「原発を動かしたい」政治家・官僚・財界・大新聞へ告ぐ 

「原発を動かしたい」政治家・官僚・財界・大新聞へ告ぐ 飯田哲也氏×金子勝氏  
(週刊現代 2012月5月26日号) 

 原発事故が起きれば国家の基盤は大きく揺らぎ、取り返しがつかない。昨年、誰もがそれを痛感したはずなのに、何の反省もなく、再び原発を動かそうという者たちがいる。彼らは国を滅ぼしたいのか。

■まったく信用できない人たち

金子:原発問題は、15年前の銀行の不良債権問題とそっくりだと思うんです。最近、『原発は不良債権である』(岩波ブックレット)という本を出したんですが、97年当時、政府も銀行も「不良債権はない」と言っていた。ところが実際は、当時の大蔵省と銀行が結託して大量の不良債権を隠していました。

それが明るみに出て、五月雨式に公的資金を投入せざる得なくなった上、さらに投入した先が潰れるに及んで、国民は政府も銀行も信用しなくなってしまった。今、これと同じ状況が原子力・電力ムラで起きていると思うんです。

飯田:なるほど、確かに構造がよく似ていますね。

金子:何が安全で何が危険なのか。誰も判断できないのも同じ。たとえば農作物について放射線量の全量検査を実施せずに、「風評被害」が問題なんだとして、ずさんなサンプル調査で福島県がコメの安全宣言を出してしまいました。

飯田:風評被害じゃなくて、これは東電によるリアルな被害なんですけどね。

 
金子:安全宣言の後になってから、伊達や二本松、福島などのコメから基準を超える放射線が検出されてしまう。これでもう、誰も「安全宣言」など信用しなくなってしまいました。

東電にしても、賠償費用2・5兆円というのは、自己資本よりも多い。すでに債務超過なんです。ところが帳簿上はそうはならない。なぜかというと、東電は12月末と3月末に賠償金の申請をして、帳簿上は「未収金」という架空の資産を計上して債務超過でないように装っているからです。

かつての銀行の粉飾決算そっくりですよ。そうやって東電をずるずると延命させようとしている。

飯田:それ、もしかして世界最大の粉飾決算になるんじゃないですか。

金子:まさに、我々がかつて経験した「失われた20年」の再現です。

事件や事故が起きたときの危機管理には3つの鉄則があって、まず第一に責任者の首を切って、レフェリーを入れ替える。これをしないと、人々の信用が得られないからです。第二に、最悪の事態に備えて大胆な措置を打っておく。そして三番目に、現状が改善していくにしたがって、その措置を緩めていく。

しかし原発問題では、未だにこれらがまったくなされていない。

飯田:去年の3・11から今日に至るまで、誰一人としてA級戦犯の責任が問われていません。経産省、原子力安全・保安院、原子力安全委員会、原子力委員会、文科省、その他原子力ムラの人たち・・・

驚くべきことに、事故を起こした東電は、自分たちで社長を選んでいますからね。もう、これは世界に冠たるハレンチ企業と言っていいかもしれない。

金子:当の”犯人”が事故のデータを隠し続け、その”犯人”が再建計画を立てている。これは異様です。サラリーマンが飲酒運転で事故を起こしたら刑務所行きですよ。ところが、あれだけの原発事故を起こしておきながら、関係者が誰も捕まっていないとは。

飯田:大飯原発(福井県)の再稼動問題についても、メチャクチャな論理がまかり通っています。

あの斑目春樹原子力安全委員長ですら「これじゃ安全性が担保できない」と言っているのに、野田佳彦首相、枝野幸男経産相、細野豪志原発担当相、藤村修官房長官の4大臣が、「安全を確認した」と称して再稼働しようとした。

4人で確認したと言ってもたった10日ですよ?このシナリオを用意したのが、福島第一原発事故のA級戦犯である経産省、原子力安全・保安院であることも明らかです。もっとも国民は、こんなものは学芸会並みの猿芝居だと看破しています。ところが政府は、自分たちのレベルの低さに気付いていない。

金子:関西電力も、ミニ東電化しています。関西電力は原発事故こそ起こしていないけれども、赤字が2500億円あっても、このままいくと来年は4000億円くらいに膨らむ。自己資本が1兆1800億円。当然この先、もっと減っていきます。

関西電力は電力の48%を原発に依存しており、しかも所有する原発11基のうち7基が、1970年代に運転を開始した老朽原発です。言ってみれば不良債権をたくさん抱える問題企業なのですが、比較的新しめの大飯原発を動かしてしまえば、他の老朽原発も動かせるだろうと、とんでもなく危ない思考をしています。

飯田:”ブラック企業”と言われても仕方ないかも。

金子:本来は、国の管理下に置いてもいいくらいの経営状態なのに、減価償却済みの老朽原発を動かせばまた儲けが出る、まだいけるとソロバンを弾いている。当然、安全性なんか二の次になります。こういう企業に原発を持たせてはいけないんです。

■電力不足は演出されている

飯田:関西電力が訴えている今夏の電力不足ですが、これは大間違いです。

そもそも「電力が足りない、足りない」と電力会社が言っていること自体、おかしいんですよ。仮に、本当に足りないというのなら、「足りるようにする」のが電力会社の使命です。

ところが関西電力は、いつまでたっても「とにかく足りない」というデータばかり出してくる。電力会社として企業努力もせず、とにかく「原発が動かないから足りないんだ」と。国民を脅迫しているわけです。

金子:そこまで言うなら、いっそ停電させてみろ、くらい言いたくなりますね。もちろん、そんなことは許されませんが、もしそうなれば、「供給責任を果たせないような会社に地域独占なんかさせておけない」という議論が起こり、電力ムラの解体が進むでしょうから。

まさしく猿芝居もいいところで、関西エリアの電力需給については、飯田さんの環境エネルギー政策研究所でも、電力は足りるという具体的な数字を出していますよね。

飯田:節電と揚水発電、自家発電の買取などを実施すれば、実は250万キロワットほど余るはずなんです。なのに、関西電力は足りないと言い張っている。

最大の”マジック”は、需要を過大視していること。関西電力は今夏の最大電力を3030万キロワットと想定していますが、これは記録的猛暑だった一昨年の3080万キロワットを基礎にしているから。

我々は、今夏の最大電力を去年並みの約2780万キロワットとみています。そうすると、「去年は冷夏だった」などと言う人がいるんですが、実際には去年だって、観測史上4番目の猛暑だったんですよ。

金子:たしかに去年も充分に暑かった。

飯田:それでも、一昨年と比べ昨年の最大電力が300万キロワットも減ったのは、節電効果によるものでした。だから、今年も節電対策をきちんと実施すれば、電力不足は起こらないんです。

しかも、関西電力は揚水発電の電力量を230万キロワットとしていますが、これは10時間も20時間も使用した場合であって、電力消費ピーク時の数時間に限定すれば、揚水発電だけで400万キロワット以上の供給が可能です。一般の人たちには、こういう事実もほとんど知らされていません。

金子:電力を地域外から融通してもらうこともできるわけですしね。

飯田:西日本全体で3%足りないと言われていますけど、実際にはピーク時でも約900万キロワット余ることがわかっています。そこから関西電力に300万キロワットくらい回すことができる。西日本には、計200万キロワットほどの自家発電能力もあるので、そこから電力を買い付けてもいい。もろもろ合わせれ
ば、電力不足などという心配はないんですよ。

金子:去年の東京電力も、計画停電を実施する一方、実は密かに、東北電力に電気を売っていました。

あまり計画停電をやり過ぎると、供給能力がないとレッテルを貼られる。かといって、電気が足りているとバレたら、原発を再稼働できない。そこで、微妙なさじ加減で電力不足を演出し、人々を脅してきた。

その裏には、各電力会社による現体制での地域独占を維持したいという思惑が見え見えです。

飯田:実は関西電力は、他の電力会社より火力発電における石油依存度が高いという問題もあります。

金子:異常ですね。過去2度のオイルショックを経験し、先進国では石油火力を減らしていくという共通認識があるのに、関西電力は石油に依存し続けた。つまり、原発が老朽化しているだけじゃなくて、社会情勢の変化への備えも老朽化しているということに他ならない。

飯田:関西電力の役員報酬は、東電よりも高いんですよ。東電の役員報酬の平均は3700万円で、社長と会長は7200万円です。

一方、関西電力は役員が20人いて、役員報酬の総額が約10億円ですから、平均約5000万円。私が社長と会長の報酬額を明らかにせよと求めたら、「それは出せませんが、一億円は超えていません」という返答でした。おそらく9980万円くらいなのでは。(笑)

金子:関西電力の八木誠社長は電事連(電気事業連合会)の会長であり、森詳介会長は関西経済連合会の会長で、関西財界のトップです。関西電力は、これまで原発推進の先頭に立つことで東電と張り合ってきましたからね。

最近、電力会社の有価証券報告書を見て興味深いことに気付きました。2011年度決算で黒字の電力会社は、沖縄電力と中国電力と電源開発。沖縄には原発はないし、中国電力は原発依存度が最も低い。要するに、原発を持たない方が業績がいいんですよ。

原発はコストが安いというのが大嘘であることが、こうしたことからもわかる。停止させると固定費ばかりがベラボウにかかるから、老朽化した原発も無理矢理動かさなければならない。そしてそのコストは、将来へのツケ回し。やはり、原発そのものが不良債権といえるのです。

■もんじゅも六ヶ所村も中止に

飯田:問題はそんな東電の後ろに銀行がいて、債権放棄させないスキームを財務省と経産省と一緒にやり始めたことですね。

金子:本当は早く損切りしないといけないゾンビ企業に追い貸ししているわけ。そんなことをしていると、銀行はかつてと同じ過ちを繰り返すことになる。

飯田:しわ寄せは電気料金アップという形で国民の方に向かいます。現に東電は家庭向け電気料金を10・28%値上げすると言い出しました。

結局、原子力・電力ムラの人々というのは、誰もまともに責任をとろうとしない。
本来やるべきは、東電を破綻させて資産を売却し、銀行は必要に応じて債権放棄することでしょうに。

金子:東電がこれまで原子力損害賠償支援機構から受けた資金は約1兆円ですが、さらにこの先いくら少なめに見積もっても、10兆円近くかかる可能性が高い。しかも、そこには除染費用は入っていない。福島県民を見殺しにするのか、それらを我々に電気料金で払わせるのか、という話ですよ。

飯田:絶対に無理がある話ですね。

金子:ならば、国が腹を決めて、東電を国有化して解体売却し、5兆円でもなんでも捻出するしかない。あとは、莫大なコストだけがかかって実現の見通しがない、高速増殖炉もんじゅや、青森県六ヶ所村の再処理工場の計画を中止して、費用を捻出すればいい

飯田:六ヶ所村の施設をやめたら、それだけで年間6000億円が浮きます。

金子:そういうこともやらずに電気料金値上げなど、とんでもない話です。戦犯が誰も責任を取らない事故処理のための賠償を、なぜ我々国民が負担しなければならないのか。

飯田:もんじゅや六ヶ所村の再処理工場は、ただ継続あるのみ、というまったく無意味な論理で動いていますから。これはもう太平洋戦争の後よりもひどい。

太平洋戦争のときの日本は、全部焼けてゼロからスタートしましたが、もんじゅや六ヶ所村施設の継続は、もう敗戦が決まっているのに、まだ戦艦大和や武蔵を造れば何とかなると言っているようなものです。

金子:無責任体質のツケは、結局は国民、特に福島県民が払わされる。

先日も郡山の小学校などでホットスポットが見つかりましたけど、未だにきちんとした放射線量の調査をしていない。調査をせずに、自然減衰するのを待っているんです。

実際に被曝による被害が出てくるのは10年後か20年後だから、調査を先延ばしすれば、もう何が原因かわからなくなる。あまりに非人道的で、酷過ぎます。

飯田:もはや電力会社とか企業の問題ではなく、ブラック国家と化していますね、日本は

この期に及んでも、政府にはまだ原発推進派の方が多いのは異常です。結局、責任者が誰も首にならないからです。これも、戦時中の旧日本軍と似ています。ノモンハン事件で失敗した参謀辻政信のような人物はさっさと首にするべきだったのに、それをせずに、泥沼に陥っていった。

今回の原発事故でも「斑目さんを辞めさせる法律がないから」などと言って、辞めさせない。そうやって全体が、あたかも”レミング(ネズミ)の群れ”のように破滅に向かっていく。

■覚悟を決めて節電しましょう

金子:メディアも酷い。以前は朝日と読売のようにイデオロギーを背景にした対立があったけれど、今は全国紙が歩調を揃えてTPP推進、消費増税やむなしなどと書く。

飯田:このままだと夏の電力が足りない」と、電力会社の意見を代弁するような報道を続けていますけど、特に、大手メディアの経済部が酷い。彼らは日常的に経済省や経団連、電事連と癒着関係を築いていますから。それに、素人みたいな記者ばかりなので、すぐに洗脳されてしまうんです。「飯田はおかしな奴だから近づくな」とか。(笑)

金子:ただ、その一方で地方紙の社説をみると、ことごとく脱原発ですね。エネルギー問題でも、地方紙を丹念に見ていると、おもしろい取り組みが始まっていることがわかるんです。

最近見つけたのは、島根県雲南市の学校で、校舎の屋上に太陽光パネルを設置して、夏休み中は地域でその電力を使い、余った分は他所に売ろうという試みです。
そこには島根県原発の30キロ圏ですけど、教育委員会が市民に「覚悟を決めて節電しましょう」と呼びかけている。

飯田:実は地方で、そういう新しい萌芽みたなものが生まれつつある。

金子:小規模ながら自分たちでエネルギーをつくって、それによって自分たちのところに資金が流れてくるような仕組みをつくろうという動きですね。衰退していく日本の中の光だと思いますよ、これは。

去年の原発事故で、電力会社からお金をもらっていない地域でも容赦なく放射性物質が降ってくることを、国民は目の当たりにしてしまった。しかも、いったん汚染されたら、おいそれとは戻れない。その現実を知り、自治体レベルで火がついたのだと思います。

飯田:国や政府が全然頼りにならないこともよくわかりました。

金子:橋下徹大阪市長をはじめ、自治体の首長や議会が動いたことで原発が稼動できなくなっている。これは注目すべきことですよ。関西でいえば、大飯原発再稼動をめぐって京都府と滋賀県の両知事が共同提言したし、福井県では大飯原発のとなりの小浜市の市議会が完全に再稼動反対で、説明会でも関西電力はメチャクチャに叩かれている。

原発周辺の自治体は、単に反原発を叫んでいるわけではなくて、政府がちっとも真っ当な手続きをしないので、自分たちでやろうと動き出したわけですね。はっきり言えば、政治家や官僚があまりに無能で、この連中にはもう任せておけないということです。

飯田:原子力ムラはもう10年以上前から、映像村みたいな張りぼてだったわけですけど、実は政治ムラもそうだった。その張りぼてを蹴っ飛ばして、ちゃんと自分の頭で考える人たちが出てきたということ。

金子:ここにきて地域主権の芽が出始めた。脱をキーワードに、中央の腐った政治家や官僚、メディアを置き去りにして、新しい政治や体制が始まろうとしているのかもしれない。

飯田:切にそう願いたいものですね。

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