電力会社は思いやりを 原発問題描く映画監督・鎌仲氏

《考える 原発・震災》 
電力会社は思いやりを 原発問題描く映画監督・鎌仲氏


(2011年9月11日 中日新聞)

「浜岡」公開討論すべき

 内部被ばくや核廃棄物の問題をドキュメンタリー映画で告発し続ける鎌仲ひとみ監督(53)が10日、最新作「ミツバチの羽音と地球の回転」の舞台あいさつで浜松市を訪れた。作品は、原発建設をめぐる住民対立を描き、新エネルギー転換を訴える。鎌仲監督に収束しない原発事故から半年の意味、脱原発の行方を聞いた。

 ?原発事故から半年近い。

 「福島の子どもの被ばくが半年分、進んでしまった。私にはそうとしか受け止められない。これ以上、被ばくしない環境に移さないと。難しければ行政が健康検査を定期的に行い、病気の早期発見に努めるべきだ。チェルノブイリやイラクの劣化ウラン弾で苦しんだ子どもにも、2年後からがんや白血病が出た」

 ?映画では中国電力上関原発(山口県上関町)建設をめぐる町内の対立を追った。

 「福島の事故後、推進派は困った。また建設に時間がかかりそうだ、ひょっとしたらだめかもと。反対派は29年間、電力会社という巨大なものを相手にしてきた。内心、自分たちでは覆せないと思いながら。世論が『原発のない社会に』となり少し心の重荷が下りた印象を受けた」

 ?世論は変わったか。

 「なくせるなら原発をなくしたいと思う人は増えた。だが脱原発が普通の人々にとってどんなメリット、デメリットがあるのか議論が深まっていない。あるのは原発利権周辺の議論ばかり。でも事故前は圧倒的多数が無関心だった。映画で取材したスウェーデン人が『3%の意識が変われば社会はドミノ倒しに変わる』と言っている。映画はその3%を標的にしたつもりだ」

 ?浜岡原発も停止した。

 「当然。中部電力は防波壁を高くするそうだが、津波で壁ごと押し流されれば壁が大きいほど事故のダメージは増す。小手先だ」

 ?中電は再開を目指している。

 「その前に御前崎市長、市民、中電の3者で公開討論したらいい。(再稼働を待つ)志賀原発が立地する石川県で4月、公開討論に招かれた。金沢市長、民主党、自民党の国会議員が出て市民もいっぱい来た。祖父が福島から金沢に避難中の出産前の女性が国会議員に再稼働への考え方をただしていたのが印象的だった。公開の場での発言には責任が生じる。静岡でもやるべきだ」

 ?希望はあるか。

 「新エネルギーを伸ばし、持続可能な社会へ転換する道を、人々が選ぶのではないかとの希望を持っている。福島のため日本全体が優しさ、思いやりを示したことも希望。電力会社にはそうした姿勢がないのが不思議だ」

   ◇  ◇

 「ミツバチの羽音と地球の回転」は16日まで、浜松市中区田町のシネマイーラで上映。

  かまなか・ひとみ  1958年生まれ。早大卒。2003年、ドキュメンタリー映画「ヒバクシャ?世界の終わりに」で、米軍の劣化ウラン弾で白血病、がんになったイラクの子どもを取材。06年、核廃棄物の再利用の危険を訴える「六ケ所村ラプソディー」を国内外650カ所で上映。10年4月、「ミツバチの羽音と地球の回転」を発表。著書に「内部被曝(ひばく)の脅威?原爆から劣化ウラン弾まで」(ちくま新書)。富山県氷見市出身。

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