第13話「お金はみんなのもの〜トセパントミン」

市民で創った銀行

トセパンにとって、毎年の収穫、農作物の販売に必要な資金をどう準備するかということが常に課題としてありました。
組合員もまた、家族に急な出費が必要となれば、泣く泣く貸金業者から借りざるを得ず、高額な利子に苦しむ状況がありました。多くの人が、所有物を安く売り払ったり、あるいは失わざるを得なかったのです。先住民の住む地域において、銀行は「貧しい人々」から極端に低い利率で預金を預かることはしても、決して融資を行うということはありませんでした。

この状況から抜け出すため、1997年、お金をみんなのものとして循環させる機関の開設にトセパンは着手しました。組合員から必要とされていただけに、このプロジェクトは理解を得て順調に進みました。翌年には、41の村と1000名以上の組合員で、トセパントミンの設立に至ったのです。トセパントミンとはナワット語で「お金はみんなのもの」という意味なのです。

皆で初期資金の636.000ペソを集めることができました。現在は45の地域窓口と、さらに多くの組合員により、100万ペソ以上の資金を保有する立派な市民銀行に育っています。

初年度は慣れていないこともあり、問題も発生しました。組合員が期日までに返済を行わない事態も発生しました。預金や融資には、クエツァランまで足を運ばなくてはならず、不便もありました。

そこで、1999年には新たな方策を講じたのです。まず5名の推進委員に研修を行い、貯蓄の習慣を普及させる活動を行いました。子どもたちへの預金教育なるものも行われたのです。

また、制度面でもグループによる責任体制を作り上げました。融資を受けるには、充分な相互信頼のある4名から7名からなるグループを必要とします。グループ単位で融資を申し込むと共に、グループが返済の責務を担うのです。こうして、返済の滞りが発生しないよう工夫したのです。これまでの返済等に問題のない人には、個人融資や金額の大きい融資も行います。

この仕組みを導入後、状況は大きく改善しました。2年後には、125のグループができて、その後は返済の滞りは発生していません。

トセパントミンは、主に次のサービスを提供しています。

  • 預金の受付
  • 融資の提供:家屋の改善や生産プロジェクトには条件なしで提供
  • 葬儀費用保険
  • 小切手の換金

トセパントミンは家屋の改善プロジェクトを展開していて、特別に低い金利で組合員に融資をします。雨が多く湿度が高いため、居住環境が悪く、肺を患う村人が多くいたのです。そういった状況を改善するための費用をお金を循環させることで達成してきました。

家族の一員が亡くなると、農村では慣習的に多くの出費が必要となります。そのため、葬儀費用保険も準備されています。これによて、亡くなる人を弔うために所有物を手放すことが回避できるのです。

トセパントミンの資金は、コーヒーやオールスパイスの収穫に必要な資金にも充てられます。収穫時の労働者への支払いなどにも活用されています。

並行してトセパンの各プログラムの活動資金にもなっています。各種の研修や有機農業の推進、女性の社会参画など、みんなのお金が、みんなの為に活用されているのです。

トセパントミンは預金を預かることや利ざやを得ることで、必要な経費も賄っています。地域に根ざした人々のための銀行として機能しているのです。

支え合いと時代の変化

 かつての生活は物々交換で成り立っていました。また、 “貯蓄”と言えば、畑でつくったトウモロコシや豆を蓄えることでした。また、鶏や豚などの家畜を育て増やすことでした。これらの備えがあれば、必要な時、必要なものと交換できたのです。

倉庫に「貯蓄」されているトウモロコシ

また、村では住民による共同作業が盛んに行われていました。家を建てる時や冠婚葬祭には、村人の協力が不可欠でした。

家の建設も共同作業、冠婚葬祭も村をあげての共同作業です。お互いに支え合うこと。これも“貯蓄”の1つでした。『善意はいつか、必ず返ってくる』という考え方が根っこにあるのです。

しかし、時代と共に森の暮らしにも、現金での取引きが増えました。急に現金が必要となっても、農業と相互の支え合いで生きる生産者に、その準備はなかなかできませんでした。

生まれた村での生活は厳しく、こうした現実を前に、都会に仕事を探しに行く人も少なからずいます。それは、家族が離れ離れになることを意味しています。

村人は都会の暮らしに憧れを抱いているのでしょうか?組合員であるマルティンさんの言葉からは、森に暮らすことの素晴らしさを理解している様子がうかがえます。

「農業を諦める家族も多く、たくさんの仲間が村を去り、都会に出てしまったよ。彼らは、より良い暮らしをしていると思うかい?話に聞くと、とても安い賃金で長時間、重労働を強いられるそうだよ。森の生活と都会の生活は全てが異なり、空の色も、水も、空気も、この森とは違うのだよ。」

都会に暮らすことは、森で果物を育て、畑で野菜を収穫する喜びとは程遠い暮らしです。収穫した食べ物を、分け合うことなどできないのです。

トセパントミンが「みんなのお金」を扱う銀行として機能することで、人々の暮らしは安心感のある、より良い方向へと改善されてきたのです。
(2017年、トセパントミンは「ヨーロッパ・マイクロファイナンス賞」を受賞しました)

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トセパンコーヒー物語 目次

トセパンの概要

第1話「ケツァールの地〜トセパンが活動する地域
第2話「メキシコとコーヒーの意外な(?)関係
第3話「トセパン協同組合ってどんな組織?

トセパンの歴史

第4話「抑圧されてきた先住民たち
第5章「闘いは砂糖から始まった
第6話「トセパンを支える作物・オールスパイス

森林農法・アグロフォレストリ

第7話「森を守り、森を育てるコーヒー
第8話「「おかげさま」を大切にするフェアトレードコーヒー
第9話「森林農法とは?
第10話「森林農法がもたらす豊かさ〜生物多様性
第11話「森林農法がもたらす豊かさ〜安心できる暮らし

トセパンの活動と意義

第12話「トセパンがもたらす組合員の自立と誇り
第13話「お金はみんなのもの〜トセパントミン
第14話「より良く生きるため、女性達よ集まれ
第15話「ホノトラの闘い
第16話「学び、成長していくこと

(注)これらの原稿は、トセパンが作成した「30周年組合史(2007)」、ウインドファームとも付き合いが長いメキシコの生態学者パトリシア・モゲル氏の各種論文、ウインドファームスタッフが現地を訪問した際に作成したレポートなどを編集して作成しています