原発、放射能、そして私たち 鎌仲ひとみ監督に聞く

原発、放射能、そして私たち 鎌仲ひとみ監督に聞く

2011年4月19日 東京新聞朝刊

 福島第一原発の事故を受け、原発や核関連施設の取材を続けてきた鎌仲ひとみ監督のドキュメンタリー映画「ミツバチの羽音と地球の回転」が、東京・渋谷のオーディトリウム渋谷(ミニシアター・ユーロスペース2階)で再上映されている(26日まで)。監督は、今回の原発事故をどう見ているのか聞いてみた。 (小田克也)

 Q,ドキュメンタリー映画「ヒバクシャ 世界の終わりに」や「六ケ所村ラプソディー」で内部被ばくの問題を取り上げてきたが、今回の事故でも懸念されるか。

 「放射能の複合的な内部汚染が進行中だ。放射能は呼吸、水、食物、雨など、いろいろな経路で体内に入る。それが収束せず今後も続く。被ばく量は『放射能』掛ける『時間』の積算だから増えていく。リスクが高まっているが目に見えないし、直ちに発病しないから安心させられている。子供たちが心配だ」

 Q,文部科学省などが示す全国の放射線量の情報は妥当か。

 「微粒子が体内に入って放射線を出すのが内部被ばくだが、あの情報は空間放射線量で、ガンマ線だけを測っている。ガンマ線もベータ線も出すセシウムやヨウ素は既に地上に降下し、放射線を出し続けている。本来は、落下する放射性物質の種類と量をフィルターで測定しなければならないが、それができる研究機関は少なく、公表されていない」

 Q,不十分だと。

 「そうだ。それに定点観測が必要。内部被ばくは、自分がどれだけ被ばくしているのか常に把握しなければならない。食べ物や水に含まれる放射能もこれに積算しなければ。水溶性で骨のがんを引き起こすストロンチウムも土壌や植物から検出されている」

 Q,安全基準値は。

 「政府は基準値をどんどん引き上げている。単位のすり替えだ。国民の目を進行中の事態からそらそうとしている。深刻さが分かると大変だから。広島・長崎と同じで補償問題が起きると困るので過小評価したいのでは」

 Q,原発の歴史は同じようなことを繰り返している。

 「国際原子力機関(IAEA)など原子力の推進者が被害を過小評価するのは今に始まったことではない。放射能の被害を受けて苦しんでいるのに『被ばくのせいではない』と否定され続けてきた人たちを取材してきた。政府やIAEA、国際放射線防護委員会(ICRP)のデータは、そうした現場の被害実態を反映していない」

 Q,私たちは何をすべきか。

 「政府やマスメディアの情報ばかりだが、子供を持つお母さんたちはネットや書籍で、自力で情報を集めてほしい。事態への過小評価と過大評価があるが両者を見て個人で判断できるようになるはず。命に関わることだ」

 Q,原発政策は。

 「余震が続くといわれているのだから、原子炉は順次停止し、大きな地震が来ても安全かどうか総点検しなければ。今のような事態を繰り返したら日本はおしまい。厳しい基準ができるまで動かすべきではない。他国もそうしている」

 Q,マスメディアの報道は。

 「情報を小出しにする政府・東電の姿勢を追及しきれていない。それを容認する雰囲気が醸し出されて心配。東電の説明責任・賠償責任のおめこぼしにメディアが加担してはいけない。政府見解への異論も少ないが、原発批判すると追放されたり、左遷されたり、そうした長い歴史があるので怖いのではないか。批判しにくい土壌が続いてきたことも今日の不幸を招いている」

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