【原発再稼働は、民主主義の軽視】 中日新聞・東京新聞

こういう論説主幹がいてくれて、よかった。

「それでも原発に頼らず」「原発に頼らない国へ」
東京新聞 名古屋本社 論説主幹・深田実
(2012年6月17日 中日新聞・東京新聞)

 大飯原発再稼働の決定を聞いて福島の人たちはどう思ったでしょう。想像してみてください。突然故郷を喪失させられた人々の政府への不信と怒りの深さを。

 私たちも同じように思います。福島の事故で私たちの学んだ多くのことが、一握りの政治家らによってこれほどやすやすと忘れ去られてしまうのかと。

 地元福井は国にさまざまな要求をしました。頼りない政府に向かっては当然のことです。一方、国民の多くには、国の性急さばかりが印象づけられました。これほどの重大事なのに手続きは粗略、ろくな説明も情報開示もない。

 これはデモクラシー、民主主義の軽視にほかなりません。

 政府はこの夏に、日本の未来のエネルギー計画について大綱を出し、それをもとに国民的議論を行うと言ってきました。しかし、それは本来、再稼働を決める前に行うべきことです。順番が間違っているのです。民主的ではないのです。ここに日本の原子力政策の致命的欠陥があります。

 これはとてもおそろしいことです。国民の健康と安全、日本への信頼、世界の環境、また日本の未来にもかかわる重大事が、この程度の手続きで決まってしまうのですから。

 今、世論の多くは脱原発依存を支持しています。世界を見渡せばドイツは昨年、早々と脱原発を決めました。環境汚染に厳しい国柄ですが、人も技術も優れた日本で重大事故が起きたことに驚いたのです。

 日本は日本のやり方で決めればいいと思います。技術論だけでなく、日本人のもつ自然観、倫理観また歴史があります。

 私たちは、原発に頼らない第一の理由として、人の命と健康は経済性に優先する、と訴えてきました。ドイツには人間の尊厳を重んじる人間中心主義というカント以来の思想がありますが、日本にも人や自然を大切にする伝統的精神があります。

 未来は長い目で考えたい。自然エネルギーの活用は持続可能性を実現するかぎです。大量消費文化は見直すべき時です。被爆国としては、核不拡散を進める人類的責務もあります。

 国は再稼働を決めました。しかしそれでも、私たちは、原子力に頼らない、持続可能という新たな豊かさを築くべきだと考えます。次世代のためにも、今よりも未来を考えようではありませんか。そのためには、民主的手続きと国民的議論が欠かせないのです。  

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