世界の運命を暴力によって 蹂躙させない唯一の方法は

世界の運命を暴力によって 蹂躙させない唯一の方法は
私たち一人ひとりがあらゆる暴力を肯定しないことにある
マハトマ・ガンジー

マハトマ・ガンジー

「イスラム国」シーア派の暴走も一因
フリージャーナリスト 志葉玲氏

(2015年2月3日 西日本新聞)より抜粋

イスラム国は現在こそシリア北部ラッカに拠点を置くが、バグダディ指導者はイラク出身。側近2人も、もともとは旧フセイン政権の軍人である。

英紙「ガーディアン」のインタビューに応じたイスラム国構成員は「われわれの存在は米軍の刑務所なしにはあり得なかった」と語っている。バグダディ氏自身、米軍管理下にあったイラク南部バスラのブッカ収容所に拘束され、そこで過激思想を持つようになったといわれる。

イラクを占領した米兵はテロ掃討作戦の名目で、地域の男性、ときには女性や未成年まで、テロに関与した証拠もなく拘束した。収容所では全裸にしての殴る蹴るの暴行、電気ショックや性的虐待などが繰り返された。私の知人の兄弟もブッカ収容所に拘束されていたが、米軍への怒りゆえ「過激派の養成所のようだった」と話している。

フセイン政権崩壊後に米国の後ろ盾で発足したイラク政府の罪も大きい。旧政権の軍人や役人らを公職から追放、これらの層が後にイスラム国に合流している。何より、イスラム教シーア派至上主義が主導する政府によるスンニ派への迫害こそ、兵力2万~3万人程度のイスラム国がイラクでも勢力を拡大した原因だろう。

2005年以降、イラク治安部隊やシーア派民兵は、スンニ派というだけで人々を数万人規模で拘束した。中には、電気ドリルで体中に穴を開け、そこに酸を流し込むなどの凄まじい拷問の末、殺害された者も多い。首を切断するなどの残虐行為はイスラム国の「専売特許」ではなく、シーア派民兵もさんざんやってきた。

昨年末に人権団体の「アムネスティ・インターナショナル」がその実態を報告、責任追及を求めたが、国際社会の反応は非常に鈍い。

イラク西部では13年末、非暴力の抗議活動を政府が武力で弾圧。以来、現在に至るまでテロ掃討名目でファルージャやラマディなどの都市へ空爆や砲撃を行っており、数十万人が避難民となっている。これらの地域の住民にとっては、イラク政府こそが最大の敵であり、本音ではイスラム国を忌み嫌いながらも「敵の敵は味方」と手を組まざるを得ない状況にある。

確かにイスラム国は許しがたい存在だが、日本がすべきことは、対テロ有志国連合に参加するのではなく、イラク政府に対し、各宗派や少数民族との和解を促すことだ。それが奏功すれば、イスラム国の勢力は大幅に縮小するだろう。

イラク戦争で奪われた莫大な人命の犠牲- 総括をしないのは人類の汚点 

(2013年3月20日 yahooニュース)から抜粋

2003年3月20日にイラク戦争が開始されてから10年がたつが未だこの戦争の過ちについて十分な総括が国際的になされていない。イラク戦争は、国連安保理の許可を得ない武力行使であり、明らかに国連憲章違反であったし、その理由とする「大量破壊兵器」は存在しなかった。この誤った戦争により、イラクはあまりにも壊滅的な打撃を受け、人命を奪われた。

アメリカ、ジョンホプキンズ大学ブルームバーグ公共衛生大学院の研究では、2003年のイラク戦争の結果として約65万5千人のイラク人が死亡したと推定、WHOはイラクで2003年3月から2006年6月までに15万1千人が暴力によって死亡したと推定している。

子どもたちの遺体を前に涙をぬぐう男性

2004年4月と11月の米軍によるファルージャ総攻撃では、戦争犯罪に該当する「民間人攻撃」が行われたとされ、多数の民間人が殺害されたという。白リン弾や劣化ウラン弾等残虐兵器が民間人の居住地で、市民に対する危害を最小限に抑える手段を一切講ずることな大量に使われ、おびただしい死者が出た

白リン弾使用については、イタリアのドキュメンタリーでその残虐性、極めて残酷で深刻な被害が暴露されている。アメリカ軍がアブグレイブやその他の刑務所で、拷問・非人道的取り扱いに該当する身体的虐待や侮辱などの行為をイラク人拘留者に対して行ったことは多くの証拠に裏付けられている。

こうした行為は何より戦争犯罪の可能性が高いが、きちんとした調査は行われず、ほとんど誰も責任を問われていない。訴追されるのは少数の末端の兵士だけ。意思決定に関わったトップレベルの人々、ブッシュ元大統領やラムズフェルド元国防長官、拷問を正当化した司法省、国防省関係者等の責任は全く問われていない

超大国が大規模かつ残虐な人権侵害をして幾多の罪もない人を殺害しても誰も責任を問われない、そのようなことでは、大国の都合でおびただしい虐殺が今後も果てしなく繰り返されるだろう。

イラクにおける人命の被害は決して過去のことではない。戦争後、戦争当時生まれてすらいなかった子ども、何の罪もない子どもを今も残酷に苦しめている。イラク戦争で米軍等が使った大量の有害兵器が環境汚染を引き起こし、それは特に子どもたちの生命と健康を危機にさらし続けている。

英インディペンデント紙によると、「イラクの医者たちは、2005年以来深刻な先天的障害を負った乳幼児の数の著しい増加を訴えている。先天性障害は頭が先天的に二つの頭をもった赤ちゃんから、下肢の傷害を負った赤ちゃんまで多様な症例がある。彼らは、ファルージャでのアメリカ軍と反乱軍の間の戦い後、がんの発症率が以前よりもはるかに高くなったとも話している」と述べている。

ファルージャにあるファルージャ総合病院。その関わった調査・分析によれば2003年以来ファルージャで生まれた15%の乳幼児に先天的異常があるという。

こうした先天性異常の原因の一つの可能性として考えられるのは、劣化ウラン(DU)弾である。国連環境計画(UNEP)の情報公開要請にも関わらず、アメリカ政府が2003年のイラク戦争で使用されたDU弾の具体的な量や投下位置を情報公開しないため、使用量や投下位置は今も特定されていない。2003年のイラク戦争においては約1.9トンのDU弾が使用されたと公表しているが詳細は不明である。

これ以上子どもたちを苦しめないために、なぜ先天性異常が頻発しているのか、原因を特定し、原因を除去する等効果的な予防方法を打ち立て、健康を守り治療をする政策が必要であり、被害者は補償を受けるべきだ。有害物質を大量に垂れ流したまま、環境汚染の責任を全くとらず、どんな有害物質をどの程度どこに使ったかも公開しないまま、子どもたちが死んでいくのに何の責任も取らない、これは今も続く米国等の重大な人権侵害だと思う。

伊藤 和子
弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長

惨事便乗の政治 山口二郎
(2015年2月1日 東京新聞)

イスラム国によるテロに関連して、安倍晋三首相は国会における議論の中で、この種の事件において邦人を救出するために自衛隊を派遣できるよう、法整備を進める必要があると力説している。これこそまさに、カナダ人ジャーナリスト、ナオミ・クラインの言うショックドクトリン、日本語で言えば惨事便乗型の政治である。

とらわれた同胞を助けられないことに多くの良心的な人々が無力感を覚えている状況に付け込み安倍首相は偽薬を売り込んでいるようなものである。この偽薬はたちが悪い。実際に使用すれば問題はさらに悪化するが、それは薬の量が足りないからと偽政者は言いつのり、より大量の薬を投入させようとする。人々も感覚がマヒして、同胞を守るためにはこの薬を使うしかないと興奮する。犠牲が出れば出るほど、人々は強い薬を求める。

歴史を振り返れば、この薬の大量投与の揚げ句に戦争が起きている例が山ほどある。現実の問題として、自衛隊が中東に出動しても、人質を力ずくで奪還することなど不可能である。

日本人が人質に取られ、殺されたという惨事に付け込んで有害な薬を売り込むのは、悪辣な詐欺師の手法である。人質事件をテコに自衛隊の行動ルールを変えるなどというすり替えを許してはならない。野党もメディアもひるんではならない。(法政大教授)

自衛隊来るほうが危険 
アフガンで人道支援 ペシャワール会 中村哲氏

(2014年5月16日 西日本新聞)から抜粋

アフガニスタンで医療活動や灌漑水利事業などの人道支援を30年間続けている非政府組織『ペシャワール会』(事務局・福岡市)の現地代表中村哲氏(67)は15日、西日本新聞の電話取材に応じ、集団的自衛権が行使された場合、安倍晋三首相の主張とは逆に、海外で邦人が危険に巻き込まれる可能性が高まることを指摘。憲法9条の存在が国際社会での日本の立場を高めていることを強調した。

アフガニスタン人にとって、日本は軍事行動に消極的な国だと思われています。一言で言うと、敵意のない国。これは、自衛隊の行動を縛ってきた、憲法9条の威力です。日本には他国の戦争に加担しないという『掟』があることを知っています。

アフガニスタンで活動する中で、米軍のヘリコプターに撃たれそうになったり、米軍に対する反政府側の攻撃に巻き込まれそうになったりしたことはありますが、日本人だからという理由で標的にされたことはありません。この『掟』があるからです。

今、活動拠点のアフガニスタン東部のジャララバードには私以外、外国人はいません。大勢いた欧米の人は逃げ出しました。米同時多発テロの後、米国を中心とする多国籍軍が集団的自衛権を行使し、軍服を着た人々がやって来てから、軍事行動に対する報復が激しくなり、国内の治安は過去最悪の状況です。

アフガニスタン人は多くの命を奪った米国を憎んでいます。日本が米国に加担することになれば、私はここで命を失いかねません。安倍首相は記者会見で「(現状では)海外で活動するボランティアが襲われても、自衛隊は彼らを救うことはできない」と言ったそうですが、全く逆です。命を守るどころか、かえって危険です。私は逃げます。

9条は数百万人の日本人が血を流し、犠牲になって得た大いなる日本の遺産です。大切にしないと、亡くなった人たちが浮かばれません。9条に守られていたからこそ、私たちの活動も続けてこられたのです。私たちは冷静に考え直さなければなりません。

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