福島・大波地区産米基準値超セシウム 農家に落胆と怒り

福島・大波地区産米基準値超セシウム 農家に落胆と怒り
(2011年11月18日金曜日 河北新報)

 「あり得ない」「やっぱり」「安全宣言を信じていたのに」。福島市大波地区のコメから国の暫定基準値(1キログラム当たり500ベクレル)を超す630ベクレルの放射性セシウムが検出された。「全量基準値未満」と判定した検査に基づいて福島県産米の出荷解禁を打ち出した県の安全宣言が覆り、地元農家や消費者は怒りと不安を強めている。

 「大波のコメは県の本調査で28ベクレルと33ベクレルだった。630ベクレルという数字はあり得ない」。福島市大波地区で水田32アールを耕作する市農業委員の佐藤秀雄さん(64)は、驚きと戸惑いを隠さない。

 佐藤さんの水田は問題のコメを作った農家から約2キロ南にある。今年収穫したコメは親類に配る予定だったが、国の出荷停止指示でできなくなった。「農家は県の検査を信頼していたのに。もう大波のコメは誰にも食べてもらえなくなるのではないか」とこぼす。

 新ふくしま農協(福島市)は自主検査で基準値オーバーの事実をつかみ、市場への流通を水際で食い止めた。吾妻雄二組合長は「消費者に迷惑を掛けずに済んだのは良かった。国が作っていいという所で作り、県の安全宣言を信頼して売った。まさかこうなるとは」と複雑な表情だ。

 農協はコメ農家の全戸検査を実施し、基準値未満のコメから出荷することを決めた。「検査を強化し、その結果、売れないコメが出たら東京電力に賠償請求する」と語気を強める。

 流通業界は冷静な対応が目立つ。福島米の応援セールをしているヨークベニマル(郡山市)は「今後もPRする姿勢に変わりはない」(広報担当)と語る。全国大手のイオン(千葉市)は「福島米の取り扱いを直ちにやめることはない」(コーポレートコミュニケーション部)と言う。

 スーパーのいちい(福島市)は自前の放射線測定器で独自検査を進めている。「県の検査はサンプル調査で、漏れが生じるのは予想できた。今回の問題で福島米全体に対する風評被害は強まるのではないか」と心配する。

 全国消費者団体連絡会(東京)の阿南久事務局長は「いつかは出ると思っていた。十分な検査の裏打ちがないのに、安全宣言して大丈夫なのかという印象があった」と指摘。一方で問題のコメの流出を防いだ新ふくしま農協の対応について「福島の生産者や流通業者がきちんと自主検査をしていることを全国に示した」と評価する。

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