2012/08/19

玄海原発全機運転差止め請求 意見陳述

玄海原発全機運転差止め請求 意見陳述 2012.8.17
作成: 宇野 朗子 日時: 2012年8月18日 1:55

意見陳述書

佐賀地方裁判所 御中2012年8月17日

住所 福岡県福津市 氏名 宇野朗子

宇野朗子と申します。福島市で被災し緊急避難、現在は、娘と福岡県福津市に仮住まいをしています。 今日は、玄海原発を止めるための重要な裁判をしてくださっている裁判官のみなさんに、福島で起きたこと、今起きていることを知っていただきたく、私の経験と想いをお話させていただきます。

私は福島市に住んで12年目でした。私とパートナーと娘、2匹の猫と暮らしていました。5年前に子どもを授かり、親として娘にしてやれることは何かを考える中で、自然農を学び、地域通貨の試みにも加わり、食やエネルギーを自給して暮らす人々と知り合いました。人としてまっとうに生きたいという人々の願い、福島には、それに応える豊かな自然がありました。子育てをきっかけにして私は、本当の福島の奥深さを知ったのでした。

娘が3歳になった2010年2月に、佐藤雄平福島県知事が、プルサーマル運転を3つの条件を付けて認めると表明しました。さらに私たちに危険を背負わせるのかと、居ても立っても居られなくなって、私は受け入れ反対の声をあげるようになりました。学習会を開いたり、署名を集め県議会に提出したり、県庁に申し入れに行ったりしながら、原発の問題を少しずつ勉強していきました。

あまりにも深刻な核廃棄物の問題。地球上の誰も、10万年、100万年もの間安全に管理し続ける方法を知りません。にもかかわらず、私たちは毎日膨大な死の灰を、「発電」の名のもとに生み出しています。 そして原発は、被ばく労働なしには1日たりとも動かないものだということ。たくさんの人々が、被ばくのリスクを知らされないまま、劣悪な環境で、低賃金で働かされ、多くの人が、健康を害し、いのちを失ってきました。労災認定がおりたのはたったの10人、多くは泣き寝入りさせられ、沈黙を強いられ、社会にはこの事実が隠され続けてきました。

福島原発は、事故件数も多く、労働者の被曝量日本一の原発でもありました。だまされていた自分がとても悔しく、申し訳なく思います。 原発が動くための燃料は、ウランだけではありません。差別と嘘と抑圧、これが原発に不可欠の燃料です。このような原発が温存される社会では、真の民主主義は育ちえないと、私は思います。

私は、その年の6月13日、福島第一原発のゲート前に、東京電力にプルサーマルを止めてほしいとお願いに行きました。そこで私は、震度5弱の地震に遭遇しました。ゴォーッという地鳴りと大きな揺れの中で、私のすぐ脇にある原子炉で何が起きているのか、大変な恐怖を感じました。 そしてその4日後、福島第一原発2号機で、外部電源喪失事故が起こりました。下がった水位は2メートル、メルトダウンにもつながりかねない重大な事故でした。けれども、ことの重大性を理解した報道は皆無、東電は原因究明も十分行わないまま、その場しのぎのマニュアル手続きを追加した程度で、再稼働してしまいました。福島県も立地自治体も保安院もこれを放置しました。

40年もの長い間、私たちは背負わされている危険について「蚊帳の外」に置かれてきたのだ、そして電力会社も国も県もマスコミも、本気で人々のいのちと暮らしを守ろうとはしていないのだと、理解しました。大きな地震がきたら、大事故、大惨事になり、たくさんの命が亡くなり、福島の大地と海は命をはぐくめないところになってしまう。「その時」が来ないために手を尽くすしかない、知った者が、伝えるしかないのだと、思いました。 

8月から、毎日福島県庁前に立ち、県に住民のメッセージを届けました。「ふるさとを核のゴミ捨て場にしないで」「ふるさとを核の汚染まみれにしないで」「ふるさとを第二のチェルノブイリにしないで」、こう書かれた横断幕を持ち、500通を超えるメッセージを届けました。 福島第一原発3号機のプルサーマルは、多くの人々の懸念の声を無視したまま、その年の10月に商業運転に入りました。市民でもっと原発の問題を自由に語り、原発依存から脱して真に豊かな福島の未来像を作っていこうと、様々なイベントを準備し始めました。 そんな中で、私は2011年3月11日を迎えたのです。

その日、私は福島市内の友人の家の庭で被災しました。暴れ馬のように力強く揺れ続ける地面にしがみつきながら、「大好きだよー、大丈夫だよー」と隣にいる娘に繰り返し言いました。そう言いながら、心では「ああ、大変なことになってしまったかもしれない。間に合わなかったのかもしれない」という想いがこみあげるのを抑えることができませんでした。本震が終わると、すぐに友人宅に逃げ込み、私は情報収集を始めました。電源喪失、メルトダウンの危険ありとすぐに情報がありました。電源車が間に合うことを祈りながら、原発近くに住む友人や、家族に電話をかけ続けました。

夜11時過ぎ、緊急災害対策本部発表の文書で、炉心損傷がすでに開始していると予想されていることを知りました。文書を見た時点では、あと数十分で、核燃料の被覆管の破損が予想されていました。ああ、とうとう過酷事故は起きてしまったのだ。私たちは緊急避難を決めました。震災発生から10時間後、私と友人は、赤ちゃんを含む子どもたち5人を連れて、西へ避難をはじめました。ひとりでも多くの人に、この危機を知り行動してほしいと、避難を始めるというメールを無差別に送りました。ちらちらと雪の降る、寒くて静かな夜の福島市でした。 避難の途中で、1号機が爆発。13日、山口県宇部市にたどり着き、3号機爆発の映像を見ることになりました。

あの日から、私はまるで戦争の中にいます。 複数号機の原発過酷事故、収束の目途も立たないまま、未曾有の放射能汚染の中で、福島に何が起きたのか。避難の混乱の中で、失われていったいのちがありました。津波に生き残り助けを待ちながら途絶えたいのちがありました。すべてを奪われ、未来の展望もなく、絶望の中で、自ら命を絶った人がいました。多くの人々が故郷を追われ、地域も家族もバラバラになりました。 

事故をより小さく見せよう、被ばくがもたらす害を小さくみせようとする、国・県・マスコミあげての大キャンペーン。情報が隠され、不正確な情報が流されたため、住民が無用な被曝を強いられてしまいました。ヨウ素剤による防護策も、殆どとられることはありませんでした。メルトダウンはしていない。レベル4である。チェルノブイリ事故の10分の1である。直ちに健康に影響はない。年間100ミリシーベルトを越えなければ安全です。ニコニコしている人には放射能の害は来ない。危険をあおる流言飛語に注意してください・・・ありとあらゆる、「嘘」と「ごまかし」が語られ、事実を知るための適切な調査はなされず、またはその結果を隠されました。それによってもたらされたのは、被災者間の深い分断、放射能問題をタブーとする抑圧的な空気。それらを前提としてまかり通る、棄民政策の数々でした。そして何より、人々が被曝し続ける事態となりました。 

除染は遅々として進みません。危険な除染作業に被災者である住民が駆り出されています。有機農家の友人は、事故後、作物が汚染され農業を断念しましたが、彼女は今、仮住まいからバスに乗り込み、避難区域の村の除染作業に通っています。石塀も、屋根も壁も、ゴシゴシ、ゴシゴシと、ブラシでこすり、水で流すのだそうです。作業者の装備は軽く、健康への影響が懸念されます。そして原発事故という人災によって生計の道を閉ざされた被害者が、加害者がまきちらした放射能の後始末を行うのを見るのはとても悔しいです。 

余震が続いている福島原発の事故現場では、毎日3000人もの人々が被曝しながらの作業にあたっています。既に6人の方が亡くなり、大量被ばくされた方も報道されましたが、その後どうなったかが心配です。4号機プールの倒壊も懸念されています。2号機内部がどうなっているのか、誰も分かりません。 そんな薄氷を踏むような危機の中で、誰かが、収束作業を続けなくてはならない。絶対に収束させなくてはなりません。そのために、何人の人の命を差し出さなければならないのでしょうか。原発を作り、動かし、その利権の甘い汁を吸った人々が、まず、収束作業に全力であたるべきと思います。しかし実際には、ホームレスなどの生活困窮者や立場の弱い下請け会社の労働者たち、そして仕事を失った被災者たちが多く作業にあたっていると聞いています。収束には、何十年、百年以上かかるとも言われています。この事態に対して全く何の責任もない子どもたち、未来の世代の人々に、この過酷な犠牲を強いなければならないことに、痛恨の想いです。

そしてもし再び、放射性物質の大量飛散という事態になった場合に、住民にどう情報が伝えられ、どう避難し、被ばくから守られるのか・・・その備えはいまだに全くなきに等しいという現状があります。福島県民は棄てられていると感じています。 今年に入り、屋外活動時間の制限も解除、屋外での運動会、鼓笛パレード、プール開き、海開き、祭りなどが、まるで復興の象徴であるかのように進められています。そのような流れの中で、子どもたちの健康にかけられ続けている被ばくの負荷が一体どのくらいになるのか、正確に知る術もありません。

ひとたび原発事故が起これば、どんな苦しみが襲うのか、どうか想像してください。 私たち被災者でさえも、その被害の全容を知ることができません。それは極めて広範に及び、徹底的に社会を破壊します。最も犠牲を強いられているのは、子どもたち、未来の世代の人たち、そして物言わぬ動物や虫や植物です。犠牲にされる未来を考えるとき、私は私たち大人世代の犯した罪の深さに、底知れぬ恐怖と悔恨の念を覚えずにはいられません。 

今、私たちは被害を、少しでも小さくしようと闘っています。タンポポや、蝉、魚などですでに見られ始めている突然変異。子どもたち・大人たちが経験している健康の変化。先日、保養に来ていた16歳の女子高校生が言いました。「福島が安全なんかじゃないって、私たちだって知っている。私は長生きはできないと思う。短い人生をどう生きたらいい?」。様々な健康上の問題に悩む子どもたちは、たくさん現れるでしょう。生まれる前の死を強いられるいのちもまた、数えきれないほどになるでしょう。未曾有の低線量被ばくの継続という事態に、私たちはいのちをつなぐためになすべきことを必死で探しています。  

裁判官のみなさん、福島で起きたこと、起きていること、これから起きることに、どうぞ目を凝らしていただきたいのです。 

私たちが子どもたちに課すものは、被ばくという重荷だけではありません。54基もの原発とそこで生み出し続けた死の灰を、これから次々と襲うであろう大地震の困難にも耐え、施設の老朽化にも耐え、閉じ込め管理し続ける綱渡り――これを私たちの大切な子どもたち、孫たちに課すのです。 再稼働というのは、この問題への着手を先送りにするだけでなく、手に負えない死の灰を膨大に生産することを是とするということです。原発は、1年間稼働するだけで、燃料として使うウランの1億倍の放射性物質を産み出します。

福島原発に閉じ込めておかなければならなかった核分裂生成物の恐ろしさ、手におえなさに、私たちは苦しんでいます。この苦しみは、時を経るほどに深刻になっていくでしょう。このようなものを、これ以上生み出してはいけません。 

原発をなお動かし続けるということは、福島原発事故が進行している中で、私たち人間社会の倫理の死、真実の死、民主主義の死をも意味するのではないでしょうか。  

また日本は、地殻の大変動期に入ったと言われています。現に、地震の数は、311後爆発的に増えています。近い将来、どこかで必ず大きな地震が来るでしょう。もう一度、原発震災を起こしてはなりません。その努力を、全ての場所で、あらゆる人が、しなければなりません。福島原発にも匹敵するほど古く、そして福島原発以上に脆く劣化した玄海原発は、地震を待たずとも大事故の危険性がありますが、地震の危険も想定しなければなりません。地殻の変動のもつ時間は、人間の文字の歴史よりも長いものです。大地震の記録がなかったところに突如大きな地震が襲う、ということを、私たちは2005年の福岡県西方沖地震で経験しているはずです。しかし、玄海原発の耐震性は全国平均より低い540ガル、福島原発事故後に装備したと九電が胸をはる電源車は、海抜の低い場所に2台並べて置いてありました。

ひとつひとつの対策の不備、問題点は、すでにたくさんの指摘されていると思います。福島原発事故で、暮らしを根こそぎ奪われ、未来を暴力的に変えられた被災者の1人として切に訴えたいことは、原発は、差別と犠牲を許容することなしには動きえず、手に負えない核分裂生成物を未来世代の人々に押し付けることが前提の、人道上許されない発電方法であるということです。そして、同時代を生きる私たち人間が、地殻の変動期を迎えた大地の上で生き延びていくためには、原発を止め、生み出した核物質の安全管理のために叡智を集めて取り組まなければならないのだということです。 この人類の難問を前に、一刻の猶予もありません。

私は、この未曾有の事態に対する人々の闘いに、裁判所がその本来の役割を果たしてくれることへの信頼をこめて、この裁判に加わりました。

私は、九州電力が、福島の悲劇を直視し、これまでの人命軽視利益追及姿勢を深く反省し、原発推進から降りるということを望みますが、この裁判では、全面対決をするとのことです。昨年冬、九州電力の方が私に言いました。「福島原発の事故で亡くなった人は一人もいない」と。九州電力は今のところ、これほどまでに大きな悲劇が眼前にあっても、それを受け止め、学び、成長するという力を持っていないように見えます。このこと自体悲劇ですが、もっと悲劇なのは、間違ったことが間違ったこととされないこと。

私は、九州電力が、どんなに現実から目をそむけ、嘘とごまかしの上に原発利権にしがみつき続けたとしても、その事実を見抜き、そのような不正義がまかり通ることを許さないと、たくさんの人々が声をあげることを望みます。

私たち市民が、裁判という正当で、民主的な手段をとるのも、より多くの人々がこの問題に取り組み、この誤った流れに司法が正しい判断を下し、歯止めをかけてくれると信じるからです。

私はクリスチャンではありませんが、311後、何度となく口ずさんだ、ラインホルド・ニーバーの祈りの言葉で、意見陳述を終わりたいと思います。

神よ 変えることのできるものについて、それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。変えることのできないものについては、それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを、識別する知恵を与えたまえ。

私たちは、この地球の生態系に生きるひとつの生き物であるという変えられない真実から再出発をするべきだと思います。それは、裁判官の拠り所である「良心」と「法」の絶対的基盤でもあります。何十万、何百万の人々が、裁判官の皆さんを応援していることをどうぞ忘れないでください。 ありがとうございました。

2012/08/18

福島原発事故 4事故調報告書の比較 (毎日新聞)

東日本大震災:福島第1原発事故 4事故調報告書の比較
(毎日新聞 2012年07月24日 東京朝刊)

 政府事故調が23日に最終報告書を公表し、東京電力福島第1原発事故を巡る主要な四つの事故調の報告書が出そろった。しかし、津波到達前に地震で1号機の冷却装置「非常用復水器」(IC)が損傷した可能性や東電の全面撤退問題、官邸の対応など主要部分で見解が異なり、真相究明には及んでいない。(肩書は事故当時)

 ◇地震原因説、真偽は

 「地震から津波到達前の間、第1原発1号機のICの配管とタンクに、冷却機能を失わせるような損傷が生じたと認められない」。政府事故調は、ICのほか、1〜3号機の原子炉格納容器や圧力容器、周囲の配管についても、地震による損傷の可能性を否定した。福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)と東電社内調査委員会(東電事故調)も同様だ。一方、国会事故調査委員会(国会事故調)は地震損傷の可能性を否定できないと指摘し、真っ向から対立している。

 ICは、旧型の原子炉特有の冷却装置。国内では第1原発1号機(運転開始1971年)と、日本原子力発電敦賀原発1号機(同70年)にしかない。事故はICを巡る東電の初動ミスが、1〜3号機の炉心溶融の引き金になったとみられ、各事故調はICの検証に多くのページを割いた。

ICは配管破断した場合、弁が閉じて自動停止する仕組みだ。当時のデータでは、地震直後には作動していたとみられ、政府事故調が地震損傷を否定する根拠の一つとなっている。しかし、国会事故調は「配管亀裂が微細なら自動停止しない」と反論している。

 地震で配管破断があれば、原子炉建屋内では大量の放射性物質が放出され、作業員の入室が困難になるとみられる。政府事故調は「実際にはそうなっていない」として破断を否定する。これに対し、国会事故調は「IC内の冷却水には、高濃度の放射性物質が含まれているわけではない」と指摘し、平行線をたどっている。

 さらに国会事故調が着目したのは、東電運転員が津波到達前の昨年3月11日午後3時過ぎ、ICを手動停止した経緯だ。東電は「急激な温度変化で原子炉の重要機器に負荷がかかるのを避けるため、運転マニュアルに従って手動停止した」と主張する。しかし国会事故調は「手動停止は、ICの配管から冷却水が漏れていないかを確認するため」との運転員の証言を新たに得て「東電の説明は不合理であり、それに執着する姿勢が、配管が破損したのではないかとの疑念を生んだ」と批判した。

第1原発は、頼みの綱の非常用電源を失ったことで炉心溶融へと進展した。東電は「津波による浸水」を理由に挙げるが、国会事故調は、津波到達時間などを検証した結果、少なくとも1号機の非常用電源の喪失は津波前だった可能性を指摘した。「原因は想定外の津波」とする東電の主張を覆す「新事実」とも言えるが、政府事故調はこの点について再検証しておらず、謎は残されたままだ。

 地震損傷を巡り、政府、国会の各事故調で見解がまったく異なるのは、1〜3号機の原子炉建屋内では放射線量が高く、重要機器の破損状況について把握できないことが背景にある。

 国会事故調は「建屋内部の詳細な検査ができない段階で、地震損傷はないと断言する客観的根拠はない」と主張。政府事故調も「放射線量が下がった段階で、建屋内の詳細な実地検証を必ず行うべきだ」と結んだ。

 第1原発が地震で損傷し「冷やす」「閉じ込める」の機能を失ったと断定されれば、その他の原発の耐震性についても見直しが必至となるが、政府、国会の両事故調は相反する見解を出しただけで、結論は将来に持ち越された。北海道大の奈良林直教授(原子炉工学)は「第1原発内の確認が困難である以上、各事故調とも状況証拠に頼らざるを得ない面もある。9月に発足する原子力規制委員会など政府は、事故原因の究明に今後も長期的に取り組む義務がある」と指摘する。

 ◇東電撤退検討か否か

東電が全面撤退を検討したとされる点については、民間事故調以外は否定的な見方だ。

 全面撤退問題は、清水正孝社長が3月14日夜から15日未明にかけて、海江田万里経済産業相や枝野幸男官房長官らへ直接電話し「第1原発からの退避もあり得る」との趣旨の発言をしたことがきっかけで疑念が広がった。政府事故調は、海江田氏らと同じころ清水氏から電話を受けた原子力安全・保安院の寺坂信昭院長が、一部の作業員の退避と受け止めていたことから「清水氏が寺坂氏とは違う趣旨の説明を海江田氏らにする必要はない」と推測した。

 社長が政府要人に直接電話した点については「清水氏は菅直人首相らから情報を迅速に入れないことを厳しく注意されており、一部退避の場合でも、海江田氏らに直接電話しても不自然とは言えない」と判断した。

 一方、東電のテレビ会議で、高橋明男フェローは14日夜「全員のサイト(第1原発)からの避難ってのは何時ごろになるんですかね?」「1F(第1原発)から、みんな2F(第2原発)のビジターホールに避難するんですよね」などと発言している。

 全員撤退を内部検討していたとも考えられるが、政府事故調に対し高橋氏は「『全員』『みんな』は、事故対応に当たっている者以外の避難予定者について述べた」と説明。テレビ会議では15日も事故処理の継続を前提にした発言が繰り返されており「高橋氏の主張は不自然とまでは言い難い」と判断した。

国会事故調は「ベント(排気)や海水注入の遅れで、官邸の東電への不信感が生じる中、清水氏から『原子炉のコントロールを放棄しない』『一部を残す』という重要な事実が伝えられず、海江田氏に誤解が生じた」と指摘。「清水氏のあいまいな相談と、官邸側の東電本社に対する不信感に起因する行き違いから生じた」との見方を示した。東電事故調は「全面撤退など考えたこともない」と否定した。

 一方、民間事故調は「聴取した多くの官邸関係者が一致して全員撤退と受け止めており、(全員撤退はないとする)東電の主張を支える十分な根拠があるとは言い難い」とみている。

 ◇官邸対応の問題点

 地震、津波、原発事故が重なった複合災害に対し、首相官邸は危機管理能力を発揮できなかったと、4事故調とも結論づけた。菅氏の現場介入が現場を混乱させたことが大きな要因と認定した。

「現場対応は専門的・技術的知識を持ち合わせた事業者が判断すべきで、政府や官邸が陣頭指揮をとる形で介入するのは適切ではない」。政府事故調は、菅氏の第1原発視察や1号機への「海水注入問題」を例に挙げ、官邸の対応を批判した。原子力について「他の閣僚より土地勘がある」(政府事故調ヒアリング)と自任する菅氏は3月12日朝、「後に政治的批判を受ける可能性がある」と忠告する枝野氏を振り切って視察を実行した。菅氏は「現場の皆さんの顔と名前が一致したのは大きなことだった」(国会事故調のヒアリング)と成果を力説したが、政府事故調は「代わりの人物を派遣するなど、より問題の少ない方法によるべきではないか」と記述した。海水注入問題についても、政府事故調は「現場対応に関わる問題について、官邸がどこまで関わるか検討する必要がある」と指摘した。

 国会事故調は「情報を把握できないまま介入し混乱を引き起こした。事故の進展を止められず、被害を最小化できなかった最大の要因」と認定。同時に「官邸は、真の危機管理意識が不足し、官邸が危機において果たすべき役割についての認識も誤っていた」と批判した。

東電事故調も、菅氏が吉田昌郎・第1原発所長らへ直接電話したことなどを「官邸の介入」と批判。「無用の混乱を助長させた」と指摘した。しかし、国会事故調は東電に対して「官邸の過剰介入を責めることが許される立場にない。東電がそうした混乱を招いた張本人だ」とクギを刺した。

 民間事故調は菅氏が原発の非常用電源の手配などに関与したことを引き合いに、上司が微細な問題について部下に口出しする「マイクロマネジメント」との表現を使って批判。「場当たり的で泥縄的な危機管理だった」と結論付けた。ただし「菅氏が東電に対して全面撤退を拒否したことで、東電に強い覚悟を迫った。今回の危機対応の一つのターニングポイントだった」と一部評価した。

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 ◇政府事故調・畑村委員長の所感(要約)

 放射線量が高く現地調査が困難なため、解明できない点が残った。事故や被害は継続しており、課題の一つが廃炉問題。関係機関が継続的に作業の監視をしなければならない。事故で得られた知見を100年後の評価にも堪えられるようにするには、一般化・普遍化された知識にまで高めることが必要だ。今回得られた主な知識を示したい。

(1)あり得ることは起こる。あり得ないと思うことも起こる

(2)見たくないものは見えない。見たいものが見える

(3)可能な限りの想定と十分な準備をする

(4)形を作っただけでは機能しない。仕組みは作れるが、目的は共有されない

(5)すべては変わるのだから、変化に柔軟に対応する

(6)危険の存在を認め、危険に正対して議論できる文化を作る

(7)自分の目で見て自分の頭で考え、判断・行動することが重要と認識し、そのような能力を涵養(かんよう)することが重要

 この事故で学んだ事柄を今後の社会運営に生かさなければならない。事故を永遠に忘れることなく、教訓を学び続けなければならない。

 ◇政府事故調のメンバー(敬称略)

委員長=畑村洋太郎(東京大名誉教授、失敗学)

委員=尾池和夫(国際高等研究所長、地震学)▽柿沼志津子(放射線医学総合研究所チームリーダー)▽高須幸雄(国連事務次長)▽高野利雄(弁護士、元名古屋高検検事長)▽田中康郎(明治大法科大学院教授、元札幌高裁長官)▽林陽子(弁護士、国際人権法)▽古川道郎(福島県川俣町長)▽柳田邦男(作家)▽吉岡斉(九州大副学長、科学史)

技術顧問=安部誠治(関西大教授、公益事業論)▽淵上正朗(コマツ顧問、工学博士、機械工学)

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 この特集は西川拓、中西拓司、阿部周一、奥山智己、岡田英、神保圭作が担当しました。

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 ■ことば

 ◇海水注入問題

菅直人首相は3月12日夜の官邸での会議の席上、1号機への海水注入により再臨界の可能性があるかどうか質問したが、班目春樹・原子力安全委員会委員長はその可能性を否定せず、同席していた保安院幹部も答えられなかった。その場でやりとりを聞いていた東電の武黒一郎フェローは、菅氏をおもんぱかって吉田昌郎・第1原発所長に電話。海水注入を中断するよう求めたが、吉田氏は実際には注入を継続していた。

2012/08/17

チェルノブイリ核事故の健康被害

チェルノブイリ核事故の健康被害

衆議院チェルノブイリ原発事故等調査議員団報告書

衆議院チェルノブイリ原子力発電所事故等調査議員団報告書

表紙~目次 表示(412KB)
1 派遣議員団の名称及び目的 表示(210KB)
2 派遣議員団の構成 表示(210KB)
3 派遣期間、派遣地 表示(210KB)
4 主な調査内容 表示(210KB)
5 派遣議員団の主な日程 表示(215KB)
6 所感 表示(762KB)
7 調査の概要
(1) ウクライナ
    ?チェルノブイリ原子力発電所視察 表示(1.69MB)
    (資料)・チェルノブイリ原子力発電所事故概要(外務省・大使館) 表示(678KB)
         ・チェルノブイリ原子力発電所事故概要(参考文献のとりまとめ) 表示(1.04MB)
         ・(福島原発事故と)チェルノブイリ事故との比較(官邸ホームページ) 表示(2.00MB)
    ?放射性廃棄物保管場「ブリャコフカ」及び予定地「ヴェクトル」視察 表示(9.62MB)
    ?チェルノブイリ博物館視察 表示(29.6MB)
    (資料)『チェルノブイリの長い影~チェルノブイリ核事故の健康被害』
         <研究結果の要約:2006年最新版>
表示(11.5MB)

    ?リトヴィン最高会議議長との会談 表示(908KB)
    (資料)・ウクライナの議会概要 表示(209KB)
    ?ルキヤノフ対日友好議連副会長等との懇談 表示(1.97MB)
    ?非常事態省チェルノブイリ立入禁止区域管理庁長官等との懇談 表示(2.11MB)
    (資料)・チェルノブイリ原子力発電所事故により放射性物質で汚染された
         地域の法制度に関するウクライナ国家法(1991年) 表示(1.38MB)
         ・チェルノブイリ原発事故被災者の状況とその社会的保護に関する
         ウクライナ国法(1991年)(概要及び本文) 表示(7.06MB)
         ・ウクライナ放射能汚染地図帳 表示(22.6MB)
    ?慈善基金「ゼムリャキ」メンバー(原発事故被災者)との意見交換 表示(3.34MB)
    (資料)・チェルノブイリ被災者の慈善市民団体「ゼムリャキ」の活動 表示(1.50MB)
         ・ウクライナ大使館ブリーフ資料等 表示(3.99MB)
(2) オーストリア
    ?IAEA(国際原子力機関)事務局との意見交換 表示(3.1MB)
    (資料)・IAEAの概要等 表示(137MB)
    ?ツヴェンテンドルフ原子力発電所(実際には使われなかった発電所)視察 表示(1.7MB)
    ?ノイゲバウアー・オーストリア国民議会第二議長との会談 表示(1.28MB)
    (資料)・オーストリアの議会制度等 表示(1.6MB)
(3) フランス
    ?ITER(国際熱核融合実験炉)視察 表示(1.03MB)
    (資料)・ITER関係資料等 表示(13.3MB)
         ・マルセイユ総領事館ブリーフ資料等 表示(575KB)
    ?フランス原子力政策関係者との会談 表示(1.41MB)
    (資料)・フランス大使館ブリーフ資料等 表示(3.07MB)

2012/08/10

世界最大級オーストラリアウラン鉱山  放射能高汚染水の漏出

世界最大級オーストラリアウラン鉱山がシャットダウン 
放射能高汚染水の漏出に打つ手なし

(2011年4月20日 農業情報研究所)

 世界のウランの10%を供給する世界最大級のウラン生産企業であるエナジー・リソーシズ・オブ・オーストラリア(Energy Resources of Australia)社のウラン生産拠点、ノーザンテリトリー(北部準州)のレンジャー鉱山が”シャットダウン”に追い込まれている。地域を襲った記録的大雨で鉱滓堆積ダムの放射能汚染水が、これを取り巻くアボリジニー居住地や世界遺産に登録されているカカドゥ国立公園の湿地に溢れ出す恐れが出てきたからだ。

 州都・ダーウィンから230キロ南東の鉱山には、100億リットルの高濃度汚染水が閉じ込められている。会社は、カカドゥ地域にあと100ミリの雨が降れば、ほとんど溢れんばかりになっている水をピット3として知られる操業中の露天掘り鉱山に汲み出すことを余儀なくされる。そして、雨期はまだ3週間続く。

 水を汲み出す場所としてはピット3があるだけで、ここにははすでに36億リットルの水が溜まってる。重金属と放射性物質を含む水を汲み出さねばならないとすると、すべての高濃度汚染水を処理せねばならない。しかし、消息筋によると、処理施設は、既存の水管理問題を解決する能力も持たない。この30年、毎日10万リットルの汚染水がカカドゥ地下の割れ目に漏れ出してきた。昨年完了した18ヵ月の調査は、水がどこへ行ったかも、将来、環境を損傷するかどうかも確定できなかったということだ。

 ハイグレードの鉱石の採掘の再開は、数ヵ月、おそらく何年か先になるという。

 Radioactive threat looms in Kakadu,smh,4.16
 http://www.smh.com.au/environment/radioactive-threat-looms-in-kakadu-20110415-1dhvw.html

 汚染水は、(事故)原発だけでなく、燃料採掘鉱山も垂れ流していた。おそらく、オーストラリアだけの話ではないだろう。原子力エネルギー利用は本当に環境に優しいのか。疑う理由がまた増えた。

事故を起こさなくても原発をやめなければならない理由

原発は、事故を起こさなくても様々な問題を引き起こしている。
まず、燃料のウランを掘る段階で採掘地の環境を破壊し、放射能で汚染して、住民に被曝させている。
原発の運転が始まると原発周辺にガンや白血病を多発させている。
そして、原発で働く人たちの被曝労働や海の環境を破壊する温排水の問題。
核燃料再処理工場からの膨大な放射能の排出問題。
さらに、100万年後まで毒性が消えない「放射性廃棄物」の問題などがある。

★ウラン採掘の段階から、世界の先住民族は核被害を受け続けている
(2011年06月10日 原水禁大会)から抜粋、要約

世界で2,050回以上行われた核実験は、全て先住民族の土地で行われ、いろいろな被害を先住民に押し付けてきた。65年間、核の被害を先住民族に押しつけ、核を持つ国が豊かになり、原発を地球温暖化に対する切り札として推し進めようとしている。それら全ては、先住民族の住む土地のウラン鉱石を掘り出すところから始まっており、先住民に被害を与え続けている。私たちは今や加害者の側に立っている。

全文

マイクロ小水力発電機 激安で開発

【長野】
マイクロ小水力発電機 飯田の5社激安に開発
(2012年7月30日 中日新聞)

 飯田市の企業五社が自前の機械部品や製造設備を共有することで、相場の約五分の一という一基五十八万円の「マイクロ小水力発電機」を開発した。最大出力は三キロワット。設置工事を含めた費用は百五十万円以下を見込む。水力発電は安定した電力供給が見込めることから注目されるが、コストの高さが課題となっている。八月から実証実験を始め、低コストを武器に全国発信を狙う。

 小水力発電は河川や水路に水車などを設置し、タービンを回して発電する。発電規模は千キロワット以下で、マイクロ小水力は一?十キロワット。地形をあまり変えずに設置でき、使用水量も少ないため、環境への影響が小さいのが利点とされる。

 開発は二月、科学技術振興機構が、同市のビジネスネットワーク支援センター「ネスクイイダ」(代表幹事・クロダ精機山本学社長)に「三年で収益が出る機械を」と依頼した。ネスクは中小企業が競争力を高めるために共同で受注、製品開発、販売を行う組織。三月から、モーター製造会社マルヒはじめ、サンリエ、シンワ工機、テクロン、矢崎製作所の会員五社が開発に乗り出した。

 三年で収益を出すという条件は厳しく、同機構から同じ依頼を受けた二カ所が断念した経緯がある。ネスクのオーガナイザー木下幸治さん(63)は悩んだが「構造はモーターと同じ。専用設備を導入せず、各社の部品、設備を活用しては」と思い付いた。各社の量産部品を組み合わせてマルヒで製造したところ、二百?三百万円という市場価格より大幅に安い価格を実現した。

 発電機はパイプ部分が全長六〇センチ、直径一四センチ、プロペラ部分は直径三〇センチ。重さは三十五キロ。最大出力の三キロワットは、一般家庭が屋根に設置する太陽光パネルと同規模だ。七月下旬から四機が順次完成し、八月から九州大、群馬大、岩手県釜石市、飯田市で実証実験される。

 木下さんは「日本のマイクロ小水力発電のナンバーワンを目指したい」と夢を描く。マルヒの後藤大治社長(45)は「効率の良いシステムを創り、節電や省エネに役立てたい」と話している。

(石川才子)

2012/08/07

「低線量被ばくの健康リスク無視するな」 フォイエルハーケ氏

「低線量被ばくの影響 健康リスク無視するな」
インゲ・シュミッツ・フォイエルハーケ氏インタビュー

(2012年8月6日 #原子力発電_原爆の子)から

120806【毎日新聞】
インタビュー:インゲ・シュミッツ・フォイエルハーケ氏 健康リスク無視するな

東京電力福島第1原発事故後、低線量被ばくや内部被ばくへの関心が高まっている。健康影響をどう考えるべきか。約30年前に原爆被爆者のデータを分析し、リスクを指摘したイングーシュミッツーフォイエルハーケ博士に聞いた。
【聞き手・須田桃子、写真・木葉健二】

インゲ・シュミッツ・フォイエルハーケ氏(76) Inge Schmitz-Feuerhake
1935年、ドイツ・ニーダーザクセン州生まれ。ブレーメン大で実験物理の教授として放射線の健康影響を研究。市民団体「ドイツ放射線防護協会」創設メンバー。04年からECRR委員長

欧州放射線リスク委員会(ECRR)
国際放射線防護委員会(ICRP)や国連科学委員会、各国の政府から独立し、放射線被ばくによる健康影響を科学的に評価することなどを目的に、97年に設立された市民団体。 03年と10年にリスク評価の方法などを示す勧告を発表している。本部はベルギー・ブリュッセル。

低線量被ばくの影響

――放射線影響研究所(放影研)が実施した原爆被爆者の健康リスク調査に対し、83年に批判する論文を出しました。どんな研究だったのですか。

放影研の調査は、直接被爆者の健康リスクを入市被爆者(原爆投下後に爆心地に入った人)や遠距離被爆者と比べていた。そこで私は日本人のがんなどの平均的な発症率や死亡率と比較し、入市被爆者や爆心地から2・5キロ以上離れた所にいた遠距離被爆者の相対的なリスクを求めた。その結果、白血病や呼吸器系・消化器系のがんによる死亡率は全国平均を上回り、発症率は甲状腺がん、白血病、女性の乳がんで1・5~4・1倍だった。放射性降下物(黒い雨、死の灰など)による内部被ばくの影響が大きいことを示す結果だが、当時の学界の常識とは異なっていたため、国際的な医学雑誌に論文を投稿したところ、いったん掲載を拒否された。その後、編集部から提案を受け、論文ではなく編集者への手紙という形で掲載された。

――放影研による原爆被爆者の研究は、国際放射線防護委員会(ICRP)による放射線の健康リスク評価の基礎データになっています。

◆確かに、放影研の調査は重要な情報だ。しかし、原爆投下から最初の5年間のデータが欠けている心身が傷つき適切な医療を受けられなくても生き残つた「選ばれた人々」のデータである▽原爆投下後の残留放射線を無視している――などの理由で、限定的な情報でもある。一方でこの数十年間、原子力施設の事故や原発労働者、医療用X線照射、自然放射線などに関して、さまざまな研究で低線量被ばくの健康影響が裏付けられてきた。だが、そうした研究の多くは広島・長崎のデータと矛盾することを理由に無視されてきた。ICRPのリスク評価は特に、長期間受け続ける低線量被ばくの影響を過小評価しており、がん以外の病気への意識も欠けている。

――白本の原爆症認定を巡る集団訴訟では残留放射線による内部被ばくで健康被害を受けたと訴えた原告側か勝訴してきました。しかし、国は「内部被ばくの影響は無視できる」という従来の主張を変えていません。

多くの国で同様のことが起きている。公の機関が内部被ばくを認めれば、原発労働者の健康リスクに対して責任を認めざるを得ないからだ。原発労働者は、福島で被はくした人々と同じ問題を抱えている。

――東京電力福島第1原発事故後、日本では政治家や一部の専門家が「100ミリシーベルト以下の被ばくはほとんど影響がない」などと説明してきました。

これまでの医学的知見を全く無視した説明だ。100ミリシーベルトを下回る線量でのがんの発症は既に医学誌などで報告されている。放射線は細胞の突然変異を促進させ、これ以下なら安全という線量の「しきい値」は存在しない。予防原則に立って被ばくを低減させる対策が必要だ。

「線量」市民が把握を

――放射能への不安から来るストレスのほうが放射線そのものによる健康リスクを上回るという意見や、過剰な反応による経済活動への影響を心配する声もあります。

◆騒ぐことのリスクが放射線による健康リスクを上回るという説明は、常になされている。ドイツでもチェルノブイリ原発事故後、同じ主張が展開されたが、科学的根拠のない主張だ。経済活動よりも、これから生まれる子どもを含めた市民の健康こそ、最も大事なことではないだろうか。もちろん、何も分からずに騒ぐのはよくない。環境中や食品の放射線量、個々の被ばく線量をきちんと測定し、それが何を意味するかを市民自らが知ろうとすることが大事だ。

――福島事故後の日本政府の対応をどう評価しますか。

◆福島第1原発の半径20キロ圏内を警戒区域に指定したことは評価している。避難区域の設定で年間20ミリシーベルトを目安としたことも、大規模な原発事故に準備のなかった政府の選択として理解できなくはない。だが現在、他の原発を再稼働させ、意識を「復興」に切り替えようとしていることは、国民に対して非常に無責任ではないか。
 広島・長崎の原爆、あるいは過去の大気圏核実験では、まき散らされた放射性物質の総量が明確だ。しかし福島の場合、正確な放出量が今もって分からない。質・量ともに原爆をはるかに上回る核燃料が無防備な状態で存在し、今後安全に回収できるかも不明だ。事故直後より大幅に少ないとはいえ、放射性物質の放出も続いている。事実の深刻さを認識すべきだ。

2012/08/02

発言者ほとんどが原発「0%」 福島で意見聴取会

発言者ほとんどが原発「0%」 福島で意見聴取会
(2012年8月1日 20時36分 東京新聞)

政府は1日、東京電力福島第1原発事故を受けた今後のエネルギー・環境政策について直接国民から意見を聞く意見聴取会を福島市で開いた。意見表明したほぼ全員が、2030年の原発依存度について「0%」の選択肢を主張し「県民99・9%の願いだ」などの意見に会場から大きな拍手が起きた。

聴取会は一般傍聴者も含め参加者は福島県在住者か、事故後に県外へ避難した人に限定、約150人が参加。発言者の人数を他会場の12人から30人に増やし、開催時間も1時間延長して約3時間とした。政府のエネルギー・環境会議が示した原発依存度0%、15%、20~25%の三つの選択肢に縛られないようにした。
(共同)

脱原発・政府不信、口々に 福島で意見聴取会
(2012/8/1 21:28 日本経済新聞)

 政府のエネルギー・環境会議が1日、福島市で開いた意見聴取会で、30人の登壇者のほぼ全員が、2030年の原発依存度の選択肢のうち「0%」を主張した。大飯原発(福井県おおい町)の再稼働に踏み切った政府への不信感は根強く、「聴取会がアリバイ作りに使われるのではないか」と疑う声も上がった。

 「選択肢が3つしかないから『0%』を選んだが、一日でも早く全原発を廃炉にしてほしい」。福島県伊達市の会社員、羽賀ますみさん(57)はそう訴えた。疑問だったのが、原発の利点として「低コストや環境の国際貢献」を挙げた政府の説明資料。「除染や賠償に莫大なお金がかかり、放射能を世界にばらまいたのに……。正しい資料で正しい選択をしたい」と壇上から力を込めた。

 「国の用意したシナリオを討論すること自体に矛盾を感じる」とは田村市の自営業、吉田正之さん(49)。再稼働した大飯原発の地下にあるとされる活断層の調査はこれから。「全原発を調査してデータを開示してから、初めて討論の場になるのではないか」

 福島市の主婦、穴沢明子さん(54)は「この意見聴取会を国のアリバイ工作にしてほしくない」と訴える。大飯原発の再稼働にあたり野田佳彦首相は「国民の生活を守るため」と発言。「私たち福島県人は国民ではないのか。もう信じられない」

 脱原発や国の責任を追及する発言に、会場からは時に発言者の声が聞こえないほどの拍手が寄せられた。「0%だと代替エネルギーが確保されていない」との発言にヤジが飛ぶ一幕も。終了後には、細野豪志環境相に出席者が詰め寄る場面もあった。

2012/08/01

原子力規制委 「ムラ人事」ではだめだ (東京新聞社説)

多くの人に広めたい東京新聞の重要な社説です。

原子力規制委 「ムラ人事」ではだめだ
(2012年7月31日 東京新聞社説)

 政府が新たに発足させる原子力規制委員会の人事案を国会に提示した。顔ぶれを見ると「原子力ムラ」との決別はとても期待できない。選考過程も密室で決まっている。ゼロから見直しすべきだ。

 原子力規制委員会の設置は福島原発事故の反省を踏まえて、原発推進を目指す原子力ムラ勢力から脱却した規制機関をつくることが、そもそもの目的だった。

 これまでの原子力安全委員会と原子力安全・保安院はともにムラの強い影響下にあった。国会の事故調査委員会報告が「規制する側が規制される側の虜(とりこ)になっていた」と指摘した問題だ。それが事故の遠因でもある。

 委員長はじめ委員は五年の任期中、破産した場合などを除いて罷免されないなど、委員会は国家行政組織法第三条に基づく高い独立性を付与されている。だからこそ、委員たちが本当に独立した人材であるかどうかが決定的に重要なポイントになる。

 ところが今回、委員長候補である田中俊一氏の経歴を見ると、とても原発政策について中立、独立の立場の人間とは思えない。国の原子力政策を推進してきた原子力委員会の委員長代理を務めたほか、核燃料サイクルの推進研究をする日本原子力研究開発機構の副理事長でもあった。

 福島事故の後、住民が帰還する汚染基準について楽観的な高めの数字を主張するなど、識者からは「田中氏は原子力ムラの村長さん」という批判も出ている。

 国会事故調報告は新しい規制組織の要件について高い独立性とともに、委員の選定は第三者機関に第一次選定として相当数の候補者を選ばせたうえで、国会が最終決定する透明なプロセスを経るよう提言した。だが、なぜ田中氏なのか、他の候補者はいなかったのかなど、まったく不透明だ。

 規制委は原発再稼働を認める現行の暫定基準を見直し、新たな基準作りも担う。このままでは規制委が原子力ムラに乗っ取られ、関西電力大飯原発だけでなく全国の原発がなし崩し的に再稼働されてしまうのではないか、という懸念も広がっている。

 人事案の最終決定は国会が同意するかどうかにかかっている。ところが、事故調報告を受けた国会は民主、自民両党の反対で黒川清事故調委員長の国会招致さえ決まらない。今回の人事が原発政策の大本を決めるのは間違いない。国会は事故調の提言に沿って委員選考をやり直してほしい。

2012/07/31

米GE 最高経営責任者 原発「正当化難しい」

米GEのCEO、原発「正当化難しい」 英紙に語る
(2012/7/31 9:54 日本経済新聞)

 米電機・金融大手ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルト最高経営責任者(CEO)は、30日付の英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューで、原子力発電が他のエネルギーと比較して相対的にコスト高になっていると指摘し「(経済的に)正当化するのが非常に難しい」と語った。

 発言の背景には、東日本大震災の影響で原発に関わるコストの上昇が見込まれる一方、技術の進歩で地中深くの岩盤から採取される「シェールガス」の増産が進んで、天然ガスの価格が10年来の安値水準を続けていることがある。

 イメルト氏は「天然ガスが非常に安くなり、いずれかの時点で経済原則が効いてくる」と述べて、原発が経済的に見合わなくなる可能性を示唆。「世界の多くの国が(天然)ガスと、風力か太陽光の組み合わせに向かっている」と述べた。

 GEは電機メーカーとして原子力発電の普及を担ってきた。現在も日立製作所と組んで原子炉メーカー世界大手の一角を占めるが、原発事業はGE全体の売上高の1%にも満たないという。(ニューヨーク=共同)


米GE「原発の正当化、難しい」 CEO発言、英紙報道
(2012年7月30日21時19分 朝日新聞)

 米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルト最高経営責任者(CEO)が、原子力発電について「正当化するのは大変難しい」と述べた、と30日の英紙フィナンシャル・タイムズが報じた。

 GEは日立製作所と原発事業で提携し、東芝―米ウェスチングハウス、三菱重工業―仏アレバとともに、原子炉メーカーの世界3大勢力の一角を占める。東京電力福島第一原発の1号機を建設したのもGEだ。

 ところがイメルトCEOは同紙に対して、世界の多くの国で価格が安いガスによる発電に移行しつつあると指摘し、「ガスと風力か太陽光発電の組み合わせに、多くの国が進んでいる」との見方を示した。

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