考・原発 私の視点 中谷巌 「資本主義 考え直すとき」

考・原発 私の視点 中谷巌 「資本主義 考え直すとき」
(2月11日 西日本新聞)から

かつては規制緩和や市場開放の旗振り役だった。小渕恵三内閣の「経済戦略会議」の議長代理としてまとめた提言は、小泉純一郎元首相が進めた構造改革の下敷きになった。だが、2008年のリーマン・ショック直後に著書で、新自由主義との決別を宣言。経済学者の「転向」は大きな反響を呼んだ。

「資本主義の推進力は、飽くなき資本の自己増殖の欲求。それを支えたのが科学技術の進歩で、原子力発電もその延長線上にある。科学の力でどうにでもなるという信仰の下、生態系では処理できない放射能という異物を生態圏に持ち込んだ」

「欲求が引き起こしたという意味では欧州債務危機も同じ。新自由主義を進めた結果、国境を越えて自由に移動するグローバル資本が登場し、その暴走がリーマン・ショックや欧州債務危機を招いた。富裕層と貧困層の格差を拡大し、社会を二極化した。グローバル資本は何の脈絡もなくもうかるところに飛んでいき、大工場を造ったり、乱開発をしたりして、もうからなくなれば別の国へ逃げていく。その土地で歴史を刻んできた人たちの生活を根こそぎ破壊してしまう点でも、原発事故と重なる。原発をやめることは、資本主義を大きく修正する話と似ている」

福島第1原発事故まで、日本の電力供給の3割を占めた原発。拡大が期待される再生可能エネルギーはコストや安定性の面で課題がある。経済活動への影響を懸念する経済界には原発再稼動を求める声が根強い。

「20年程度の猶予期間を設け、徐々に原発をなくすのが現実的だろう。その間にも死にものぐるいで再生エネルギー開発に徹底的に資源を投入すれば、コストも安く、安定供給できる技術が次々と生まれてくるに違いない。日本経済にとっても大きな希望になる。脱原発を決めたドイツやイタリアと連携して、国際世論に訴えることも重要だ」

「前例はある。1970年に米国でマスキー法という法律が施行された。自動車の排ガス中に含まれる一酸化炭素などの汚染物質を5年以内に10分の1以下にせよ、という途方もなく厳しい規制だった。日本の自動車メーカーは、世界に先駆けてこの基準をクリアする自動車を造り、世界に躍進する原動力になった。自然エネルギーでも、同じことが起こり得る」

「災後」という言葉を生んだ東日本大震災と原発事故。ひたすら経済成長を追い求めてきた私たちの価値観を揺さぶる。

「資本主義社会は市場で値段が付くものしか評価しないシステム。震災を機に見直された『絆』のように、値段は付かなくても価値があるものを、これからの社会に組み込んでいかなければならない。原子力から自然エネルギーへの転換は、自然と慈しみあいながら生きるという、人間本来の姿への回帰でもある」

「脱原発依存を掲げる政府が、原発輸出を後押しするのは完全な二枚舌だ。当面のビジネスチャンスがなくなるのは痛くても、もうけを優先する民間会社がリスクを抱える原発を運営する今までのやり方を見直し、長期的な再生エネルギー戦略を描く必要がある」

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