経済優先社会から いのちを大切にする社会に

数年前から、中小企業家同友会や青年会議所などの中小企業の経営に携わっている皆さんに講演する機会が増えてきました。昨年の311以後は、チェルノブイリの医療支援や福島の原発事故について話す機会も増えてきました。経営者向けの講演録があれば見たいという声があるので、参考までに一部をアップしておきます。(2011年夏から2012年1月に福岡、滋賀、京都で講演した要約から抜粋)

京都中小企業家同友会 2012新春講演会
「経済優先社会からいのちの尊厳を大切にする経済社会に」
―子どもたちと未来にどのような国を残すのか―

講師 中村 隆市 氏 株式会社ウィンドファーム 代表

京都中小企業家同友会 2012年新春講演会
(写真は、山猿日記さんより拝借)

講演概要

 江戸時代の医者で哲学者でもあった三浦梅園という人がいます。まずこの人の言葉を二つ紹介します。一つは「枯木に花咲くに驚くより、生木に花咲くに驚け」。人は、枯れた木に花が咲けば奇跡だと驚きます。しかし、梅園は生きた木に花が咲くことこそ驚きだと言います。もう一つは「経済には、独り占めの経済(乾没)と分かち合いの経済(経世済民)の二種類がある」という言葉です。このことは最後に触れたいと思います。

 まず、最初の言葉「枯木に花咲くに驚くより、生木に花咲くに驚け」についてです。毎年、春が来れば花が咲きます。梅が咲いて、桜が咲きます。毎年、あたりまえのように花が咲きます。私たちは、朝起きて目が見えます。耳が聞こえます。手が動いて、足が動きます。それは当たり前のことですが、それが奇跡ではないかと梅園は言っているのだと思います。人間の手は、あらゆる生物の中でも飛び抜けて優れた能力を持っています。その気になれば、ほとんど何でも手作りすることができます。

 日常的に、あたりまえのように働いているので意識していませんが、私たちは肺が働くから呼吸ができます。心臓が働くから血液が全身にまわります。心臓は、一生の間に(80年間で)およそ30億回も休みなく収縮運動を繰り返します。私たちが眠っていても彼らは働いています。これって、すごいことだと思いませんか?
そうしたことを梅園は、日常の中に奇跡が宿っていると言っているのです。

 地球という星も奇跡です。この宇宙の中に、いま分かっている段階では地球のような星はありません。そういう美しい星に私たちは生まれることができたのです。そして、私たちは人間として地球に生まれることができたことも幸せなことではないかと思います。今日はそうしたことも含めてお話させていただきたいと思います。

水俣病との出会い、環境問題へ(要約)

 私は1955年に福岡の和白干潟という美しい干潟の傍で生まれました。19歳のときに母の故郷である熊本県で水俣病の患者さんに出会ったことが、公害や環境問題に関心を持ち始めるきっかけになりました。水俣病というのは、化学肥料やプラスチックの原料を作っていた会社が、工場の排水をきちんと処理しないまま海に垂れ流し、その排水に含まれていた有機水銀を魚介類が体内に取り込み、それを食べた人たちに水俣病が発生しました。1959年、熊本大学医学部が「水俣病の原因物質は工場排水に含まれる有機水銀であろう」と報告しますが、政府は「経済成長」を優先して1968年まで工場を停止させませんでした。その結果、被害は拡大し1300人以上が亡くなりました。健康被害を受けた人は20万人にも及ぶといわれています。

 特に私が、強い衝撃を受けたのが、お母さんのお腹の中で水銀の被害を受けた胎児性水俣病の子どもたちでした。私と同世代に生まれた胎児性水俣病の子どもたちは、お母さんの体内に入った毒を自分たちが引き取るようにしてお母さんの健康を守る一方、自分自身は重い病を抱えて生まれてきたのです。その姿に接したとき、私の心は震えました。そして、私自身が水俣病を持って生まれていてもおかしくないことに気づいたのです。

 その後、環境保護運動に参加するようになった私は、当時、作家の有吉佐和子が朝日新聞に連載していた『複合汚染』を読んで、農薬や食品添加物などの問題を知り、有機農業に関心を持ち始めました。

 その後、山村に住み、農薬も化学肥料も使わずに野菜や米をつくり、鶏を飼うようになり、できた野菜を売ろうとしたのですが、当時の消費者は、安全で、美味しくて、栄養価が高くても、大きさが不揃いだったり、曲がってたり、少し虫食いがあるような「見てくれの悪い」有機野菜は評価しませんでした。そうした経験をしたことで、有機農業を広めていくには消費者の意識を変える必要があると考えた私は、生活協同組合に就職して有機農産物への理解を広げる仕事をしました。

 農薬の勉強をするだけでなく、田んぼや畑で有機農業を体験することで、農薬や化学肥料を使わないことの大変さを理解していきました。一方で、お米1粒の種もみが1000倍にも2000倍にも増えるような自然の恵みの有難さも感じます。除草剤や化学肥料を使わず、草取り作業や堆肥を施す作業に汗を流し、収穫の喜びを経験することで有機農業生産者や自然に対する感謝の気持ちも生まれてきました。そして、だんだん生協内に有機農業に対する理解が広まり、福岡県内の60ヶ所ほどで青空市場を開くことで、一般の人たちにも理解者が増えていきました。
そんなときに、日本から8000キロ離れた原発が爆発事故を起こしました。

放射能汚染食品が途上国に

 1986年4月に起こったチェルノブイリ原発事故です。この事故がどのくらい大規模な事故だったかを知るのに参考になるのが、事故処理作業や除染作業に携わった人の数です。若い人たちを中心に、80万人以上が動員されたと言われています。その際使用した乗物などは全て放射能で汚染され、地下に埋められました。しかし、汚染されたのは機械だけではありません。事故処理作業員も放射能で被曝しました。事故から14年後の2000年には、年齢が若いにもかかわらず、5万5千人がすにで亡くなっていると発表されています。

 この事故処理作業にあたった人たちに私も何度か会いましたが、彼らには、心臓や血液の病気が多く、呼吸器系、消化器系、内分泌系など様々な病気で苦しんでいました。いま福島で行われている除染作業をテレビで見ていますと、あまりにも軽装すぎます。あの軽装で除染作業を続けていたら相当な被曝をするのではないかと心配です。

 この原発事故で、放射能が風に乗って世界に流れていきました。日本にも1週間後に放射能は届いています。雨水や飲み水、お茶や米、そして母乳からも放射能が検出されました。それと合わせて、もう一つの問題が出てきました。食料輸入大国の日本にチェルノブイリ原発事故で汚染された食品がたくさん入ってくるようになったのです。

 日本政府は、放射能汚染食品の輸入基準値を決めました。それが1kgあたり370ベクレルです。今の福島原発事故では(2012年1月現在)ヨウ素が2000ベクレル、セシウムが500ベクレルです。当時、私がいた生協では独自の基準を設けました。10ベクレルです。これは子どもたちを持つお母さん方が相談して決めた数値です。子どもたちに汚染されたものを食べさせたくないとの思いです。当然です。体内に入った放射能はずっと内部から細胞を傷つけていきます。汚染食品を体内に入れないというのはとても重要なことなのです。

 チェルノブイリ事故のあと、多くの国で放射能汚染食品の輸入基準ができました。日本は世界から大量に食糧を輸入している国です。その日本で370ベクレル以上に汚染された食品は輸入しないと決めたこともあり、たくさんの汚染食品が行き場を失いました。その汚染食品がどうなるのか、私は気になりました。調べてみると、その多くは「援助物資」として「発展途上国」にまわっていました。

 この時と同じようなことを今、外務省が計画しています。皆さんご存じでしょうか? いま魚の放射能汚染数値が高くなってきていることを。そして、外務省が福島近海の魚を缶詰にして「途上国支援」として送ろうとしていることを。

放射能汚染、基準値以下は補償されない?

 私は自分の子どもに食べさせたくないものを「途上国」に送ることに賛同できません。原発事故で経済的な損失を受けた人々には、国の責任で損害補償をするべきです。私の会社は有機栽培のコーヒーや紅茶をフェアトレードという形で中南米やアジアから輸入しています。国内の有機栽培のお茶も販売しています。その中に静岡のお茶もあります。長年、有機無農薬で栽培されてきたお茶農家ですが、そこが福島原発事故の放射能で汚染されました。その農家はそれを公表しました。偉いなぁと思いました。公表した結果、売上は落ちました。この農家のお茶は基準値以下ですから、おそらく補償されません。しかし、国は補償するべきだと思います。

 私も含めて中年以上の世代は、原発事故に対して大きな責任があると思います。

フェアトレードを始める

 私は、「発展途上国」とか「先進国」という言い方が好きではありません。GNPやGDPの数字だけで見たら貧しくても、その国の人々と接すると、自然や人に対する優しさ、人間性の素晴らしさを感じることがよくあります。そのような「途上国」に放射能汚染食品が送られたと知ったことが、途上国の生産者とつながる仕事を始めるきっかけになりました。

放射線の影響は、細胞分裂が活発な子どもほど大きな影響を受けるので、子どもたちのことが心配になったのです。そして、これまで日本国内で有機農業を広める仕事をしてきたので、途上国でも有機農業を広める手伝いがしたいと考えました。有機農業やオーガニック食品が広まることによって、農薬や食品添加物などの問題が多くの人に知られ、食べものの安全性や環境保護の重要性が広く知られることが、子どもたちの幸せにつながっていくだろうと考えたのです。そのために、「有機コーヒーを生産者に喜ばれる価格で購入することで有機栽培を後押ししよう」と考えて南米に出かけていきました。

 しかし、無農薬で栽培している農園はなかなか見つかりませんでした。どこで聞いても、「農薬なしにコーヒーはできないよ」と笑われました。中には、「農薬なしにできるはずがないじゃないか!」と怒る人もいました。そんな反応が続いて諦めかけたのですが、日本でも有機農業を始めたころは同じような状況だったことを思い出して、探し続けました。そしてようやく、2回目の訪問で無農薬コーヒーを生産している人に出会うことができました。

 さらに、3回目のブラジル訪問で、カルロス・フランコさんという 素晴しい人間性をもった無農薬コーヒー生産者との出会いが生まれ、本格的なフェアトレードができるようになりました。カルロスさんとのフェアトレードは『考える絵本 しあわせ』という絵本になっていますので、機会があったら読んでみて下さい。

5年、10年と経って、カルロスさんの影響で、農薬も化学肥料も使わない有機栽培の生産者が増えてきました。しかし、大量にできた有機コーヒーを私の会社だけで買い支えることはできませんでした。

 そこで、ブラジル国内にも販路を広げるため、2000年に、ブラジル初のオーガニックカフェ『テーハベルジ』をクリチバというエコシティとして有名な町に開店しました。今ブラジルには、オーガニックカフェがたくさんできています。また、レギュラーコーヒーだけでなく、消費量の多いインスタントも有機コーヒーで商品化しました。そうしたことも一つのキッカケとなって、ブラジル各地で有機栽培農家が増えていきました。コーヒーだけでなく野菜や果物なども含め、農作物全体の有機栽培が増えています。

微力でもハチドリの一滴を

 2004年に、カルロスさんの農園があるマッシャード市が世界で初めてオーガニックコーヒー首都宣言をしました。こうした小さな市がこのような宣言をしたことは大きな意義があると思います。今日お集まりの皆さんは中小企業の経営者の方が多いのですが、私も20名ほどのスタッフしかいない小さな会社の経営者です。小さな会社は大企業にはできない大胆な転換ができると思います。この小さなマッシャード市が、市をあげて有機栽培を宣言したような、そんなことが小さな会社にはできるのではないかと思います。

 今、エクアドルでもフェアトレードを進めています。素晴らしい自然がある地域ですが、その自然がどんどん破壊されています。その理由の一つが、先進国の大企業による鉱山開発です。銅や金を採掘するために森が伐採され、自然が破壊されています。今、地球の森林は1分間にサッカー場1つ分が消滅し、1年で日本の国土の半分が消滅していっているそうです。生物は1日100種以上が絶滅しています。森を守ることが種の絶滅を防ぐためにとても重要なのですが、その森が破壊されているのです。私がフェアトレードで応援しているコーヒーの生産者は、美しい自然を子どもたちに残したいと考え、森の中で有機コーヒーや熱帯果樹を栽培する「森林農法(アグロフォレストリー)」と言われる栽培方法によって森を守っています。

 森林が減少している根本の原因は、先進国が生み出した大量生産、大量消費、大量廃棄という使い捨ての暮らしです。資源と自然の使い捨てです。かつてモノを大事にしてきた日本が、今はモノを大切にしない国になっています。私たち経営者の中にも「長持ちする製品をつくると回転が悪くなる」といった考えを持つ人が少なくないと思います。そうした意識が、大量生産、大量廃棄ということにつながっています。

 森林破壊に直結する問題として大きいのが住宅の問題です。1996年に国土交通省が発表したデータによれば、日本の住宅の平均寿命は26年、アメリカが44年、イギリスが75年となっています。イギリスの3分の1です。長持ちする住宅をつくれる技術はあるのにその技術が生かされていません。

 一方で、関東にあるバッグ製造の会社では、おばあちゃんから孫娘まで三世代も使うようなバッグを作り続けています。目まぐるしく変わっていく流行を追わず、年齢を問わないシンプルなデザインで、徹底的に修理をし続けてくれるため、三世代が同じものを世代を超えて使い続けられるわけです。今、そんな姿勢を持った会社が見直されてきています。

 「ハチドリのひとしずく」という南米の民話をご存知でしょうか。「森が燃え、動物たちが皆逃げていく中で、一羽のハチドリだけは、くちばしで一滴の水をすくい、燃えさかる森に何度も落としに行きます。逃げていった動物たちは、そんなことをやって何になると笑います。ハチドリは言います。『私は、私にできることをしているだけ』」。そういうお話です。私はこの話をキチュア族の先住民から聞いて勇気をもらいました。そして、この話を伝え続けていることが素晴らしいと思いました。それで、私もこの話を広めたいと思って、仲間と一緒に小冊子をつくって販売しています。(『私にできること 地球の冷やしかた』)これまで、10万部ほど売れています。

 今日は皆さんのお手元に2007年に発行した『豪快な号外』という新聞をお配りしています。これには地球温暖化や森林減少などの様々な環境問題の現状と、それを解決するために新しい取り組みを始めた人たちのことを書いています。それと、核燃料再処理工場の放射能の問題をほとんどの人が知らないので、それを知らせたくて、元お笑い芸人で映画監督のてんつくマン(かつて山崎邦正さんとコンビを組んでいた軌保博光さん)と一緒に3000万部発行し、全国で2万人以上の人が配布に協力してくれました。

 一部、内容を紹介しますと、「100万人のキャンドルナイト」という記事を掲載しています。これは当時、アメリカのブッシュ大統領が発表した原発増設などのエネルギー政策に反対を表明しようと北米から始まった取り組みが、日本で発展して、今では500万人が参加する一大イベントになっています。そのきっかけは、東京のカフェスローというオーガニックカフェが始めた「でんきを消して、キャンドルを灯す 暗闇カフェ」という取り組みでした。一つのオーガニックカフェによる「ハチドリのひとしずく」が数年後に日本中に広がったのです。

放射能汚染が引き起こす悲劇

 チェルノブイリ原発事故の汚染地域では、様々なガンや血液の病気、心臓病、消化器系の病気が増えていきました。私は、友人たちが1990年に始めたチェルノブイリ医療支援の活動に参加し、毎年のように現地の病院に薬や医療器具を届けに行くなかで、ナターシャさんという女性と出会いました。ベラルーシでは珍しい福祉施設をつくった方です。彼女には2人の子どもがいたのですが、私たちが出会ったときには既に息子さんを亡くしていました。息子さんは9歳で被ばくし、甲状腺がんが肺に転移して21歳で亡くなっています。そして、娘さんの胃ガンが悪化したとき、私たちは彼女から「娘を日本に連れて行って、日本の優れた医療技術で救ってほしい」と懇願されました。しかし、その時点で、がんは全身に転移しており、日本に連れていくことはできませんでした。5歳の子どもを抱えた娘さんは31歳で亡くなりました。

 その後、夫も事故死で亡くしたナターシャさんは、今、娘さんが残した孫と2人で暮らしています。彼女は、孫がいつまで元気でいてくれるだろうか、そして、病気がちな自分がいつまで孫の世話ができるだろうかと心配しています。放射能汚染地には、子どもを亡くした人たちがたくさんいます。放射線は年齢が低い子どもほど感受性が強いため、子どもが親よりも先に亡くなっているのです。このことが、放射能被害の一番むごいところではないかと私は思います。

 ベラルーシの多くの病院に薬や医療機器を届ける中で、放射能汚染地の子ども病院から原発事故の前と後とを比較できるデータをもらいました。チェルノブイリの子どもたちにどれほど病気が増えているかを示す重要なデータです。原発事故前年と9年後を比べると、急性白血病が2.4倍、ぜんそく2.7倍、糖尿病2.9倍、血液の病気3.0倍、先天性障害5.7倍、ガンが11.7倍、そして、消化器系の病気が20.9倍にも増えていました。

10才は55才の200倍以上、0才は300倍以上放射能の影響を受ける

 放射線が年齢別にどのくらい影響を与えるかという有名なジョン・ゴフマン博士の研究があります。55才では49人がガンで亡くなる被ばく線量を浴びたときに、0才の子どもは15170人も亡くなるというのです。55才の309倍です。10才でも10521人が亡くなります。55才の200倍以上です。大人と子どもではこのぐらい放射線被ばくの影響が違うのです。今、子どもたちを放射能(放射性物質)から早く遠ざけないといけないという理由がこれなのです。

 今回の福島の原発事故で原発の恐ろしさを知られた方は多いと思います。原発は事故を起こすから止めないといけないと思っておられる方が多いと思います。しかし、原発は事故を起こさなくても様々な被害を与えています。その一つはウラン鉱山です。世界のウラン鉱山の75%以上は、先住民が住む地域にあるのですが、鉱山の周辺では様々なガンや病気が増えています。詳しくは、私のブログや『ブッダの嘆き』という映画をぜひご覧下さい。

 原発の周辺では(事故が起こらなくても)ガンや白血病が増えています。ドイツ政府の調査では、原発から5km以内の地域では、小児ガンが1,6倍、小児白血病が2,2倍に増えています。アメリカやフランス、イギリスでも原子力施設の周辺でガンや白血病が増えています。核燃料再処理工場の周辺では、白血病が10倍に増えている所もあります。

人間だけでなく生物も被害者

 原発は人間以外の生物をも苦しめています。例えば、過熱した炉心を冷やすために大量の海水を吸いあげて、7℃熱くなった海水(温排水)を海に放出しますが、その量が恐ろしく多量です。平均的な規模の100万キロワットの原発1基で1秒間に70トンも温排水を海に放出します。現在、日本にある54基の原発全体から1年間に放出される温排水の量は1000億トン。日本全土に降る雨の量が年間6500億トンで、そのうち河川に流れるのは4000億トンですから、原発は、日本の川を流れる水の4分の1に相当する量を7℃も温めて海に戻しているのです。

 さらに問題なのが、海水を吸い上げる際にプランクトンや魚卵、そして、稚魚などを大量に吸い込み、炉心近くの高熱でその多くが死んでしまうことです。そして、吸排水パイプにフジツボなどが付かないよう殺生物剤(次亜塩素酸ソーダ)が使用され、海洋を汚染しています。

 原発には、これ以外にも被曝労働の問題があります。原発での作業でガンや白血病になって労災認定された人たちの中で、累積被ばく線量が最も少ない人は約5ミリシーベルトでした。 わずか5ミリシーベルトの被ばくで白血病になったのです。このことからも放射線の影響を大きく受ける子どもたちの被ばく線量が年間20ミリシーベルトまで許されている福島の現状が異常であることが分かります。

未来世代も原発の被害者

 原発の究極の問題として、100万年も毒性が消えない「放射性廃棄物」の問題があります。 京大原子炉実験所の小出裕章さんは、「廃棄物」という言い方はせず、放射性「廃物」とか放射性「毒物」と表現します。なぜ「廃棄物」と言わないのか。それは、これらの放射性毒物は、廃棄することができないもの、捨ててはいけないものだからです。

こんな言葉もあります。「原発が使える時代は100年、後始末には100万年」。私たち現代人は、未来世代に重荷を負わせることをやっている自覚がありませんが、千年後、1万年後、未来世代の人たちは、私たちの世代のことをどう思うでしょうか。

政府、政治家に任せていては脱原発はできない

 京都、滋賀をはじめ関西は、福井の原発から近いですね。若狭湾は日本最大の原発密集地です。大きな放射能の被害にあう可能性が高い地域だと思います。もんじゅも含めて何が起こってもおかしくありません。福島原発事故の場合は、200km離れた東京の東部まで汚染数値が高いです。福島と同じことが起こったら、琵琶湖が汚染されたら、関西はどうなるのでしょうか。

 政府は原発を再稼動させるつもりです。財界も経団連がそうですが、大きな組織ほど「いのちを大切にしたい」という市民の感覚からかけ離れています。中小企業の皆さんは、市民の感覚をお持ちだと思います。

 かつてデンマークでは、原発が導入されようとしたとき、市民が協力してフォルケセンターという民衆の自然エネルギー研究所をつくりました。フォルケセンターでは、実際に風力発電機などをつくり、研究データを一般に公開しました。そのデータを参考にして各地の町工場が風力発電機をつくり始めました。町工場のデータはフォルケセンターに還元され、それがまた公開されて、町工場での製造に生かされる、そんな繰り返しを通して、世界一の風力発電機が出来上がっていきました。

 今では、電力に占める風力発電の比率が20%を超える世界一の風力発電大国であり、人口が550万人ほどの小国でありながら世界最大の風力発電システムの輸出国になっています。

本当の「経済」を子どもたちに

 通信販売で知られるカタログハウスという会社があります。この会社は「通販生活」という雑誌に何年間もチェルノブイリの問題を掲載して募金を募り、何億円も医療支援を続けてきました。また、それとは別に、チェルノブイリの医療支援を続けている団体に長年にわたり多額の寄付を続けてきました。現在も福島の支援や脱原発につながる取り組みを続けています。

 東京の城南信用金庫は、「脱原発」を掲げ、東京電力から電気を買うのをやめて、電力会社でなくても電力を販売できる「特定規模電気事業者(PPS)」から買うことにしました。電気料金は、従来より5.5%も安くなるそうです。城南信金の理事長は「多くの企業がPPSに切り替えれば、原発を止めることができる。取引先などに呼びかけてPPSの利用を広げたい」と話しています。この動きが広がることを私も願っています。

 
「あたりまえ」と「おかげさま」

 三浦梅園は、「枯木に花咲くに驚くより、生木に花咲くに驚け」という言葉で、私たちが軽視しがちな「あたりまえ」の日常に奇跡が宿っていることを教えてくれています。

 福島から幼い子どもを連れて、福岡に避難して来たお母さんがこう言いました。「安心して空気が吸えて、安心して水が飲めて、安心して食べ物を子どもたちに食べさせられる。安心して森や川や海で遊ばせることができる。これほどうれしくて、ありがたいことはありません」と。

 私たちは、人が生きていく上で最も大事なものを長い間、忘れていたようです。いつの頃からか私たちは、目先の「経済成長」を最優先するようになり、かけがえのない自然や生態系を軽視するようになってしまっていたと思います。三浦梅園が言っていたように、もしも私たちが、「あたりまえ」と軽視してきたものに対して「ありがたい」、あるいは「おかげさま」といった気持ちを取り戻すことができたら、いろんな大切なものが見えてくるのではないかと思います。

 最後に、三浦梅園が言った「経済には、独り占めの経済(乾没)と分かち合いの経済(経世済民)の二種類がある」という言葉の「経世済民」と「乾没」について話したいと思います。「経世」というのは世の中を治め、「済民」は民を救うという意味です。ひらたく言うと「世の中を平和にして人々を幸せにする」それが、経済の本来の役割です。

今の経済は、経済の名に値しません。独り占めの経済、自分だけ良ければいいという「乾没の経済」、いずれ乾いて没する経済です。

原発事故を起こしながら、原発を外国に売りつけようとしています。地震が多い国にも売ろうとしています。自分たちさえよければいい。今の時代さえよければいい。こんな考え方が子どもたちが生きていくのに困難な世界をつくっているのです。もう一度、私たちは経世済民、世の中を平和にして人々を幸せにする経済を取り戻す必要があると思います。
ご静聴ありがとうございました。

(※この講演録は「京都中小企業家同友会 2012新春講演会」の要約をベースに2011年の滋賀、福岡での講演を一部加えたものです)


再稼働「反対」が7割、愛知県の中小企業 大飯原発3、4号機
(2012/04/02 18:40 中日新聞)から抜粋

 関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働をめぐる動きが大詰めを迎える中、中日新聞社は愛知中小企業家同友会(名古屋市、3077人)と合同で、愛知県内の中小企業経営者にアンケートを行った。回答した486人のうち「時期尚早」を含め再稼働に反対する意見が7割近くを占めた。今後の原発政策では「段階的に減らしていずれゼロ」が過半数で最も多く、大企業中心の財界とは異なり「脱原発」を求める姿勢が鮮明…

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