2011/06/22

映画「幸せの経済学」から学ぶ 3.11以後の新しい生き方 

地球の子ども新聞 2011年5月号 No.125 解説版
映画「幸せの経済学」から学ぶ新しい生き方 

3.11以後の新しい生き方

3.11以後、私の住む九州に若い人たちや親子で東北や関東から避難してきた人たちが増えてきていますが、その若い人たちの生き方に、これまでにない新しい価値観を感じます。彼らは、今までの古い価値観である「お金」や「モノ」を重視していません。大事にしているのは「こころ」や「精神面」です。

今までの「古いモノサシ」であるGNP(国民総生産)やGDP(国内総生産)とは大きく異なる価値観。ヒマラヤの小国に生まれたGNH(国民総幸福)という「しあわせ」を重視した「新しいモノサシ」と響きあう価値観です。GNPやGDP重視の生き方は、お金やモノをより多く得ることで幸せになるという考え方であり、GNH的な生き方は、幸せに直結する「こころ」や「精神面」を何よりも大事にする生き方です。

そうした生き方は、人と人との関係、人と自然との関係、そして、世代間のつながりを大切にします。世代間のつながりとは、世界の多くの先住民文化の中で大事にされている「7世代先の世代のことに配慮して今日を生きる」ような生き方です。

この「つながり」を「スロー」という言葉で表現し、スローライフを提唱しているナマケモノ倶楽部にカナダの著名な生物学者であるデビッド・スズキが寄せてくれた素敵なメッセージを紹介します。

「私は、ナマケモノ倶楽部の運動とその哲学を詳しく知って感動しているところです。私たちの惑星地球は、ますます均一化する人間達の思い込みによって縛られています。その思い込みの中心にあるのは、経済こそが人類にとっての再重要事だという観念です。そしてその経済は、より速く成長し、グローバル化すればする程よいというものです。日本という国もまた、このグローバル経済にその未来を賭けており、その国民はこの思い込みにすっぽりとつつまれているようです。

しかし、皆さんも御存じのとおり、実は私たち人間の豊かさと幸せを究極的に保証するものは経済ではなくバイオスフィア、つまり生命圏なんです。このことを 認識できなかったばかりに、私たちの文明は危険な方向へと迷いこんでしまったのです。

グローバル化で大騒ぎし、金儲けに忙しい私たちには、落ち着いてものを考える暇もありません。そこでは次のような重要な問 いが忘れられています「いったいどれだけあれば充分なのか」、「幸せであるためには何が必要なのか」「これは、あれは、本当に必要なのか」「私たちはどこ へ向かっているのか」そして「なぜ、私たちはこの地球に生きているのか」。

スロー・イズ・ビューティフルをモットーとするナマケモノ倶楽部は、こうした問 いをひとつひとつ問うために存在しているのだと思います。問われているのは生きる質であって、量ではありません。よりよい生き方を探し出すのがナマケモノ倶楽部の仕事です。

ひとは、この地球上での良き充実した人生を終えるにあたって、何を想うのでしょう。きっとそれは、自分が最も誇りに思い幸せに感じたこと。それは何? 所有 している高級車や、邸宅や、クローゼット一杯の服? いえいえ、そうではないはずです。思い出すのはきっと、自分の家族や友人達やコミュニティーの人々のこと。そして彼らと過ごした様々な時間。私たちの人生において重要なのはそういうことであって、どれだけ物をもっているかということではありません。

ナマケモノ倶楽部の活動は、人生において何が最も重要なのかを計り直し、選び直す絶好の機会です。私は、皆さんのそのような活動に、熱い期待を寄せています。幸運を祈ります。」

人生において本当に大切なものは何か

3月11日に東日本大震災という天災が起き、続いて東京電力福島第一原発が爆発事故を起こしました。情報公開が不十分だと諸外国から批判を受けていますが、チェルノブイリ原発事故と同じ「レベル7」という世界最大規模の原発事故で放出された放射能は、空気を汚染し、水を汚染し、大地を汚染し、海を汚染し、そして、農産物や海産物を汚染しています。

数日前に福島県から幼い子どもたちを連れて福岡県に避難している若いお母さんと話をしたとき、そのお母さんがしみじみとこう言ったのです。「安心して吸える空気があって、安心して飲める水があって、安心して大地で遊べて、安心して食べられるものがあることが、どれほど有難いことかということを心の底から感じています」と。

1986年のチェルノブイリ原発事故から3~4年ほどして、放射能汚染が一番ひどかったベラルーシやウクライナのお母さんたちから「子どもたちを助けて下さい!」という悲鳴のようなメッセージが連日、届くようにな りました。「子どもたちが毎日、亡くなっています。私たちの力だけでは子どもたちを救うことができません、皆さんの力を貸して下さい!」というメッセージが世界に発信されました。

呼びかけに応えて、仲間たちと原発事故被害者の支援活動を始めました。毎年のように 現地へ医療機器や薬を届けに行くうちに、ナターシャという中年の女性と出会いました。原発事故の被害者が働く福祉施設を運営するナターシャには2人の子どもがいましたが、 事故から十年ほどして息子さんが白血病と甲状腺ガンを患って亡くなり、その後、娘さんが胃ガンで亡 くなりました。 今、ナターシャは娘が残した幼い孫の世話をしていますが「孫がいつまで 元気でいてくれるだろうか」そして、自分自身も体調がよくないため「いつまで孫の世話ができるだろうか」と心配しています。

放射能が特に怖いのは、 細胞分裂が活発な子どもたちが大きな被害を受けるため、親よりも子ど もが先に亡くなることが多いこと。そして、放射能の被害が長く続くことです。

原子力発電を推進している国際組織(IAEA=国際原子力機関など)は、チェルノブイリ原発事故で亡くなった人は、4000人とか最大9000人だと言ってきましたが、その数字の元になったのは、350の論文に基づき英文で公開されている資料だけでしたが、2009年にヤブロコフ博士らが発表した報告は5000以上の論文(英語以外の多様な言語も含む)を元にまとめられたもので、1986年~2004年までに亡くなった人の数は、約98万5000人です。

現地の病院をいくつも訪問する中で、いつも感じたのが、なぜこんなに子どもたちの被害が多いのか、彼らにはなんの責任もないのに、どうして子どもたちが苦しまなくてはならないのか、という思いを抱き続けてきました。だから、今私は、原発事故の恐ろしさを見てきた者として、特に東北と関東に住む人たちに伝えたいのが、ベラルーシで聞いた次の話です。

「放射能というものは、その被害がすぐに現れないということ。見えない、臭わない、触れない、人間の五感で感じられないということ。そのため、どうしても放射能を軽く考えてしまって人々の被ばく量を多くしてしまった。放射能の本当の怖さは、数年たってから分かってくる」という言葉です。

この経験者の言葉を日本に住む私たちは、心に刻んでおいた方がいいでしょう。
特に福島県を中心とする東北と関東の皆さん、神奈川県の西部で、お茶の放射能汚染が広がってきていることの意味を私たちは考える必要があります。また、千葉県や東京都内にも放射能の数値が高い「ホットスポット」が見つかっています。

特に大人が心して考えなければならないことは、放射能の影響を受ける度合い(感受性)は、年齢が低いほど大きな影響を受けるということです。ジョン・ゴフマン教授の研究では、1万人・シーベルト当りのガン死者は、55歳で49人、30歳で3891人、0歳で15152人となっています。つまり、0歳は30歳の約4倍、30歳は55歳の79倍、そして、0歳の赤ん坊は55歳の309倍も大きな影響を受けるということなのです。

原発に何の責任もない子どもたちを苦しめてはなりません。大人は最大限の努力をして、子どもたちを守らなければなりません。そのことから、私たちは新しい生き方を始める必要があります。

中村隆市
ウィンドファーム代表
スロービジネススクール校長
ナマケモノ倶楽部世話人

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