2020/01/17

メキシコが国策として森林農法を推進、植林エリアを拡大

HAPPY NEW YEAR 2020
年始にあたって、今年も皆さまと共に歓びを分かち合いたいことがあります。
昨年の年始ごあいさつで「メキシコの新しい大統領が国策として、森を再生する森林農法(アグロフォレストリー)をメキシコ全土に広めると表明したこと。それを推進する大臣として、私たちが長年フェアトレードで提携してきたトセパン協同組合スタッフのマリア・ルイサさんが就任したこと」をお伝えしました。


真ん中のA.M.ロペスオブラドール(愛称アムロ)大統領の左がマリア・ルイサ厚生大臣


マリア・ルイサさん

森林農法を拡大する「センブランド・ヴィダ(いのちの種をまく)」と呼ばれるプロジェクトは、100万ヘクタール(東京、神奈川、千葉を合わせたより広い面積)で森林農法の森を増やすという壮大な計画であり、「本当に実現できるのか」という声もありました。

しかし、実際にプロジェクトが始まると、参加を希望する先住民や小農民が予想以上に多く集まり、目標の年間50万ヘクタール(2年で100万ヘクタール)植林する予定が1年も経たないうちに、およそ60万ヘクタールも植林されたのです。

【いのちの種をまく「森林農法プロジェクト」120万ヘクタールに拡大】
さらにうれしい出来事が起こっています。近年、メキシコも含めた中南米から米国への移民問題が大きくなっていますが、「センブランド・ヴィダ」が始まったことでメキシコを離れることを思い留まり、プロジェクトに参加する人が増えています。また、貧困や治安の悪化により近隣諸国からメキシコに逃れて移住している人たちの参加希望も増えています。
彼らの多くは南部のチアパス州に暮らしており、困難な状況にある彼らにもプロジェクトに参加してもらいたいということから、チアパス州に割り当てられていた植林面積に加え、新たに20万ヘクタールを植林予定面積として追加しました。

いのちの種をまくプロジェクトに参加した人たち(生産者)は、25名で1つのグループをつくり、各グループには技術指導者が1人、ソーシャルワーカーが1人加わって、グループごとに定期的に役所へ現状報告を行います。生産者には給与としてひと月に5000ペソ(約3万円)が振り込まれ、そのうち500ペソは貯蓄されます。これは、トセパン協同組合の銀行「トセパン・トミン」をモデルにしています。

【森林農法プロジェクトが中米に広がる】
さらに、このプロジェクトは、国連の協力も得ながら移民問題の対策として、グアテマラやエルサルバドル、ホンジュラスにも数万ヘクタール規模で広がり始めています。これらの国々においては、特に雇用を増やすことで貧困や治安悪化の状況を変えることを目指していますが、森が増えることで気候変動の抑制に貢献するという目的もあります。

特に、エルサルバドルでは、気候変動の影響だと言われる火事が頻繁に起きており、国土が荒廃してきています。これら3ヶ国はコーヒー生産国でもあるため、特に森林農法の広がりと雇用を生む「センブランド・ヴィダ」によって、小規模なコーヒー生産者がより安定した収入を得られることが期待されています。

ロペス・オブラドール大統領は、「センブランド・ヴィダは生産性と収入をもたらすだけではない。生まれた場所で働き、家族と共に生活し、幸せに暮らすことができる」と生産者に伝えています。


(前列左から4人目)アムロ大統領とマリア・ルイサ大臣(前列右から4人目)

「いのちの種をまく」プロジェクトは、経済的に貧しい人たちや小規模生産者を助けるための政策であり、森林の再生を柱として、農地の再生、地域社会の再生、地域経済の活性化をも目指しています。※2019年12月14日 大統領はプロジェクト予算が2019年の130億ペソから2020年は260億ペソ(約1500億円)になると発表

植林は森林農法を基本として、何をいつどこに植えるかを短期、中期、長期の3つの段階に分けて計画しています。最初に植えるのは、伝統的な「ミルパ」と呼ばれる農法で、自分たちが食べるためのトウモロコシ、豆、カボチャを中心とした野菜類を植えます。次に植えるのは、3~4年で実をつける果樹(ここにコーヒーやカカオも含まれる)が植林され、最後に生育期間が長い木材となる樹木が植えられます。

このプログラムで実施される森林農法とミルパにより得られる農作物は、主に地域における流通と生産者の食糧になります。次の段階においては、トセパンのような組合を設立し、トセパン・トミンのような小規模金融(マイクロクレジット)システムも取り入れ、販売の知識なども学びながら地域経済を活性化させていきます。つまり、政府はトセパン協同組合がやってきたことをモデルにしてこのプロジェクトを推進しているのです。

【パトリシアさんの夫が環境大臣に就任】
そして、もう一つ驚きの出来事がありました。私たちに森林農法の重要性を教えてくれて、トセパンを紹介してくれたパトリシア・モゲルさんの夫であり、私たちの友人でもあるビクトルさんが、メキシコの環境大臣に就任したのです。
2019年5月27日、ロペス・オブラドール大統領は定例記者会見において、環境・天然資源大臣として、ビクトル・マヌエル・トレドを任命したと発表しました。ビクトルさんは、メキシコ国立自治大学で博士を取得し、先住民と生物多様性の関係を主な研究分野として、これまでに200件以上の研究を発表しているほか、12の著書を出版しています。大統領は、ビクトルさんが豊富な経験を有する専門家であることに加え、公共政策を行う上で最も必要な誠実さを兼ね備えていると評価しています。


アムロ大統領(左)とビクトル環境大臣

一年前に大統領に就任したロペス・オブラドール大統領は、素晴しい就任演説を行いました。
「私たちは自然を破壊することなく生産性を向上させる森林農法を推進します。遺伝子組み換え種子の導入および使用は認めません。フラッキングのように、自然に影響を及ぼし、水源を枯渇させるようなガス、石油あるいはいかなる自然資源の抽出産業も認めません。環境に影響を与える経済、生産、商業は認めません。土壌、水および空気の汚染はくい止めます。動植物は保護します。水は民営化させません」と明言しました。

この演説にある自然保護政策を中心的に担っているのがビクトルさん率いる環境省になります。そして、森林農法の研究者としても著名なビクトルは、パトリシアと共にセンブランド・ヴィダ(森林農法)の推進、普及にも協力しています。


センブランド・ヴィダ発表:(左から)アムロ大統領(1人おいて)マリア大臣、ビクトル大臣

じつは、昨年11月にパトリシアとビクトル夫妻を日本に招待する予定だったのですが、ビクトルさんが環境大臣に就任したため来日できなくなりました。しかし、パトリシアさんは約束通りに来日してくれて、九州、関西、関東で講演や対談を行いました。

最初に訪問したのは熊本でした。その理由は、熊本で長年フェアトレードの普及に努め、熊本市を「アジア初のフェアトレードシティ」に導いた明石祥子さんを応援するためでした。
明石さんは2016年の熊本大地震で被災し、ようやく再建した店舗兼住宅を2018年の火災で全焼してしまいました。
そんな度重なる苦難にもかかわらず、今も焼け跡にテントを張ってフェアトレードの普及活動を続けています。その姿に感銘を受けたパトリシアは、2年続けて「フェアトレードシティくまもと」で講演してくれたのです。


(左から)パトリシアさん、明石さん、中村


(2019年11月5日朝日新聞)

横浜の明治学院大学で開催された「しあわせの経済 国際フォーラム」では講演だけでなく、対談も行われました。タイの先住民カレン族のスウェさんと先住民ナワット族の祖父を持つ生態学者のパトリシアさん、そして、フェアトレード会社を経営する私の3人で「森林農法と地域経済」という鼎談も行ないました。


(左から)スウェさん、パトリシアさん、中村

今、世界中で貧富の格差が広がり、農村地域の貧困が深刻化する中で、生態系の破壊と汚染が広がっています。タイでは、巨大企業が進める遺伝子組み換えトウモロコシと農薬使用がセットになった農業が、これまで自然と共生してきたカレン族の村にも広がってきています。そうした状況に危機感を抱いたスウェさんは、カレン族の村々で、「トウモロコシの単品大量生産ではなく、森と共生しながら多様な食物を栽培できる森林農法をベースにして、コーヒー栽培を加える形で地域経済を活性化させていこう」と呼びかけ、2年前から有機コーヒーをフェアトレードで輸出し始めています。


 タイ・カレン族のノンタオ村にて、村人に呼びかけるスウェさん(背中)

一方、メキシコでは先住民ナワット族が42年前に設立したトセパン協同組合が近代農業によって破壊された自然を森林農法で再生してきた実績があります。1年前に誕生したメキシコの新政権は、それを高く評価し、メキシコ全土で森林農法の拡大プロジェクトを展開しており、「22万人を超える先住民や小農民がプロジェクトに参加している」というパトリシアさんの話は、スウェさんを大いに勇気づけました。

パトリシアさんの話を聞いた感想を問われたスウェさんは、「私の先生になってほしい」と答えました。

【今秋、メキシコで「しあわせの経済 国際フォーラム」を開催】
こうした流れを受けて、今年11月にメキシコで開催される「しあわせの経済 国際フォーラム」には、スウェさんも参加することが決まりました。メキシコの森林農法や環境政策、協同組合の取り組みなどから多くの学びが得られることでしょう。
ウインドファームでもその時期に合わせてスタディツアーを企画します。国際フォーラムへの参加とトセパン協同組合の訪問、そして「いのちの種をまくプロジェクト」に参加している地域を訪問する予定です。(この件は、後日詳細が決まってからお知らせします)

帰国前日に、ウインドファームの社員に対して、およそ3時間に及ぶ特別講義と質疑応答に応じてくれたパトリシアさんは、帰り際にこう話してくれました。「おそらくビクトルやマリア・ルイサもメキシコでのフォーラムに参加してくれると思います」と。

パトリシア・モゲルさんと私が初めて出会ったのは22年前、1998年のコロンビアでした。
中南米で初めて開催された「国際有機コーヒーセミナー」に招かれた私は、ブラジルのカルロスさんとのフェアトレードについて講演したのですが、私自身がそのセミナーで最も学ぶことができた講演が、パトリシアさんの「森林農法の重要性」でした。


コロンビアの国際有機農業センター(CIAO)にて 


パトリシア&ビクトル夫妻と中村

その出会い以来、私たちは互いの国を何度も訪問し合って交流を深めてきました。2000年にはブラジルで、2002年にはエクアドルで開催した「有機コーヒーフェアトレード国際会議」に招聘して、森林農法の重要性について講演してもらいました。

パトリシアさんの素晴しさは、優れた森林農法研究者であるだけでなく、メキシコの先住民や世界の生産者と共に「行動する学者」であることです。


「しあわせの経済 国際フォーラム」に参加した人々とも交流するパトリシアさん(右側中央)
(横浜市戸塚・善了寺にて)立っている2人は、左が辻信一さん、右が成田住職

ウインドファームは今年で創業33年になりました。
年を重ねるほどに「持続可能な地球を子どもたちや未来世代に残したい」という思いが強くなっています。

皆様と共に、今年も有機農業や森林農法、フェアトレードを通してそうした取り組みに参加できることを有難くうれしく思っています。

ありがとうございます。

株式会社 ウインドファーム
代表取締役 中村隆市

2019/06/05

「町と世界をつなぐブラジル名誉市民」KBC 九州朝日放送

町と世界をつなぐブラジル名誉市民や平和のシンボル ふるさとWish水巻町
(2019年6月4日 KBC九州朝日放送)より抜粋

[アサデス。旅行社]


リポーターのボビー、コーヒーの世界で活躍する中村さんの話に興味津々

福岡県北部に位置し、人口およそ2万8千人の水巻町。県内で4番目に小さい町は、かつて炭鉱町として栄えていました。現在の町の特産品は、この時季、収穫真っただ中の「でかにんにく」。ホクホクとした食感が人気なのだそう。

2019年6月4日(火)に放送された、九州朝日放送の情報番組「アサデス。KBC」の人気コーナー「聞き込み!アサデス。旅行社」では、そんな水巻町に「外国っぽいスポット」があるということで、アメリカ出身のリポーター・ボビーが訪ねました。

コーヒーがもたらした“国際交流”


今回も、ボビーはアイタカーに乗って聞き込みへ!

まず向かったのは、水巻町にできたばかりの新スポット「イコット!ミズマキ」内にあるコーヒー店「ウィンドファーム」。ここに一体、どんな外国とのつながりがあるのでしょうか。ボビーが店主の中村 隆市さんにお話を聞きました。

「私自身が有機農業をやっていたことから、国外のコーヒー産地へ行って有機栽培の方法を勧めてまわったんです」と教えてくれた中村さん。実は、環境に優しいコーヒーの有機栽培を世界で普及させたとして、コーヒーの世界では有名人。お店にはその過程で出合った、ブラジルやエクアドル・グアテマラ・東ティモールなどから直接仕入れたコーヒー豆が並んでいます。

さらに、コーヒー農家が災害で被害を受けた際には、水巻町民の有志で復旧の手伝いに行くなど、その功績が称えられブラジルのマッシャード市の名誉市民にも任命されたそう。今では毎年、消費者と交流するために外国のコーヒー生産者が水巻町を訪れているそうで、これは確かにものすごい外国とのつながりです!

全文はコチラ

2019/05/17

環境や人権に配慮した消費へ 北九州エシカルネット発足 小倉北区で記念イベント

環境や人権に配慮した消費へ 北九州エシカルネット発足 小倉北区で記念イベント
(2019/5/15 西日本新聞)

 環境や人権に配慮する「エシカル(倫理的)な消費行動」を提唱する「北九州エシカル推進ネットワーク エシカル種まき隊」(エシ種)が11日、発足した。今後、市民向けの勉強会を開くなどしながら「身近な行動を見直し、持続可能な社会をつくろう」と呼び掛けていく。小倉北区で同日、記念イベントを開催した。

 エシ種は、北九州市立大外国語学部の大平剛教授ら5人が呼び掛け人となり発足。イベントで大平教授は「生産者にわずかなお金しか支払われないコーヒーはおいしいか、子どもが強制されて摘んだ綿花でできた服は気持ち良く着られるか」と問題提起する「発足呼び掛け文」を紹介した。

 イベントでは、途上国の産品を適正価格で取引して生産者の暮らしを守る「フェアトレード」のコーヒー販売を手掛ける「ウインドファーム」(水巻町)の中村隆市代表が講演。安全な食材を提供したいと有機農業に取り組む中で、農薬を使わず、手間暇をかけるブラジルのコーヒー生産者に出会ったことを紹介。中村代表は「どういう風にお金を使うかで、課題の解消につながる」と話した。

=2019/05/15付 西日本新聞朝刊=

2019/05/11

「裕福26人の資産」=「38億人分」 なお広がる格差

「裕福26人の資産」=「38億人分」 なお広がる格差
(2019年1月22日 朝日新聞)

 国際NGO「オックスファム・インターナショナル」は21日、2018年に世界で最も裕福な26人の資産の合計が、経済的に恵まれない世界人口の下位半分(約38億人)の資産合計とほぼ同じだとする報告書を発表した。格差拡大に歯止めをかけるには富裕層への課税強化が必須とし、スイス・ダボスで22日に開幕した世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で対策を呼びかける。

 同団体がスイス金融大手クレディ・スイスのデータなどをもとに推計したところ、経済的に恵まれない世界人口の下位半分の資産合計は1兆3700億ドル(約150兆円、18年4~6月期)。米経済誌フォーブスの長者番付と比べた結果、上位26人の資産合計とほぼ同じだった。また、下位半分の資産合計は対前年比で11%減ったのに対し、超富裕層約1900人の資産合計は18年3月までの1年間で12%増えていた

 オックスファム・インターナショナルのウィニー・ビヤニマ事務局長は朝日新聞の取材に対し、「富裕層の税負担が軽すぎることが富の集中を生んでいる」と指摘。世界人口のうち最も裕福な上位1%の資産に0・5%課税すれば、年4千億ドル(約44兆円)余りが集まり、学校に行けない2億6200万人の子どもの教育に加え、医療サービス提供で330万人の命を救うことができると強調した。
(ダボス=寺西和男)

「世界中が怒りを感じている」上位26人が下位38億人分の富を保有。富裕層があと0.5%でも多く税金を払えば、貧困問題は解決するのに
Oxfam Inequality Report Highlights Wealth Disparity
(2019年1月22日 ニューズウィーク日本版)


戦う機運も 格差に怒り、富裕層の所得税率を引き上げるよう提案しているオカシオコルテス米下院議員(写真中央) 

国際慈善団体オックスファムが年次報告書で貧富の格差がまた拡大したと指摘。各国政府に富裕層や企業への増税を呼びかける

新たに発表された報告によると、世界で最も裕福な26人が、世界で所得が最も低い半数38億人の総資産に匹敵する富を握っており、しかも貧富の格差は拡大し続けているという。

イギリスを拠点に貧困問題に取り組んでいる国際慈善団体オックスファム・インターナショナルが、このほど年次報告書を発表。拡大する一方の貧富の格差を是正するため、富裕層への増税が必要だと各国政府に呼びかけた。2008年の世界金融危機以降、世界の超富裕層の資産総額が数十億ドル単位で増えた一方で、世界人口のうち所得が低いほうの半数にあたる38億人の資産総額は10%以上減少した

中東の衛星テレビ局アルジャジーラによれば、オックスファムのウィニー・ビヤニマ事務局長は声明の中で、「世界中の人々が怒りや不満を感じている」と警告。「各国政府は、各企業や富裕層が応分の税を支払うようにすることで真の変革をもたらさなければならない」として、富裕層にほんの少し増税するだけでも、教育費や医療費を賄うための十分な資金調達が可能だと指摘した。

最富裕層にあと0.5%だけ増税すれば
報告書によれば、実際にブラジルやイギリスなど一部の西側諸国では、最も裕福な10%の方が最も貧しい10%よりも所得税率が低い。「最も裕福な1%があと0.5%だけ多くの税金を支払えば、教育を受けられずにいるすべての子供2億6200万人に教育を授け、330万人に医療を提供して命を救ってもまだ余るだけの財源を確保できる」という。報告書はまた、世界の超富裕層が約7.6兆ドルの租税回避をしているせいで、途上国は年間約1700億ドルの所得を失っている、ともいう。

前向きな報告もあった。過去数十年で極度の貧困状態にある人の数が大幅に減少したのだ。

英ガーディアン紙は、「極度の貧困状態にある人の数が大幅に減少したことは、過去25年における最大の成果のひとつだ。しかし貧富の格差が拡大していることで、さらなる貧困解消の可能性が脅かされている」というオックスファムのマシュー・スペンサー活動・政策担当ディレクターの言葉を報じている。「私たちの経済の仕組みは、一部の特権層に富が集中するようになっており、その一方で何百万もの人々が生存ぎりぎりの生活を強いられている。女性たちは一人きりで子供を産んで命を落としており、子供たちは貧困から脱出する手段となる教育を受けられずにいる」と彼は指摘した。

同じく貧富の格差が拡大し続けているアメリカでは、バーニー・サンダース上院議員(バーモント州・無党派)や、昨年史上最年少で当選したアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員(29歳、ニューヨーク州・民主党)を筆頭に、進歩的な政治家が政府に対して格差問題への対処を強く求めている。オカシオコルテスは年収1000万ドル超の富裕層向けの最高限界税率を70%に引き上げるよう提案。最近の世論調査ではアメリカ国民の59%がこの改革を支持すると回答した。

アナリストらはまた、アメリカの富裕層は何十年も前から個人所得税の優遇措置を受けていると指摘。米経済が急成長を遂げていた1960年代、年間所得40万ドル(現在の約300万ドルに相当)を上回る富裕層を対象とした税率は70%以上だった。その10年前は約90%。それに対して現在は、年間所得が15万7500ドルを超えても、税率はたった32%だ。

主に富裕層と企業に恩恵をもたらしているドナルド・トランプ米大統領による大型減税は、財政赤字の劇的な増加を招いている。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、アナリストたちは2019年に財政赤字は1兆ドルを超えると予想している。

サンダースは1月18日、「最も裕福な1%と高収益の大企業については、トランプ減税を撤廃すべきだ」とツイッターに投稿した。「所得と貧富の不平等が広がっている今のような時代は、リッチな人々をさらにリッチにさせるのではなく、老朽化が進むインフラの再建と持続可能な経済の構築に取り組むべきだ」

(翻訳:森美歩)

2019/01/24

森林農法で地球の緑 未来へ パトリシア・モゲルさん(2019年1月17日 毎日新聞)

森林農法で地球の緑 未来へ パトリシア・モゲルさん
(2019年1月17日 毎日新聞)

「樹木や果樹との混植でコーヒー豆を育てることで、森を守ることと経済的な自立の両立が図られる」と強調するのはメキシコの生態学者、パトリシア・モゲルさん(62)。東京で昨秋、開かれた「しあわせの経済」フォーラムで、先住民族らが実践する森林農法を紹介した。

 メキシコ中部プエブラ州の山岳地帯で、先住民族らが運営するトセパン協同組合のアドバイザー。組合には約3万5000世帯が加盟し、森林農法でコーヒー豆も栽培している。日本では、福岡県水巻町の有機コーヒー販売会社「ウインドファーム」が輸入し、同社代表の中村隆市さん(63)は生産者やモゲルさんと交流を重ねてきた。
 
 メキシコのロペスオブラドール大統領は「国の政策として森林農法を推進する意向」と伝えられ、閣僚に起用されたマリア・ルイサ・アルボレス・ゴンサレス福祉相はトセパン出身という。モゲルさんは「日本にも環境や貧困の問題はある。大切なのはそれぞれが行動し、緑の地球を未来に残すこと」と語る。【明珍美紀】

2019/01/10

「子どもの未来、奪わないで」 子どもたちからのメッセージ

昨年12月、15歳の少女が第24回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP24)で190カ国代表の大人たちを前にして、子どもたちの未来のために行動するよう訴えました。その中の一節が、心に響きました。
「私たちの生物圏は犠牲にされています。…2078年に、私は75歳の誕生日を迎えます。もし私に子どもがいたら、一緒に過ごしているでしょう。子どもたちは私にあなた方のことを尋ねるかもしれません。まだ行動できる時間があるうちに、なぜあなた方は何もしなかったのかと」

この言葉で、福島原発事故前の2010年に小学6年生が書いた「大人の人に伝えたいこと」を思い出しました。

 僕が住んでいる愛媛県には原子力発電所があります。
 去年、ぼくが5年生の時、その原子力発電所に、フランスからMOX燃料が来ました。プルサーマル発電のためです。プルサーマル発電というのは、広島の原ばくウラン(一般の原子力発電所の燃料)と長崎の原ばくプルトニウム(高速増殖炉の燃料)をいっしょに核分れつさせて、タービンをまわす発電です。ウランもプルトニウムも危険な放射能を持っています。放射線というものは細胞の中の遺伝子をばらばらにしてしまうもので、ガンや白血病の原因となります。広島や長崎には、まだ今も後遺症で苦しんでいる人たちがいます。それなのに日本は世界第3位の原子力発電の国です。しかも、日本は世界第3位の火山国です。火山国だということは、地かく変動もよく起こります。もし、地しんが起きたらどうなるのでしょう。日本に原子力発電所は望ましいのでしょうか?

 もしなにも起こらなかったとしても、未来に、核のゴミとして残ってしまいます。

 CO2を出さないという理由で、原子力発電がさらに新しく建とうとしています。新しく作ると、きれいな海を埋め立てて、たくさんの命をうばい、住む所をなくします。それに原子炉を冷ますために、1秒で70トンの海水を、7度上げて、海に戻すことになります。もうこれ以上ぼくたちの環境をこわすのはやめてください。ぼくたちの未来に汚れた海や山、空気や水、核のゴミを残さないでください。
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福島のフレコンバッグの山

核のごみ 地層処分ムリ 人が20秒で死亡
   (2012年6月19日 東京新聞)

10万年の安全は守れるか 行き場なき高レベル放射性廃棄物
(2012年10月1日放送 NHKクローズアップ現代)から抜粋

原発が生むゴミ 高レベル放射性廃棄物

先月(9月)、日本学術会議が原子力委員会に出した報告書。
高レベル放射性廃棄物の地層処分の方針を白紙に戻すべきだという重い提言でした。

現在、高レベル放射性廃棄物の多くは青森県六ヶ所村に集められています。
地層処分が行われるまでの間、この貯蔵施設で一時的に保管しています。

発電に使われた核燃料の放射能は使用前の1億倍に増えます
ガラス固化体にした時点で放射能は少し下がりますがそれでも人が近づけば20秒で死亡するほど危険なものです。もとのウラン鉱石と同じレベルにまで低下するには10万年もの歳月を必要とします。

そのため日本では地下300メートルより深い地層に埋め込む地層処分という方法が国の方針となっています。
しかし今回、日本学術会議は地層処分を行うのは地震の多い日本では困難だと結論づけました。

人間が20秒で死ぬ「ガラス固化体」管理は10万年!?〈週刊朝日〉
(2012年10月26日号 週刊朝日)から転載

 日本学術会議が高レベル放射性廃棄物をパックしたガラス固化体の地層処分の見直しを提言し、原子力委員会に報告した。早稲田大学国際教養学部教授の池田清彦氏はそのニュースを聞いて、学術会議もようやくまともなことを言い出したという想いと、人類は10万年も先まで生存しているのだろうかという想いが錯綜し、ちょっと複雑な気持ちになったという。

*  *  *

 御承知の方も多いと思うが、ガラス固化体は使用済み核燃料を再処理する際に必ず生産されるもので、極めて強い放射能を有し、そのすぐそばに人間が立つと約20秒で致死量の放射線を浴びるというすさまじい物体だ。現時点までに日本国内の原発で使用された核燃料をすべて再処理した場合、約2万6000本のガラス固化体になると推定される。

 問題はガラス固化体の放射能は10万年経たないと安全なレベルにならない点だ。そこで30~50年ほど冷却しながら保管したあとで、地下300メートル以深の地層に埋めてしまおうというのが地層処分だ。しかし、地震のみならず、火山大国日本で、10万年も安定した地層を探すことは不可能であり、別の方法を考えろと学術会議は言っているわけだけれど、別の方法はあるかと言うと、どう考えてもないんだよね。

 原発を動かす限り、放射性廃棄物はどんどん蓄積し、未来世代は膨大な国の借金のみならず、膨大な量の放射性廃棄物に悩まされることになりそうだ。借金はハイパーインフレを起こせばチャラにできるが、放射性廃棄物にはいかなる手段をもってしてもチャラにできない。日本の政策を決定する議員や官僚は、今さえ凌げれば後は野となれ山となれと思っているのであろう。

 それにしても10万年も管理しなければ安全にならない装置って、いったい何なんだろう。現生人類はわずか1万年。化学燃料を大量に使い出してから200年しか経っていない。10万年とは言わず、1万年後のガラス固化体の面倒を誰が見るのだろう。自民党も民主党も電力会社もまず間違いなく消滅していると思いますがね。

子どもたちのメッセージを受けて、
1992年リオ環境サミットでのセヴァン・スズキ12歳のスピーチも思い出しました。

私がここに立って話をしているのは、未来に生きる子どもたちのためです。世界中の飢えに苦しむ子どもたちのためです。そして、もう行くところもなく、死に絶えようとしている無数の動物たちのためです。・・・死んだ川にどうやってサケを呼びもどすのか、あなたは知らないでしょう。絶滅した動物をどうやって生きかえらせるのか、あなたは知らないでしょう。そして、今や砂漠となってしまった場所にどうやって森をよみがえらせるのかあなたは知らないでしょう。どうやって直すのかわからないものを、こわし続けるのはやめてください。・・・もし戦争のために使われているお金をぜんぶ、貧しさと環境問題を解決するために使えばこの地球はすばらしい星になるでしょう。私はまだ子どもだけどそれを知っています。
学校で、いや、幼稚園でさえ、あなたがた大人は私たちに、世のなかでどうふるまうかを教えてくれます。たとえば、
・争いをしないこと
・話しあいで解決すること
・他人を尊重すること
・ちらかしたら自分でかたづけること
・ほかの生き物をむやみに傷つけないこと
・分かちあうこと
・欲ばらないこと
 ならばなぜ、あなたがたは、私たちにするなということをしているんですか。
スピーチ全文

子どもたちは、未来世代や生態系のことを心配しています。
彼らからの大切なメッセージを忘れないためにも、ここに記録しておきたいと思います。

      *      *      *

米国のバーニー・サンダース上院議員がシェアした動画

15-year-old Climate Activist Calls Out World Leaders for Inaction

"You say you love your children above all else, yet you are stealing their futures right before their very eyes," – This 15-year-old activist just called out world leaders for their global inaction on climate change.

U.S. Senator Bernie Sandersさんの投稿 2018年12月14日金曜日

「子どもの未来、奪わないで」 15歳の活動家、COP24で演説
(2018年12月17日 CNN)

「あなた方は、自分の子どもたちを何よりも愛していると言いながら、その目の前で、子どもたちの未来を奪っています」――。スウェーデンの環境保護活動家、グレタ・トゥーンベリさん(15)。ポーランド南部カトウィツェで開かれた第24回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP24)で、集まった190カ国代表の大人げのなさを嘆き、子どもたちの未来のために行動するよう訴えた。

COP24では15日、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」の運用ルールについて合意したものの、目標を達成することはできなかった。科学者や交渉担当者は、化石燃料の使用や森林伐採を食い止め、地球温暖化に伴う気候変動を避けるためには、ルール採択だけでは到底不十分だと訴えている。

トゥーンベリさんは今年9月、学校を休んでスウェーデン国会前で座り込む抗議運動を展開し、数千人の子どもたちが温暖化対策を訴えるきっかけを作った活動家として知られる。

COP24で12日に行った演説の全文は以下の通り。

私はグレタ・トゥーンベリといいます。15歳です。スウェーデンから来ました。「クライメート・ジャスティス・ナウ」の代表として演説しています。

スウェーデンは小国なので、私たちが何をしようと問題ではないと言う人がたくさんいます。

でも私は、どんなに小さくても変化をもたらすことができると学びました。

もし、たった数人の子どもが学校へ行かなかっただけで世界中の注目を集めることができるのなら、私たちが真に望めば力を合わせて何ができるかを想像してみてください。しかしそのためには、それがどんなに不快なことであっても、はっきりと発言しなければなりません。

あなた方は人気低落を恐れるあまり、環境に優しい恒久的な経済成長のことしか語りません。非常ブレーキをかけることだけが唯一の理にかなった対策なのに、あなた方は私たちをこの混乱に陥れた、あの悪いアイデアを推進することしか口にしません。

それは大人気のない発言です。その重荷をも、あなた方は私たち子どもに負わせているのです。でも私は人気取りのことは考えません。私は気候の正義と生きている惑星のことを考えます。

私たちの文明は犠牲にされています。ごく少数の人たちが莫大なお金を稼ぎ続ける機会のために。

私たちの生物圏は犠牲にされています。私の国のようにお金持ちの国の人たちがぜいたくな生活をするために。その苦しみは、少数の人のぜいたくのために、多くの人たちが払う代償なのです。

2078年に、私は75歳の誕生日を迎えます。もし私に子どもがいたら、一緒に過ごしているでしょう。子どもたちは私にあなた方のことを尋ねるかもしれません。まだ行動できる時間があるうちに、なぜあなた方は何もしなかったのかと。

あなた方は、自分の子どもたちを何よりも愛していると言いながら、その目の前で、子どもたちの未来を奪っています。

政治的に何が可能かではなく、何をする必要があるのかに目を向けようとしない限り、希望はありません。危機を危機として扱わなければ、解決することはできません。

化石燃料は地中にとどめ、公正さに目を向けなければなりません。この制度の中で解決することがそれほど難しいのであれば、制度そのものを変えるべきなのかもしれません。

私たちは、世界の指導者たちに相手にしてほしいと懇願するためここへ来たのではありません。あなた方はこれまでも私たちを無視してきました。そしてこれからも無視するでしょう。

私たちは言い訳を使い果たし、時間も使い果たそうとしています。

私たちは、あなた方が望もうと望むまいと、変化は訪れると告げるためにやって来ました。真の力は人々のものなのです。

ありがとうございました。

      *      *      *

15歳少女、気候変動に抗議で2週間座り込み スウェーデン(2018年9月7日 BBC)

◆School strike for climate – save the world by changing the rules | Greta Thunberg |

(2018/12/12公開 TEDxStockholm)

2019/01/07

メキシコの新政権が国策として森林農法を推進

新年明けましておめでとうございます。
年始にあたって、皆さんと共に歓びを分かち合いたいことがあります。
それは、ウインドファームの創業から32年目の昨年12月に起きた奇跡的な出来事です。
長年、有機コーヒーのフェアトレードで提携してきたメキシコのトセパン協同組合のスタッフであり、私たちの友人でもあるマリア・ルイサ・アルボレスさんが、なんと、社会開発省の大臣に就任したのです。そして、トセパン協同組合が設立された40年前から取り組んできた森林農法(アグロフォレストリー)がメキシコ全土で推進されることになったのです。


マリア・ルイサさん


トセパン時代のマリア・ルイサさん(前列左から2人目、後列右が中村)


真ん中のロペスオブラドール大統領の左がマリア・ルイサ社会開発大臣

大統領に就任したロペスオブラドール氏は、素晴しい就任演説を行いました。
「私たちは自然を破壊することなく生産性を向上させる森林農法を推進します。遺伝子組み換え種子の導入および使用は認めません。フラッキングのように、自然に影響を及ぼし、水源を枯渇させるようなガス、石油あるいはいかなる自然資源の抽出産業も認めません。環境に影響を与える経済、生産、商業は認めません。土壌、水および空気の汚染はくい止めます。動植物は保護します。水は民営化させません。」と明言しました。

Sembrando Vida(命の種をまく=持続可能な地域社会づくり)』と名付けられたメキシコの新政権が推進する「森林農法プロジェクト」というのは、具体的には100万ヘクタールの土地に森林農法を展開するのですが、それを実施するのがマリア・ルイサ率いる社会開発省です。
この政策は大きく2つの課題の解決をめざしています。一つは「農村の貧困」、もう一つは「環境破壊」です。そして、農地の再生、地域社会の再生、地域経済の活性化を目指しています。まずは19の州において、1万ヘクタールの植林を行いますが、そのプロセスは、段階的に実施されます。建材となる樹木、果樹を植林して、森林農法(アグロフォレストリー)の森をつくり、森の豊かさを取りもどします。そして、ミルパ(トウモロコシ栽培が主体の伝統的な農法)と、果樹を組み合わせていきます。

『Sembrando Vida』における基本モデルは、次のとおりです。
各生産者は、2.5ヘクタール(7500坪)の農地を耕作し、地域の25名で生産者グループをつくることで、有機栽培や苗床づくりなどの援助を受けることができます。そのため、各グループには農業技術指導員などが任命されて、生産者を支援します。

このプログラムで実施される森林農法とミルパにより得られる農作物は、主に地域における流通と生産者の食糧とします。次の段階においては、組合を設立し、小規模金融(マイクロクレジット)システムも取り入れ、各種研修を受けて、販売の知識も学びます。
その結果、40万人の正規雇用を創出することで、家計収入の増加、販売力の増強、森林の再生、地域社会の誇りを取り戻すとしています。

2019年は、チアパス州、ベラクルス州、タバスコ州、カンペチェ州の22万人の生産者が、55万ヘクタールの耕作地の再生に取り組み、その4州の結果を踏まえて、2020年以降は、残りの15州でも同様に実施する予定です。
(スペイン語翻訳:井上智晴、和田彩子)


マリア・ルイサさんと肩を組むロペスオブラドール大統領

つまり、トセパン協同組合が長年取り組んできたことをメキシコ全土で展開していこうとしているのです。

近年、世界各地で「気候変動」が大きな問題になっています。日本でも昨夏、国内最高気温41.1度を記録して熱中症が過去最多となったり、観測史上例のない規模の集中豪雨や台風の「逆走」や記録的な風速も観測されています。

2015年、国連本部において「国連持続可能な開発サミット」が開催されました。150以上の加盟国首脳の参加のもと、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、行動計画として掲げた目標が「持続可能な開発目標(SDGs)」でした。

そのSDGsの目標は「貧困や飢餓をなくし、すべての人に健康と福祉と教育を、人や国の不平等をなくし、自然環境を守り、気候変動に具体的な対策を、平和と公正を全ての人に」といった17項目ですが、そのほとんどがトセパンによってこの40年間に取り組まれてきたことです。

森林農法について2006年にNHKが放送した<地球環境の旅 コーヒーを育てる恵みの森 メキシコ>という番組は、森林農法とドン・ルイス(ルイス・フスティニアノ・マルケスさん)のインタビューを紹介したものでした。その一部をピックアップします。

[ ナレーション ]30年前(注:1976年)メキシココーヒー協会が農家に配ったテキスト。コーヒーの木の周りは、草を刈るように書かれています。また、化学肥料を使ったり、農薬を撒いて害虫を駆除するように教えていました。こうした、森を切り開いてつくる農園をプランテーション農園と呼び、これが世界のコーヒー作りの主流なんです。


農薬散布

しかし、この方法は、収穫量が増えますが、自然を破壊する恐れがあります。コーヒー以外の木が切られると、露出した地面は荒れてしまいます。下草の生えない地面には虫はいなくなり、鳥などの生き物たちも姿を見せません。ルイスさんも一度はプランテーション農園にしましたが、収穫量は減っても自然に優しい森林農法に切り替えたんです。研究機関の教えも受け、ルイスさんは、町中に森林農法を広めました。

ドン・ルイス「収穫量がもっと上がれば、森林農法を選ぶ人は世界中に広がり、自然を守る意識も高くなると思います。私たち農家が森を守らなければ、誰が守るというのでしょうか。」

今日は、番組でふれていない協同組合の設立経緯や主要な歴史についてもご紹介します。

メキシコに協同組合をつくり、森林農法を広めた先住民ドン・ルイス
42年前、大農園主や仲買人、高利貸しなどが利益を独占し、先住民の大半が極貧状態にあった地域に協同組合を設立したドン・ルイスは、多くの先住民に敬愛されています。その理由を森林農法の生産者が語っています。

「ドン・ルイスの一族は、かつて裕福でした。なぜなら仲買人をしていたからです。地域の貧しい農民たちは、遠く離れた町まで農作物を運ぶことはできませんでした。道路事情が悪い上に、輸送手段がなかったのです。そのため、トラックを持つ仲買人に買い叩かれていました。地域の発展のため、ドン・ルイスはその仲買人の仕事を辞めようと、家族に提案したそうです。もちろん、家族は大反対でした。兄弟はその後、ドン・ルイスと口をきくことは無かったそうです。」

1977年に設立されたトセパン協同組合は、日本の農協と生協が合体したような協同組合で、初代組合長がドン・ルイスでした。彼は、小さな土地で農業を営む先住民と共に森林農法を地域に再生し、適正価格で生産物を買い上げ、生活必需品を安価で販売することで、生産者の暮らしを極貧状態から少しずつ脱出させていきました。

「みんなのお金」という名の銀行
そのころ銀行は、先住民にお金を貸しませんでした。そこで彼らは、1998年に自分たちで「トセパントミン(みんなのお金)」という銀行をつくりました。

その銀行は、一般の銀行より預金金利が高く、借入金利が低くなりました。先住民が持ち寄ったお金は、10年も経たずに50倍以上に増え、そのお金を銀行は、女性たちの新規事業に優先的に融資しました。

主食のトルティーヤ屋さん、パン屋さん、衣服や食品の販売店など女性たちは次々に開店し、地域を活性化させていきました。「トルティージャ屋や民芸品の販売を始めるまでは、1日17時間ぐらい働いていたの。朝4時から薪運びをして、火を起こしてとうもろこし粉をつくり、水をかけてトルティージャを何枚も焼いていたわ。家族の食事をつくり、もちろん洗濯もするのよ。夜には布を織って、刺繍を加える。時には、明け方まで続ける日があったわ。トセパンの生産プロジェクトは、グループの女性だけを助けるのでなく、地域社会の全ての助けとなっているわ。」

こうして、それまでは男性の陰に隠れていた女性たちがだんだん自信を持つようになり、組合設立から40年目の一昨年、トセパンに初めて女性の代表が誕生しました。


中央の女性がトセパン協同組合のパウリーナ・ガリード組合長

トセパンでは、6年に一度、組合の代表を決める投票が組合員によって行われます。
パウリーナさんは、子どもたちの教育支援を目指すトセパン基金を提案した人で、これが多くの人の評価を得ました。

トセパンでは、組合内に自らの幼稚園、小学校、中学校を設け、言葉、文化・伝統、宇宙観など先住民としての教育と国の教育カリキュラムを合わせた独自の教育プログラムを行っています。自然を大切にする農業も学んでいます。そして、これを充実させるために設立されたのがトセパン基金でした。


トセパンの小学校


トセパン小学校での農作業の授業

また、「みんなのお金」銀行は一昨年、長年続けてきた先住民の住宅改善プロジェクト(雨が家の中に降り込まない住宅やカマドの煙で肺や目を悪くしない改良カマドの設置など)の取り組みが高く評価され、「ヨーロッパ・マイクロファイナンス・アワード2017」を受賞しました。


賞状を持つトセパンのアルバロ・アギラルさん

40年前に姿を消した鳥たちを呼び戻したドン・ルイス
子どもの頃から鳥が大好きだったルイスは「70種類の鳥の鳴き声を聞き分けられた」と言われていますが、そのルイスが1970年代にある異変に気づきました。「コーヒーの収穫量が増える」というコーヒー協会の指導に従って「農薬と化学肥料を多用する近代農法」が地域に広まるにつれて、鳥が激減していったのです。

「鳥がいない人生ほど寂しいことはない。鳥がいなくなる農法は間違っている」と確信したルイスは、鳥を呼び戻すために勉強し、森や森の生き物たちと共生する森林農法を地域に広めました。40年後の今、この地域の森には、渡り鳥もたくさん飛来し、年間200種類ほどの鳥を見ることができます。

森林農法が普及し豊かな自然が広がる中で、国内外からエコツアーのお客さんも増え、地元の竹で素晴しい宿泊施設も作られています。竹を使った建設技術は、住宅改善プロジェクトやメキシコ地震被災者の仮設住宅建設にも生かされています。(トセパンは、政府の援助が届かない被災者に仮設住宅を建設して支援しています)

いまメキシコは、大きく変わろうとしています。そうした変化のルーツをたどると、そこには、人間だけでなく全ての生きものや未来世代の幸せを願ったドン・ルイスとその仲間たちがいました。同様の思いを持ったメキシコ全土の先住民、農民、市民がいました。そうした力が結集して、昨年12月ついにロペスオブラドール新大統領が誕生したのです。

トセパンを訪ねるといつも満面の笑みで出迎えてくれたドン・ルイスは、2013年3月9日、鳥たちの鳴き声に包まれて82年の生涯を終えました。


ドン・ルイスと中村隆市(2003年)

組合創立期から今日に至るまで、トセパンは様々な困難を乗り越えてきました。地域の権力者鉱山開発など外国企業との闘い、「みんなのお金」銀行のお金が盗まれたこともあります。そして今も全ての問題が解決したわけではありません。

しかし、「人間だけでなく全ての生きものや未来世代の幸せを願ったドン・ルイス」の精神は今も若い世代に引き継がれています。今後、メキシコでは森林農法によってオーガニックの農産物が大量に生産されるようになってきます。ささやかながらもウインドファームは、これまで以上にメキシコの生産者と協力してフェアトレードを広めていく思いを強めています。そして、気候変動や生物種の絶滅を抑制し、飢餓や貧困を解消していくためにも、世界に森林農法やフェアトレードを広げていく必要があると考えています。

皆さんと共に、今年もこうした取り組みに参加できることを幸せだと感じています。
ありがとうございます。 

ウインドファーム 
代表 中村隆市

2018/12/22

『毎日フォーラム 日本の選択』 2018年12月  「しあわせの経済」世界フォーラム

『毎日フォーラム 日本の選択』 2018年12月 
「しあわせの経済」世界フォーラム

東京で開催 広がるローカリゼーション運動
「グローバルからローカルへ」を合言葉に、各国の環境活動家や思想家らが地球の未来について話し合う「『しあわせの経済』世界フォーラム」が11月、東京都港区の明治学院大学で開かれた。食やエネルギーの自給など地域の中で循環経済を構築し、持続可能な社会をつくろうという市民主体のローカリゼーション運動の一環だ。

「世界どこでも際立っている危機的状況は気候変動です」「私たちが直面する数多くの危機の根っこが、経済システムにあることは明らかです」―。

フォーラムの冒頭、主催団体の一つで英国のNGO(非政府組織)「ローカル・フューチャーズ」代表のヘレナ・ノーバーグ・ホッジさん(72)のメッセージが紹介され、環境と経済に大きな問題点があることが指摘された。

 スウェーデン生まれのホッジさんは、言語学者としてインドのラダック地方を訪れ、自給持続的な暮らしを営む人々の姿から、「心豊かに生きることを学んだ」という。1970年代半ばからラダックの伝統文化や環境を保全するプロジェクトに取り組み、著書「懐かしい未来 ラダックから学ぶ」は世界約40カ国で翻訳出版された。ドキュメンタリー映画「幸せの経済学」の監督を務め、ローカリゼーション運動の先頭に立っている。

 最初の登壇者は、英国のReconomy(レコノミー)プロジェクトの提唱者、ジェイ・トンプトさん(58)。レコノミーは造語で、ローカル経済の再生を目指した活動だ。米国出身のトンプトさんは、地域の力を生かしたまちづくりを目指す「トランジション」運動発祥の地、英南西部のトットネスに2011年に移り住んだ。住民によるワーキンググループの一つとして、同プロジェクトを始動した。

 まずは地域の経済状況について、食、エネルギー、住宅、医療健康の四つの分野について調べたところ、「ほとんどがロンドンか、海外資本のものを消費していた」。学校のカフェテリアの食材を地場産に切り替えるよう自治体に働きかけるなど行動を起こした。地元での起業を目指す人々のための拠点を設け、サポートする仕組みをつくった。

 「だれもが地域で生き生きと働けるようになれば、強いローカル経済が生まれる」と指摘した。
 「彼は確実に変化を起こしてくれる」。一方、メキシコから来日した生態学者、パトリシア・モゲルさん(62)は、新大統領のアンドレス・マヌエル・ロペスオブラドール氏への期待を口にした。同氏は、元メキシコ市長で、「国家再生運動」(Morena)の党首。選挙戦では、汚職や治安悪化への市民の不満などが得票に結びついた。

 「メキシコでも1980年代以降、新自由主義の波が押し寄せた。通信、鉱山、石油などの民営化が進み、貧富の差が増大した。市民主体の政治を取り戻したい」

 祖父と父が先住民族というモゲルさんは、貧困地域の先住民族らが設立した「トセパン協同組合」の人々と交流を重ねる。トセパンは「共に働き、話し合い、考える」の意。「先住民族が生活する場所は、生物多様性の豊かな地域。彼らは農薬を使わず、樹木との混植でコーヒー豆を栽培する森林農法を手がけている」

 トセパンには、22地域の計約3万5000世帯の組合員が加盟する。生態系を守ろうと鉱山開発に反対するリーダーが弾圧されるなど、先住民族は苦難の道を歩んできた。「私たちは、先住民族の知恵から学び、自然と共生する社会をつくっていかなければならない」と訴えた。

2018/11/01

「森を守り森をつくるコーヒー」とは何か メキシコの森林農法研究者に学ぶ

11月12日東京 13日横浜 16日熊本で 森林農法研究者のパトリシア・モゲルさんと対談します。
パトリシアさんは、11月11日に開催される「しあわせの経済」フォーラム2018 in 東京でも講演します。


 生物多様性の豊かな森林農法の農園で有機コーヒーの花の蜜を吸っているハチドリ

◆2018年11月12日(月)カフェスロー(東京・国分寺)
森を守るコーヒー」を飲みながら学ぶ 森林農法  メキシコからパトリシア・モゲルさんを招いて

今、世界的に注目されているアグロフォレストリー(森林農法)研究者をメキシコから招いて、森林農法の素晴しさを学びたいと思います。


 先住民のアグロフォレストリー(森林農法)概念図

前半は「森を守り、森を育てる」森林農法について、メキシコの事例を中心にわかりやすくお話いただき、後半は、メキシコやエクアドルなどから森林農法の有機コーヒーをフェアトレードで輸入しているウインドファームの中村隆市さんとの対談をコーヒーを飲みながらお楽しみ下さい。

<日時>
2018年11月12日(月)19:00-21:00(開場18:00)
※18-19時の飲食タイムには、中村隆市さんが「森林農法の有機コーヒーを手煎り焙煎」して「美味しい有機コーヒーを淹れて」参加者の皆さんに提供する予定です。(カフェインレスのコーヒーも抽出しますので、お好きな方をお選び下さい)

<会場>
カフェスロー(東京・国分寺駅南口徒歩5分)

<参加費>
1,000円(森林農法コーヒー付き)
※特製カフェローカル弁当1,000円(要予約6日(火)まで)

<プログラム>
19:00-20:10
ゲストスピーチ パトリシア・モゲルさん「森を守るコーヒー」
20:15-21:00
クロストーク パトリシア・モゲルさん × 中村隆市さん

<お申込み>
◎お申込みフォームからはこちらから 
◎お電話の方は「お名前、人数、ご連絡先、お弁当の数」をお伝えください。
 電話:042-401-8505(カフェスロー・月曜定休)

<主催>
 カフェスロー

<協力>
 ウインドファーム、ワールドエコロジーネットワーク、カフェローカル、ナマケモノ倶楽部

<トークテーマ>
●アグロフォレストリー(森林農法・森林農業)とは
農業(Agriculture)と林業(Forestry)を組み合わせた言葉です。一つの土地に多様な樹木と果樹やコーヒー、農作物、家畜などが混在する自然と調和した持続可能な農法です。

一方で、熱帯・亜熱帯地域では特に、森林を伐採して単一の商品作物を大量に栽培するプランテーション農法が大きな問題になっています。森林破壊に加え、農薬や化学肥料の大量使用によって生態系を破壊し、「生物種の絶滅」や「気候変動」を拡大させる一因になっています。


 先住民の森林農法コーヒー園とプランテーション農法のコーヒー園

今、世界各地で「気候変動」が大きな問題になってきていますが、日本でも今年7月に埼玉で国内最高気温となる41.1度を記録して熱中症が過去最多となったり、観測史上例のない規模の集中豪雨や台風の記録的な風速も観測されています。そうした激しさを増す気候変動や生物種の絶滅を抑制する森林農法が今、世界から注目されています。

<出演者プロフィール>
●パトリシア・モゲル(メキシコ・生物学者)

【専門分野・活動分野】:
アグロフォレストリー、民族生態学、生態学と社会、先住民族による生物多様性の保全と管理、持続可能なコーヒー生産、フェアトレード、環境教育、アグロエコロジー、人間とコミュニティの持続可能な発展
ミチョアカン大学、イベロアメリカーナ大学、ラテンアメリカ大学の教授を経て、現在は主に環境教育の指導者として大学、その他の教育機関、NGO、市民団体などでコース、ワークショップを担当。

【先住民族との活動】
30年に渡り、メキシコ国内の先住民族の生産者やグループのアドバイザーを務めてきた。特に、トセパン協同組合では1999年よりアドバイザーを務め、環境教育プロジェクトのコーディネートを担当。現地でアグロフォレストリーの研究を行うと同時に、組合員にアグロフォレストリーの重要性についても指導を行ってきた。
今年12月1日より発足するロペスオブラドール氏による新政権では、環境教育国家プランの作成を行うチームにコンサルタントとして関わる。また、次期政権によるアグロフォレストリーを取り入れた100万ヘクタールの植林計画でアドバイザーを務める。

●中村 隆市(なかむら りゅういち)
1955年福岡生まれ。23歳で山村に移住。無農薬で米と野菜をつくり、鶏を飼いながら有機農業の普及活動に取り組む。1987年からフェアトレード事業を開始。98年にコロンビアで開催された「第1回 国際有機コーヒーセミナー」でフェアトレードについて講演。同じセミナーで講演したパトリシア・モゲル氏から森林農法の重要性を学ぶ。2000年、ブラジル初のオーガニックカフェ『テーハベルジ』を開店。2004年、有機農業とフェアトレードの普及によりブラジル・マッシャード市から名誉市民章受章。環境=文化NGOナマケモノ倶楽部世話人。
(有)有機コーヒー(有)ゆっくり堂(株)ウインドファームの代表取締役。


*この写真は、メキシコで森林農法を普及させているトセパン協同組合を2005年に訪問した中村隆市さんの手に奇跡的にとまったハチドリ。

   *   *   *

◆2018年11月13日(火)カフェゆっくり堂(横浜・戸塚)
「森を守るコーヒー」を飲みながら学ぶ 森林農法(アグロフォレストリー)
     メキシコのパトリシア・モゲルさんを招いて

日時:11月13日(火)19:00-21:00(開場18:00)
*18-19時は「美味しい有機コーヒーの淹れ方教室」も同時開催予定。
会場:カフェゆっくり堂(JR戸塚駅東口より徒歩7分)
参加費:1000円+ワンオーダー
ゲスト:パトリシア・モゲルさん(生態学者、メキシコ)
    中村隆市(ウインドファーム代表、ゆっくり堂代表)
主催:ナマケモノ倶楽部
協力:カフェゆっくり堂、ウインドファーム
※詳細はコチラ

  *   *   *

◆2018年11月16日(金)国際交流会館(熊本市)
コーヒーを飲みながら学ぶメキシコの森林農法 
パトリシア・モゲル+スペシャルゲスト!

前半(17:30-18:10)は、三角エコビレッジSAIHATE/コミュニティマネージャーの坂井勇貴さんのトークと中村隆市さんとの対談を行います。

後半(19:00-21:00)は、メキシコより森林農法研究者のパトリシア・モゲルさんをお招きして、森林農法についてお話いただきます。パトリシアさんと共にメキシコ・トセパン協同組合と彼らの作るコーヒーをサポートされている中村隆市さん、熊本にて長年フェアトレードの普及・アジア初のフェアトレードシティくまもとの立役者である明石祥子さんとの対談も行ないます。

詳細は、近日中にアップされます。


11月16日 熊本チラシ

2018/10/19

メキシコの森林農法研究者、パトリシア・モゲルさんが11月に来日

今から20年前の1998年にコロンビアで開催された「第1回国際有機コーヒーセミナー」で出会い、メキシコのトセパン協同組合を紹介してくれた森林農法(アグロフォレストリー)研究者のパトリシア・モゲルさんの来日が決定しました。

パトリシアさんは、11月11日に開催される「しあわせの経済」フォーラム2018 をはじめとして、東京、横浜、福岡などで講演する予定です。後日、詳しい日程などをお知らせします。

前回の来日(2005年6月)から13年が経ちましたが、今もパトリシアは「行動する研究者」として、変わらぬ情熱で、自然と共に生きる先住民文化や環境の保護活動に取り組み続けています。そうした彼女の活動は、12月1日から発足するロペスオブラドール新政権に認められ、環境教育国家プランの作成を行うチームにコンサルタントとして関わることになりました。また、新政権は、生態系や文化面における多様性を守るという観点から、アグロフォレストリーに焦点を当てた100万ヘクタールの植林計画を進めようとしており、この計画のアドバイスも行うことになっています。

   *   *   *

2005年にパトリシアさんを紹介した記事を再掲します。

メキシコ有機コーヒー栽培の現場を訪ねて

世界で最初に有機コーヒー栽培に取り組んだ国、メキシコ。この国では、 30部族以上もの先住民族が、伝統的にコーヒーを栽培してきたと言われている。彼らは、豊かな森でコーヒーを育てながら、独自の文化や伝統を築いてきた。
しかし、コーヒーの国際市場価格の低迷や大企業による買い叩き、それに加え、貧困などの社会問題によって、こうした伝統的な栽培方法や文化は失われつつある。


  プエブラ州の雲霧林
 
そんな中、コーヒー生産者たちと共に豊かないのちの森を守ろうと闘う一人の女性がいる。彼女の名前は、パトリシア・モゲル。生物学者でもあり、環境活動家でもある彼女は、メキシコの「アグロフォレストリー(森林農法)」(※注1参照)研究の第一人者であり、現在は、メキシコのプエブラ州ケツァーランにあるトセパン・ティタタニスケ協同組合と共に、持続可能なコミュニティづくりに向けて活動している。

私は、パトリシアに案内され、このトセパン組合を訪れた。
(文/岩見知代子:ウインドファームスタッフ)


  パトリシア・モゲルさん

トセパンは、5,300世帯もの生産者からなる組合で、メンバーは皆ナワット族である。彼らは、ケツァーランの町を中心とした7地域66のコミュニティに暮らし、アグロフォレストリーによる有機コーヒー生産をベースに、コショウ、 ナッツ、キノコの栽培や畜産にも取り組んでいる。

特徴的なのは、これらの活動が、地域内で資源をすべて循環させて行われているということだ。また、トセパンでは、組合設立当初から女性たちが組合の活動に積極的に参加してきた。女性グループによるパン屋、雑貨店運営やトルティーヤ(とうもろこしの粉からつくられたメキシコの主食)販売が行われており、女性の自立を目指した多様な取り組みが活発に行われている。この他に環境教育やエコツアーの取り組みも数年前から始めている。

トセパンが設立されたのは、今から28年前。自分たちの作ったコーヒーを仲介業者に買い叩かれる現状に対抗するためだった。そして、この設立の時からトセパンに深く関わり、技術面だけでなく、組合運営全体のアドバイザーを行っている人物がアルバロ・アギラルである。アルバロは、ナワットの人たちを救いたいという強い思いからこの地へ移り住み、組合をここまで引っ張ってきた。彼は、組合で唯一ナワット族ではないのだが、組合の代表と並ぶほどメンバーの信頼と尊敬を集めている。


  コーヒーの樹と生産者

そして今では、トセパンは、メキシコにおける有機コーヒー生産者グループのモデル的存在にまでなっており、実際、その多様で持続可能な取り組みは、メキシコ政府からも高い評価を受け、1995年には、「フォーレスト賞1995」を、2000 年には「環境賞2001」を受賞している。

組合名「トセパン・ティタタニスケ」は、ナワット語で、「団結すること。 それが、皆が幸せになる唯一の道である」ということを意味する。その名の通り、トセパンをここまで団結させてきたのは、良きアドバイザー、アルバロの指導力と愛情に満ちた人間性ばかりでなく、ナワットの人たちが昔から大切にしてきた「協力」「分かち合い」という考え方、生き方なのである。

ケツァーラン一帯は、生物多様性が非常に豊かな熱帯雲霧林に属しており、 いつも湿度が高い。雨が降ると、雲が低く降り、それと同時に、森からは深い緑の香りが立ち上る。私がケツァーランで過ごした4日間、霧がかからない日はなかった。さまざまな植物や動物が暮らし、豊かな土壌が広がるこの森は、コーヒーに豊かなコクと香りをもたらし、ナワットの人たちの文化と伝統を育んできた。

滞在中、アルバロと共にトセパンを案内し、コーヒーの森のことを話してくれたパトリシアは、森を守りながらコーヒーを栽培するアグロフォレストリーによっ て、この地に住む生物だけでなく、そこで育まれてきたナワット族の生活や生き方そのものが守られてきたのだと教えてくれた。アグロフォレストリーの重要性を指摘する研究者たちは、生物多様性を守るということを強く訴えても、それが この地で生きてきた人たちの文化の多様性をも守っているということにはあまり注目しない。けれど、それがとても大切なのだとパトリシアは言う。

そして、それを守るため、彼女は生産者たちと闘っている。「研究は頭だけでなく、心でするもの」。そう言い切るパトリシアが、単なる研究者ではなく、自ら現場で行動する活動家である所以はそこにある。

パトリシアの父親は、貧しい人たちのためには、無償で弁護を引き受けていたという社会派の弁護士だった。その影響から、幼い頃より社会問題や環境問題に触れてきた。「分かち合うという気持ちを持つこと。そして、社会に矛盾や疑問を感じたら、それをはっきりと訴え、行動することが大切だ」という父親の教えを、彼女はいつも心の中に置き、大切にしてきた。

「今、世界で起こっている環境問題はとても深刻で、どうしようもないところまで来ているのかもしれない。それを考えると悲観的になってしまうこともありました。でも、今は違います。私は、ずっと先の世代のために自然や文化を残したいと闘っているメキシコの生産者たちと、日本の人たちとの強い絆をつくっていきたいのです。持続可能な社会を目指し、私は大きな希望を持ってこれに取り組んでいきたいと思っています。これからもつながっていきましょう。その夢に向かって。」

私がメキシコを去る日、彼女が笑顔で語ったその言葉を今でもよく覚えている。
そのとき、私は初めて「一杯のコーヒーから始まる物語」の原点を見たような気がした。
そしてこの6月、その夢をたくさんの人と分かち合うため、パトリシアとアルバロが来日する。私が彼らやトセパンとの出会いで感じたつながりを、コーヒーを飲んでくださる皆さんにもぜひ感じてもらえたらと心から思う。
豊かないのちの森から始まるこのコーヒー物語は、きっとあたたかさとやさしさに満ちているはずだから。

   *    *    *

2005年来日前のメッセージも再掲します。

パトリシアからのメッセージ

*日本の消費者のみなさんへ

世界で最初に有機栽培のコーヒーを生産したのはメキシコです。この有機栽培という生産システムは、地域レベルで見ても国際レベルで見ても、環境に対して多くの利益をもたらしています。例えば、生物多様性の保全、土壌の保全、気候の改善、地球温暖化の影響の削減、洪水、火災といった自然災害の軽減といったことです。

また、メキシコでは、有機栽培に基づくコーヒー生産は、毎年300万に近い雇用を生み出しています。例えば、有機栽培でコーヒーを生産する場合、慣行栽培よりも多くの土地を耕作する必要が出てきます。平均して1ヘクタール当たり160日間の雇用が必要となるのです。


 パトリシア・モゲルさん

 しかし、私が日本の消費者のみなさんにお願いしたいのは、メキシコでのコーヒーの有機栽培(これは、伝統的に日陰樹を利用した栽培方法を取り合わせたもの、アグロフォレストリーシステムを含む)を、単に環境にやさしいとか、お金や雇用を生み出すものとしてだけ見ていただきたくないということです。

これはどういうことかと言いますと、コーヒーの有機栽培には、さまざまな文化や信念、そして知恵や知識が凝縮されており、社会や文化面から見てもその利益、恩恵は計り知れないということです。

メキシコでは、約32族もの先住民がコーヒー生産に従事しており、彼らはそれぞれに伝統や慣習、代々受け継がれてきた人生観などを持っています。つまり、コーヒー生産の周辺地域では、それぞれの先住民族が織りなす文化の多様性を見ることができるのです。

こうしたことから、先住民族が伝統的に行ってきたアグロフォレストリーを維持し、その生産物であるコーヒーをフェアに取引するということは、単に生物多様性や環境を保全しているというだけでなく、先住民族が現在まで守り続けてきた文化の多様性を保護することにもつながるということです。

そして、この文化の中には、「分かち合い」、「協力」、「尊敬と連帯」といった言葉に代表される先住民の考え方や姿勢も含まれています。近頃、メキシコでは、生物多様性の保全に関してその重要性を指摘する研究者は多くいます。
しかし、こうした文化の多様性に目を向けている研究者はいないのではないでしょうか。重要なのは、生物だけでなく先住民族たちの文化の多様性をいかにして守り続けていくかということなのです。

そして、これができるのは、フェアトレードやこれと似たような取引―自由貿易に取って代わる貿易―を通してだけだと私は思うのです。このためには、生産者と消費者の連帯を築いていくことが必要となってくるでしょう。

生産者と消費者がお互いの立場を理解し、共に協力しあっていくことが大事なのです。 私は今回、中村隆市さんと一緒に2つの生産者グループを訪ねました。彼らは常に「協力し、分かち合う」という姿勢を大切にしていました。彼らのこうした姿勢は、フェアトレードに取り組む上で、また、さまざまな社会問題と闘っていく上でとても大切な考え方だと思っています。

最後に、もう1つ聞いていただきたいことがあります。私が今まで述べてきたコーヒーは、単なる”オーガニック(有機栽培の)コーヒー”ではありません。確かに生産方法としては有機栽培です。しかし、前にお話しましたように、この生産方法には生態系や環境だけでなく、先住民族の文化や信念をも持続的に守り続けていこうという姿勢が含まれています。

そこで私は、このコーヒーを確信を持ってこう呼びたいと思っています。「サステイナブル(持続可能な)コーヒー」 と。これには、次に述べる4つの要素が含まれています。まず環境の豊かさ、2つめが生活や人生の豊かさ、そして3つめが生産物の質の高さ、4つめが精神的な豊かさです。この「サステイナブル」という考え方は、とても大切なことなので、ぜひ皆さんに知っておいていただきたいと思うのです。

今後は、研究のみならず、消費者の立場にある中村さんとともに、協力しあい、同じ経験を分かちあいながら、メキシコの生産者と日本の消費者のみなさんとの連帯を築いていきたいと思っています。それが、私の夢なのです。

2005年4月
パトリシア・モゲル

   *   *   *

●パトリシア・モゲル・ビベロス(2018年10月現在のプロフィール)
(メキシコ・生物学者)

【専門分野・活動分野】:
アグロフォレストリー、民族生態学、生態学と社会、先住民族による生物多様性の保全と管理、持続可能なコーヒー生産、フェアトレード、環境教育、アグロエコロジー、人間とコミュニティの持続可能な発展

メキシコ国内や海外のさまざまな大学や教育機関で研究を行い、ミチョアカン大学、イベロアメリカーナ大学、ラテンアメリカ大学の教授を経て、現在は主に環境教育の指導者として大学、その他の教育機関、NGO、市民団体などでコース、ワークショップを担当する他、各地の先住民コーヒー生産者グループのアドバイザーも務めている。

2018年、グローバルかつローカルに社会・環境問題に取り組む環境リーダーの育成や教育を行う目的で、ECOFE(アートエコロジー文化センター)を設立。物質的で大量消費の社会、一部の人間が支配する資本主義社会やグローバル経済から持続可能な社会(生物多様性を守り、みな同じ人間として互いにつながり、助け合うという意識を持った社会)、及び幸せで尊厳ある生き方をうみだす経済へのシフトには、先住民族や祖先から授かった知恵や伝統から学ぶことが必要と考え、より多くの環境リーダーを生み出すことに力を注いでいる。そのためには正しい情報を持ち、社会的かつ心に働きかけるホリスティックな方法を学ぶ必要があると考え、エコダンスを取り入れたワークショップや講演、コースも行っている。

(※エコダンス:医療人類学者のロランド・トーロ・アラネーダ氏が構築したダンスワーク”ビオダンサ“を自身で発展させたもの。普段の生活や教育面ではあまり重視されない文化や芸術こそ、人の心に訴え、内面に意識を向けることができると感じ、それを体の動きとして取り入れ、講演などで話す際に行うことで参加者の心を開き、気づきを与えることにつなげている。)

【先住民族たちとの活動】
この30年に渡り、メキシコ国内の先住民族の生産者やグループのアドバイザーを務めてきた。
 特に、トセパン協同組合では1999年よりアドバイザーを務め、2005~2010年には、トセパンにおける環境教育プロジェクトのコーディネートを担当。現地でアグロフォレストリーの研究を行うと同時に、組合員たちにアグロフォレストリーの重要性についても指導を行ってきた。近年の鉱山開発問題に関するさまざまな問題に際しても、組合をサポートしている。

その他、先住民権利委員会(チアパス州)アドバイザー(1998~)、ミチョアカン州先住民大学創設委員(2004-2008)やベラクルス州、オアハカ州における先住民コーヒー生産者のアドバイザーも務めている。

トセパン協同組合を始めとするこれらの生産者グループにおいては、そのプロモーター、技術者、アドバイザー及び生産者に対し、「持続可能なコミュニティの発展」、「フェアトレード」、「持続可能な住宅」、「有機栽培」などに関する教育も行ってきた。
 UNAM(メキシコ国立自治大学)と世界銀行が作成した“メキシコ及び中米における民族生態学アトラス”の研究員も務めた。

【AMLO政権での今後の活動】
12月1日より発足のロペスオブラドール氏による新政権では、環境省が作成する環境教育国家プランの作成を行うチームにコンサルタントとして関わる。この環境教育プランは、政権内のあらゆる政策に関係してくるものであり、メキシコ国内の公式、非公式の教育プランの一部となるものである。

また、次期政権は、遺伝学的、生物学的そして生態学や文化面における多様性を守るという観点から、アグロフォレストリーに焦点を当てた100万ヘクタールの植林計画を進めようとしており、この計画においても、アドバイスを行うことになっている。夫のビクトル・マヌエル・トレド氏も環境大臣のアドバイザーに就任予定で、夫婦でともに新政権の環境分野における政策に取り組むことになっている。

この他、長年アドバイザーとして関わってきたトセパン協同組合で働いていたマリア・ルイス・アルボレス・ゴンザレスさんがBienestar省(幸福、厚生に関する省)の大臣に就任することが決まっており、彼女や彼女の担当する政策に関しても、夫婦でコンサルタント的に関わっていくことになっている。

******【追記 2019年1月22日】******

森林農法で地球の緑 未来へ パトリシア・モゲルさん
(2019年1月17日 毎日新聞)

「樹木や果樹との混植でコーヒー豆を育てることで、森を守ることと経済的な自立の両立が図られる」と強調するのはメキシコの生態学者、パトリシア・モゲルさん(62)。東京で昨秋、開かれた「しあわせの経済」フォーラムで、先住民族らが実践する森林農法を紹介した。

 メキシコ中部プエブラ州の山岳地帯で、先住民族らが運営するトセパン協同組合のアドバイザー。組合には約3万5000世帯が加盟し、森林農法でコーヒー豆も栽培している。日本では、福岡県水巻町の有機コーヒー販売会社「ウインドファーム」が輸入し、同社代表の中村隆市さん(63)は生産者やモゲルさんと交流を重ねてきた。
 
 メキシコのロペスオブラドール大統領は「国の政策として森林農法を推進する意向」と伝えられ、閣僚に起用されたマリア・ルイサ・アルボレス・ゴンサレス福祉相はトセパン出身という。モゲルさんは「日本にも環境や貧困の問題はある。大切なのはそれぞれが行動し、緑の地球を未来に残すこと」と語る。【明珍美紀】

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