機農業センター(CIAO)にて 


パトリシア&ビクトル夫妻と

その出会い以来、私たちは互いの国を何度も訪問し合って交流を深めてきました。2000年にはブラジルで、2002年にはエクアドルで開催した「有機コーヒーフェアトレード国際会議」に招聘して、森林農法の重要性について講演してもらいました。

パトリシアさんの素晴しさは、優れた森林農法研究者であるだけでなく、メキシコの先住民や世界の生産者と共に「行動する学者」であることです。


「しあわせの経済 国際フォーラム」に参加したゲストと交流するパトリシアさん(右側中央)
(横浜市戸塚・善了寺にて)立っている2人は、左が辻信一さん、右が成田住職

ウインドファームは今年で創業33年になりました。
年を重ねるほどに「持続可能な地球を子どもたちや未来世代に残したい」という思いが強くなっています。

皆様と共に、今年も有機農業や森林農法、フェアトレードを通してそうした取り組みに参加できることを有難くうれしく思っています。

ありがとうございます。

株式会社 ウインドファーム
代表取締役 中村隆市

2019/06/05

「町と世界をつなぐブラジル名誉市民」KBC 九州朝日放送

町と世界をつなぐブラジル名誉市民や平和のシンボル ふるさとWish水巻町
(2019年6月4日 KBC九州朝日放送)より抜粋

[アサデス。旅行社]


リポーターのボビー、コーヒーの世界で活躍する中村さんの話に興味津々

福岡県北部に位置し、人口およそ2万8千人の水巻町。県内で4番目に小さい町は、かつて炭鉱町として栄えていました。現在の町の特産品は、この時季、収穫真っただ中の「でかにんにく」。ホクホクとした食感が人気なのだそう。

2019年6月4日(火)に放送された、九州朝日放送の情報番組「アサデス。KBC」の人気コーナー「聞き込み!アサデス。旅行社」では、そんな水巻町に「外国っぽいスポット」があるということで、アメリカ出身のリポーター・ボビーが訪ねました。

コーヒーがもたらした“国際交流”


今回も、ボビーはアイタカーに乗って聞き込みへ!

まず向かったのは、水巻町にできたばかりの新スポット「イコット!ミズマキ」内にあるコーヒー店「ウィンドファーム」。ここに一体、どんな外国とのつながりがあるのでしょうか。ボビーが店主の中村 隆市さんにお話を聞きました。

「私自身が有機農業をやっていたことから、国外のコーヒー産地へ行って有機栽培の方法を勧めてまわったんです」と教えてくれた中村さん。実は、環境に優しいコーヒーの有機栽培を世界で普及させたとして、コーヒーの世界では有名人。お店にはその過程で出合った、ブラジルやエクアドル・グアテマラ・東ティモールなどから直接仕入れたコーヒー豆が並んでいます。

さらに、コーヒー農家が災害で被害を受けた際には、水巻町民の有志で復旧の手伝いに行くなど、その功績が称えられブラジルのマッシャード市の名誉市民にも任命されたそう。今では毎年、消費者と交流するために外国のコーヒー生産者が水巻町を訪れているそうで、これは確かにものすごい外国とのつながりです!

全文はコチラ

2019/05/17

環境や人権に配慮した消費へ 北九州エシカルネット発足 小倉北区で記念イベント

環境や人権に配慮した消費へ 北九州エシカルネット発足 小倉北区で記念イベント
(2019/5/15 西日本新聞)

 環境や人権に配慮する「エシカル(倫理的)な消費行動」を提唱する「北九州エシカル推進ネットワーク エシカル種まき隊」(エシ種)が11日、発足した。今後、市民向けの勉強会を開くなどしながら「身近な行動を見直し、持続可能な社会をつくろう」と呼び掛けていく。小倉北区で同日、記念イベントを開催した。

 エシ種は、北九州市立大外国語学部の大平剛教授ら5人が呼び掛け人となり発足。イベントで大平教授は「生産者にわずかなお金しか支払われないコーヒーはおいしいか、子どもが強制されて摘んだ綿花でできた服は気持ち良く着られるか」と問題提起する「発足呼び掛け文」を紹介した。

 イベントでは、途上国の産品を適正価格で取引して生産者の暮らしを守る「フェアトレード」のコーヒー販売を手掛ける「ウインドファーム」(水巻町)の中村隆市代表が講演。安全な食材を提供したいと有機農業に取り組む中で、農薬を使わず、手間暇をかけるブラジルのコーヒー生産者に出会ったことを紹介。中村代表は「どういう風にお金を使うかで、課題の解消につながる」と話した。

=2019/05/15付 西日本新聞朝刊=

2019/05/11

「裕福26人の資産」=「38億人分」 なお広がる格差

「裕福26人の資産」=「38億人分」 なお広がる格差
(2019年1月22日 朝日新聞)

 国際NGO「オックスファム・インターナショナル」は21日、2018年に世界で最も裕福な26人の資産の合計が、経済的に恵まれない世界人口の下位半分(約38億人)の資産合計とほぼ同じだとする報告書を発表した。格差拡大に歯止めをかけるには富裕層への課税強化が必須とし、スイス・ダボスで22日に開幕した世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で対策を呼びかける。

 同団体がスイス金融大手クレディ・スイスのデータなどをもとに推計したところ、経済的に恵まれない世界人口の下位半分の資産合計は1兆3700億ドル(約150兆円、18年4~6月期)。米経済誌フォーブスの長者番付と比べた結果、上位26人の資産合計とほぼ同じだった。また、下位半分の資産合計は対前年比で11%減ったのに対し、超富裕層約1900人の資産合計は18年3月までの1年間で12%増えていた

 オックスファム・インターナショナルのウィニー・ビヤニマ事務局長は朝日新聞の取材に対し、「富裕層の税負担が軽すぎることが富の集中を生んでいる」と指摘。世界人口のうち最も裕福な上位1%の資産に0・5%課税すれば、年4千億ドル(約44兆円)余りが集まり、学校に行けない2億6200万人の子どもの教育に加え、医療サービス提供で330万人の命を救うことができると強調した。
(ダボス=寺西和男)

「世界中が怒りを感じている」上位26人が下位38億人分の富を保有。富裕層があと0.5%でも多く税金を払えば、貧困問題は解決するのに
Oxfam Inequality Report Highlights Wealth Disparity
(2019年1月22日 ニューズウィーク日本版)


戦う機運も 格差に怒り、富裕層の所得税率を引き上げるよう提案しているオカシオコルテス米下院議員(写真中央) 

国際慈善団体オックスファムが年次報告書で貧富の格差がまた拡大したと指摘。各国政府に富裕層や企業への増税を呼びかける

新たに発表された報告によると、世界で最も裕福な26人が、世界で所得が最も低い半数38億人の総資産に匹敵する富を握っており、しかも貧富の格差は拡大し続けているという。

イギリスを拠点に貧困問題に取り組んでいる国際慈善団体オックスファム・インターナショナルが、このほど年次報告書を発表。拡大する一方の貧富の格差を是正するため、富裕層への増税が必要だと各国政府に呼びかけた。2008年の世界金融危機以降、世界の超富裕層の資産総額が数十億ドル単位で増えた一方で、世界人口のうち所得が低いほうの半数にあたる38億人の資産総額は10%以上減少した

中東の衛星テレビ局アルジャジーラによれば、オックスファムのウィニー・ビヤニマ事務局長は声明の中で、「世界中の人々が怒りや不満を感じている」と警告。「各国政府は、各企業や富裕層が応分の税を支払うようにすることで真の変革をもたらさなければならない」として、富裕層にほんの少し増税するだけでも、教育費や医療費を賄うための十分な資金調達が可能だと指摘した。

最富裕層にあと0.5%だけ増税すれば
報告書によれば、実際にブラジルやイギリスなど一部の西側諸国では、最も裕福な10%の方が最も貧しい10%よりも所得税率が低い。「最も裕福な1%があと0.5%だけ多くの税金を支払えば、教育を受けられずにいるすべての子供2億6200万人に教育を授け、330万人に医療を提供して命を救ってもまだ余るだけの財源を確保できる」という。報告書はまた、世界の超富裕層が約7.6兆ドルの租税回避をしているせいで、途上国は年間約1700億ドルの所得を失っている、ともいう。

前向きな報告もあった。過去数十年で極度の貧困状態にある人の数が大幅に減少したのだ。

英ガーディアン紙は、「極度の貧困状態にある人の数が大幅に減少したことは、過去25年における最大の成果のひとつだ。しかし貧富の格差が拡大していることで、さらなる貧困解消の可能性が脅かされている」というオックスファムのマシュー・スペンサー活動・政策担当ディレクターの言葉を報じている。「私たちの経済の仕組みは、一部の特権層に富が集中するようになっており、その一方で何百万もの人々が生存ぎりぎりの生活を強いられている。女性たちは一人きりで子供を産んで命を落としており、子供たちは貧困から脱出する手段となる教育を受けられずにいる」と彼は指摘した。

同じく貧富の格差が拡大し続けているアメリカでは、バーニー・サンダース上院議員(バーモント州・無党派)や、昨年史上最年少で当選したアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員(29歳、ニューヨーク州・民主党)を筆頭に、進歩的な政治家が政府に対して格差問題への対処を強く求めている。オカシオコルテスは年収1000万ドル超の富裕層向けの最高限界税率を70%に引き上げるよう提案。最近の世論調査ではアメリカ国民の59%がこの改革を支持すると回答した。

アナリストらはまた、アメリカの富裕層は何十年も前から個人所得税の優遇措置を受けていると指摘。米経済が急成長を遂げていた1960年代、年間所得40万ドル(現在の約300万ドルに相当)を上回る富裕層を対象とした税率は70%以上だった。その10年前は約90%。それに対して現在は、年間所得が15万7500ドルを超えても、税率はたった32%だ。

主に富裕層と企業に恩恵をもたらしているドナルド・トランプ米大統領による大型減税は、財政赤字の劇的な増加を招いている。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、アナリストたちは2019年に財政赤字は1兆ドルを超えると予想している。

サンダースは1月18日、「最も裕福な1%と高収益の大企業については、トランプ減税を撤廃すべきだ」とツイッターに投稿した。「所得と貧富の不平等が広がっている今のような時代は、リッチな人々をさらにリッチにさせるのではなく、老朽化が進むインフラの再建と持続可能な経済の構築に取り組むべきだ」

(翻訳:森美歩)

2019/01/24

森林農法で地球の緑 未来へ パトリシア・モゲルさん(2019年1月17日 毎日新聞)

森林農法で地球の緑 未来へ パトリシア・モゲルさん
(2019年1月17日 毎日新聞)

「樹木や果樹との混植でコーヒー豆を育てることで、森を守ることと経済的な自立の両立が図られる」と強調するのはメキシコの生態学者、パトリシア・モゲルさん(62)。東京で昨秋、開かれた「しあわせの経済」フォーラムで、先住民族らが実践する森林農法を紹介した。

 メキシコ中部プエブラ州の山岳地帯で、先住民族らが運営するトセパン協同組合のアドバイザー。組合には約3万5000世帯が加盟し、森林農法でコーヒー豆も栽培している。日本では、福岡県水巻町の有機コーヒー販売会社「ウインドファーム」が輸入し、同社代表の中村隆市さん(63)は生産者やモゲルさんと交流を重ねてきた。
 
 メキシコのロペスオブラドール大統領は「国の政策として森林農法を推進する意向」と伝えられ、閣僚に起用されたマリア・ルイサ・アルボレス・ゴンサレス福祉相はトセパン出身という。モゲルさんは「日本にも環境や貧困の問題はある。大切なのはそれぞれが行動し、緑の地球を未来に残すこと」と語る。【明珍美紀】

2019/01/10

「子どもの未来、奪わないで」 子どもたちからのメッセージ

昨年12月、15歳の少女が第24回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP24)で190カ国代表の大人たちを前にして、子どもたちの未来のために行動するよう訴えました。その中の一節が、心に響きました。
「私たちの生物圏は犠牲にされています。…2078年に、私は75歳の誕生日を迎えます。もし私に子どもがいたら、一緒に過ごしているでしょう。子どもたちは私にあなた方のことを尋ねるかもしれません。まだ行動できる時間があるうちに、なぜあなた方は何もしなかったのかと」

この言葉で、福島原発事故前の2010年に小学6年生が書いた「大人の人に伝えたいこと」を思い出しました。

 僕が住んでいる愛媛県には原子力発電所があります。
 去年、ぼくが5年生の時、その原子力発電所に、フランスからMOX燃料が来ました。プルサーマル発電のためです。プルサーマル発電というのは、広島の原ばくウラン(一般の原子力発電所の燃料)と長崎の原ばくプルトニウム(高速増殖炉の燃料)をいっしょに核分れつさせて、タービンをまわす発電です。ウランもプルトニウムも危険な放射能を持っています。放射線というものは細胞の中の遺伝子をばらばらにしてしまうもので、ガンや白血病の原因となります。広島や長崎には、まだ今も後遺症で苦しんでいる人たちがいます。それなのに日本は世界第3位の原子力発電の国です。しかも、日本は世界第3位の火山国です。火山国だということは、地かく変動もよく起こります。もし、地しんが起きたらどうなるのでしょう。日本に原子力発電所は望ましいのでしょうか?

 もしなにも起こらなかったとしても、未来に、核のゴミとして残ってしまいます。

 CO2を出さないという理由で、原子力発電がさらに新しく建とうとしています。新しく作ると、きれいな海を埋め立てて、たくさんの命をうばい、住む所をなくします。それに原子炉を冷ますために、1秒で70トンの海水を、7度上げて、海に戻すことになります。もうこれ以上ぼくたちの環境をこわすのはやめてください。ぼくたちの未来に汚れた海や山、空気や水、核のゴミを残さないでください。
全文

福島のフレコンバッグの山

核のごみ 地層処分ムリ 人が20秒で死亡
   (2012年6月19日 東京新聞)

10万年の安全は守れるか 行き場なき高レベル放射性廃棄物
(2012年10月1日放送 NHKクローズアップ現代)から抜粋

原発が生むゴミ 高レベル放射性廃棄物

先月(9月)、日本学術会議が原子力委員会に出した報告書。
高レベル放射性廃棄物の地層処分の方針を白紙に戻すべきだという重い提言でした。

現在、高レベル放射性廃棄物の多くは青森県六ヶ所村に集められています。
地層処分が行われるまでの間、この貯蔵施設で一時的に保管しています。

発電に使われた核燃料の放射能は使用前の1億倍に増えます
ガラス固化体にした時点で放射能は少し下がりますがそれでも人が近づけば20秒で死亡するほど危険なものです。もとのウラン鉱石と同じレベルにまで低下するには10万年もの歳月を必要とします。

そのため日本では地下300メートルより深い地層に埋め込む地層処分という方法が国の方針となっています。
しかし今回、日本学術会議は地層処分を行うのは地震の多い日本では困難だと結論づけました。

人間が20秒で死ぬ「ガラス固化体」管理は10万年!?〈週刊朝日〉
(2012年10月26日号 週刊朝日)から転載

 日本学術会議が高レベル放射性廃棄物をパックしたガラス固化体の地層処分の見直しを提言し、原子力委員会に報告した。早稲田大学国際教養学部教授の池田清彦氏はそのニュースを聞いて、学術会議もようやくまともなことを言い出したという想いと、人類は10万年も先まで生存しているのだろうかという想いが錯綜し、ちょっと複雑な気持ちになったという。

*  *  *

 御承知の方も多いと思うが、ガラス固化体は使用済み核燃料を再処理する際に必ず生産されるもので、極めて強い放射能を有し、そのすぐそばに人間が立つと約20秒で致死量の放射線を浴びるというすさまじい物体だ。現時点までに日本国内の原発で使用された核燃料をすべて再処理した場合、約2万6000本のガラス固化体になると推定される。

 問題はガラス固化体の放射能は10万年経たないと安全なレベルにならない点だ。そこで30~50年ほど冷却しながら保管したあとで、地下300メートル以深の地層に埋めてしまおうというのが地層処分だ。しかし、地震のみならず、火山大国日本で、10万年も安定した地層を探すことは不可能であり、別の方法を考えろと学術会議は言っているわけだけれど、別の方法はあるかと言うと、どう考えてもないんだよね。

 原発を動かす限り、放射性廃棄物はどんどん蓄積し、未来世代は膨大な国の借金のみならず、膨大な量の放射性廃棄物に悩まされることになりそうだ。借金はハイパーインフレを起こせばチャラにできるが、放射性廃棄物にはいかなる手段をもってしてもチャラにできない。日本の政策を決定する議員や官僚は、今さえ凌げれば後は野となれ山となれと思っているのであろう。

 それにしても10万年も管理しなければ安全にならない装置って、いったい何なんだろう。現生人類はわずか1万年。化学燃料を大量に使い出してから200年しか経っていない。10万年とは言わず、1万年後のガラス固化体の面倒を誰が見るのだろう。自民党も民主党も電力会社もまず間違いなく消滅していると思いますがね。

子どもたちのメッセージを受けて、
1992年リオ環境サミットでのセヴァン・スズキ12歳のスピーチも思い出しました。

私がここに立って話をしているのは、未来に生きる子どもたちのためです。世界中の飢えに苦しむ子どもたちのためです。そして、もう行くところもなく、死に絶えようとしている無数の動物たちのためです。・・・死んだ川にどうやってサケを呼びもどすのか、あなたは知らないでしょう。絶滅した動物をどうやって生きかえらせるのか、あなたは知らないでしょう。そして、今や砂漠となってしまった場所にどうやって森をよみがえらせるのかあなたは知らないでしょう。どうやって直すのかわからないものを、こわし続けるのはやめてください。・・・もし戦争のために使われているお金をぜんぶ、貧しさと環境問題を解決するために使えばこの地球はすばらしい星になるでしょう。私はまだ子どもだけどそれを知っています。
学校で、いや、幼稚園でさえ、あなたがた大人は私たちに、世のなかでどうふるまうかを教えてくれます。たとえば、
・争いをしないこと
・話しあいで解決すること
・他人を尊重すること
・ちらかしたら自分でかたづけること
・ほかの生き物をむやみに傷つけないこと
・分かちあうこと
・欲ばらないこと
 ならばなぜ、あなたがたは、私たちにするなということをしているんですか。
スピーチ全文

子どもたちは、未来世代や生態系のことを心配しています。
彼らからの大切なメッセージを忘れないためにも、ここに記録しておきたいと思います。

      *      *      *

米国のバーニー・サンダース上院議員がシェアした動画

「子どもの未来、奪わないで」 15歳の活動家、COP24で演説
(2018年12月17日 CNN)

「あなた方は、自分の子どもたちを何よりも愛していると言いながら、その目の前で、子どもたちの未来を奪っています」――。スウェーデンの環境保護活動家、グレタ・トゥーンベリさん(15)。ポーランド南部カトウィツェで開かれた第24回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP24)で、集まった190カ国代表の大人げのなさを嘆き、子どもたちの未来のために行動するよう訴えた。

COP24では15日、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」の運用ルールについて合意したものの、目標を達成することはできなかった。科学者や交渉担当者は、化石燃料の使用や森林伐採を食い止め、地球温暖化に伴う気候変動を避けるためには、ルール採択だけでは到底不十分だと訴えている。

トゥーンベリさんは今年9月、学校を休んでスウェーデン国会前で座り込む抗議運動を展開し、数千人の子どもたちが温暖化対策を訴えるきっかけを作った活動家として知られる。

COP24で12日に行った演説の全文は以下の通り。

私はグレタ・トゥーンベリといいます。15歳です。スウェーデンから来ました。「クライメート・ジャスティス・ナウ」の代表として演説しています。

スウェーデンは小国なので、私たちが何をしようと問題ではないと言う人がたくさんいます。

でも私は、どんなに小さくても変化をもたらすことができると学びました。

もし、たった数人の子どもが学校へ行かなかっただけで世界中の注目を集めることができるのなら、私たちが真に望めば力を合わせて何ができるかを想像してみてください。しかしそのためには、それがどんなに不快なことであっても、はっきりと発言しなければなりません。

あなた方は人気低落を恐れるあまり、環境に優しい恒久的な経済成長のことしか語りません。非常ブレーキをかけることだけが唯一の理にかなった対策なのに、あなた方は私たちをこの混乱に陥れた、あの悪いアイデアを推進することしか口にしません。

それは大人気のない発言です。その重荷をも、あなた方は私たち子どもに負わせているのです。でも私は人気取りのことは考えません。私は気候の正義と生きている惑星のことを考えます。

私たちの文明は犠牲にされています。ごく少数の人たちが莫大なお金を稼ぎ続ける機会のために。

私たちの生物圏は犠牲にされています。私の国のようにお金持ちの国の人たちがぜいたくな生活をするために。その苦しみは、少数の人のぜいたくのために、多くの人たちが払う代償なのです。

2078年に、私は75歳の誕生日を迎えます。もし私に子どもがいたら、一緒に過ごしているでしょう。子どもたちは私にあなた方のことを尋ねるかもしれません。まだ行動できる時間があるうちに、なぜあなた方は何もしなかったのかと。

あなた方は、自分の子どもたちを何よりも愛していると言いながら、その目の前で、子どもたちの未来を奪っています。

政治的に何が可能かではなく、何をする必要があるのかに目を向けようとしない限り、希望はありません。危機を危機として扱わなければ、解決することはできません。

化石燃料は地中にとどめ、公正さに目を向けなければなりません。この制度の中で解決することがそれほど難しいのであれば、制度そのものを変えるべきなのかもしれません。

私たちは、世界の指導者たちに相手にしてほしいと懇願するためここへ来たのではありません。あなた方はこれまでも私たちを無視してきました。そしてこれからも無視するでしょう。

私たちは言い訳を使い果たし、時間も使い果たそうとしています。

私たちは、あなた方が望もうと望むまいと、変化は訪れると告げるためにやって来ました。真の力は人々のものなのです。

ありがとうございました。

      *      *      *

15歳少女、気候変動に抗議で2週間座り込み スウェーデン(2018年9月7日 BBC)

◆School strike for climate – save the world by changing the rules | Greta Thunberg |

(2018/12/12公開 TEDxStockholm)

2019/01/07

メキシコの新政権が国策として森林農法を推進

新年明けましておめでとうございます。
年始にあたって、皆さんと共に歓びを分かち合いたいことがあります。
それは、ウインドファームの創業から32年目の昨年12月に起きた奇跡的な出来事です。
長年、有機コーヒーのフェアトレードで提携してきたメキシコのトセパン協同組合のスタッフであり、私たちの友人でもあるマリア・ルイサ・アルボレスさんが、なんと、社会開発省の大臣に就任したのです。そして、トセパン協同組合が設立された40年前から取り組んできた森林農法(アグロフォレストリー)がメキシコ全土で推進されることになったのです。


マリア・ルイサさん


トセパン時代のマリア・ルイサさん(前列左から2人目、後列右が中村)


真ん中のロペスオブラドール大統領の左がマリア・ルイサ社会開発大臣

大統領に就任したロペスオブラドール氏は、素晴しい就任演説を行いました。
「私たちは自然を破壊することなく生産性を向上させる森林農法を推進します。遺伝子組み換え種子の導入および使用は認めません。フラッキングのように、自然に影響を及ぼし、水源を枯渇させるようなガス、石油あるいはいかなる自然資源の抽出産業も認めません。環境に影響を与える経済、生産、商業は認めません。土壌、水および空気の汚染はくい止めます。動植物は保護します。水は民営化させません。」と明言しました。

Sembrando Vida(命の種をまく=持続可能な地域社会づくり)』と名付けられたメキシコの新政権が推進する「森林農法プロジェクト」というのは、具体的には100万ヘクタールの土地に森林農法を展開するのですが、それを実施するのがマリア・ルイサ率いる社会開発省です。
この政策は大きく2つの課題の解決をめざしています。一つは「農村の貧困」、もう一つは「環境破壊」です。そして、農地の再生、地域社会の再生、地域経済の活性化を目指しています。まずは19の州において、1万ヘクタールの植林を行いますが、そのプロセスは、段階的に実施されます。建材となる樹木、果樹を植林して、森林農法(アグロフォレストリー)の森をつくり、森の豊かさを取りもどします。そして、ミルパ(トウモロコシ栽培が主体の伝統的な農法)と、果樹を組み合わせていきます。

『Sembrando Vida』における基本モデルは、次のとおりです。
各生産者は、2.5ヘクタール(7500坪)の農地を耕作し、地域の25名で生産者グループをつくることで、有機栽培や苗床づくりなどの援助を受けることができます。そのため、各グループには農業技術指導員などが任命されて、生産者を支援します。

このプログラムで実施される森林農法とミルパにより得られる農作物は、主に地域における流通と生産者の食糧とします。次の段階においては、組合を設立し、小規模金融(マイクロクレジット)システムも取り入れ、各種研修を受けて、販売の知識も学びます。
その結果、40万人の正規雇用を創出することで、家計収入の増加、販売力の増強、森林の再生、地域社会の誇りを取り戻すとしています。

2019年は、チアパス州、ベラクルス州、タバスコ州、カンペチェ州の22万人の生産者が、55万ヘクタールの耕作地の再生に取り組み、その4州の結果を踏まえて、2020年以降は、残りの15州でも同様に実施する予定です。
(スペイン語翻訳:井上智晴、和田彩子)


マリア・ルイサさんと肩を組むロペスオブラドール大統領

つまり、トセパン協同組合が長年取り組んできたことをメキシコ全土で展開していこうとしているのです。

近年、世界各地で「気候変動」が大きな問題になっています。日本でも昨夏、国内最高気温41.1度を記録して熱中症が過去最多となったり、観測史上例のない規模の集中豪雨や台風の「逆走」や記録的な風速も観測されています。

2015年、国連本部において「国連持続可能な開発サミット」が開催されました。150以上の加盟国首脳の参加のもと、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、行動計画として掲げた目標が「持続可能な開発目標(SDGs)」でした。

そのSDGsの目標は「貧困や飢餓をなくし、すべての人に健康と福祉と教育を、人や国の不平等をなくし、自然環境を守り、気候変動に具体的な対策を、平和と公正を全ての人に」といった17項目ですが、そのほとんどがトセパンによってこの40年間に取り組まれてきたことです。

森林農法について2006年にNHKが放送した<地球環境の旅 コーヒーを育てる恵みの森 メキシコ>という番組は、森林農法とドン・ルイス(ルイス・フスティニアノ・マルケスさん)のインタビューを紹介したものでした。その一部をピックアップします。

[ ナレーション ]30年前(注:1976年)メキシココーヒー協会が農家に配ったテキスト。コーヒーの木の周りは、草を刈るように書かれています。また、化学肥料を使ったり、農薬を撒いて害虫を駆除するように教えていました。こうした、森を切り開いてつくる農園をプランテーション農園と呼び、これが世界のコーヒー作りの主流なんです。


農薬散布

しかし、この方法は、収穫量が増えますが、自然を破壊する恐れがあります。コーヒー以外の木が切られると、露出した地面は荒れてしまいます。下草の生えない地面には虫はいなくなり、鳥などの生き物たちも姿を見せません。ルイスさんも一度はプランテーション農園にしましたが、収穫量は減っても自然に優しい森林農法に切り替えたんです。研究機関の教えも受け、ルイスさんは、町中に森林農法を広めました。

ドン・ルイス「収穫量がもっと上がれば、森林農法を選ぶ人は世界中に広がり、自然を守る意識も高くなると思います。私たち農家が森を守らなければ、誰が守るというのでしょうか。」

今日は、番組でふれていない協同組合の設立経緯や主要な歴史についてもご紹介します。

メキシコに協同組合をつくり、森林農法を広めた先住民ドン・ルイス
42年前、大農園主や仲買人、高利貸しなどが利益を独占し、先住民の大半が極貧状態にあった地域に協同組合を設立したドン・ルイスは、多くの先住民に敬愛されています。その理由を森林農法の生産者が語っています。

「ドン・ルイスの一族は、かつて裕福でした。なぜなら仲買人をしていたからです。地域の貧しい農民たちは、遠く離れた町まで農作物を運ぶことはできませんでした。道路事情が悪い上に、輸送手段がなかったのです。そのため、トラックを持つ仲買人に買い叩かれていました。地域の発展のため、ドン・ルイスはその仲買人の仕事を辞めようと、家族に提案したそうです。もちろん、家族は大反対でした。兄弟はその後、ドン・ルイスと口をきくことは無かったそうです。」

1977年に設立されたトセパン協同組合は、日本の農協と生協が合体したような協同組合で、初代組合長がドン・ルイスでした。彼は、小さな土地で農業を営む先住民と共に森林農法を地域に再生し、適正価格で生産物を買い上げ、生活必需品を安価で販売することで、生産者の暮らしを極貧状態から少しずつ脱出させていきました。

「みんなのお金」という名の銀行
そのころ銀行は、先住民にお金を貸しませんでした。そこで彼らは、1998年に自分たちで「トセパントミン(みんなのお金)」という銀行をつくりました。

その銀行は、一般の銀行より預金金利が高く、借入金利が低くなりました。先住民が持ち寄ったお金は、10年も経たずに50倍以上に増え、そのお金を銀行は、女性たちの新規事業に優先的に融資しました。

主食のトルティーヤ屋さん、パン屋さん、衣服や食品の販売店など女性たちは次々に開店し、地域を活性化させていきました。「トルティージャ屋や民芸品の販売を始めるまでは、1日17時間ぐらい働いていたの。朝4時から薪運びをして、火を起こしてとうもろこし粉をつくり、水をかけてトルティージャを何枚も焼いていたわ。家族の食事をつくり、もちろん洗濯もするのよ。夜には布を織って、刺繍を加える。時には、明け方まで続ける日があったわ。トセパンの生産プロジェクトは、グループの女性だけを助けるのでなく、地域社会の全ての助けとなっているわ。」

こうして、それまでは男性の陰に隠れていた女性たちがだんだん自信を持つようになり、組合設立から40年目の一昨年、トセパンに初めて女性の代表が誕生しました。


中央の女性がトセパン協同組合のパウリーナ・ガリード組合長

トセパンでは、6年に一度、組合の代表を決める投票が組合員によって行われます。
パウリーナさんは、子どもたちの教育支援を目指すトセパン基金を提案した人で、これが多くの人の評価を得ました。

トセパンでは、組合内に自らの幼稚園、小学校、中学校を設け、言葉、文化・伝統、宇宙観など先住民としての教育と国の教育カリキュラムを合わせた独自の教育プログラムを行っています。自然を大切にする農業も学んでいます。そして、これを充実させるために設立されたのがトセパン基金でした。


トセパンの小学校


トセパン小学校での農作業の授業

また、「みんなのお金」銀行は一昨年、長年続けてきた先住民の住宅改善プロジェクト(雨が家の中に降り込まない住宅やカマドの煙で肺や目を悪くしない改良カマドの設置など)の取り組みが高く評価され、「ヨーロッパ・マイクロファイナンス・アワード2017」を受賞しました。


賞状を持つトセパンのアルバロ・アギラルさん

40年前に姿を消した鳥たちを呼び戻したドン・ルイス
子どもの頃から鳥が大好きだったルイスは「70種類の鳥の鳴き声を聞き分けられた」と言われていますが、そのルイスが1970年代にある異変に気づきました。「コーヒーの収穫量が増える」というコーヒー協会の指導に従って「農薬と化学肥料を多用する近代農法」が地域に広まるにつれて、鳥が激減していったのです。

「鳥がいない人生ほど寂しいことはない。鳥がいなくなる農法は間違っている」と確信したルイスは、鳥を呼び戻すために勉強し、森や森の生き物たちと共生する森林農法を地域に広めました。40年後の今、この地域の森には、渡り鳥もたくさん飛来し、年間200種類ほどの鳥を見ることができます。

森林農法が普及し豊かな自然が広がる中で、国内外からエコツアーのお客さんも増え、地元の竹で素晴しい宿泊施設も作られています。竹を使った建設技術は、住宅改善プロジェクトやメキシコ地震被災者の仮設住宅建設にも生かされています。(トセパンは、政府の援助が届かない被災者に仮設住宅を建設して支援しています)

いまメキシコは、大きく変わろうとしています。そうした変化のルーツをたどると、そこには、人間だけでなく全ての生きものや未来世代の幸せを願ったドン・ルイスとその仲間たちがいました。同様の思いを持ったメキシコ全土の先住民、農民、市民がいました。そうした力が結集して、昨年12月ついにロペスオブラドール新大統領が誕生したのです。

トセパンを訪ねるといつも満面の笑みで出迎えてくれたドン・ルイスは、2013年3月9日、鳥たちの鳴き声に包まれて82年の生涯を終えました。


ドン・ルイスと中村隆市(2003年)

組合創立期から今日に至るまで、トセパンは様々な困難を乗り越えてきました。地域の権力者鉱山開発など外国企業との闘い、「みんなのお金」銀行のお金が盗まれたこともあります。そして今も全ての問題が解決したわけではありません。

しかし、「人間だけでなく全ての生きものや未来世代の幸せを願ったドン・ルイス」の精神は今も若い世代に引き継がれています。今後、メキシコでは森林農法によってオーガニックの農産物が大量に生産されるようになってきます。ささやかながらもウインドファームは、これまで以上にメキシコの生産者と協力してフェアトレードを広めていく思いを強めています。そして、気候変動や生物種の絶滅を抑制し、飢餓や貧困を解消していくためにも、世界に森林農法やフェアトレードを広げていく必要があると考えています。

皆さんと共に、今年もこうした取り組みに参加できることを幸せだと感じています。
ありがとうございます。 

ウインドファーム 
代表 中村隆市

2018/12/22

『毎日フォーラム 日本の選択』(毎日新聞) 「しあわせの経済」世界フォーラム

『毎日フォーラム 日本の選択』(2018年12月 毎日新聞) 
「しあわせの経済」世界フォーラム

東京で開催 広がるローカリゼーション運動
「グローバルからローカルへ」を合言葉に、各国の環境活動家や思想家らが地球の未来について話し合う「『しあわせの経済』世界フォーラム」が11月、東京都港区の明治学院大学で開かれた。食やエネルギーの自給など地域の中で循環経済を構築し、持続可能な社会をつくろうという市民主体のローカリゼーション運動の一環だ。

「世界どこでも際立っている危機的状況は気候変動です」「私たちが直面する数多くの危機の根っこが、経済システムにあることは明らかです」―。

フォーラムの冒頭、主催団体の一つで英国のNGO(非政府組織)「ローカル・フューチャーズ」代表のヘレナ・ノーバーグ・ホッジさん(72)のメッセージが紹介され、環境と経済に大きな問題点があることが指摘された。

 スウェーデン生まれのホッジさんは、言語学者としてインドのラダック地方を訪れ、自給持続的な暮らしを営む人々の姿から、「心豊かに生きることを学んだ」という。1970年代半ばからラダックの伝統文化や環境を保全するプロジェクトに取り組み、著書「懐かしい未来 ラダックから学ぶ」は世界約40カ国で翻訳出版された。ドキュメンタリー映画「幸せの経済学」の監督を務め、ローカリゼーション運動の先頭に立っている。

 最初の登壇者は、英国のReconomy(レコノミー)プロジェクトの提唱者、ジェイ・トンプトさん(58)。レコノミーは造語で、ローカル経済の再生を目指した活動だ。米国出身のトンプトさんは、地域の力を生かしたまちづくりを目指す「トランジション」運動発祥の地、英南西部のトットネスに2011年に移り住んだ。住民によるワーキンググループの一つとして、同プロジェクトを始動した。

 まずは地域の経済状況について、食、エネルギー、住宅、医療健康の四つの分野について調べたところ、「ほとんどがロンドンか、海外資本のものを消費していた」。学校のカフェテリアの食材を地場産に切り替えるよう自治体に働きかけるなど行動を起こした。地元での起業を目指す人々のための拠点を設け、サポートする仕組みをつくった。

 「だれもが地域で生き生きと働けるようになれば、強いローカル経済が生まれる」と指摘した。
 「彼は確実に変化を起こしてくれる」。一方、メキシコから来日した生態学者、パトリシア・モゲルさん(62)は、新大統領のアンドレス・マヌエル・ロペスオブラドール氏への期待を口にした。同氏は、元メキシコ市長で、「国家再生運動」(Morena)の党首。選挙戦では、汚職や治安悪化への市民の不満などが得票に結びついた。

 「メキシコでも1980年代以降、新自由主義の波が押し寄せた。通信、鉱山、石油などの民営化が進み、貧富の差が増大した。市民主体の政治を取り戻したい」

 祖父と父が先住民族というモゲルさんは、貧困地域の先住民族らが設立した「トセパン協同組合」の人々と交流を重ねる。トセパンは「共に働き、話し合い、考える」の意。「先住民族が生活する場所は、生物多様性の豊かな地域。彼らは農薬を使わず、樹木との混植でコーヒー豆を栽培する森林農法を手がけている」

 トセパンには、22地域の計約3万5000世帯の組合員が加盟する。生態系を守ろうと鉱山開発に反対するリーダーが弾圧されるなど、先住民族は苦難の道を歩んできた。「私たちは、先住民族の知恵から学び、自然と共生する社会をつくっていかなければならない」と訴えた。

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