中学生、高校生からの原発事故に関する「質問」への返答

中学生、高校生からの質問に対する返答

2ヶ月以上も前にもらった質問に対して、ちゃんとした返信をするのが遅くなってゴメンネ。ようやく返信が書けたので、送ります。

じつは、福島で原発事故が起きて、私はかつてないほどの大きなショックを受けました。20年前からチェルノブイリ原発事故の放射能で最も汚染されたベラルーシやウクライナを何度も訪れ、たくさんの病院に医薬品や医療機器を届けてきた経験があるため、原発事故で最悪の「レベル7」という大事故の被害がある程度予想できるからです。

ベラルーシで私が出会ったお医者さんや研究者のほとんどが、様々な病気が増えていると言っていました。放射能汚染地の子ども病院では、病気が増えている具体的なデータをもらいました。その地域では、原発事故前年と事故から9年後を比べると、急性白血病が2.4倍、ぜんそく2.7倍、糖尿病2.9倍、血液の病気3.0倍、先天性障害5.7倍、ガンが11.7倍、そして、消化器系の病気が20.9倍にも増えていました。

私個人は、アメリカのスリーマイル原発で1979年に事故があって以来、原発は危険なものだと感じ、原発に反対してきました。その思いは、1986年のチェルノブイリ原発事故で、より強いものとなりました。それで、原発は早くやめた方がいいと思い、多くの人に原発の危険性を伝えるために、原発の勉強をしました。そして、映画の上映会や講演会などを開催したり、自分が講演したりして、原発をやめるための活動に取り組んできました。(例えば、号外新聞の配布)

しかし、日本の多くの人は、原発を推進する人たちの「ウソ」にだまされて、日本の原発は安全であり、絶対に事故は起こさないと信じ込んでしまいました。「ウソ」を信じさせたのは、大学教授などの「専門家」と言われている人たちや経済産業省の官僚や政治家、そして、電力会社の人たちです。また、原発は危険だと指摘する声を多くのマスコミは、ほとんど取り上げませんでした。

電力会社は、たくさんお金を持っているので、新聞やテレビに莫大な広告料金を支払い、「原発は安全です。二酸化炭素を出さないのでクリーンなエネルギーです」などと宣伝して、この狭い日本に54基もの原発を建ててしまいました。

特に「地震が多発する日本では、原発は危険すぎる」という地震学者もいて警鐘をならしていた(2005年に国会でも警告した)のですが、その意見が受け入れられることはありませんでした。そして、地震によって、ついに日本でも原発事故が起きてしまったのです。

以下の質問は、単なる質問ではなくて、「ひどい大人たち」に対する「抗議」の意味も含まれていると感じました。

この質問に答える前に、私は、取り返しがつかない原発事故をひき起こしてしまった大人の一人として、子どもたちや若い人たちに謝らなければいけないと思っています。

その上で、私たち大人が今、やるべきことは、放射能に弱い子どもたち(胎児、乳幼児、児童、生徒)を放射能から守ることだと思っています。 

そのための基本は「外部被ばく」と「内部被ばく」をできるだけ避けることです。
1、できるだけ、放射能汚染地から胎児、乳幼児、児童、生徒を遠ざけること
2、できるだけ、子どもと若い人は放射能汚染食品や飲み物を体内に入れないこと

この2つが放射能対策で最も重要なことだと思います。

それでは、質問に答えていきたいと思います。

Q,震災直後に、他の国や機関から、危ない、避難させたほうがいいという意見があったのに何故しなかったのですか?
Q,どうして、危ないとわかっていたのに何もしなかったの?

A,原発を推進してきた電力会社や政府は、「できるだけ事故を小さく見せたい」とか、「事故による被害者に対する補償金を少なくしたい」といった考えがあるのだと思います。そのため、多くの人が避けることができた放射線被ばくを受けてしまったり、今も放射能汚染地で「外部被曝」を受けたり、飲食による「内部被曝」を受けている人がたくさんいます。

それで、私たちは、そうした被曝を受け続けている人たちに早く気づいてもらって、避難したり、食べ物や飲み物に気をつけてもらおうと情報を発信しています。しかし、「被害を小さく見せよう」としたり、「補償を少なくしよう」としている人たちが強力な「安全キャンペーン」をやっているため、多くの人が被曝しているにもかかわらず、「避難しなくて大丈夫」とか、「食品の基準値以内だから大丈夫」だと思い込んでいるのです。

チェルノブイリでは、何年も放射能汚染地に住み続けて病気になった子どもたちがたくさんいます。私たちは、そのことから学ぶ必要があります。放射能汚染地から避難するのに「いまさら避難しても遅すぎる」ということはないのです。たとえ1年後でも2年後でも避難した方がいいのです。その方が長く住み続けるよりもずっと健康への悪影響が少ないのです。


Q,放射能は、味もしないし見えないし臭いもしなくてわからない。だから、怖さの実感はあまりないけど、どうやって子ども達を守ろうとしているのかわからない。

A,チェルノブイリ原発事故で最も被害を受けたと言われているベラルーシで聞いた言葉を今も覚えています。「放射能というものは、その被害がすぐに現れないということ。見えない、臭わない、触れない、人間の五感で感じられないということ。そのため、放射能を軽く考えてしまって、被ばく量を多くしてしまった。
放射能の本当の怖さは、数年たってから分かってくる」・・・残念ながら、今の政府には、子どもたちを守ろうとする姿勢がないので、この言葉を私たち自身が肝に銘じておく必要があると思います。

Q,おとなは、子どもを守る気があるの?
Q,おとなは、子どもの将来をなんだと思ってるの?
Q,なんで、子ども達には嘘をついてはいけないと教えるのに、
原発のことや放射能のことで、おとなは嘘をついたり誤摩化したりするの?

A,今の政府の応対を見ていると、そう感じるのも仕方がないですね。子どもたちの生命よりも大事なものなど何もないと私は思っていますが、この世の中には、「他人の生命や健康よりもお金」を重視している人たちがいるのです。

原発というものは、その始まりから終わりまで、差別の上に成り立っています。

3月11日の地震によって原発事故が起こり、私たち日本人の多くは原発の恐ろしさを知ったのですが、じつは原発は事故を起こさなくても様々な問題を引き起こしています。

★まず最初に、原発はウラン燃料を掘る段階から「環境破壊」と「放射能汚染」をひき起こしています。しかも、ウラン鉱山の75%以上は先住民が住む地域にあり、多くの住民が放射能の被害に苦しんでいます。

アメリカのアコマ という地域には1,000を超えるウラン鉱山があって、さらにウランを原発の燃料として使えるように加工する工場もあり、60年間も放射能汚染による被害 を受け続けて、様々な健康障害に苦しんでいます。脳腫瘍や肺ガン、胃ガン、大腸ガン、骨のガン、皮膚ガン、そして女性は、乳ガンや子宮ガンも増えていま す。

★2つ目に原発は、事故を起こさなくても周辺住民の病気を増やしています
ドイツ政府の調査では、原発から5km圏内の小児ガンは全国平均の1.61倍、小児白血病は2.19倍となっています。

佐賀県の玄海原発を1998年~2007年まで10年間の数値を調べて分かったことは、玄海原発に近いエリアほど白血病が多く、年毎にだんだん増えてきていることです。この5年では、原発がある玄海町の白血病による死亡者は全国平均の6~7倍(厚生労働省の人口動態統計より)となっています。

泊原発がある泊村は、北海道で一番ガンの死亡率が高く千歳市の4倍もガンが多くなっています。

イギリスの核燃料再処理工場の周辺地域では、小児がん発生率が全国平均より2~15倍も高くなっており、地元テレビ局もこれを報道しています。

★3つ目に、原発の定期点検などで働く人たちの被曝労働の問題もあります。これまで、なかなか認められなかった労災(原発での作業で、ガンや白血病になったこと)がだんだん認められるようになりつつあります。(原発労働者のガン 5ミリシーベルトで労災認定

★4つ目に、原発稼動中に海に温排水を捨てる問題があります。原発は、過熱した炉心を冷やすために大量の海水を吸いあげて、7℃熱くなった海水(温排水)を海に放出しますが、その量が恐ろしく多量です。

平均的な規模(100万キロワット)の原発1基で1秒間に70トンも温排水を海に放出します。現在、日本にある54基の原発全体から1年間に放出される温排水の量は1000億トン。日本全土に降る雨の量が年間6500億トンで、そのうち河川に流れるのは4000億トン。つまり原発は、日本全国の川を流れている水の25%に相当する量を7℃温めて海に戻していることになります。

さらに問題なのが、海水を吸い上げる際にプランクトンや魚卵、そして、稚魚などを大量に吸い込み、炉心近くの高熱でその多くが死んでしまうことです。問題はこれだけでなく、吸排水パイプにフジツボなどが付かないよう殺生物剤(次亜塩素酸ソーダ)が使用され、海洋を汚染しています。

海の小さないのちを吸い上げて殺し、殺生物剤で殺し、膨大な温排水を海に捨てながら「地球温暖化防止のために」などと言いながら私たちは原発を増やしてきたわけです。

★そして究極の問題として、100万年後まで毒性が消えない「放射性廃棄物」の問題があります。 京都大学原子炉実験所の小出裕章さんは、「放射性廃棄物」という言い方はせず、「放射性廃物」とか「放射性毒物」と表現します。なぜ「廃棄物」と言わないの か。それは、これらの放射性毒物は、「廃棄することができないもの」「捨ててはいけないもの」だからです。

『「原子力発電がとまる日」脱原発化を選んだ、ドイツからのメッセージ』という冊子にドイツ政府の見解が出ていますが、100万年以上の管理が必要だと書いてあります。 私たち現代人は、未来世代に重荷を負わせることをやっている自覚がありませんが、千年後、万年後、未来世代の人たちは現代人をどう思うでしょう・・・

このように、原発は様々な問題を抱え、福島第一原発の取り返しのつかない大事故を起こしながら「経済のためには、原発をやめるわけにはいかない」と発言する財界の幹部や政治家がたくさんいます。外国に原発を売っていく姿勢も変わっていません。彼らを見ていて、世の中の2つの流れがハッキリ見えてきました。

ひとつの流れは、今まで通りに「自分たちの利益」だけを求め続ける人々。
もう一つの流れは、「みんなの幸せ」を考える人々です。

自分の会社や日本だけよければいいとか、人間だけよければいい、あるいは、自分の時代さえよければいい、という考えではなく、みんなにとっていい社会を考える人たちです。

「お金に支配されてしまった人々」を変えるのは、とても難しいと思いますが、若い人たちは、まだお金に支配されていないと思います。

これからの時代を担っていく若い人たちが、「みんなの幸せ」を考えて、新しい社会をつくるという大きな夢にチャレンジしてほしいと思います。そんな若い人たちの仲間に私も加わりたいと思っています。

いい質問をしてくれて、ありがとう。私からの返答を読んで(難しいところも多いと思いますが)もっと聞きたいことや感想などあれば、連絡してください。

来年がよい年になりますように

2011年12月28日
中村隆市

追記 このブログを読まれた大人の皆さんに知っておいてほしいこと
<放射能の影響は、年齢によってまったく違うということ>

ジョン.W.ゴフマン教授の「年齢別に見た1万人・シーベルト当たり発生するガン死者数」というグラフがありますが、「1万人・シーベルト」を説明すると、「1万人が1シーベルト被ばくする」あるいは、「10万人が0.1シーベルト(100ミリシーベルト)」あるいは、「100万人が0.01シーベルト(10ミリシーベルト)」被ばくすると何人がガンで死ぬかというグラフです。ビックリするほど年齢によって違いがあります。

例えば、30歳が0.1シーベルト(100ミリシーベルト)被ばくすると10万人のうち389人がガンで死ぬのに比べて、55歳では4.9人しか死なない。そして、0歳では、なんと1517人も亡くなる。つまり、0歳は55歳の309倍も多く亡くなることになります。

10ミリシーベルトだと150人くらい(1万人で15人くらい)ガンで亡くなるということです。
そして、忘れてはいけないことは、免疫力の低下によりガン以外の病気も大幅に増えるということです。

ですから、幼い子どもたちほど、できるだけ早く被曝を少なくしないといけないし、若い人たちにもなるべく被曝を少なくするようにしてほしいと願っています。

私は、10月22日のブログに以下のような記事を書きました。

ウクライナ「年間1ミリシーベルト以下」 山下教授「100ミリまで安全」

ウクライナでの事故への法的取り組み から抜粋

オレグ・ナスビット(ウクライナ科学アカデミー) 
今中哲二(京都大学原子炉実験所)

チェルノブイリ事故に関する基本法 基本概念(要約)

この文書は,チェルノブイリ事故が人々の健康にもたらす影響を軽減するための基本概念として,1991年2月27日,ウクライナSSR最高会議によって採択された.

この概念の基本目標は,最も影響をうけやすい人々,つまり1986年に生まれた子供たちに対するチェルノブイリ事故による被曝量を,どのような環境のもとでも年間1ミリシーベルト以下に,言い換えれば一生の被曝量を70ミリシーベルト以下に抑える,というものである.

基本概念文書によると,「放射能汚染地域の現状は,人々への健康影響を軽減するためにとられている対策の有効性が小さいことを示している.」それゆえ,「これらの汚染地域から人々を移住させることが最も重要である.」

事故にともなう被曝量が年間1ミリシーベルト以下という条件で居住が認められる.この条件が充たされなければ,住民に“クリーン”地域への移住の権利が認められる.

この記事でも分かるように、原発事故を経験したウクライナが「年間1ミリシーベルト以上は避難した方がいい」と公式に表明しています。子どもさんの避難を迷っている方は、この年間1ミリシーベルトを参考にされるといいと思います。(もちろん、避難先でも飲食による内部被曝に注意する必要があります)

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次