マイ・スローライフ

「Macrobiotic Magazine むすび」に掲載された記事を紹介します。

正食協会インタビュー
なかむら・りゅういち
1955年福岡生まれ。株式会社ウインドファーム代表取締役。70年代後半から環境運動と有機農業運動に
取り組む。国内外で「生産者」と「消費者」との連携やフェアトレード事業を展開。ナマケモノ倶楽部を
はじめさまざまな市民団体にかかわり、代表や世話人を務める。この十年余りは「いのちを大切にする
仕事」を広めるために、南米を含め十数社の会社設立にかかわり、若い経営者たちとの協働を楽しんでいる。
2004年、スロービジネススクールを設立し、校長となる。昨年「豪快な号外 笑い楽しみながら30秒で世界を
変えちゃう新聞」を3000万部発行、大きな話題となった。著書に「スロービジネス」(辻信一氏との共著、ゆっくり堂)。


スロービジネスは「命を大切にする仕事」

有機農家から生協へ 生産者と消費者結ぶ
─中村さんはさまざまな市民団体の活動にかかわっていますが、その原点から教えて下さい。
 私がエコロジーや食に関心をもちだしたきっかけは、水俣病です。
 19歳の頃、水俣病の記録映画を見てとても驚きました。いちばん驚いたのは、胎児性水俣病の患者さんのことです。工場廃水に含まれていた有機水銀が魚介類を汚染し、それを食べた妊娠中のお母さんから有機水銀が胎児に移行し、胎児は病気になって生まれてくる。お母さんはそのおかげで、いのちを救われる。市民の健康よりもお金を優先してきた企業の行いが子どもたちにしわ寄せとして出てくるということが、すごく象徴的に思えました。
 それまで環境問題など考えもしなかったのですが、それがきっかけで関心を持ち始めた頃、有吉佐和子が朝日新聞に連載していた「複合汚染」を読んで、農薬や食品添加物の問題を知るわけです(「複合汚染」の新聞連載は1974年10月?翌75年6月)。
 そして、山村に住んで有機農業を始めたのですが、自分でつくった野菜が消費者に酷評されました。少しの虫食いも許されず、形が曲がってるとか、大きいとか、小さいとか、いろいろ言われて。
 その経験から、消費者の意識を変えないと有機農業は広まらないと思い、生協に就職しました。それが23歳の時で、それまで分断されていた生産者と消費者をつなげていく仕事を7年間しました。
 農薬の勉強会から始めて、田んぼや畑で農家と一緒に農作業を体験することを重視しました。すると「農薬を使うのをやめてくれ」と簡単に言っていた消費者が、農薬を使わない農作業の大変さを知り、有機野菜や米の有難さを実感していきました。一粒の米が2千倍に増え、稲穂が実ることにも感動していました。
チェルノブイリ惨事 汚染食品が途上国に
 今までは消費者として、安いほどいいとか、見栄えがどうとか言っていたのが、つくる側の人たちの代弁者みたいになっていったんですね。生協の中でそういう人たちがどんどん広がって、それに合わせて生産者も増えていった頃、1986年にチェルノブイリ原発事故が起きました。
 4月26日に事故が起こって、日本まで8千キロありますけど、放射能が風に乗って、5月には日本に来たわけです。そして、私たちが提携している生産者の田んぼや畑が放射能に汚染されてしまいました。いくら有機農業をやっても放射能は容赦なく作物を汚染していきました。汚染がひどいということで出荷を停止したお茶農家もあります。
 当時、日本の食料自給率は約50%で、大量の食品を輸入していました。(今は更に輸入が増えて自給率39%)その中に放射能汚染食品がどんどん入ってきました。それで、生協の組合員から、放射能に汚染されたものを子どもたちに食べさせるわけにいかないという声が出て、基準をつくりました。当時、日本政府は、セシウムという放射能で370ベクレル以上の食品は輸入しないと決めましたが、生協ではその37分の1の10ベクレルを基準にしました。
 私は、子どもたちに放射能汚染食品を食べさせないのは当然だと思ったのですが、これだけ大量の食料を輸入している日本が汚染食品を拒絶したら、それらはどうなるのだろうと気になりました。
 調べていったら、途上国と呼ばれる国に援助物資などとして回っていることがわかりました。それを知って、今まで身土不二だとか一物全体だとか言ってきて、確かにそうすることで自分たちの健康が守られたりするわけですが、私たちが拒絶した放射能汚染食品の多くが、途上国の子どもたちにいってしまうということが、もう、頭から離れなくなったんですね。
 それで、翌年、生協を退職をし、途上国の子どもたちのために自分が役に立つことができないかと考えて、やり出したことがフェアトレードなんです。
ブラジルで出会った 無農薬コーヒー農家
 まず、途上国とつながることを考えました。今まで有機農業を広める仕事をしてきたので、同じ仕事を途上国でやれないかと考え、無農薬でコーヒーをつくっている人を探し出そうとブラジルに出かけて行きましたが、なかなか見つかりませんでした。どこに行っても、「農薬なしにコーヒーできるはずがない」と言われて。
 半分あきらめそうになりましたが、よくよく考えれば、農薬なんてたかだか5、60年の歴史しかなくて、その前はみんな農薬なしでつくってたんだから、どこかにいるはずだと探し続けて、ようやく無農薬コーヒーの生産者と出会えました。
 また、エクアドルやメキシコで「森林農法」に出会いました。ふつうは森を伐採して、コーヒーの木だけを大量に植えてつくるんですが、森林農法では、森を伐らずに森の中にコーヒーや果物や自分たちが食べる作物をつくる農法なんです。こうした農法は農薬や化学肥料を必要としません。
 先住民がデザインしたと言われていますが、自然と共に生きている素晴らしい人たちとの出会いがあって、20年間フェアトレードを続けることができました。
 彼らに共通しているのは、子どもたちや未来世代のことを大事に考えているということです。幸いなことに、今、有機農業や森林農法が広まっています。
「子どもを助けて!」 ベラルーシの母親ら
─チェルノブイリ原発事故が、中村さんの中でとても大きな出来事だったのですね。
 チェルノブイリ原発があったウクライナと隣のベラルーシとロシアの3国が特に放射能汚染がひどかったのですが、最も汚染されたのがベラルーシです。風向きの関係で、ベラルーシに放射能の70%が降り積もりました。
 そのベラルーシのお母さんたちから「子どもを助けて下さい!」という悲鳴のようなメッセージが連日届くようになり、それを聞いて医療支援を始めました。今はもう私は代表ではありませんが、うちのスタッフが代表になって、今も支援を続けています。
 原発に関連して、日本では今、青森県六ケ所村で試運転している再処理工場の放射能の問題が大きいのですが、その前に「スロービジネススクール」について少しお話をさせて下さい。
 スロービジネススクールをつくって4年ほどになりますが、これは辻信一さん(文化人類学者)と「スロー」について一緒に考える中で、ファーストフードに対するスローフードのように「おかしな状態のものにスローとつけてみよう」という話になったんです。患者の顔さえ見ない医者や薬漬けの医療もおかしいし、受験のための教育もおかしい。そして、おかしいものの中心にあるのが、金儲けを最優先するビジネスではないかと考えたわけです。利益優先のファーストビジネスに対して、スロービジネス。
 スロービジネスとは「命を大切にする仕事」と、私は言っています。
未来世代を考えない 乾没の経済が広まる
 江戸時代に三浦梅園という、哲学者であり医者でもあった人が大分県の国東半島にいました。彼は、経済には二通りの経済があると言っています。一つは経済の語源となった「経世済民」。経世は世の中を治める、済民は民を救うという意味。つまり、世の中を平和にして人々を幸せにするのが、本来の経済の役割だと、梅園は言っています。
 もう一つの経済が、「乾没(かんぼつ)」の経済。「乾没」の経済は「独り占め」の経済だと梅園は言います。昔でいえば、殿さまだけが贅沢をして、民百姓が苦しむ。今の時代で言うと、自分の会社だけが儲かればいい、自分の国さえよければいい、あるいは、自分たちの時代さえよかったらいいと。
 今の社会は「乾没」の経済が広まっています。世界の富の半分をわずか350人が所有している一方で、30億人が貧困で苦しみ、途上国の子どもたちにそのしわ寄せが及んでいる。そういうアンバランスでグロテスクな社会です。
 今の環境の危機、温暖化の問題や放射能の問題もそうですが、その根本にあるのは、これから生まれてくる世代のことを考えない「乾没」の経済が、あらゆるものを持続できないようにしていると思います。
 青森県六ヶ所村で、現在、試運転中の「核燃料再処理工場」が放射能を空と海に放出している問題も「乾没」の経済が根っこにあると思います。子どもたちや未来世代のことを考えず、自分たちさえよければいい、という考え方が取り返しのつかない大問題を引き起こしています。
使用済み核燃料を 六ヶ所村で再処理
 再処理工場というのは、原発で使われた使用済み核燃料からプルトニウムという猛毒物質を取り出し、高速増殖炉(もんじゅ)で燃料として使う予定でした。しかし、もんじゅが事故を起したためにプルトニウムを使うことができなくなっています。高速増殖炉はあまりにも危険なため、世界が開発を断念しています。
 再処理工場を動かしてプルトニウムを取り出す理由を説明できる人がいません。
推進している人たちも誰も説明できないのです。
 全国に55機ある原発で使用済み核燃料が増え続けています。この使用済み燃料は発熱するため、水の入ったプールで冷やして保管しなければならないのですが、その保管プールが使用済み燃料で糞づまり状態になっています。でも、高レベルの放射能をもつ使用済み核燃料は、あまりにも危険であるため、全国で受け入れ先がありません。
 これを受け入れるところがどこにもないから、どこかに持っていかないと原発を運転できなくなる。そこで、最終処分地ではなく、再処理をするためにということを条件に使用済み核燃料を全国の原発から六ヶ所村に運び出しているというのが実態です。そして、今、再処理工場の試運転が始まっているのです。
心配な放射能汚染 知らされない実態
 ところが、再処理工場というのはとんでもない量の放射能を放出します。
 本格稼動を始めたらどんなことが起きるのか、青森県が予測しています。今の試運転の段階でも放射能を放出していますが、本格運転が始まると、2日に1回、放射能を含んだ廃液が600トン海に放出されます。200kgのドラム缶に換算すると3000本です。年間54万本にもなります。
 放出される放射能には猛毒のプルトニウムも含めて多種類の放射能が放出されますが、青森県は、トリチウムという放射能によって、魚が1年間で300ベクレル汚染されると予想しています。チェルノブイリ原発事故の時、日本政府が輸入を禁止数字が370ベクレル。私が働いていた生協は10ベクレルでしたから、その30倍です。
 空に放出した放射能は、落ちてくると農産物を汚染します。例えば、米は今以上にプラス90ベクレル汚染されると予測されています。風が岩手側に向かって吹くので、青森だけでなく、岩手も大きく汚染されるでしょう。
 海に流したものは、海流の関係で、太平洋側に広がっていかずに、三陸沿岸をずーっと汚染していく。
 そういう予測があるにもかかわらず、再処理工場が間もなく本格稼働しようとしています。一番大きな問題は、こうしたことを多くの国民が知らないことです。そこで、日本全国に3千万部の「豪快な号外」を配ったり、SUGIZOさんや坂本龍一さんをはじめたくさんのミュージシャンが協力して「ロッカショ 2万4000年後の地球へのメッセージ」(講談社)という本を出版して、稼働をなんとか止めてほしいと訴えていますが、マスメディアの取り上げ方が極端に少ないのです。
 なぜかというと、原発をつくってる会社は、三菱、東芝、日立なんですね。それに関連会社や電力会社を加えると膨大な数のスポンサーになり、マスメディアが扱うとプレッシャー(圧力)がかかるんです。特にテレビではほとんど報道されません。
24万年先の未来に 責任がもてるのか
 イギリスとフランスに、六か所と同じ規模の再処理工場があります。イギリスの工場は大事故を起こして今は止まっていますが、再処理工場の周辺では、いずれも白血病が多発していることが報告されています。しかし、再処理工場が原因だとは、政府は認めていません。日本でも、再処理を進めていくと、そういうことが起こってくるでしょう。
 放射能が怖いのは寿命が長いことです。プルトニウムの半減期は2万4千年です。そうすると、放射能の影響がほぼなくなるには、その10倍の24万年もかかるということなんです。
 数万年先を考える能力は人間にはないと思います。2万4千年前がどういう時代かといっても、わからないですよね。逆に言うと、私たちが2万4千年前の人間がやったことの被害をいま受けなくちゃいけないという立場になったら、何てことをしてくれたんだって思うでしょう。そういうことを今の時代の人間がやろうとしているのは、本当に大問題だと思います。
 青森県の予想通り300ベクレル汚染されたら、その魚を子どもには食べさせたくないですよね。放射能は、細胞分裂の活発な子どもほど影響を受けますから。でも、私自身は食べるべきだと思っています。原発を許してきたし、電気を浪費してきた世代だから、われわれの世代は食べるべきだと。
漁協やサーファーが 反対の署名運動展開
 肉や砂糖をやめて、旬のものにしてと、いくら食をよくしても、放射能に汚染されたらどうにもならない。本格稼働が始まって1年もしたら、その問題が出てくると思います。私がこういう話をすると、風評被害を引き起こすから話すべきではないと言われるのですが、最近うれしかったのは、岩手の重茂漁協が再処理工場反対の決議をして、生協や消費者団体などと連携して署名運動を展開し80万人の署名を集めていることです。
 それから、サーファーですね。彼らや彼らの子どもが一番、放射能の被害を受けるかもしれません。実際、六か所で見たことですが、沖合3キロ、深さ44メートルの所から放射能を海に放出しているんですが、その近くでサーフィンしてるんです。でも、最近、サーファーが問題を知って、熱心に署名を集めています。
 マスメディアがあまり報道しないにもかかわらず、草の根の活動が広がっています。全国の署名を集めると、もうじき100万人を超えるでしょう。子どもたちやこれから生まれてくる世代のためにも何とかして、再処理工場の本格稼動を止めたいですね。

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