「考・原発 私の視点」 原田正純

考・原発 私の視点 原田正純 
(2012年2月3日 西日本新聞)から抜粋 

「原発推進」の国策が招いた福島第一原発事故と、公害の原点とされる水俣病。産業優先のひずみを地方に押しつけ、自然環境や罪のない人が被害を受けた点で、この二つの類似性を指摘する声がある。

「確かに共通点はある。明らかな人災で、非常に広範な人が影響を受け、地域社会が破壊されたことなどだ。しかし、安易に似ていると見てはいけない。水俣病が公式確認から半世紀を経ても解決しないのは行政や企業の怠慢。放射能汚染の問題は違う。事故が起きた以上、これから100%の対策を講じても、放射線の影響は20年、30年先に及び、長期にわたり解決できない。そもそも放射線の影響についての医学的知見はわずか。将来、がんになっても、原発事故の放射線によるものかどうか判定できない」

「原発が本当に安全なのなら、わざわざ過疎地に造らず、送電コストがかからない都会の真ん中に造ればいい。しかし水俣病は都会では起きず、原発は大都市にはない。公害は社会的、政治的に弱い人たちに集中する。世界の公害の現場を見て思うのは、そういう差別の構造が常にあるということだ」

原発の「安全神話」をつくり上げた原子力ムラと呼ばれる専門家集団。水俣病の原因をめぐっても、熊本大研究班の有機水銀説を否定する企業寄りと取れる学説も出てきて、被害が拡大する一因になった。

「学者の存在が問われている。原発について推進、反対、いろんな意見があっていい。そうした人たちが公平に議論する場が保障されるのがアカデミズムであり、成熟した民主国家だ。全国の国立大が推進派だけを優遇し、反対派を冷遇しているのなら大学として機能していない」

「事故後、多くの学者が『想定外』と言っていた。これは、自分が無能だと言っているようなものだ。ずっと原発反対を言ってきた学者もいるが、そうした人たちは大学などで偉い地位になっていない。水俣病問題と比べてもあまりに露骨だ。原発を推進したのは電力会社と国。巨大さと権力の大きさが水俣病の原因企業のチッソとは全然違うということだろう」

研究分野の枠を超えて多角的に水俣病を検証しようと、2002年、熊本学園大に「水俣学」を開講した。原発事故を機に「水俣学」から得られる教訓に注目が集まる。

「放射性物質を海に流せば拡散して薄まるから大丈夫という学者がいる。とんでもない。海で薄まった毒が食物連鎖で濃縮され水俣病が発生した。有機水銀と放射性物質の違いがあるとはいえ、都合が良すぎる。水俣病から何を学んだのか、と言いたい」

「学問の壁を取り払うことも重要だ。ある地震学者は『なぜ原発に関心が向かなかったのか』と後悔していた。専門的だからと議論を学者任せにしてはいけない。市民に分からないような議論を専門家にさせてもいけない。どこに問題があったのか、未来に対してどうしたらいいのか、一つ一つ解明していくことが大事だ」

医師 原田正純さん
はらだ・まさずみ 熊本大大学院の学生時代に水俣病と出会い、一貫して患者側に立ち診断と研究を行う。熊大助教授、熊本学園大教授など歴任。鹿児島県出身。77歳。



「健康調査」が「被害はなかった」という言い訳に使われないよう
(2011/09/10 福島大学安全安心な教育環境をめざす保護者の会)から抜粋

9月8日東京新聞24,25面 こちら特報部の記事「原発事故 水俣病に学べ・原田正純医師に聞く」という記事があります。

水俣病の発見と治療に尽力された原田医師はこの中で、原発事故を『人為的に引き起こされた広大な環境汚染、科学技術への過信、国策と企業の利益が優先され、住民が切り捨てられてきたこと』と水俣病と原発事故の共通点に思いを馳せています。

しかし、『原発の推進が国家そのものであり、その圧力は水俣病の比ではないだろう』、また『原発被害は水俣病よりはるかにやっかいだ。水俣病には手足の感覚障害など特徴的な症状がある。しかし、放射性物質によるがんなどの発症は他の原因による場合特別が付きにくい・・・』となどと指摘しています。

そして、『被害の認定をする機関は医者だけで構成してはだめだ。住民代表を入れる必要がある。』と訴えています。「日本の水俣病では、専門委員会は医師ばかりで構成された。複数の症状がなければ認定せず、地域や出生時期で線引きすることで患者を切り捨てた。一方カナダの水俣病では認定機関は医師以外に法律家や被害者代表たちも参加している」そうです。

25面には

「水俣病では健康調査が遅れ、被害が拡大した。今回福島県はすでに県民健康調査に着手している。原田医師は『初期に健康調査をやるのはいい。だが”被害は無かった”という行政の言い訳に使われてはならない』と注意を促す。『住民の不安を取り除く』目的で調査をすると、被害の過小評価につながりかねないからだという。原田医師は住民の長期的な健康管理や体調の異変に対応できる恒久的な窓口の設置が不可欠と説く一方、『調査が新たな差別を生まないようにしなければ』とも話す。『将来起こりうる差別にどういう手だてを講じるのか。政治家を中心に全力で考えないと。」とも書かれています。

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