6歳でチェルノブイリを経験した歌手の2008年のメッセージ

今、多くの人に伝えたいメッセージ

ウクライナ出身の歌手、ナターシャ・グジーさんが「視点・論点『チェルノブイリとヒロシマ』」というNHKの番組に出演したのは2008年。美しい声で心を込めて歌う「千と千尋の物語」の主題歌「いつも何度でも」が素晴らしく、とても感動した。が、それ以上に私の心に響いたのは、自らが6歳のときに経験した原発事故の体験と、その後の放射能汚染地の話、そして、最後の「人間は忘れることによって、同じ過ちを繰り返してしまいます。悲劇を忘れないで下さい。同じ過ちを繰り返さないで下さい」というメッセージだった。

ナターシャ・グジーさんが「視点・論点」で話したことから抜粋

今日、8月6日は、60年以上前に広島で悲劇が起こった日です。広島や長崎の悲劇がまだ終わっていないように、20年以上前に起こったチェルノブイリの悲劇もまだ終わっていません。

いまから22年前にチェルノブイリ原発が爆発しました。当時、私は6歳でしたが、お父さんが原発で働いていたので、家族全員で原発から、わずか3.5kmのところに住んでいました。事故が起こったのは夜中だったので、ほとんどの人たちがそんなに大きな事故が起きたとは知りませんでした。

そのため、次の日は普通に生活していました。子どもたちが学校に行き、お母さんたちが小さな子どもたちを連れて一日中外で遊んでいました。そして、一日中、目に見えない放射能を浴びていました。事故のことを知らされたのはその次の日でした。「大したことは起きていません。でも、念のために避難して下さい。3日間だけ避難してください。3日後に必ず帰ってきますので、荷物を持たずに避難してください」そう言われて私たちは皆、荷物を持たずに街を出てしまいました。でも、3日経っても、1ヶ月経っても、そして20年経っても、その街には戻ることはありませんでした。子どもの頃、毎日遊んでいた美しい森も、たくさんの思い出が詰まった家も、放射能のせいで壊されて土の中に埋められました。今そこには何も残っていません。かつて、いのちが輝いていた街は、死の街になってしまいました。

あの恐ろしい事故で、私たちが失ったのはふるさとだけではありません。とてもたくさんの人が亡くなっています。私の友だちも何人も亡くなっています。そして当時、私と同じように子どもだった人たちが、もう大人になり、結婚したり、子どもを産んだりしています。そして、新しく生まれてくる赤ちゃんたちの健康にも異常があります。

人間は忘れることによって、同じ過ちを繰り返してしまいます。悲劇を忘れないで下さい。同じ過ちを繰り返さないで下さい。そう願って、私は歌を歌っています。

https://www.youtube.com/watch?v=ry_WACFd8Ds&feature=player_embedded


 いつも何度でも
             作詞 覚和歌子  作曲 木村弓

 呼んでいる 胸のどこか奥で
 いつも心躍る 夢を見たい
 かなしみは 数えきれないけれど
 その向こうできっと あなたに会える

 繰り返すあやまちの そのたび ひとは
 ただ青い空の 青さを知る
 果てしなく 道は続いて見えるけれど
 この両手は 光を抱ける

 さよならのときの 静かな胸
 ゼロになるからだが 耳をすませる
 生きている不思議 死んでいく不思議
 花も風も街も みんなおなじ

 
 呼んでいる 胸のどこか奥で
 いつも何度でも 夢を描こう
 かなしみの数を 言い尽くすより
 同じくちびるで そっとうたおう

 閉じていく思い出の そのなかにいつも
 忘れたくない ささやきを聞く
 こなごなに砕かれた 鏡の上にも
 新しい景色が 映される

 はじまりの朝の 静かな窓
 ゼロになるからだ 充たされてゆけ
 海の彼方には もう探さない
 輝くものは いつもここに
 わたしのなかに
 見つけられたから


https://www.youtube.com/watch?v=xQJog0rs7Eg&feature=fvwrel


ナターシャ・グジー 
ウクライナ生まれ。ナターシャ6歳のとき、1986年4月26日未明に父親が勤務していたチェルノブイリ原発で爆発事故が発生し、原発からわずか3.5キロで被曝した。その後、避難生活で各地を転々とし、キエフ市に移住する。ウクライナの民族楽器バンドゥーラの音色に魅せられ、8歳の頃より音楽学校で専門課程に学ぶ。1996年・98年救援団体の招きで民族音楽団のメンバーとして2度来日し、全国で救援公演を行う。2000年より日本語学校で学びながら日本での本格的な音楽活動を開始。

その美しく透明な水晶の歌声と哀愁を帯びたバンドゥーラの可憐な響きは、日本で多くの人々を魅了している。2005年7月、ウクライナ大統領訪日の際、首相官邸での夕食会に招待され、演奏を披露。コンサート、ライブ活動に加え、音楽教室、学校での国際理解教室やテレビ・ラジオなど多方面で活躍しており、その活動は高校教科書にも取り上げられている。

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