世界一の医療被ばく国である日本では、X線検査によって 年間 1万人(全がんの4.4%)ガンになっている

ヒロシマ、ナガサキを経験しながら、世界でも突出して多い日本の医療被ばく。それを低減するために活動している高木学校・医療被ばく問題研究グループが、べリングトンの論文以後の重要な米国の動向を紹介しています。

べリングトンの論文:X線検査による各国の発がん増加数0.5~1.8%と比べ、日本は3.2%と飛びぬけて高い。しかもこの数字に近年のCT検査の増加を加えると4.4%にもなるという医学専門誌LANCETに発表された論文

米国内におけるCT検査関連報道

Berrington等の論文が発表されてからの米国内におけるCT検査関連報道の紹介
(2010年04月05日 高木学校ウェブサイト)

■ NIH policy urges CT makers to track radiation dose.
米国国立衛生研究所(NIH)はCT機器メーカーに線量追跡可能装置の作成を急がせる方針」(ロイター2010年2月1日)

ロイター(2月1日)によるとBerrington等の論文の発表後、米国国立衛生研究所(NIH)はエックス線CT機器メーカーに対しNIHで使用するCT装置と放射線を使用する画像装置に、検査を受けた場合の線量を患者の電子カルテに記録できるようなソフトを取り付けるように要求する方針を明らかにした。

この方針は患者が繰り返し診断用エックス線に被ばくすると発がんのリスクが増加するのではないかと心配しているためだとNIH臨床センター放射線・画像科学管理者のD. Bluemke 博士は述べている。“我々は長い間患者がどのくらい放射線検査を受けているのかを理解し把握する方法がなかった“と同博士は語った。

この方針により影響を受けるメーカーは、GE healthcare, Siemens, Philips 及び東芝メディカルなど、放射線機器をNIHに納入している業者である。Siemensはこれに対してすでにデモンストレーションプロジェクトを始めている。GE healthcareもNIHの方針を支持し、同社の最新のCT装置は線量に関する情報を集めて記録する能力を備えている

機器メーカーがNIHに患者の被ばく線量をすべて電子カルテに記載することができる装置を納入するようになればその影響は大きく、広く他の病院にも普及してゆくだろう。次の段階は患者の診療に関わる会社間の共同作業であり、それによって標準化した線量情報集計記録ができるだけ便利に利用できる形にすることである。

NIHの方針が変わったのは、米国に於いて全がんの1.5から2%がCT検査によるという報告を含めた最近の研究結果によるものである。

■ Radiation risk prompt push to curb CT scans.
「放射線のリスクがCT検査を抑制」
(The Wall Street Journal 2010年3月2日)

米国では年間数千万人の患者がCT検査を受けているので将来的に彼等ががんになるリスクが増えるという証拠が積み重なっている。そのため連邦規制局、放射線関係グループ及び病院はCT検査の使用を抑えようと努力しはじめた。

調査によると現在行われている検査の1/3あるいはそれ以上が必要が無いかあるいは繰り返しである。医学的に正当である検査でも、画像の質を損なうことなしに線量を劇的に減らすことが可能である。

CT検査では臓器や骨、軟部組織、血管などの鮮明な断層映像を見ることが可能である一方、被ばく線量は単純X線撮影の50から500倍にのぼる。米国でのCT検査は急速に増加し1980年には年間300万件であったのが2007年には7000万件に達した。Berrington等の研究によると2007年だけのCT検査により将来29000の発がんが予測されている

米国食品医薬品局(FDA)は検査による不必要な被ばくを減らすためのイニシアティブをとり、CT機器メーカーに対しては安全装置を開発するよう指導すると発表した。それとともに、臨床医にCT検査をすると決める前に利益がリスクを上回っているかどうか2回考えるという“説明に基づく意志決定”プログラムを奨励している。

「CTが正当化される場合には利益は完全にリスクを上回る」とコロンビア大学放射線研究センターのBrenner D.センター長は述べている。しかしCT検査は、簡単で早いとか医師が訴訟を怖れるとか、経済的な利益のため、あるいは患者の強い希望等の理由であまりに頻繁に使われている。

Brennerは2007年に2000万の成人と100万の子供が不必要に被ばくし、原爆被爆者のデータから計算すると米国の全がんの2%がCT検査の被ばくによってがんになると予測している。

アメリカ放射線学会は患者がCT検査を受けた場合に線量を追跡調査できるような国家登録を全米的につくろうとしている。そうすると施設間での比較も可能になる。

被ばくを減らすのに一番良い方法は医師がガイドラインに従うようにすることである。マサチューセツ一般病院(MGH)では数千のガイドラインを取り入れてプログラムを作成した。

そのプログラムでは医師がCT検査をオーダーする前に患者の電子カルテに情報を入力する。もし検査の必要性に疑問があったり、他の検査の方が適当である場合には黄色の判定となる。

CTが推奨されなければ赤となる。このプログラムを使った効果を2004年から2009年にかけて調査した。外来患者はその期間中年に5%近く増加しているにもかかわらず、CT検査の増加率は12%から1%に減少した。

医師の臨床判断や直感をこのシステムに優先させることも許されるが、それが度重なると医師に対してなぜそうなのか説明を求める。MGHはこのシステムを会社につくらせた。

ミネソタ州の6つの医療グループと5つの健康医療サービス会社は2007年にそのシステムの2年にわたるパイロット試験を完了した。CT検査は予想された416,974件から385,660件に減少し、保険料を1800万ドル倹約することができた。CT検査は600ドルから3000ドルである。

南ニューハンプシャー医療センターがはじめた患者防御プログラムでは、患者が40歳以下の場合にはCT検査が5回から10回の間になると医師にその旨通知し、10回以上になった場合には直接患者に通知する。

“一回のCT検査のリスクはちいさくとも放射線障害は加算される”とセンターの放射線科医で、そのプログラムの開発者であるS. Birnbaumは述べている。このプログラムを使ったために2008年では15%のCTがキャンセルされ、15%はMRIか超音波に変えられた。

腎結石を検出するのに死体を使って研究し、95%の線量をカットしてもまだ結石を見つけることができたという報告もある。心冠動脈血管造影CTで冠動脈疾患を診断する場合には心臓は通常の胸部X線撮影の1000倍の線量を被ばくする。

この検査では女性の場合、270人に1人、男性では600人に1人が将来がんになると推定される。この検査もvolume scan techniqueを使うことによって画像の質をそれ程損なうことなく線量を91%減らすことが可能であった。

【紹介者コメント】ー 医療被ばくを巡る日本の現状

NIHの方針を変えさせたBerrington等が英国の医学雑誌The Lancetに発表した論文には、日本では医療被ばくによって年間1万人近く(全がんの4.4%、CT検査を含む)が、がんになると書かれていました。それは2004年のことです。

発表された当時は新聞にも大きく取りあげられ、一般市民は不安を抱きました。しかし、医療界はただ沈静化を図るだけで、いまだにどうしたらエックス線検査の回数を低減することが出来るのか、その方法を示すガイドラインの作成も厚生労働省からの指導もないままです。

厚生労働省の医療施設調査によると日本における2009年のCT検査回数は2600万件。単位人口あたりのCT検査数はほぼ米国に匹敵します。

それでも放射線研究者や医療関係者からは相変わらず“低線量は心配ない “、“線量は加算されない“などという声が出続け、患者を安心させようとする努力ばかりが目立ちます。

米国の素早い対応と比較すると肌寒さを感じませんか。

3月13日に放射線医学総合研究所が公開講座「医療における放射線 ーエビデンスに基づいて現場の質問に答えるー」が開催されました。しかし、MGHやNIHで試みられているような方法を含め“医療被ばくをどうしたら減らすことができるのか”という具体的な提案は全く出されていませんでした。

利益がリスクを上回るような放射線利用が行われるべきだという抽象的な当たり前の概念が話されましたが、これがもしそのように行われているのならば、これほどまでに医療被ばくは問題にならないでしょう。しかも、“エビデンスに基づく・・“と副題でいいながら、線量の加算、線量率の効果、“しきい値”に関してはICRPの勧告にたいしてすら忠実ではありません。

妊娠に関しては胎児の放射線感受性は子供よりも低く、100ミリシーベルト(mSv)以下はほとんどリスクを考えなくてもよいと説明しています。これは明らかに間違えています。

医師、放射線技師が受ける質問で最も多いのは「妊娠に気付かずにエックス線検査を受けてしまったがどうすればいいか」です。その答えとしてICRPは「100mSv以下の被ばくでは妊娠中絶をすべきではない」と勧告しました。これはそれが無害であるといっているわけではありません。

例えば放射線作業従事者などの職業被ばくの場合には、医療被ばくと異なり線量限度が決められています。それは「1年間で50mSv ,5年間で100mSvを超えてはならない」というものです。健康な大人の線量限度に決められている線量が、放射線感受性の高い胎児に無害であるはずはありません。

原発で働いた労働者で白血病や悪性リンパ腫などのがんになり、発がんと被ばくの因果関係が認められたケースがありますが、その被ばく線量は100mSv 以下です。100mSvというのは大人でもリスクが認められている線量なのです。

放射線被ばくに関して何故日本と米国の対応はこのように異なるのでしょうか? 私たちはよく考えて、どうしたら現状を変えられるか、模索してゆかなければならないと思います。
(崎山比早子)


べリングトンの論文(2004年1月LANCET誌に発表)
A Berrington de Gonzalez, S Darby
Risk of cancer from diagnostic X-rays :
estimates for the UK and 14 other countries
LANCET 2004 ; 363 : 345-351

論文はICRPのLNT(Linear Non-Threshold:閾値なし直線仮説)モデルに基づく放射線発がんリスクで計算。各国の医療被ばくによる発がん数を予測。日本以外の発がん増加数0.5~1.8%と比べ、日本は3.2%と飛びぬけて高い。しかもこの数字に近年のCT検査の増加を加えると4.4%にもなるというのが結論。


■X線・CTスキャンも安全ではない
日本人のがん死の4.4%は放射線検査によるもの

ウェブマガジン・のたる06.22.2011)から抜粋

 放射性物質が出す放射線には、γ線(ガンマ線)という電磁波もあります。X線やCTスキャンの放射線はこのγ線です。これは、コンクリートの壁でやっと止まるくらい、透過力があります。なので、肺がんや脳血栓の検査に使われる、X線やCTスキャンに利用されています。

 新聞やテレビに出てくる放射線の専門家はよくX線やCTスキャンと比べて、「だから、これくらいの放射線は大丈夫」と言います。本当にそうでしょうか?

 X線を年に何度も浴びたり、同じ部位のCTスキャンを数年間に渡って何度も取ったりすることは、その部位の発ガンリスクを非常に高めます。エジソンはX線画像を見ることができるX線透視装置を発明しましたが(1896年)、その実験台に助手のC.ダリーを使いました。ダリーは実験のために、両手、両足に何度もX線を浴びました。彼は、皮膚がんを発病し、結局手術で両手両足を切断後、がんが原因で死にました。エジソンは「X線が私の助手のダリー氏に有害な影響を与えた・・・」と気づいて、すべてのX線の研究をやめました。その後、学会は、X線の量を少なくし、X線技師が年間に浴びてもいい被ばく線量を決め、X線をとるときはX線技師は鉛の部屋に避難することが義務づけられるようになるのです。

 日本人はヨーロッパの多くの国の人々に比べ、X線・CTスキャンの受診率が非常に高いです。イギリスの7倍もの頻度です。「日本のすべてのがん死のうち、4.4%はこのγ線による検査(X線・CTスキャン)によるもの」 というイギリスの報告(A・べリングトン 2004年 『医療用X線による発ガンリスク』)もあります。X線検査やCTスキャンは本来、肺がんが疑われる人、脳の血栓ができている兆候がある人が受けるべきものであり、人間ドッグで健康な人が受けるべき検査ではありません。


「放射能は役に立つ」という感想が多い放射線授業始まる

横浜市で放射線授業始まる 親ら不安の声、教員にも戸惑い
(2012年2月10日14時35分 朝日新聞)

 東京電力福島第一原発の事故を受け、横浜市立の小中学校で、放射線の基礎知識についての授業が始まった。内容は放射線の性質や活用法についての説明が中心で、保護者からは「放射線は怖くないと、子どもが思い込んでしまう」との不安の声も上がっている。

 「私たちは今も昔も放射線がある中で暮らしています」。スイセンから放射線が出ていることを示す写真とともに、教材はこんな文言で放射線を説明する。X線などの活用法、放射線の単位や測定法、事故が起きた時の身の守り方などを解説している。

 この教材は、文部科学省が昨年10月に公表した「放射線等に関する副読本」を横浜市教育委員会が要約し、A3判のプリントにしたもの。市教委は昨年12月に教員向けの研修会を開き、年度内に授業をするよう求めた。小学校低学年で30分程度、中学校では100分程度の授業が始まっている。

 緑区の小学2年の児童の保護者(41)は授業後、「放射能は役に立つ」という感想が多かったと聞いて不安になった。「子どもはスイセンや、X線の例など目新しい知識に注意を引かれ、『大丈夫、安全』という印象を持ってしまう」と心配する。

 「事故前と今で身の回りの放射線量がどう変わったのかなど、今起きていることを教えて欲しい」

 手探りで教える教員側にも戸惑いが広がる。旭区の中学校教諭(51)は「原発事故で多くの人が苦しんでいるのに、『安心神話』を振りまく授業になりはしないか」。鶴見区の小学校教諭(56)は、「給食の汚染を心配して弁当を持参する子に対し、『心配しすぎ』という意見が出ないか」と懸念する。

 市教委は「内容に偏りがあるという見方もあるが、公的に作られた副読本なので引用した。ニュースでも多く取り上げられるため、まずは基礎的な知識を学んでもらうのが狙い」と説明している。(星井麻紀)

■横浜市教委が作成した教材の抜粋

・放射線は、太陽や蛍光灯から出ている光のようなものです。
・目に見えていなくても、私たちは、今も昔も放射線がある中で暮らしています。
・放射線の利用が広まる中、たくさんの放射線を受けてやけどを負うなどの事故が起きています。
自然にある放射線や病院のエックス線撮影などによって受ける放射線の量で健康的な暮らしができなくなるようなことを心配する必要はありません。
・一度に100ミリシーベルト以下の放射線を人体が受けた場合、放射線だけを原因としてがんなどの病気になったという明確な証拠はありません。
しかし、(中略)放射線を受ける量はできるだけ少なくすることが大切です。
・事故が収まってくれば、それまでの対策を取り続けなくてもよくなります。

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