日本は、放射線による世界一の医療被ばく大国

日本は世界で最も医療被ばくが多く、それが原因でガンになる人の比率も世界一多い。(日本での発がん数に占めるエックス線検査による割合は4.4%にもなり、イギリスの七倍)

『市民科学』第 20 号(2008 年 11 月)から抜粋、編集

書評
世界で最大の医療放射線被ばく国・日本の現状への鋭い批判の書
『受ける?受けない? エックス線 CT検査 医療被ばくのリスク』
高木学校医療ばく問題研究グループ
(発行:高木学校 発売:七つ森書館、2008年)

評者:笹本征男(低線量放射線被曝研究会メンバー)

●はじめに

本書は、おそらく、日本における医療放射線被ばく問題を扱った、最初の書籍であろう。本書を一読して受けた感想は、「日本は世界で最大の医療放射線被ばくの国である」ということを発見した驚きである。

本書に寄稿している小児科医の山田真氏は、「日本には世界中のCTの四分の一があるといわれ、入院施設のないような小さな医療機関でもCTが設置されています」と指摘している。

本書では、CT(Computed Tomographyの略、コンピューター断層撮影)は、エックス線を使い、その放射線量は、「一回のCT検査で受ける線量は10~20ミリシーベルトで、公衆の年間の線量限度1ミリシーベルトを10倍以上うわ回ります」と述べている。

何度もCT検査を受けている私であっても、治療を受けている病院の放射線技師にCT検査による一回分の放射線量を聞いたのは、つい最近のことである。放射線技師は「約20ミリシーベルトです」と私に伝えた。

●『医療被ばく記録手帳』の発行と本書出版の経緯

高木学校では、『市民版 医療被ばく記録手帳』を作成した。目的は、手帳を「エックス線検査を受けるとき医師あるいは技師に示し、線量を記入してもらうことによって、医療関係者に被ばく線量とそのリスクに関心を向けてもらい、ひいては医療被ばくを少なくしたいという」ことである。

2005年11月28日付毎日新聞が、『手帳』のことを報道したことで、全国各地から『手帳』の注文と「被ばくを心配する多くの声が寄せられました」。高木学校では、「市民の立場から医療被ばく問題をどう考えるのか、この冊子を発行することに」なった。

ここで留意すべきは、「ここで考慮する放射線被ばくによるリスクは、治療のための照射は含みません」ということである。

さらに、初版の「はじめに」では、「子ども、赤ちゃん、胎児、と年齢が低くなればなるほど、そして体の中では細胞が盛んに増殖している臓器ほど、放射線の影響を受けやすく、障害が心配されます。この冊子は、感受性の高い赤ちゃんや子どもをもつおかあさん、若い方々に特に読んでいただきたい」と述べてある。

高木学校医療被ばく問題研究会グループの崎山比早子氏は、その後、好評を得て、今度の増補新版を発行することになったと「はじめに」に書いている。

以下、本書を読んで、私が特に注意を引いた問題について述べる。

●医療被ばくを問題にする理由

「今なぜ医療被ばくを問題にするのか」
日本では、これまで「本格的な医療被ばくのリスク推定が行われなかった」ことが指摘され、「医療機関からは科学的な証拠を挙げることなしに、相変わらず「危険はない」という見解が出され続けています」と述べられている。これが、現在の日本において、医療被ばくを問題にすべき理由である。

2004年、A・ベリングトンらは、「診察用エックス線によるがんリスク:イギリスとその他14カ国のための評価」を発表した。

本書には、この論文の結果を図にしてある。それによると、「1991年から6年に調べられた医療先進国15カ国の年間のエックス線検査件数で、単位人口あたりで日本が世界一多く」、日本の「エックス線検査による年間の発がん数は七五八七人」になっている。さらに、「日本のCT台数は人口当たり他の国の3.7倍であることを加味して計算すると、年間の発がん数は9905人、発がん数に占めるエックス線検査による割合は4.4%にもなり、一番少ないイギリスの七倍」になる。

ベリングトンらの論文に対して、日本国内では、専門家が盛んに批判したが、「国際的な専門誌にこれを反証する論文発表は行われていません」という。なぜ、日本の専門家は、この論文への反証を国際的に行わないのであろうか。

●患者の医療被ばく線量に限度がないということ

「患者の医療被ばく線量については限度がありません」と述べられている。そしてこのことは、「線量を管理し、責任を持つ機関がないことを意味します」。なぜ、線量の限度が決められていないのか。

「職業被ばくの場合は被ばくを伴う業務から利益を得る人と、被ばくのリスクを負う人は別の人です。これとは異なり、医療被ばくの場合には被ばくにリスクが伴っても、それによって病気を発見できれば、被ばくした本人が利益を得ることになります」という。このことも、私には新しい発見であった。

医療の現場における放射線業務従事者の中の医療従事者についても、驚くべき事実が紹介されている。医療従事者は、2004年で40万人を超えたと推定され、医療従事者の被ばくは、「職業被ばくの全線量の六〇%以上を占めているといわれています。にもかかわらず、放射線を扱う医療従事者は、その人数も被ばく線量も正確には把握されていません」

●低線量なら心配ない?

低線量なら心配ない???小学生時代からの教育
学校における「総合的学習の時間」や「エネルギー教育」の授業における放射線教育は、「日本原子力文化振興財団、NPO法人放射線教育フォーラム、エネルギー環境教育情報センター、自治体や電力会社が大きな役割を果たしています

これらの財団などの広報活動の資金は、文部科学省や経済産業省エネルギー庁などからの国家予算である。そして、学校における放射線教育は、「原子エネルギーの受容促進のためには『少しの放射線を怖がらせないこと』が必要であるという認識」の上に立って行われている、という。

人々は、このような認識に基づく教育を、小学校時代から受け続けている。
人々が、検診の時に「被ばくが心配」と言っても、「低線量ですから心配ありません」という答えが返ってくることの原因に、「低線量なら心配ない」という教育がある、ということを本書は、教えてくれる。

●医師と患者の問題ーー市民のエックス線信仰

「お医者さんもこわさを知らない?」
放射線の教科書について、「医療被ばくのリスクを理解するために必要な放射線の基礎知識を扱う教科書の少なさに驚かされます」とあり、大学における医学教育の中でも、放射線教育に割かれる時間は多くない現状が紹介されている。しかし、「このような教育環境で育った学生も、卒業し医療現場に出れば、日常的にエックス線検査をし、検査をオーダーする立場になります。放射線の単位も人体への影響もよく知らない医療従事者によって放射線診療が行われていることが多いといっても過言ではありません」。

小児科医の山田真氏が「医療被ばくに対する患者の意識」という文章を寄稿している。

戦後の日本では、「検査漬け」「薬漬け」という状態があり、「医者の側は『濃厚な医療が高度な医療である』という言説を振りまいてそのような医療を正当化してしまった」という。放射線診断についても、「レントゲンを撮ってもらえば安心」という風潮が市民の側にある。

それは医者や専門家の側が「レントゲンを撮れば何でもわかる」式の宣伝をし、“レントゲン検査による放射線被ばく” というマイナス面を情報として伝えてこなかったことによる」と山田氏は批判している。

無効なエックス線検査を有益とする言説が多量に流され市民のエックス線信仰ができあがったというのが日本の実情である

●放射線検査のリスクなど

<CT検査の危険性>
CT検査には放射線を使うことが述べられているが、放射線を使うことを知らない人が多い。「問題は被ばく線量が高いことです。胸部の単純撮影に比較すると200倍から400倍にもなります」

「すべてを考慮すると『自覚症状がない場合、CT検診によって命にかかわる疾病を早期発見し、延命できるという利益は期待できない』が結論です」

<PET検診について>
PET(陽電子放出断層撮影、Positron Emission Tomographyの略)
何の症状もない健康な人のがん検診にPETが使われるのは有害無益です

<気をつけたい妊婦と子どもの被ばく>

胎児の被ばくを可能な限り避けるために提案された「10日規則」を紹介し、この規則が緩和されている実情を紹介している。
「放射線への感受性は胎児が一番高いのです」
「胎児期の被ばくによる脳の障害と小児がん」

子どものCT検査の危険性
「子どもは大人に比べ細胞が盛んに分裂しているために放射線の傷害を受けやすい。子どもは、被ばく以降に残る人生も長いために、その間に被ばくによるがんが発症する機会も多い」という二点は、子どもに放射線検査を行う時に考慮すべき点である。

「0歳でCT検査を受けると三五歳で受けた場合よりもがん死する危険性は10倍以上になりますから、CTはできれば避けたい検査です」

「放射線をあびると…」の項では、被ばくのリスクが蓄積すること、「しきい値」はないということが国際的な常識であること、線量当たりの発がんのリスク、晩発的傷害、子孫に与える影響、大量被ばく、急性傷害、外部被ばくと内部被ばく、放射能汚染食品、原発事?の時の甲状腺がんを防ぐためのヨウ素剤の服用、ホルミス効果、について述べられている。

●無駄な被ばくを減らすための取り組み

英国における被ばく対策が成果を挙げていることを述べているが、英国の健康保険局(HPA)は、1992年から。全国患者線量データベースを作成し、五年ごとに報告している。

2001 年から2006年までの最新の報告では、全国316の病院と歯科医から報告された約30万件の線量測定記録が集計されている。健康保険局は、「各種の検査に対して基準となる線量を規定し、それからはずれている検査室があると注意を促します」

CT検査に対する英米の取り組みを日本と比較している。英国の健康保険局は、「環境放射線の医学的側面に対する委員会」の行った「健康な個人に不えるCT検査の影響についての評価報告書を公開しています」

米国では、食品医薬品局(FDA)が、「全身CT検査――あなたが知っておかなければならないこと」という冊子で、「病状のない人の検診は、それによって寿命が延びたという証拠がない。被ばくは通常のエックス線検査の数百倍にもなり、必ずリスクが伴う」という注を促している。

国立がん研究所(NCI)は、「放射線と小児CT――健康管理のためのガイド」において、「子どもの放射線被ばくで特に注意すべきことを挙げています。特記すべきは『放射線には、がんのリスクがゼロで安全であるという線量は存在しないという合意が国際的に成り立っている』ことを明記していることです」

日本の現状はどうであろうか。「厚生労働省には医療被ばくを扱う部門のありませんし、被ばく線量も把握されておらず、リスクと利益を比較した科学的検証も行われていません」

●高木学校の医療被ばくアンケート調査と被ばく低減対策

小児科医へのアンケート調査で
「子どもの親が強く要望するため不要なCT検査をせざるを得ない」

●おわりに

私は本書を読んで、あらためて、冒頭に紹介した、私が受けた驚きに戻らぜるを得ない。「世界最大の医療放射線被ばく国・日本」についてである。日本政府の厚生労働省には、医療被ばくに関する担当部署が存在しないことは、何を意味するのであろうか。

私は、厚生労働省に対して、医療放射線被ばくに関して、早急に、対策を講じることを検討するように、要望する。
■(2008年9月18日、記)

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