2013/10/10

『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』 解説:崎山比早子さん

一人でも多くの人に読んでほしい本

『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』(岩波書店)

調査報告 チェルノブイリ被害の全貌

『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』刊行記念 
アレクセイ・ヤブロコフ博士講演会 2013年5月18日

(書き起こし みんな楽しくHappy がいい)から抜粋

解説:崎山比早子さん(元放射線医学総合研究所主任研究官、医学博士)

福島原発事故から2年が過ぎました。事故が起きた当時、毎日テレビを見て、原子炉の破壊状況を見ていた時に、2年後にこのような生活があるなどとは、その時は想像もできませんでした。事故現場で被ばくをしながら懸命に働いていらっしゃる労働者のみなさんのおかげで、幸いにして私たちの今日があるのだと思います。

しかし今、福島から離れた都会、あるいは福島県の中ですら 事故当時のあの衝撃は徐々に薄れてきて、放射線に対する注意を忘れてきていると思います。この時期に報告書が刊行された意味は大きいのではないかと思います。

この報告書には、いま日本において沢山の方が放射線のリスクを考え、これから自分たちの生活をどうするか、判断する基礎になる情報があります。特に注目されるのは、これまで国際原子力機関とか、国際放射線防護委員会、ICRPですね。WHO等の国際機関で否定され続けてきた放射線による非がん性疾患の発症を豊富な資料に基づいて紹介している事です。

これまで西側でほとんど読まれる事が無かったロシア、ベラルーシ、ウクライナ国内で発表されてきた論文に加えて、ドイツ、スウエーデン、トルコなどチェルノブイリ事故によって放射能汚染が起こった国々からの報告も入っています

チェルノブイリ原発事故によるヨーロッパの汚染地図

また放射線の人体影響だけではなく、チェルノブイリ地方における野菜や果物などの汚染の程度。汚染食物を取り込んでしまった場合の対処の仕方など、実生活に役立つ情報。それから環境汚染による野生の動植物への影響も網羅しています。

そういう意味でこれは大変貴重で、私たちの実生活に役立てたい報告書です。

福島事故以来、日本では低線量被ばくのリスクに関して、これまで決められていた公衆の年間被ばく限度制御1ミリシーベルトが20ミリシーベルトに見逃されてしまいました。事故があったからといって、人の放射線に対する感受性が20分の1になったわけではありません。

1ミリシーベルトという限度線量自体安全量ではありません。それは理論的にも、基礎実験でも、それから広島・長崎原爆被爆者をはじめとする疫学調査でも、放射線に安全量は無いということは明らかに証明されているからです。

1ミリシーベルトと決めたのは、原発を運転し電気を売るためのコストとリスクをはかりにかけて、「これ以下に限度線量を下げるともう採算が取れなくなる」という事情からです。その事は原子力産業の影響下にあると言われているICRPの委員長であるゴンザレスさんも、昨年福島のシンポジウムでそんなふうにおっしゃっていた事です。

1ミリシーベルト自体が安全量ではなく、経済的政治的な要因で決まっているのに、日本の放射線専門家が「100ミリシーベルトまではリスクがあるという証拠は無い」といかにも科学的であるかのように主張しているのはおかしなことです。

しかも見る気にさえなれば100ミリシーベルト以下でも、統計的に有意に白血病や脳腫瘍などの癌が増えるという論文はあるんです。放射線リスクにしきい値が無いという事は、水爆の父と言われたアンドレイ・サハロフが1958年に発表した本のタイトルにすでに書いてあります

自然放射線科学というのは、新しい事実が発見されるとその発見をベースにして前にどんどん進んで行くというのが普通の姿です。しかし放射線のリスクに関しては、いくら科学が進んでも、それが取り入れられず、分かっていることも分かっていない事にされ、何時まで経っても同じ議論を蒸し返しているという事があります。

これは明らかに問題が科学からずれて、経済的政治的な領域に入っているのに、相変わらず科学であるかのような装いのもとに論争しているからだと思います。

放射線による非がん性の疾患が無い事にされ、チェルノブイリ事故による脳神経系の疾患に対しては「放射線恐怖症」という診断名が発明されたのも、同じような事情によると思います。

放射線の障害は基本的に放射線が体内を透過した時にできる反応性の高いフリーラジカルを通して生じます。がんの原因になるのも、多くがこのフリーラジカルがDNAを傷つけるからです。

このフリーラジカルがどのように細胞の中のいろいろな分子を傷つけて、報告書に出てくるようなあらゆる病気を引き起こし、老化を促進するのか。これから研究が必要です。

しかし病気に対して最も効果的なのは予防です。予防は被ばくをしない事です。そのために政府は住民を汚染地域から避難させる義務がありますし、これ以上汚染が広がらないように、国家的なプロジェクトとして、一日も早く事故現場を安定させることが急務です。

政府をそのように動かしていくのは市民の力です。その力のベースになるのは、科学的に正確な知識です。そのような意味で、今日ヤブロコフ博士のお話を伺う事が出来るのは、大変有力ですし、幸運だと思います。

よろしくお願いいたします、どうもありがとうございました。

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岩波書店 『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』(内容の一部)

アマゾン 『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』

書評から一部抜粋

チェルノブイリの大惨事に関する、金字塔ともいうべき決定版, 2013/5/15

 3・11いらい、旧ソ連邦崩壊の前夜、ウクライナ共和国チェルノブイリで起こった原発事故(1986年4月26日)にたいする関心が高まっている。チェルノブイリ原発事故の実態を知らずして、フクシマ原発事故の帰趨をおしはかることはできないからである。

 チェルノブイリの大惨事(catastrophe)が人びとと環境にいかなる影響を及ぼしたか、そして事故いらい四半世紀がたつ今、いかなる影響を及ぼしつつあるか。それを知るために逸することのできない、最新の、金字塔ともいうべき決定版が本書である。

 本書の特徴を三つほど指摘してみたい。

 第一に、本書の扱う主題がきわめて包括的であること。

 本書の内容は、第1部「チェルノブイリの汚染(概観)」にはじまり、第2部「チェルノブイリ事故の人びとの健康への影響」で、罹病率老化の加速がん及び非がん疾患死亡率などを論じ、第3部「環境への影響」で、大気、水、土壌の汚染、植物相・動物相への悪影響、ウィルスなどの微生物への悪影響を詳述し、第4部「チェルノブイリ後の放射線防護」において具体的な提言(食物にふくまれる放射線核種の低減、ペクチン剤による体外排出、放射線防護の新しい原則の提示)に及んでいる。その記述の詳細にして包括的なことは他に類を見ない。

 第二に、本書は「メタ分析」とよぶ戦略的方法によって書かれていること。

 これまでにもチェルノブイリの大惨事についての報告、著書、論文はあったが、本書を「決定版」とするのは、従来、欧米や日本の研究者、一般読者には容易に近づくことのできなかった数千点におよぶ厖大な、ロシア語をはじめとするスラブ系言語で書かれた文献を収集・総覧して、それらの基礎のうえに築かれた「一大伽藍」(cathedral, カテドラル)だからである。

 本書の「方法論的アプローチ」の特徴を著者らは「メタ分析」(meta-analysis, or meta-review)とよぶ。「厳密な数量化」や「統計的に有意」な相関関係を見出すだけの手法にはおのずから限界があるとみて、ヨリ有効な方法として民族的、生物学的、社会経済的など、さまざまな特徴において互いに比較可能な集団間(地域、サブグループを含む)の差異を比較照合することによって、チェルノブイリの大惨事の全貌を明らかにする手法を著者らは戦略的に編み出したのである。

 第三に、本書はチェルノブイリの大惨事を過少評価するあらゆる見方を粉砕する論争と論駁の書(polemique, ポレミック)でもある。 

 事故から20周年にあたる2005年、「チェルノブイリ・フォーラム」を開催しながら、チェルノブイリの放射能汚染の悪影響を示す厖大なデータを無視して、大惨事の過小評価で国際的コンセンサス(合意)をはかるIAEA(国際原子力機関)、UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)、WHO(世界保健機関)などの「科学的に正当化できない」諸見解に、本書の著者らは厳しく対峙しているのである。

 待望の、部厚い本書を読みおえて、思わず胸に抱きしめて目をつむっていたら、涙があふれ出た。

 このひとことをもって本書推奨のことばとしたい。

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5つ星のうち 5.0 圧倒的な情報量と深刻な内容, 2013/4/30

グロジンスキー教授(ウクライナ国立放射線被曝防護委員会委員長、ウクライナ国立科学アカデミー一般生物学部長)による前書きにあるとおり「本書はおそらく、チェルノブイリが人びとの健康と環境に及ぼした悪影響に関するデータを、もっとも多く広く包括的に集めたもの」です。

IAEA/WTOの報告書が数百の英語文献に基づいていたのに対して、本書は現地語を中心とする5千以上の資料に基づいています。原書はニューヨーク科学アカデミーの紀要であり科学的な裏づけのある内容です。福島原発事故に20数年先行する事例として、日本にとって極めて重要な文献と言えます。

個々の資料の報告内容を小さなパラグラフにまとめて列挙する形式は文献解題のような趣があります。その間に貴重な図表が掲載されています。たとえば第3章の最後に、事故から6年後の北ウクライナ汚染地域における罹患率(成人および15~17歳)が出ています。循環器98%、筋肉・骨73%、消化器63%、皮膚・皮下組織60%で、いずれも事故の翌年より数十倍に増えています。健康状態は事故発生時に原子炉の消火作業にあたった人たち(リクビダートル群)より悪いかもしれないとのことです。

再びグロジンスキー教授によれば本書で「悪影響は減少するどころか増大しており、将来にわたって増え続けることが示されて」おり、「この先幾世代にもわたって、人びとの健康も自然の健全性も悪影響を受け続けることになるだろう」とのことです。

目次は以下のとおり。

序論 チェルノブイリについての厄介な真実

第1部 チェルノブイリの汚染――概観

 第1章 時間軸と空間軸を通して見たチェルノブイリの汚染

第2部 チェルノブイリ大惨事による人びとの健康への影響

 第2章 チェルノブイリ事故による住民の健康への影響――方法上の問題点

 第3章 チェルノブイリ大惨事後の総罹病率と認定障害

 第4章 チェルノブイリ大惨事の影響で加速する老化

 第5章 チェルノブイリ大惨事後に見られたがん以外の各種疾患

 第6章 チェルノブイリ大惨事後の腫瘍性疾患

 第7章 チェルノブイリ大惨事後の死亡率

第3部 チェルノブイリ大惨事が環境に及ぼした影響

 第8章 チェルノブイリ事故後の大気,水,土壌の汚染

 第9章 チェルノブイリ由来の放射能による植物相への悪影響

 第10章 チェルノブイリ由来の放射能による動物相への悪影響

 第11章 チェルノブイリ由来の放射能による微生物相への悪影響

第4部 チェルノブイリ大惨事後の放射線防護

 第12章 チェルノブイリ原発事故による食物と人体の放射能汚染

 第13章 チェルノブイリ事故に由来する放射性核種の体外排出

 第14章 チェルノブイリの放射能汚染地域で生きるための放射線防護策

 第15章 チェルノブイリ大惨事の25年後における住民の健康と環境への影響

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偏見と独断によるまとめ, 2013/8/19
福島の今後を考える上で、本書は最良にして、最大とも言えるテキストです。チェルノブイリ事故(1986年4月26日)から27年経って、今もなお拡大しつつある被害の実態は私の想像をはるかに超えていました。以下では、各章ごとに私なりにとらえた要点、もしくは印象に残った内容をまとめると共に、背景となる本文中の事例を紹介しました。長文になるので第4部(12―15章)は省略しました。

第1章 時間と空間軸を通して見たチェルノブイリの汚染

まとめ 放射性物質による汚染地域は、ヨーロッパだけではなく、北太平洋、南北アメリカ、アジア、南半球(タヒチ島等)と地球全土に拡がっていた

第2章 チェルノブイリ事故による住民の健康への影響

まとめ 政府(旧ソ連等)、IAEA(国際原子力機関)、UNDP(国連開発計画)、WHO(世界保健機関)の公式発表を信用してはいけない

  (1) ソ連政府による機密主義とデータの組織的な改ざんにより、真実のデータが隠蔽されてしまった。  

  (2) IAEA 、 UNDP 、そして WHO の公式報告書では、人々の健康に関する悪影響はそれまで考えられていたほど重大なものではないと結論された

  (3) 本書の目的は、知られている限りにおいて、その影響の規模と範囲を明らかにすることにある。

第3章 チェルノブイリ大惨事後の総罹病率と認定障害

まとめ 放射性物質による高濃度汚染地域では、 2000 年以降、大人も子供も健康な人の割合が 20 % 前後(5人に1人)にまで低下し、慢性疾患による障害者が今も増大しつつある

  (1) 事故前には 90 % の子供が「健康と言える状態」にあったが、2000 年には、そのようにみなせる子供は 20 %以下となった〔ベラルーシ〕

  (2) 1988 ― 2002 年にかけて、健康な避難者(成人)の割合が 68 % から 22 % に下降し、「慢性的に病気」の人が 32 % から 77 % に上昇した。

第4章 チェルノブイリ大惨事の影響で加速する老化

まとめ チェルノブイリ由来の放射性核種に汚染された全ての人々に、老化の加速が見られた

  (1) 重度汚染地域の子供には早発性の脱毛症が、また、汚染地域の中年男女は、平均的一般人より 8 歳若く心臓発作で死亡した〔ベラルーシ〕。

  (2) 老化の加速はリクビダートル(事故処理作業員)に典型的な特徴であり、多くは平均的な一般集団より 10 ― 15年早く疾患を発症した。

第5章 チェルノブイリ大惨事後に見られたがん以外の各種疾患

まとめ 血液および循環器・リンパ系疾患が、チェルノブイリ事故に由来する主要な障害であり、リクビダートル(事故処理作業員)の主な死因でもあった。また、放射線による被曝は、内分泌、免疫、呼吸器から消化器系、そして泌尿生殖器から神経、感覚器等に至るあらゆる疾患を人体にもたらしていた

【血液・リンパ系の疾患】 

  ・新生児出血性疾患の発生数が事故前の2倍以上〔ベラルーシ〕となり、ダウン症候群症例が通常の 2.5 倍に増加〔ドイツ〕した。

  ・重度汚染地域〔ベラルーシ〕では、リンパ系及び造血器疾患の発生率が 56.6 % 増加し、内、白血病は 90.3 % 、リンパ系及び造血器の悪性腫瘍は 26.7 % 増加した。

  ・リクビダートル〔ロシア〕の循環器系疾患(高血圧、虚血性心疾患等)の罹病率が、 1986 年以降 1994 年までに 23 倍に増加した。

【内分泌系疾患】

  ・事故から数年後に、べラルーシの全汚染地域で内分泌疾患の急増が認められた。

  ・子宮内被ばくした女子の約 32 % が不妊となった、また、新生児の 28 % が甲状腺機能低下症により知能と生理機能の双方に異常を生じた〔ウクライナ〕。

  ・ 500 人のリクビダートル〔ウクライナ〕の過半数に下垂体-副腎系の重大な機能障害が認められた。

【甲状腺機能障害】

  ・放射性核種による高濃度汚染地域〔ベラルーシ〕では、在胎 4,5 ヶ月の胎児の 43 % に甲状腺の病変があった。

  ・放射能汚染地域に居住する学齢期の子供の 64.2 ― 75.2 % に甲状腺肥大、 2.4 ― 2.5 % に自己免疫性甲状腺炎、 0.5 ― 1.2 % に甲状腺ののう胞性変化や腫りゅう、 0.01 % に甲状腺癌が認められた〔ウクライナ〕。

  ・甲状腺癌の症例が 1 例あれば、他の種類の甲状腺疾患が約 1000 例存在する

【免疫系疾患(チェルノブイリ・エイズ)】

  ・免疫系破壊の結果として、免疫不全に加え、急性、慢性の疾患や感染症の頻度と重症度が高まった(「チェルノブイリ・エイズ」として知られる)。

  ・子宮内被ばくした小児の 43.5 % に免疫不全が、また、乳児には急性呼吸器ウィルス感染、急性気管支炎、急性腸内感染および貧血症が多発した。

  ・十代の少年、少女の 45.5 % に慢性扁桃炎、アデノイド肥大、扁桃肥大が認められ、頚部リンパ節腫脹の発症頻度が増加していた。

【呼吸器系疾患】

  ・呼吸器系疾患は最も早期に表れた被ばくの影響であった〔ウクライナ〕。

  ・放射能汚染地域に住む十代の少年少女、成人、及び避難者では、気管支炎と肺気腫が 1.7 倍に増加し、気管支喘息は 2 倍以上に増えた。

  ・慢性気管支炎と気管支喘息は、リクビダートル〔ウクライナ〕の罹病率と障害、及び死亡率の二大主要原因である。

【泌尿生殖器系の疾患と生殖障害】

  ・避難者の子女 1017 人の内、 11 % に性的発達の遅れ(第二次成長の発達異常、子宮発育不全等)が見られ、 14 % に月経機能障害があった。

  ・男性リクビダートル〔ベラルーシ〕の 42 % で精子数が最大 53 % 減少し、可動精子の割合の低下、死滅精子の数の増加が見られた。

【骨と筋肉の疾病】

  ・リクビダートル〔ベラルーシ〕の 30 ― 88 % に骨粗しょう症が見られ、骨密度が、該当する年齢の平均値より 16 ― 37 % 低かった。

  ・これは、被ばくによって破骨細胞前駆細胞と骨芽細胞前駆細胞が直接損傷されたことに起因する。

【神経系と感覚器の疾患】

  ・成人の脳細胞が破壊されることにより、記憶や書記行動の障害、けいれん、拍動性の頭痛等の症状が増加した(「チェルノブイリ認知症」)。

  ・神経系疾患は放射能汚染地域〔ベラルーシ〕から避難した十代の少年少女がかかる病気の内、 2 番目に多く、罹病率は 1000 人当たり 331 例だった。

  ・男性リクビダートル〔ロシア〕 6万8309人 のデータには、 2万9164 例の精神障害が公式に登録されている。

【感覚器の異常】

  ・高濃度汚染地域では、視覚と聴覚の異常(若年性白内障、硝子体変性、屈折異常、ぶどう膜炎、極端な聴力の低下等)が高い頻度で発生した。

  ・重度汚染地域〔ベラルーシ〕では、先天性白内障、小眼球症、耳の位置異常、過剰耳(福耳)等、先天性奇形の発生率が目に見えて高い。

【消化器系疾患とその他の内臓疾患】

  ・汚染値が 5000 ― 1万5000Bq/’u の地域に住む子供〔ウクライナ〕には、胃粘膜萎縮症が対象群の 5 倍、腸上皮異形成は 2 倍も多く発生した。

  ・相対的に汚染度の高い地域〔ウクライナ〕の住民に、消化器潰瘍、慢性胆のう炎、胆石症、及び膵炎の発生頻度は目に見えて増えた。

  ・リクビダートル〔ロシア〕の消化器系罹病(胃炎、胃十二指腸炎等)率が、事故後の 8 年間で 74 倍にも増加した。

【皮膚と皮下組織の疾患】

  ・脱毛症で入院していた 69 人の子供(十代を含む)の内、 70 % 以上が重度汚染地域〔ベラルーシ〕の出身だった。
  ・事故に続く 9 年間で、皮膚及び皮下組織における疾患の罹病率が最高値を示したのは 1993 年だった。

【感染症および寄生虫症】

  ・放射性物質に汚染された地域で、胃腸炎、感染性胃腸炎の重症型、細菌性敗血症ウィルス性肝炎等の疾患群の発生率や重症度が増大した。

【先天性奇形】

  ・ゴメリ州〔ベラルーシ〕では、 1994 年の先天性奇形発生率は 1986 年の 6 倍だった。
  ・放射能汚染地区〔ウクライナ〕において、多指症、内臓の変形、四肢の欠損や変形、子宮内発育障害等重度の先天性奇形が有意に増加した。
  ・リクビダートルの家庭に生まれた子供の 9.6 % に先天性奇形(脊柱側湾症、喉や歯の変形等)があった〔ウクライナ〕。

  ・事故後に発生した中枢神経系奇形(脳や脊髄の奇形)の内、 98 %が水頭症を呈していた。

第6章 チェルノブイリ大惨事後の腫瘍性疾患

まとめ ヨーロッパでの、放射線に起因する血液癌(白血病)の予測発生数が 1万2904 例、これによる予測死亡者数は 9161 名、同じく、甲状腺癌と非メラノーマ皮膚癌を除く固形癌の予測発生数が 13万405 例、これによる予測死者数が 8万851 人となった

【甲状腺癌】

 ・甲状腺癌は事故に起因する全ての悪性腫瘍の中で最も多く見られた
 ・ベラルーシでは、 2000 年までに 7000 人を超える甲状腺癌の患者が登録され、約 3000 人が甲状腺癌の手術を受けた。
 ・ベラルーシでは、甲状腺癌症例数は事故前と較べて、小児で 88 倍、十代の少年少女で 12.9 倍、成人で 4.6 倍に増加した。
 ・チェルノブイリの甲状腺癌は、1. ずっと早く(被ばく後 3,4 年で)発症し、2. 侵襲性が強く、3. 被ばく時に子供だった者だけでなく成人にも発現する

 ・甲状腺癌は放射線に起因する甲状腺障害の氷山の一角にすぎない。癌が一例あれば、その背景には他の器質性甲状腺障害が数百例存在する。

【血液のがん-白血病】

 ・ 1989 年以降 2003 年までの小児癌 4950 例〔ベラルーシ〕の内訳は、白血病、中枢神経腫瘍、甲状腺癌、リンパ腫、及び腎臓癌等であった。

 ・重度汚染州〔ウクライナ〕では、急性白血病の発生率は男性において劇的に上昇し、男女を合わせた罹病率は、汚染度の低い州より3倍以上高かった。

 ・リンパ肉腫と細網肉腫は事故後 6 ― 10 年目にかけて、骨髄性白血病は事故に続く 5 年間と 11 ― 15 年目にかけて有意な上昇が認められた。

【その他の癌】

 ・事故後、胃腫瘍の割合が減少した一方で、甲状腺癌、肺がん、乳がん、泌尿生殖器癌、結腸癌、及び直腸がんが増加した。
 ・リクビダートル〔ウクライナ〕では、消化器系の腫瘍が 33.7 % 、呼吸器系の腫瘍は 25.3 % 、泌尿生殖器の腫瘍 13.1 %だった。

 ・前記で、最も急激に増加したのが泌尿生殖器の疾患で、 1993 年から 1996 年にかけてほぼ 3 倍( 11.2 % から 39.5 % へと)増加が認められた。

 ・モギリョフ州〔ベラルーシ〕の男性リクビダートルの癌診断後 1 年以内の死亡は 72 % 、 1 年経過後の死亡は 16.7 %、 5 年生存率は 2.4 % だった。

 ・事故後の 10 年後から 15 年後にかけて、悪性黒色腫(皮膚がんの一種)の発生率が 5 倍に増加し、脳腫瘍は 3 倍になった。

第7章 チェルノブイリ大惨事後の死亡率

まとめ 被ばくによる死亡(者)は、事故処理作業員(リクビタートル)ばかりでなく、精子、卵子、胎児、嬰児、小児から少年・少女、そして成人、妊婦等に至る、生体のあらゆる段階で発生していた

【出生前死亡】

  ・高濃度汚染地域〔ウクライナ〕における流産と死産の推定値は合計約 5 万例だった。

【新生児の死亡】

  ・ 1986 年 11 月に新生児の男児比率が有意に低下した〔チェコ〕。
  ・ベラルーシ、ゴメリ州では、小児癌による死亡率が全国統計の 2 倍、汚染が最小だったヴィテブスク州の 20 倍多く登録された。

【成人の死亡】

  ・ロシア人リクビダートル 24万4700 人の内、 2005 年までに 3万1700 人、即ち 13 %以上が既に死亡した。
  ・ロシア人リクビダートルの 3 大死因( 1993 )は、1. 外傷と中毒( 40 % )、2. 循環器系疾患 ( 29 % )、3. 悪性新生物( 1.3 % )だった。

【死亡総数の推算】

  ・ベラルーシ、ウクライナ、及びヨーロッパ側ロシアでの事故による死亡者数は、大惨事に続く 15 年間で 21万2000 人と推計される。
  ・上記と同様の仮定で、 2004 年までの、チェルノブイリ大惨事に由来する(地球全土の)死亡総数は、 105万1500 人と推計される。

第8章 チェルノブイリ事故後の大気、水、土壌の汚染

まとめ 放射性物質による汚染は、北米や東アジアにおいてさえ、 1960 年代に核実験が始まった頃の最高値を上回った。また、土壌中の放射性核種が垂直下方向に移動すると、根の深い植物が放射性核種を吸い上げ、再び地表へと戻す再循環過程の存在が明らかとなった

第9章 チェルノブイリ由来の放射能による植物相への悪影響

まとめ 原発から 30 km 以内の強制退避区域(チェルノブイリゾーン)の植物相には、突然変異による枯死や構造上の異状、腫瘍様変化が多発した

  (1) チェルノブイリ事故のため、 30 キロメートルゾーン内の松林は強い放射線の衝撃に耐えられず枯死した(いわゆる赤い森)。

  (2) 事故に続く 2,3 年間、 30 キロメートルゾーン内で調査したシロイヌナズナの全個体群で、致死性突然変異と葉緑素突然変異が有意に増加していた。

  (3) 事故から 13 年程過ぎても、 30 キロメートルゾーン内で育つ 2 つの小麦品種では染色体異常の出現頻度が自然の頻度より有意に高かった。

  (4) 汚染地域に生育する植物には、形状変化、切断、ねじれ、しわ、分岐、茎の帯化等、放射線誘発性の変化が見られた。

第10章 チェルノブイリ由来の放射能による動物相への悪影響

まとめ 放射線による被曝は、森の動物相や重度汚染地域に留め置かれた実験動物にも、人体に生じたのと同様の被害(腫瘍の発生、免疫不全、平均寿命の短縮、老化の早まり、血液組成の変化、奇形、性比の偏り等)をもたらし、罹病率と死亡率を著しく増大させた

【動物の繁殖の異状】

  ・ゴメリ州〔ベラルーシ〕では、 1993 年から 1999 年にかけて、馬の国内最多の流産率、死産率及び子馬の罹病率を記録した。

  ・汚染地域の豚の交尾が目に見えて減少し、子豚の 1.8 % ― 2.5 % が死産に終わるか、口唇、肛門、四肢の先天性奇形を伴っていた〔ベラルーシ〕。

  ・強制避難区域の森林では、事故後の 20 年間に鳥の種類が 50 % 以下に減少し、重度汚染地域では、鳥類の個体数が66%も減少した。

  ・重度汚染地域のツバメにおいて、異状精子(頭部の変形、 2 つの頭部、 2 つの尾部を持つ精子等)が有意に高い頻度で発生した。

  ・汚染地域のヨーロッパヤチネズミは、 22 世代に渡って胎児死亡率が上昇した。

【遺伝的変化】

  ・ 12 キロメートルゾーン内の牛に、赤血球数の減少、ヘモグロビン値の低下、及び好中球と単核細胞の割合の低下が観察された。

  ・ 1986 年以降、ヨーロッパヤチネズミの染色体異常の出現率と胚致死の発生率は 22 世代以上に渡り目に見えて高まった。

  ・退避ゾーンで捕獲したツバメでは、体細胞突然変異とゲノム(染色体)突然変異が、他の地域の 2 倍から 10 倍高かった。

  ・ベラルーシでは汚染度の高い湖沼程、鯉の胎芽、幼生、及び幼魚の先天性奇形発生率が有意に高かった。
  ・ 1990 年に、 30 キロメートルゾーンに近いポレーシェ地区で捕獲された全昆虫の最大 22 %が奇形だった。

第11章 チェルノブイリ由来の放射能による微生物への影響

まとめ 放射線は、病原微生物を活性化し、感染力の増強、病原性の悪化等をもたらしたばかりでなく、人体の腸内細菌叢の分布状態を変え、自然界の土壌細菌、ウィルスにも予測できない変性をもたらしていた。

  (1) 重度汚染地域で肝炎ウィルス、ヘルペスウィルス、ニューモシスチス、及びレトロウィルスの活性化(感染力の増大、病原性の悪化等)が観察された。

  (2) ウクライナに住む避難者の子供において、ビフィズス菌の顕著な減少と大腸菌の顕著な増加が小腸内で認められた。

  (3) 事故以来、野生動物における狂犬病の報告が事実上皆無である。これは狂犬病ウィルスの消滅か、不活性化を示唆する。

  (4) タバコモザイクウィルスの新変位株(ナス科以外の植物に感染)が数種類出現した。

  (5) 事故後、チェルノブイリ周辺の汚染土壌で黒色微小菌類が劇的に勢いを増した。

以上の事柄を、そのまま日本に当てはめる事はできませんが、今後、原発事故がもたらすであろう甚大で重篤な被害の全体像を知ることができます。

最後に、本書を出版して下さった著者の方々、並びに翻訳チームの方々に、深い感謝と惜しみない讃辞を送りたいと思います。

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