山下俊一氏への朝日がん大賞の疑問  新聞社は「読者目線」が欠落

以下の記事(朝日がん大賞の疑問)は、よく書いてくれたが、1つだけ気になるところがある。それは、「山下氏のこれまでのチェルノブイリなどでの活動や功績を否定するものではない」という部分だ。

「山下氏のこれまでのチェルノブイリなどでの活動」もまた、深層をしっかりと検証する必要がある。なぜなら、山下氏は、チェルノブイリの被害を過小評価しているからだ。そして今、福島の被害をも過小評価しようとしている。

日本に「原子力村」があることは、多くの市民にも知られるようになったが、世界にも「国際原子力村」があることは、まだまだ知られていない。原発事故を起こした電力会社や国は、原発事故被害者への補償金や自分たちの責任を小さくしたいために被害を過小評価しようとする。そして、原発を推進している国々や国際原子力機関(IAEA)も「脱原発」の声が広がらないように過小評価に取り組む。世界保健機関(WHO)はIAEAとの協定があるためIAEAに同調している

こうした組織とつながっている山下氏は、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーとして「安全発言」に終始して、ヨウ素剤を飲むべきときにアドバイスもしていない

「国際原子力村」について解説している動画「チェルノブイリ・百万人の犠牲者」

現代ビジネス「ニュースの深層」
朝日がん大賞の疑問
新聞社は「読者目線」が欠落しているのではないか
から抜粋
(2011年09月18日 井上久男)

 朝日新聞社の外郭団体である公益財団法人・日本対がん協会(箱島信一理事長)が9月1日付で、今年度の「朝日がん大賞」に福島県立医科大副学長の山下俊一教授(長崎大学を休職中)を選出したことが物議を醸している。

 福島県では、山下氏は「100ミリシーベルトまでなら大丈夫だ」と言って避難を遅れさせた張本人とされ、こんな賞をもらっていいのかといった声が出ているからだ。「朝日新聞社には抗議の文書や電話も殺到している」(朝日新聞関係者)という。

罷免と求める記事と同じに「ひと欄」で紹介

 朝日新聞は9月1日付の朝刊ひと欄で山下氏を「がん大賞」受賞者として紹介。記事では、山下氏が旧ソ連のチェルノブイリ原発事故後の医療協力に現地に100回を超えて出向いたことや、福島第一原発の事故直後から現地入りして、福島県放射線健康管理リスク管理アドバイサーとして住民に放射線の健康影響を語ったことなどに触れている。

 一方で、同日付朝日新聞福島版では、3つの市民団体が福島県に対して県民健康調査の見直しを求める要請書と、放射能汚染で県民に退避を呼びかけなかったなどとして山下氏のアドバイザー罷免を求める6662筆の署名を8月29日に提出した、と報じている

 ひと欄では受賞を称える記事県版では罷免要求の記事を同じ日の紙面にそれぞれ載せるとは、それがニュースという価値判断であったとしても何となく不自然に感じる。

 市民団体のひとつである「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」事務局は筆者の取材に対してこう説明した。

「震災直後から山下氏は福島県内で講演しており、ラジオなどメディアにも頻繁に登場していました。山下氏が『大丈夫だ』と言ったおかげで、本当だったら避難して被ばくしなくて済んでいた人が被ばくしてしまった可能性があります。『がん大賞』受賞には、ふざけるなという気持ちです。抗議文を朝日新聞社や他メディアに送りました」

 また同ネットワークのホームページには9月6日付で「朝日がん大賞に山下俊一氏を選んだ朝日新聞に抗議します」と題する文書も掲載されている。その一部を以下に紹介する。

なぜ、山下俊一氏の行っている行為がこのような形で評価されるのか、理解に苦しみます。氏の発言が、子どもを守ろうとしている福島の親たちをどれだけ苦しめてきたのか、またこれからも福島医大の副学長として福島県民を苦しめるつもりなのか、貴社の選考基準には入っていなかったのでしょうか」

山下俊一氏は、3月下旬から福島県に入り、『年間100ミリシーベルトでも問題ない。妊婦でも子どもでも危険はない』という発言をくりかえしてきました。当時の同氏のこの発言は、福島市政だよりにも掲載され、福島県で『安全神話』を築き上げてきました。同氏は医学系の雑誌には、低線量被ばくのリスクを指摘する記事を書きながらも、福島では逆に低線量被ばくのリスクを全く否定する言動をとったのです」

記者は読者目線という基本に返るべし

 筆者も、多くの福島県民から罷免を求める要求が出ている山下氏が「がん大賞」を授けることは不適切ではないかと思う。日本対がん協会と記事を大きく取り上げた朝日新聞の見識に疑問を感じる。ただ、山下氏のこれまでのチェルノブイリなどでの活動や功績を否定するものではない

 山下氏を取り上げるひと欄を書いた記者は、朝日社内でも見識のある科学ジャーナリストとして知られる。こうした記者が何も問題意識がなく書いたとは思えない。「対がん協会」という朝日新聞の「社業」とのタイアップで書かされたのではないかと勘繰りたくなる。

 読者に迎合しろというわけではないが、「読者目線」がもう少しあれば、朝日新聞の中に山下氏の記事を目立つひと欄で掲載することを止める見識があってもいいのではないかと、筆者は言いたいのである。

 そもそも日本対がん協会の理事長を務める箱島信一氏は朝日新聞社長時代に、「武富士問題」を起こした張本人である。「武富士問題」とは、消費者金融の武富士から週刊朝日が多額の編集協力費をもらって記事を書こうとした話で、記事と広告の見境がなくなると問題視された。

 この頃からコスト管理を優先するような風潮も跋扈し、朝日のジャーナリズムはおかしくなり始め、「長野支局虚偽メモ事件」なども発生した。朝日新聞は「ジャーナリスト宣言」などの広告を打ち出し、名誉挽回に努めていたが、取材体制や取材力の弱体化は否めない。

 ある現役記者は「今や競合紙の読売新聞と比較しても朝日の地方総局の記者数は半分程度のところもあり、事件報道でも負けるケースが多い」と嘆く。同じくひと欄では、被災地の宮城県石巻市で医師免許がないのに医者として活動し、助成金を詐取しようとしていた人物を紹介し、お詫びしたばかりだ。

朝日ファンが離れる理由

 ジャーナリズムの基本は、読者の知る権利に応えることにあると筆者は思う。だから、「読者目線」は記者活動の原点にあるべきだとも感じる。今回のように、新聞社の外郭団体が、市民や読者が不信感を抱くような人物に賞を出し、新聞社がそれを大きく報じること自体、「読者目線」が欠落しているのではないか。

(中略)

山下俊一氏のひと欄は、読者離れを加速させる記事であろう。

(後略)

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