未来を築けるか:再生可能エネルギー 識者に聞く

日本環境学会会長が脱原発と再生可能エネルギーの重要性について、わかりやすく語っています。多くの人に読んでほしい記事です。(毎日新聞)

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未来を築けるか:再生可能エネルギー 識者に聞く/上 /京都
https://mainichi.jp/area/kyoto/news/20100122ddlk26040390000c.html

◆日本環境学会会長、和田武・元立命館大教授
 ◇脱原発の姿勢、明確に ドイツの市民参加に学ぶ

 日本は再生可能エネルギーで未来を築けるのか。ドイツの先進事例に詳しく「飛躍するドイツの再生可能エネルギー」(世界思想社)の著書がある日本環境学会会長の和田武・元立命館大教授(環境保全論・資源エネルギー論)に聞いた。2回に分けて紹介する。【太田裕之】

 ??まずドイツの現状から。

 ◆注目されるのは非常に効果的な普及政策を採用していることだ。91年制定の電力供給法で風力発電を中心に普及を促進し、00年制定の再生可能エネルギー法であらゆる種類の電力に対象を広げた。核となるのが電力会社に再生可能エネルギーの電力の固定価格での買い取りを長期間義務づける買取補償制度(FIT)で、費用は電気料金に組み込み社会全体でまかなう。採算が取れて初期投資資金を金融機関が融資するようになり、市民による導入が進んだ。

 住民が共同出資で有限会社を作り、風力発電所を建設・運営するケースも多い。再生可能エネルギーは地域資源で、地域密着型の開発に適し、トラブルも起きにくい。住民が自らの資金を投じて取り組み、経済的、精神的な豊かさを得て、地域社会を健全に発展させていると思う。

 ??それに比べ日本の状況は?

 ◆日本はFITではなく、電力会社に一定量以上の利用を義務づけるRPS制度を02年に採用したが、目標義務量があまりに低く(10年で1・35%。英国は10%)、再生可能エネルギー全般を大幅に増やす政策とは言えない。風力資源の豊かな北海道、東北、九州では風力発電の申請が多いにもかかわらず、電力会社はごくわずかしか採用していない。

 日本のエネルギー政策は原発中心で、原発と競合する再生可能エネルギーはむしろ抑制されてきたと思える。長期エネルギー需給見通しでも、30年までに電源構成の49%を原発にする一方、再生可能エネルギーは4%で、水力を入れても14%だ。他の国の目標が20年で20%くらいなのに比べ、余りに低い。

 ??日本の原発推進施策をどう思う?

 ◆今まで電力・エネルギー政策やエネルギー基本計画は経済産業省主導で決めてきた。原発などの重要課題は多くの国では国民的議論や投票で決めるが、日本では国会での議論もほとんどない。法律さえ決めれば後は運用で、省庁の範囲内、つまり官僚の意向で自由に動かせる状況が続いてきた。天下り先も原子力関係には多い。原発推進のため再生可能エネルギー普及政策が阻まれてきたと言えるのではないか。

 だが、原発の見通しは非常に不透明だ。事故が起きたらストップがかかる。そもそも地震国の日本に安全なところはない。原子炉が破壊されれば100?200年のスパンで相当広範囲な地域が住めなくなり、通過もできなくなる。また、原発は立地経過においても地域社会を破壊する。ある町では賛成派と反対派に分かれて親戚同士がいがみあい、結婚式や葬式にも呼ばないとか、嫌がらせなど人間関係が破壊された。さらに放射性廃棄物の問題を考えれば持続可能とは言えない。

 ドイツで再生可能エネルギー導入が進んだのは脱原発の姿勢を明確にしたからだ。90年と06年の原発の基数・設備容量をみると、日本は40基計3164万キロワットから55基計4958万キロワットと増やしたのに対し、ドイツは27基計2586万キロワットから17基計2137万キロワットに減らした。そして国を挙げて再生可能エネルギー普及に取り組んだ。=次回は23日に掲載予定

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 略歴:わだ・たけし。1941年生まれ。96年より立命館大産業社会学部教授、06年同特別招へい教授となり、08年に退職。現在、日本環境学会会長、自然エネルギー市民の会代表。大阪府高槻市在住。

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未来を築けるか:再生可能エネルギー 識者に聞く/下 /京都
https://mainichi.jp/area/kyoto/news/20100123ddlk26040536000c.html

 ◆日本環境学会会長、和田武・元立命館大教授
 ◇産業・雇用、地域に活力 安全・平和貢献も、幅広い効果

 ??再生可能エネルギーの普及にはどんな意味があるのか。

 ◆二酸化炭素(CO2)の大幅削減や大気汚染の改善、エネルギー自給率の向上はもちろんだが、産業発展と雇用拡大、市民の収入増加など幅広い波及効果があり、全体として社会を持続可能な方向へ導く。ドイツでは再生可能エネルギー法施行翌年(01年)の関連産業の年間総売り上げは約1兆660億円だったが、08年に約3兆7440億円と3・5倍になった。原発とは違って労働集約的で小規模分散型のため雇用効果も大きく、01年末の10万人から08年末には約28万人へ増加。CO2は1億900万トンも減少した。

 特に私が注目しているのは地域社会の活性化だ。ドイツでいろんな現場をみて感じた。風が強くて農業に苦労していた農村が風力発電で収益を得て、後継者難を解消したりしている。自然を破壊せず、農林業など一次産業の維持・安定化に役立ち、将来への展望を開く。税収が増え、自治体の財政にも寄与する。地域全体が豊かに活性化され、住民主導で地域が運営される高度な民主的社会を築く契機にもなる。

 国際的にはエネルギー安全保障の意義があるし、日本の技術や産業を生かして各国で普及させれば、資源紛争をなくす平和貢献になり、日本の国際的信頼・地位の向上につながる。原発を増やせば、プルトニウム、核兵器拡散の危険が生まれるのとは対照的だ。

 ??日本の再生可能エネルギー資源はどうか?

 ◆水力、風力、太陽光、木質バイオマス、地熱とも日本にはドイツを上回る資源がある。価格的に競争力があるのは風力だが、島国の日本では海上も含めて風力資源は豊かなはずだ。海洋には波力、潮汐(ちょうせき)力、温度差エネルギーもある。他国がうらやむほど多様な再生可能エネルギーに恵まれている。

 ??普及策は?

 ◆私が代表を務めるNGO「自然エネルギー市民の会」は、太陽光、風力、バイオマス、地熱、中小水力の発電量全量を買い取り対象とするFITの導入を提案している。買い取り期間は発電開始から20年間。初期投資の8?9割を金融機関からの融資を受けてもまかなえるように1キロワット時当たり価格を設定す。現在の平均発電コスト相当の1キロワット時当たり6円を電力会社の負担とし、残りを電力料金に上乗せすれば、一般家庭の負担は平均月388円になる計算だ。

 主に原発推進の財源として徴収されている電源開発促進税(現在、家庭平均月130円程度の負担)を転用すれば、その分家庭負担は低くなるし、環境税なども使えばもっと低くなる。これにより、再生可能エネルギー発電の総発電量に占める割合は現在の10%(大型水力を含む)から20年に23%、30年に38%に高まり、この分野の産業発展で20年に約60万人、30年に約120万人の雇用創出が期待できる。

 ??市民はどうかかわれる? 

 ◆日本では再生可能エネルギーの普及も含めて市民が中心になって担う感覚があまりなかった。だが、日本の市民の力は非常に大きい。資金的な面でも1400兆円と言われる預貯金がある。市民が利益を得て取り組める条件さえ整えれば、相当な力になる。

 長期的視野でインフラとして再生可能エネルギーの施設を増やすことは社会全体に大きなプラスとなる。それを政策で打ち出せる力量を政治家も国民も持たねばならない。

 ドイツには、再生可能エネルギーの普及は温暖化対策や持続可能な発展を推進する点でプラスになり、社会全体で担うのは当然との認識が共有されている。日本も原発依存ではなく、再生可能エネルギーの拡大方針を明確に打ち出せば、国民の多くが賛同するのではないか。【聞き手・太田裕之】=おわり

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