原発ゼロへ再考を 原子力は高くつく (東京新聞・中日新聞社説)

これまで12兆円以上もの税金を投入してもトラブル続きで動かない「もんじゅ」や「核燃料再処理工場」。これらの核燃料サイクル事業には、毎年1600億円もの維持費がかかっています。その予算を再生エネルギー事業に使うべきだと東京新聞。

原発ゼロへ再考を 原子力は高くつく
(2015年11月19日 中日・東京新聞【社説】)

 きょうは原発推進の人たちにとくに読んでいただきたい。原子力発電は結局、高くつく。そろばんを弾(はじ)き直し、原発ゼロへと考え直してみませんか。

 やっぱり金食い虫でした。

 原子力規制委員会が日本原子力研究開発機構に示した、高速増殖原型炉「もんじゅ」の運営を「ほかの誰かと交代せよ」との退場勧告は、その操りにくさ、もろさ、危険さを、あらためて浮かび上がらせた。

 そして、本紙がまとめた「核燃料サイクル事業の費用一覧」(17日朝刊)からは、もんじゅを核とする核燃料サイクルという国策が、半世紀にわたって費やした血税の大きさを実感させられる。

<巨費12兆円を投じて>

 原発で使用済みの核燃料からプルトニウムを抽出(再処理)し、ウランと混ぜ合わせてつくったMOX燃料を、特殊な原子炉で繰り返し利用する。それが核燃料サイクルだ。

 その上もんじゅは、発電しながら燃料のプルトニウムを増やしてくれる。だから増殖炉。資源小国日本には準国産エネルギーをという触れ込みだった。

 それへ少なくとも12兆円以上。もんじゅの開発、再処理工場(青森県六ケ所村)建設など、核燃サイクルに費やされた事業費だ。

 国産ジェット機MRJの開発費が約1800億円、小惑星探査機「はやぶさ2」は打ち上げ費用を含めて290億円、膨らみ上がって撤回された新国立競技場の建設費が2520億円…。

 12兆円とはフィンランドの国家予算並みである。

<1日5500万円も>

 ところが、もんじゅは事故や不祥事、不手際続きで、この20年間、ほとんど稼働していない。止まったままでも一日5500万円という高い維持管理費がかかる。

 もんじゅは冷却に水ではなく、大量の液体ナトリウムを使う仕組みになっている。

 ナトリウムの融点は98度。固まらないように電熱線で常時温めておく必要がある。1700トンのナトリウム。年間の電力消費量は一般家庭約2万5000世帯分にも上り、電気代だけで月1億円にもなるという。

 発電できない原子炉が、膨大な電力を必要とするという、皮肉な存在なのである。

 もんじゅ以外の施設にも、トラブルがつきまとう。さらなる安全対策のため、再処理工場は3年先、MOX燃料工場は4年先まで、完成時期が延期になった。MOX燃料工場は5回目、再処理工場に至っては、23回目の延期である。

 研究や開発は否定しないが、事ここに至っては、もはや成否は明らかだ。これ以上お金をつぎ込むことは是とはされまい。

 核燃料サイクルが、日本の原子力政策の根幹ならば、それはコストの面からも、根本的な見直しを迫られていると言えそうだ。

 欧米で原発の新増設が進まないのは、3・11以降、原発の安全性のハードルが高くなったからである。

 対策を講ずるほど費用はかかる。原発は結局高くつく。

 風力や太陽光など再生可能エネルギーにかかる費用は普及、量産によって急速に低くなってきた。

 国際エネルギー機関(IEA)の最新の報告では、太陽光の発電コストは、5年前より6割も安くなったという。

 ドイツの脱原発政策も、哲学だけでは語れない。冷静に利益を弾いた上での大転換だ。

 原子力や輸入の化石燃料に頼り続けていくよりも、再生エネを増やした方が、将来的には電力の値段が下がり、雇用も増やすことができるという展望があるからだ。

<そろばん弾き直そう>

 核燃料サイクル事業には、毎年1600億円もの維持費がかかる。

 その予算を再エネ事業に振り向けて、エネルギー自給の新たな夢を開くべきではないか。

 電力会社は政府の強い後押しを得て、核のごみを安全に処理するあてもまだないままに、原発再稼働をひたすら急ぐ。

 金食い虫の原発にこのまま依存し続けていくことが、本当に私たち自身や子どもたちの将来、地域の利益や国益にもかなうのか。政治は、その是非を国民に問うたらいい。

 持続可能で豊かな社会へ向けて、そろばんをいま一度弾き直してみるべきだ。

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核燃料サイクルに12兆円 コスト年1600億円 国民負担続く
(2015年11月17日 東京新聞 朝刊)

 高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)が廃炉になる可能性も出てきたことを受け、本紙はもんじゅを中核に国が進めてきた核燃料サイクル事業にかかったコストを、あらためて調べた。いずれ必要になる廃炉費用も考慮し集計した結果、少なくとも12兆円が費やされ、もんじゅが稼働していない現状でも、今後も毎年1600億円ずつ増えていくことが分かった。実用化のめどのない事業に、巨額の国民負担が続く実態が浮かんだ。 (小倉貞俊)

 本紙は、事業を進めてきた経済産業、文部科学両省のほか、電力会社や関係団体、立地自治体などにコストを問い合わせ、集計した。高速炉開発が国家プロジェクトになった1966年度から本年度まで、判明しただけで計約12兆2200億円に上った。

 本紙は2012年1月にも同様の集計をし、10兆円弱との結果を得た。今回、2兆円強膨らんだ理由は、新たに廃炉・解体費などの試算額が判明し、その後にかかった運営費なども加えて精査したためだ。

 部門別にみると、最も高コストなのは、原発で出た使用済み核燃料を溶かしてプルトニウムを取り出す再処理工場(青森県六ケ所村)の7兆円強。原子力規制委員会が文科省に運営者を交代させるよう勧告したもんじゅと、関連の試験施設「RETF」の建設・運営費は計約1兆900億円だった。

 廃炉費用は少なくとも1000億円は必要になるとみられるが、冷却材に危険なナトリウムを大量に使っており、きちんと見積もられていない。核燃サイクルのコストは、電気事業連合会(電事連)が10年以上前の03年、各施設の建設、操業(40年)、解体、最終処分までの総額を約19兆円との試算をまとめた。

 しかし、もんじゅはほとんど稼働せず、再処理工場や混合酸化物燃料(MOX燃料)工場は未完成。ウラン資源を循環させるサイクルがほとんど動いていない中、本紙の集計結果からは、既に電事連の試算額の6割以上が使われた。

 今後40年操業すれば、さらに巨額のコストが必要になる。これは、核燃サイクルを続ければ、電事連がはじいた19兆円では収まらないことを示唆している。

 核燃サイクルの財源は、税金か、電気料金に上乗せされた分かの違いはあるものの、国民負担であることに変わりはない。

◆見切りつける好機

 <大島堅一・立命館大教授(環境経済学)の話> 実現の見通しが立たない核燃料サイクルに、12兆円以上が費やされてきた事実は深刻に受け止める必要がある。何も生み出さない事業に、今後も毎年1600億円ずつ消えていくのは、民間企業ではあり得ず、異常な事態といえる。(もんじゅ問題は)核燃サイクルに見切りをつける大きな好機ではないか。国民も、自分のお金が税金や電気料金の一部として、見込みのない事業に使われている現実をよく考える必要がある。

◆本紙集計

 省庁や電力事業者、団体などが取材に回答、公開している数字を集計した。放射性物質で汚れ、出費が確定している廃炉・解体費用も当事者による数字をそのまま加えたが、試算は約10年前と古く、実際にはもっと高額になるとみられる。国は使用済み核燃料の中間貯蔵施設も核燃サイクルの一環としているが、貯蔵された核燃料は再処理されない可能性もあるため、集計から除いた。自治体への交付金は、核燃サイクルを対象にしたものに限定し、一般の原発関連が含まれる可能性がある交付金は全額、集計から除いた。

巨額を投じてきた核燃料サイクル事業

45年で10兆円投入 核燃サイクル事業めどなく
(2012年1月5日 東京新聞)から抜粋

原発から出る使用済み核燃料を再利用する「核燃料サイクル」事業に、この45年間で少なくとも10兆円が投じられたことが本紙の調べで分かった。税金や電気料金として支払ったお金が、関連施設の建設費や研究費に使われてきたが、事業が軌道に乗るめどは立っていない。計画の延期を繰り返しても、国策として進めてきたことから費用が膨れ上がった。国は総費用を集計していない。

東京新聞:45年で10兆円投入 核燃サイクル事業めどなく(全文)

六ケ所村の核燃再処理工場:完成、2年延び12年に 相次ぐトラブルで /青森
(2010年9月11日 毎日新聞)から抜粋

社長「延期は最後」と表明

 日本原燃(六ケ所村)は10日、使用済み核燃料再処理工場の完成時期を、予定の10月から12年10月に延期すると発表した。2年という過去最長の延期は国が進める核燃料サイクル政策や税収を期待する地元自治体に大きく影響を与えかねない。川井吉彦社長は県民におわびした上で「延期は今回で最後との覚悟で全身全霊で取り組む」と決意を述べた。

 原燃が発表した新しい工事計画によると、11年度内をめどにガラス溶融炉の温度計追加設置工事や茨城県東海村の実規模試験施設と実機の比較検証などを進める。検証はトラブルの起きた炉とは別の系統も含めた2系統で行い、確実なデータを取れるよう「裕度を持たせた」工程にした。ガラス固化試験も11年度内中に始めたい考えで、2系統で性能を確認し、12年10月の完成を目指す。

 原燃は昨年8月、完成時期を1年2カ月延期した際、「ゆとりある」工程表を作成したが、相次ぐトラブルで計画が崩れ、来月の完成が間に合わなくなった。この間に得られた知識などを反映させた上で試験を確実に成功させたい考えで、川井社長は新工程を「不退転の覚悟で取り組む」と強調した。

国は不退転の決意で

 六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場は、全国の原発から出る使用済み核燃料からウランとプルトニウムを取り出し、再利用する核燃料サイクル政策の中核を担う施設。2年という過去最大幅の延期は計画全体に影響を与えるだけでなく、政策に対する国民の懸念や不信を増幅しかねない。

 度重なる延期は、高レベル放射性廃液をガラス固化する試験でトラブルが相次いだのが原因だ。再処理工場の当初の完成予定は97年12月。既に10年以上が経過し、事業指定を受けてからの延期は15回にも上る。地元自治体の税収が先送りとなる一方、増え続けるのは当初予定の3倍近い建設費と「核のごみ」と指摘される使用済み核燃料だけだ。

 国内の原発からは年間約1000トンの使用済み核燃料が発生しており、11年度には工場の貯蔵プールがほぼ満杯に達する。原発敷地内での保管長期化も進んでおり、第2再処理工場用として建設中のむつ市の中間貯蔵施設(12年7月操業予定)に一部を運び込まざるを得ない状況だ。再処理工場の遅れが計画に影響するのは避けられない。海外から廃棄物の返還も進む中、最終処分地選定も前進しておらず、核燃料サイクルの課題は山積みだ。

核燃再処理工場の完成、18年度上期に 延期23回目=日本原燃
(World | 2015年 11月 16日 17:08 ロイター)から抜粋

[東京 16日 ロイター] – 日本原燃は16日、青森県六ヶ所村で工事を進めている核燃料再処理工場とウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料工場の完成時期をそれぞれ延期すると発表した。

核燃料施設の新規制基準に対応する工事によるもので、16年3月としていた再処理工場の完成は18年度上期に延ばした。再処理工場の延期は23回目。

MOX燃料工場は17年10月の完成を目指していたが、19年度上期に延期した。同工場の延期は5回目。

再処理工場の完成延期は、事故発生時の対応拠点の「緊急時対策所」、重大事故の際に必要となる水を確保する「貯水槽」をそれぞれ新設することや、配管補強工事が理由としている。

MOX燃料工場は、MOXを粉末の状態で取り扱う設備の耐震性の扱いを最も厳しい分類に変更することに加え、火災対策の強化により工事が延びるという。

延期に伴う工事費の増加は、現在詰めており未定という。六ヶ所再処理工場は、相次ぐ工事延期により、当初見込みで7600億円だった建設費が2兆2000億円に膨らんだ経緯がある。

再処理工場は、原発から発生する使用済み核燃料を化学的に処理(再処理)してウランとプルトニウムを取り出すことを目的とした施設で、MOX燃料工場は取り出したウランとプルトニウムを混ぜ合わせて燃料にする施設。

六ヶ所村の再処理工場 23回目の“完成延期”
(2015/11/16 18:26 テレ朝 news)

 核燃料サイクルが行き詰まりです。原子力委員会による高速増殖炉「もんじゅ」の勧告に続き、今度は青森県六ヶ所村の再処理工場がまたも延期となりました。

 日本原燃は、六ヶ所村で建設中の使用済み核燃料の再処理工場の完成を、来年3月の予定から2018年度上期に延期すると発表しました。実に23回目の延期です。また、MOX(プルトニウム・ウラン混合酸化物)燃料工場も、2017年10月の完成予定から2019年度上期に延期となりました。原子力規制委員会の安全審査が長引くとともに、追加の安全対策工事などで時間が掛かるためとしています。今後、2つの工場合わせて2兆4000億円とされる建設費がさらに膨らむ可能性が高まっています。核燃料サイクルを巡っては、高速増殖炉のもんじゅが運営主体を変えるよう勧告を受けていて、サイクル政策は行き詰まっています。

23回目の延期 六ヶ所村の再処理工場 2016年→2018年

使用済み核燃料再処理工場の完成延期は23回目

MOX燃料工場の完成も2017年→2019年に延期

2つの工場で2兆4000億円とされる建設費がさらに膨らむ可能性が高い

核燃政策 原子力規制委が文科大臣に「もんじゅ」の運営主体を変えるよう勧告→行き詰まり

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