今、「市民と科学者の内部被曝問題研究会」に注目したい

今、「市民と科学者の内部被曝問題研究会」に注目したい。

「アメリカの軍事機密だったので内部被曝は無視され続けた

(2012/01/30 風の便り)

市民と科学者の内部被曝問題研究会(略称:内部被曝研)

結成のよびかけから抜粋

東日本大震災にさいして起こった東京電力福島第一原子力発電所事故は深刻な被害をもたらしています。広範な地域が汚染され、多くの人々が被曝していのちと暮らしを脅かされています。

原発事故による放射線被曝の主要なものは、呼吸や飲食を通しての内部被曝です。政府や政府に助言する専門家は、被曝影響の評価を主として測定しやすいガンマ線に頼っています。しかし、内部被曝では、ベータ線やアルファ線の方がガンマ線よりはるかに大きな影響を与えます。政府と東電は、ベータ線を放出するストロンチウム90や、アルファ線を放出するプルトニウム239などの測定をほとんど行っていません。彼らは、内部被曝の特性とその健康影響を意図的に無視し続けています。

その背景には、アメリカの核戦略や原発推進政策があります。これらの政策の影響下で組織された国際放射線防護委員会(ICRP)などの機関は、広島・長崎原爆の放射性降下物による被曝影響を無視した放射線影響研究所の研究に依存し、日本政府は福島原発事故の被曝に関しても、「100mSv以下では病気を引き起こす有意な証拠はない」とするなど、事実を覆い隠し、被曝限度に高い線量値を設定して、市民のいのちを守ろうとはしていません。

いま求められているのは、核兵器政策や原発推進政策に影響された研究ではなく、内部被曝を含めて、被曝実態に基づいた放射線による人体影響の真に科学的な研究を推進することです。これは国際的・全人類的課題です。そして今、福島の原発事故の被害について、市民の立場に立った民主的で科学的な対応が求められています。市民にとって必要なのは、被曝を防ぐ食品・食料対策と被害の補償、放射能にさらされない生活・労働環境などです。市民の安全に生きる権利が認められるべきで、そのためには、放射線被曝に関する正しい知識を持った主権者としての市民の力を確立しなければなりません。

2012.02.19 Sunday
「食品中の放射性セシウムスクリーニング法の一部改正について」

ご意見

  私たち「市民と科学者の内部被爆問題研究会」は、内部被曝を含む放射線による人体影響を科学的に明らかにし、現在の東電福島原発事故による放射線被害を避けるよう市民社会に訴え、行政にも反映せることをめざしています。放射性物質を含んだ食物が流通しているので、原則的な考え方、根本的な方法で、食物をとおしての被曝回避を図らねば、全住民が深刻な被曝を受け続けることとなり、子どもの「安全な環境で成長し教育を受ける権利」は侵され続けます。

 上記の視点で改正された「食品中の放射性セシウムスクリーニング法」を読んだ結果、以下に述べる5点の問題点を指摘し、その問題点に関する意見と提言を行います。

問題点1. 「1.放射性セシウムスクリーニング法」に記載されているように「広範囲の食品に放射性物質が含まれる事態となっている」にもかかわらず、「分析対象」を「放射性セシウム(Cs-134及びCs-137)に限っていること

 測定にあたって「他の核種の影響を最小に抑える必要がある」、「環境・試料中に存在する他の核種の状況が変わった場合には、エネルギー範囲の設定を再確認する必要がある」と、セシウム以外の核種の存在を認めながら、測定に際して除外を指示していること。

問題点1に関する意見と提言

セシウムだけではない放射性物質:ストロンチウム、プルトニウムの測定を

福島原発から放出された放射性物質は放射性セシウム(セシウム137+134)だけではありません。物理学的半減期が約29年とセシウム137(半減期30.2年)とほぼ同等であり、骨に沈着して排泄されにくい核種であるために生物学的半減期が18年もあるストロンチウム90や、毒性が高いα核種であって半減期が24100年もあるプルトニウム239などを無視しています。これらを食品として摂取したことによる被曝線量を加えて計算するべきで、放射性セシウムだけで年間内部被曝線量1mSvとするのは間違っています。

チェルノブイリ事故と違ってストロンチウム90の放出が少なかったという見解には根拠が乏しく、ましてや今も続いている汚染水に含まれて海洋汚染をしたストロンチウム90についての調査もされておらず、その汚染についてはまったく把握できていない実態があります。魚などの水産物の汚染が最も危惧されます。ストロンチウム90についても、基準を設定し、測定をすべきです。都道府県の研究機関ではストロンチウム90の測定能力があるにもかかわらず生かされていません。

問題点2. 「対象食品」を「一般食品」に限定し、乳児用食品、牛乳、飲料水を除外していること

問題点2に関する意見と提言

早急に全食品の調査体制を
現状の調査点数はあまりにも少なすぎます。放射能汚染地ならびに汚染の可能性がある地域については、早急に、全食品の綿密な調査体制を構築するべきです。すなわち、1.農作物については各田畑の種類ごとの生産品を出荷前に複数調査する体制、2.畜産物については各生産者の種類ごとの生産品を出荷前に複数調査する体制、3.水産物については各漁港等の種類ごとの水揚げ品を出荷前に複数調査する体制、4.林産物、その他についても同様の体制を、早急に構築するとともに、汚染度の高い生産品については出荷制限を厳格に行うことを要求します。

大手流通業者の中には、独自に全品測定を行い、暫定基準の10分の1の自主基準を表明したところもあります。そうした動きを法的に支援し、助成していくことも重要です。

ベラルーシやウクライナでは国家予算のかなりの部分を割いて食品放射能測定体制を整えています。例えば、全国に2万4千校ある小学校の全てに食品放射能測定装置を配備して、小学校区単位で住民が気軽に食品の測定が出来るようにすることも決して難しいことではありません。

問題点3 「食品中の放射性セシウムスクリーニング法の考え方」「1.スクリーニング法」では「検査の目的は、食品衛生法で規制された食品を流通させないことである」と謳っていること

問題点3に関する意見と提言

流通生産の厳格なモニタリングを

新基準を決めてもそれが即座に実行されず、市民の健康よりも流通の混乱を危惧するということを根拠にモラトリアムが設けられるのは、市民の健康の軽視です。3月一杯は高い暫定基準を継続させ、米と牛肉は少なくとも9月まで、大豆は年内一杯まで、暫定基準が適用されるとなっています。基準が決定したなら即座に適応されるべきです。

さらに、新基準適用後に出るであろう大量の基準超過食品の行方を厳格にモニタリングする必要があります。万が一にも、偽装や検査漏れによる市場での流通や、あるいは途上国への援助物資に混入させるようなことがないよう、監視体制が必要です。

また、新基準の適用にともない、作付制限農地も大幅に拡大するはずで、この監視も必要です。これまでの作付制限基準、土壌5000Bq/kgは、土壌から作物への移行係数を1:10として、食品の基準500Bq/kgを根拠に決められていました。同じ計算なら、500Bq/kg以上の農地での作付が制限されることになるはずです。

問題点4 「1.放射性セシウムスクリーニング法」「5 検査結果の記載」に「スクリーニング結果の測定値は参考値として記載し、測定下限値以下の場合は測定か現地を明記した上で、その旨を記載する」と極めて不明瞭な文言(各食品に記載するのか、「その旨」が実際の計測値なのか不明)となっていること

問題点4に関する意見と提言

放射性物質の含有量を食品表示に

 政府は、今回の新基準案を見直し、少なくともICRP勧告の外部被曝と内部被曝の合計値としての年間被曝限度1mSv/年を一般公衆のぎりぎりの上限として、納得できる基準を再度設定するべきです。

その基準を実効あるものにし、食品含有放射性物質摂取リスクの自己管理を可能にするために、食品の全品検査体制を早急に整備し、放射性物質含有量の全品表示を実現することが急務です。特に、子どもたちの健康を考慮すれば、まずは汚染度の高い東北、関東、中部地方から順に、全小学校区に食品放射能測定装置を設置し、測定オペレーターを養成・配置することが必要です。

なお、念のため付言すれば、出荷制限を受けた生産者に対しては、十分な補償をするべきであることは論を待ちません。

問題点5 「1.放射性セシウムスクリーニング法」には「平成24年4月1日より施行されることとなった」食品衛生法の規格基準を受けて、「一般食品の基準値である100BQ/KGに適応できるようスクリーニング法の見直しを行った」とされていますが、もととされる新基準に問題があること

問題点5に関する意見・提言

新基準の被曝限度はまだまだ高すぎます

昨年12月22日、食品含有放射性セシウムについての新基準案が厚生労働省の審議会で了承されました。放射性セシウムについて、飲料水が10Bq/kg、それ以外の一般食品が100Bq/kg、乳児用食品と牛乳が50Bg/kgと、暫定基準に比べれば低くなったものの、放射性物質の人体への影響を考えれば、いまだ不十分です。

放射線リスクには閾値がないことはICRPでさえも認めるところであり、一般公衆の年間被曝限度を1mSvとしています。しかし、貴省は、新基準案では基準設定にあたって、生涯累積実効線量を100mSv(当初は外部被曝と内部被曝の合計とし、最終的には理由抜きで内部被曝だけとした)が基本となっており、かつ食品の摂取による内部被曝だけで一般公衆の年間被曝限度1mSv/年を充てていることは、非科学的であり認めることができません。

以上

氏名(法人名)市民と科学者の内部被爆問題研究会

代表者 澤田昭二

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