『放射線被ばく CT検査でがんになる』 近藤誠著

今、多くの人に読んでほしい本です。
以下の共同通信の記事は「軽く」書いてありますが、本の内容は非常に重要なことが書かれているので、一部抜粋して紹介します。

『放射線被ばく CT検査でがんになる』近藤誠著
これって原発事故くらい怖いかも
(2011/08/15 11:18 共同通信) 

 CT検査の放射線被ばくの量がこんなにすごかったとは! 原発事故で国が避難の目安にした年間被ばく線量20ミリシーベルトに対し、胸部CT検査1回の線量は10ミリシーベルト。エックス線撮影の200~300倍。これってヤバくないですか?

 著者は「抗がん剤は効かない」「がん検診は百害あって一利なし」と常識を覆す言説で物議を醸してきた放射線科の医師だ。昨秋、雑誌でCT検査の危険性を告発して大きな反響を呼んだ。本書でも医療現場の大量被ばくに警鐘を鳴らし、原発事故による被ばくと発がんとの関連について解説した。

 日本のCT装置の台数は断然世界トップで、そのぶん検査による被ばく線量も、検査が原因の発がん死亡率も世界第1位という。これほど日本が医療被ばくに無警戒なのはなぜ? 著者によれば、国も医療機関も患者・家族に正確な情報を伝えず、健康被害を最小に見せかけるように画策してきた。ん? この構図、最近見かけたような…。

 さらに放射線被ばくに関する医師の意識は低く、「とりあえず」「念のために」と安易にCTをオーダーする。問診や聴診より手っ取り早く、しかも使うほど儲かる仕組みになっている。いや、患者にしたって「最新機器」による検査をありがたがる傾向がある。

 放射線検査は「健康」を理由に生涯にわたって付き合いを迫られる。自己防衛のためには基本的な知識が必須だ。がん検診が原因でがんになったらブラックに過ぎる。

 (亜紀書房 1300円+税)=片岡義博

放射線被ばく CT検査でがんになる 近藤誠


『放射線被ばく CT検査でがんになる』
慶応大学医学部放射線科講師 近藤誠著

(2011年7月7日 第一刷発行 亜紀書房)

「はじめに」から抜粋

日本は、放射線検査による国民被ばく線量が世界一。検査被ばくによる発がん死亡リスクも世界一と(先進国の調査によって)推定されているのです。とりわけ、将来ある子どもたちや若者の発がん死亡が懸念されます。

医者たちは、患者・家族が放射線被ばくについて正しい知識を持つことを嫌い、なるべく情報を伝えないか、伝える場合には健康影響を最小に見せかけようとしてきた。

医者たちは、検査被ばくの危険がないかのように偽るため、虚偽の事実をも公言してきた。放射線科医の総本山である「日本医学放射線学会」その他の学会が率先して(患者・家族へ)ウソをつくことを奨励してきた事実を示します(92貢以下参照)。

これは、原子力発電事業を推進するために、東京電力その他電力会社が取ってきた、原発は安全だ、放射線に危険はないとする洗脳政策とそっくりです(東電のウェブサイトには、「200ミリシーベルト以下は安全」という記述があります<5月30日現在>)。

「第1章 原発事故による被ばくをどう考えるか」から抜粋

役割を果たさない政府発表

福島第一原子力発電所で生じた事故の後、枝野幸男官房長官は記者会見で、「人体に影響が出る可能性の生ずる」のは「100ミリシーベルト」と発言していました。その線量以下なら安全だから、国民の皆さん安心してください、という趣旨らしい。

しかし会見では、健康に影響を及ぼさないとする根拠やデータを示さず、「直ちに影響は出ない」と繰り返した。それでは「ウソを言っているのではないか」と疑心暗鬼がつのります。

その後政府は、年間20ミリシーベルト以上被ばくする恐れがある地域を計画的避難の対象にしました。
そうすると、100ミリシーベルト以下なら安全で、20ミリシーベルト以上なら危険ということなのか。国民はさぞ混乱したことでしょう。

原発事故で問題となるのは、100ミリシーベルト以下の(全身)被ばくで、発がん死亡が増えるかどうかです。これに関し専門家はどう考えているのか。事故後、テレビ番組で(頻出して)解説していたのが、中川恵一・東京大学医学部付属病院放射線科准教授なので、その発言を参照してみましょう。

「原爆の被害を受けた広島、長崎のデータなどから、100ミリシーベルト以下では、人体への悪影響がないことは分かっています」
「100ミリシーベルト以上の被ばく量になると、発がんのリスクが上がり始めます。といっても、100ミリシーベルトを被ばくしても、がんの危険性は0.5%高くなるだけです。そもそも、日本は世界一のがん大国です。2人に1人が、がんになります。つまり、もともとある50%の危険性が、100ミリシーベルトの被ばくによって、50.5%になるということです」(「毎日新聞」2011年3月20日付)と。

氏が語るのは「しきい値」です。100ミリシーベルト以下では何も起こらず、それを超えると初めて悪影響が出る。そういう線量を「しきい値」というのです。健康影響に本当にしきい値があるのでしょうか。

証明された「しきい値なし仮説」

発がん死亡にしきい値があるのか。
これについては、2つの見解がありました。前提として、100ミリシーベルト以上の線量では、被ばくによって発がん死亡が生じることに異論はない。意見が分かれるのは、それより少ない線量域の被ばくです(以下、低線量被ばく」)。

意見が分かれた原因は、低線量域では、直線関係があると断定するに足るデータがなかったからです。しかし、「データが足りないから安全だ」とはいえない道理です。また被ばく者防護のためには、なるべく安全を図れるようなデータ解釈が望ましい。

それで国際放射線防護委員会(ICRP。放射線防護に関する勧告を多々だしている。公衆の被ばく線量は年間1ミリシーベルト以下にすべしという勧告もその一つ)は、直線・しきい値なし仮説を採用すると、20年以上も前に宣言しています。

そして近年、低線量被ばくのデータが充実してきた。原爆被ばく者調査を継続したところ、10~50ミリシーベルト領域でも直線比例関係があることが示唆されたのです(ProcNatlAcadSci2003;100:13761)。

また、15カ国の原発作業従事者40万人の調査で、平均被ばく線量が20ミリシーベルトでしかないのに、発がん死亡の増加が認められました(BMJ2005;331:77)。これも直線比例関係の存在を支持します。

結局現在では、直線・しきい値なし仮説は、もはや仮説ではなく、事実ないし真実と考えられます。それなのに政府は、「100ミリシーベルト以下は直ちに健康に影響を及ぼす線量ではない」と強弁する。読み方によっては、直ちにではないけれども、将来発がん死亡がありますよ、との言明であるわけです。

・・・こうして見ると、中川氏が言っていた「0.5%」の死亡率の増加は、100ミリシーベルトに対応するのではなく、20ミリシーベルト未満の発がん死亡率に相当します。

危険か安全かは自分で決める

じつは放射線を用いる医学検査によって、数十ミリシーベルトを被ばくすることは日常茶飯事なのです。特に問題なのはCT(コンピュータ断層撮影)です。原発事故後、胸部CTの被ばく線量(6.9ミリシーベルト)がよく引き合いに出されていましたが、それは理想的な場合で、日常診療では最低10ミリシーベルトと考えた方がよい。しかも「造影CT」といって、1回撮影した後に、造影剤を静脈に注射しながら再撮影することが常態化しています。その場合、2回撮るので、最低20ミリシーベルト。

腹部・骨盤CTはもっと被ばく量が多く、最低で20ミリシーベルト。造影CTまでやれば(2倍で)40ミリシーベルト。頚部から骨盤までの「全身CT」で造影CTまで行えば、60ミリシーベルトを超えかねない。機会を異にして何度もCTを受けていけば、100ミリシーベルトなど簡単に超えてしまいます。

その上、日本で行われているCT検査は、その8~9割が不要なものです


「第二章 CT被ばくと発がん大国日本」から抜粋

明らかになったCTのリスク
日本は、唯一の被ばく大国なのに、診断用放射線による被ばく大国です。これに関しては、2004年2月に読売新聞が「がん3.2%は診断被ばくが原因」「15カ国で、日本がもっとも検査回数が多い」「発がん寄与度は、英国の5倍」という英国発の研究結果を、一面トップで報じたことが屈折点となりました。

この記事が出て、放射線関係者はあわてました。彼ら/彼女らの反応を言い表せば、「ああ、バレちゃった」でしょう。指導的立場にある者たちは、国民被ばく線量が多いことや発がんリスクについて、十分認識していたからです

人体に照射されたX線のうち、臓器や組織で吸収される分を「(臓器)吸収線量」といい、その多寡が、発がんリスクを左右します。X線撮影の吸収線量は、体の厚みに応じて変わり、たとえば人体の左右の幅は、前後の幅より厚いので、胸部X線撮影だと、左右方向撮影(側面像)の吸収線量は、前後方向撮影(正面像)の2~3倍になります。

CTについて見ると、X線を通しにくい頭蓋骨が存在する頭部は、胸部・腹部に比べ、吸収線量が数倍になります。では、頭部に被ばくした場合の発がんリスクが高いかというと、そうではない。頭部には(原爆調査で判明した)発がんリスクが高い臓器が存在しないからです(小児のリスクは後述)。頭部CTは、臓器吸収線量は多いけれども、発がんリスクは低いのです。逆に、肺、乳房(女性)、胃、結腸など、発がんリスクが高い臓器が存在する胸部や腹部のCTは、吸収線量は頭部CTより少ないけれども、発がんリスクは高くなります。

そうすると、吸収線量を比べるのでは、検査部位の違いによるリスクを把握できない。それで、「実効線量」が考案されました。実効線量が多いと、発がんリスクも高くなります。

1回のCT撮影での実効線量はどうか。日本の実測データを見ると、胸部CTが18ミリシーベルト、腹部・骨盤CTは男性が23ミリシーベルト、女性が29ミリシーベルトです。

放射線防護専門家の無責任

一部の専門家は、「100ミリシーベルト以下の被ばくで発がんリスクが増加する証明がない」と公言していました。
しかしこの発言には問題がある。従来、低線量域での発がんリスクは、100%の証明とはいかないけれども、十中八九程度には証明されていたからです。それで、原子力発電所作業従事者が低線量被ばくの後に発がんした場合、役所が労災認定しているのです。白血病を発症して1991年に労災認定された方の被ばく線量は、11ヶ月で40ミリシーベルトでした。

このような証明状況であるにもかかわらず、放射線(被ばく)防護の専門家が、先述のような発言をすると、それを聞いた医者たちは、証明がないならCTは無条件で許される、と思ってしまう。前掲新聞記事が出た直後、ある放射線専門医は「医療被ばくは、がんになると思い悩む線量ではない」と断言していたといいます。これは防護専門家の甘い言葉を受けてのものでしょう。私見では、彼女ら/彼らの発言が、日本でCT検査の濫用を野放しにさせた最大原因です。(一部の)放射線防護専門家は、患者ではなく、医者たちを擁護する専門家に堕落しているのです。

最近、発がんリスクの証明度は、格段に上がってきました。原爆被ばく者の経過観察期間が延びるにつれて、発がん死亡数が増加したからです。現在は、10~50ミリシーベルトという低線量被ばくで発がん死亡が増加するとされています(Proc Natl Acad Sci 2003;100:13761)。他方、15カ国の40万人におよぶ原発作業従事者の調査結果も報告されました。生涯の累積被ばく線量が、平均20ミリシーベルトでしかないのに、発がん死亡が増加しています。

発がん死亡のリスクは、具体的にはどの程度か。被ばくしたときの年齢によって変わります。被ばく時年齢が低いほど、リスクは高くなり、高齢になるほど、低くなります。推定では、45歳の1万人が全身のCTを一度受けると、8人が発がん死亡し、同じ人たちが75歳まで毎年CT検査を受けると(合計30回)、190人が被ばくにより発がん死亡するとされます(Radiology 2004;232:735)。

要するに現在は、1回のCT撮影で被ばくする線量でも、発がん死亡の危険性が生じると考えられている。10ミリシーベルト程度の被ばくに関し、100%の証明があったとはいえないのですが、99%程度の証明度があります。欧米の専門家は、低線量被ばくに発がん性があることを前提に、患者保護のために活発に動いている。ところが日本では、今日に至るまで、患者保護の動きは緩慢です。

CT装置は10年で倍近くに

15カ国調査の実施期間(1991~96年)の中間年である1993年に、日本のCT装置の設置台数は8000台でした。これは、全世界の設置台数の3分の1以上に当たり、この一事だけからも、日本の被ばく大国ぶりが推認されます。

設置台数はその後、大幅に増えており、2003年には1万4000台と、10年で倍近くに
なりました。その後も増え続けていますが、特筆すべきは、最新鋭のCT装置(多列検出器CT。以下、MDCT)が急増していることです。2007年が4700台で、2009年が6900台と、年1000台以上のペースで増加している。このMDTCの増加が、国民総被ばく線量の増加原因になっています。

装置が新鋭化すると、なぜ線量が増えるのか。一つには、撮影時間が短くなって、その分、検査件数が増えるからです。

そうすると、(1)CT装置の増加、(2)そのうちに占めるMDCTの増加、(3)MDCTによる1日当たり検査件数の増加、(4)1回の検査当たりの実効線量の増加があいまって、国民全体の実効被ばく線量は、1990年代に比べ、飛躍的に増加していると思われます。

したがって、前掲新聞記事中の「(日本の)がん3.2%は診断被ばくが原因」という推計は、今となっては時代遅れで、少なくとも2~3倍と考えておくのが安全です。

現在、タバコを除けば、放射線診断による医療被ばくが単一かつ最大の発がん因子になっていると考えられます。

このようにCTには危険がありますが、なかでも、子どものCTは危険です。子どもは臓器・組織が成長段階にあり、放射線の影響を受けやすいのです。発がんリスクのグラフ(※)からわかるように、年齢が低いほど、発がんリスクが高くなっている。(※1回のCTによる1万人あたり発がん死亡数(推定)のグラフ【中村注】腹部CTでは、30代~60代くらいまでは、1万人あたり2~3人死亡。それが20代になると10人ほど死亡。5歳だと約15人、0歳児は23人も発がん死亡すると推定されている(AJR2001;176:289)

「とりあえずCT」の危険性

このように危険をはらむCT検査ですが、被ばく線量を制限する法規やガイドラインは不存在です。医者は、いくらでも放射線検査をオーダーできるのです。放射線作業従事者については、被ばく線量が平均して年間20ミリシーベルトを超えないようにと法規で定められているのと対照的です。

なぜ被ばく線量に上限がないのか。放射線診断は患者にとって利益になる、というのが理由です。

しかし実際には、CTが必要といえない多くの場面で、安易にオーダーされています。(フィンランドの調査で)35歳未満の若者に実施されたCTを、あとで調査した研究によると、腰椎のCTは70%が、頭部CTと腹部CTは、それぞれ36%と37%が正当化できないとされました。それらCT検査の大部分は、放射線被ばくの心配がないMRI(磁気共鳴撮影)で代替できるというのです。臨床医学水準が日本よりはるかに高く、単位人口あたりの放射線検査数が日本の半分しかないフィンランドの話ですから、日本で調査すれば、これらの率はもっと高くなるはずで、私は現在日本で行われているCT検査の8~9割が正当化できないだろうと見ています。

なぜ不必要・不適切なCT検査が行われるのか。
医者のほとんどは、1回のCT撮影に発がん性がないと思い込んでいる
からです。そのうえ日本では、臨床医に対する放射線防護教育がほぼ不存在です(本稿を読まれた読者は、担当医を凌駕する知識を身に付けたはず)。

されに日本では、診察方式が変わってしまった。患者を診る医者は、話をよく聞き、触診や聴診をして診断をつけ、不明な場合にCTなどの検査をする、というのが従来の方式でした。ところが最新鋭のMDCTは、検査余力が大きいので、多くの病医院では、オーダーした当日にCTを実施できます。その結果、診断もそこそこに、「とりあえずCTをやりましょう」「念のためにCTを」ということになる。

受診なければ被ばくなし

「まずCT」「何でもCT」が蔓延するのは、一つには、日本の医学教育レベルは先進諸国のうちで最も劣り、臨床能力が育たないような仕組みになっているからです。また、あまりに外来が混んでいて、能力を備えた医者でも、患者の話を聞く時間的余裕がなく、先に検査を受けさせてデータ一式をそろえたい気持ちになってしまう。CT検査をすればするほど、病医院が経済的に潤う医療構造もあります。


「第4章 専門家たちの虚言」から抜粋

「リスクはきわめて小さい」

2004年の読売新聞スクープ記事後の専門家たちの反応
記事直後、日本医学放射線学会が、上記論文に対するコメントを発表し、医者たちに適切な診断を行うよう要請しました。一歩前進ですが、次のような記述がある。曰く、「診断による被ばく量は通常は少なく、個別の発がんのリスクはきわめて小さいことが最初に記されているが」
「個々のX線検査のリスクはきわめて小さいが」と。1000文字に満たないコメント中に、二度も「リスクがきわめて小さい」と述べていることから、被ばく問題を矮小化しようとする意図が感じられますさらに問題なのは、「X線診断のように、10~50mSv以下の低線量被ばくによる発がんの可能性、および発がん率の推定法には、いまだ定説がないことも事実である」という部分です。

この言明は、少なくとも二点において間違っている。
第一は、例えばCTを見ると、10~50ミリシーベルトの被ばく線量であることが多いのですが、それを超えることも少なくない。またほかの種類の放射線検査でも、50ミリシーベルトを超える場合がしばしばあります。それなのに、こう言明してしまうと、一般人はもちろん、現場の医者たちも勘違いしてしまう。

第二点は、低線量被ばくによる発がんの可能性についていまだ定説がない、という部分です。なぜならば、原爆被ばく者調査により、0~100ミリシーベルトの範囲でがん発症率が上昇することが示されているからです(Radiat Res 2000;154:178).
この論文は、放射線の基礎研究に関し最も権威ある医学雑誌に、読売記事の4年前に発売されており、放射線学会関係者がだれも知らなかったとは思われない。

要するに学会コメントは、事態を矮小化しつつ虚言を交え、放射線被ばくに関する世論を沈静化させようとしたものと評価できます。

「お子様に当たる放射線量は非常にわずかです」

しかし、これで終わらない。2005年2月に「日本医学放射線学会」「日本放射線技術学会」「日本小児放射線学会」は連名で、「小児CTガイドライン―被ばく低減のために―」を発表しました(日本医学放射線学会雑誌2005;65:291)。

内容は、小児の放射線感受性が成人の数倍高いことを指摘し、被ばく線量低減に努めるよう医者や技師に注意を促したものです。その点は評価できる、と思いながら読み進めると、最後の「付記:患者さんからの質問と回答例」で目を疑いました。

付記では、転倒して頭を打った5歳の女子がCTを受け、母親が将来がんになるなどの影響がないか質問してきたという、よくあるケースの回答例を挙げています。中にこういう部分がありました。曰く、

(1)「頭部CTでお子様に当たる放射線量は非常にわずかです。CTの被ばくが原因でがんになったと言う報告はありません」
(2)「放射線検査を受けた影響があとあとまで蓄積されることもありません」と。

どちらも間違いを含んでいる。(1)に関しては、5歳の子どもが頭部CTを受けると、がんになる可能性が0.05%上がると推定されている(AJR2001;176:289)。つまり、1万人につき5人が余計に発がん死亡するというのです。そういう線量を「非常にわずか」とはいわない。

また「CTの被ばくが原因でがんになったと言う報告はありません」は間違いではないが、正直でもない。なぜならば、仮に放射線が原因で発がんしても、がん細胞にその目印はなく、放射線が原因だということは不明に終わるからです。つまり、報告がないことは当然で、放射線が安全だとする理由にはならないのです。

(2)に関しては、放射線被ばくによって(細胞内に)変異した遺伝子が蓄積していくことが、放射線影響の主原因ですから、何をかいわんや。

こういうウソで塗り固めた回答を奨励するとは、不謹慎極まりないし、うわべを取り繕う方法を教え込まれた医者や技師は、被ばく低減努力の手を抜くでしょう。そもそも将来に備えて偽りの回答例を提示することは、患者を騙しながら不必要な検査を続けるためのガイドラインになっているとしかいいようがない。

「読者に重大な誤解を与える」

次に、私が月刊「文藝春秋」に「CT検査でがんになる」という論文を発表した後のリアクションにふれておきましょう。論文は大反響を呼び、医療現場ではCTを取りやめる患者が続出したと仄聞したのですが、医者や学会からの反論・批判は何もありませんでした。

ただ、「文藝春秋」編集部には、思いがけないところから抗議があった。「日本原子力学会シニアネットワーク」「エネルギー問題に発言する会」「エネルギー戦略研究会」という3団体の有志会員が抗議文を届けてきたのです。70余人にもおよぶ有志会員の肩書きをみると、医者は一人もおらず、かつて原子力関連企業に籍を置いた方々が大部分を占めておられた。

内容はというと、揚げ足取りに近かった。一例を挙げれば、論文タイトルの「CT検査でがんになる」は、「CT検査が直ちにがん発生に結び付くような表現で」「読者に重大な誤解を与える表現」でありケシカラン、というのです。

このリアクションは意外でした。医療関係者でもないのに、なぜCTの論文に抗議をしてくるのか、その背景がよくわからなかったのです。しかしやがて、世間の人々に低線量被ばくの危険性を知られたくないのだろうと思いあたりました。原子力産業関係者は、世間に登場する言説に目を光らせていて、少しでも都合の悪い主張に対して攻撃を加える。これは言葉狩りをするハンターです。


岡田正彦・新潟大学医学部教授 長生きしたければがん検診は受けるな
(2012年02月15日(水) 週刊現代 賢者の知恵)

「100ミリシーベルト以下の被曝量なら安心」はウソ

エックス線 CT検査 医療被ばくのリスク

世界一の医療被ばく国である日本では、X線検査によって 年間 1万人(全がんの4.4%)ガンになっている

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