放射能汚泥焼却灰 行き場なし

【焦点 再訪】
汚泥焼却灰 行き場なし
(2012年06月25日 朝日新聞・マイタウン神奈川)

 下水処理で出る汚泥。横浜市は発生するガスを燃料に、焼却灰を建設資材などに利用し、パンフレットで「捨てる物は何も無いよ!」と説明してきた。ところが原発事故で事情が一変。放射性物質が検出された焼却灰は「捨てる所がどこにも無いよ!」という状態が続く。

 横浜市金沢区の埋め立て地にある「南部汚泥資源化センター」。汚泥をためる高さ26メートルの巨大タンクから見下ろすと、すぐ下に何かを覆ったビニールシート。その向こうにはコンテナが並んでいた。

 シートの下には、行き場をなくした下水汚泥の焼却灰がある。飛散防止のために水を混ぜ、500キロごとに袋詰めにした。スペースに余裕がなくなり、3月、コンテナに移し始めた。

 コンテナを2段に積むと約24トン。軟弱な地盤を補うため、土にセメントなどを混ぜて約50センチ盛り、アスファルトで固めた土台の上に置く。記者が訪れた22日も置き場造りが進んでいた。

 焼却灰はセメント会社が副原料としてすべて引き取っていた。昨年5月に放射性物質が検出されると、取引がストップ。施設内にたまった焼却灰は、5月末で計8800トンに達した。

 1日2・5基分の灰が増え続ける。市の計算では、2014年2月分で満杯になるという。

 市内の汚泥資源化センターはもう1カ所、北部(鶴見区)があり、ここでも処理できない焼却灰がたまる。市は、保管費用を東電に請求した。中古コンテナ購入代、地盤工事など昨年5月?今年3月分で計6億2400万円。野村茂南部センター担当課長は言う。「東電が払うといっても結局は電気代金として市民の懐に跳ね返る」

■地元になお不信感

 南部センターの汚泥焼却灰の放射性セシウム濃度は昨年6月、1キロあたり6468ベクレルの最高値を記録。ここ数カ月は1300ベクレル前後で下げ止まっている。

 国は100ベクレル以下なら、コンクリート製品として流通を認めている。セメントに混ぜる灰は1%程度で、計算上は再利用できる。

 だが、セメント会社は取引再開のめどについて口を濁す。市幹部は「300ベクレル以下なら、と聞いている」と明かす。製品状態で、ほぼゼロになるレベルだ。

 再資源化が難しいなら、捨てるほかない。林文子市長は昨年9月、中区の南本牧廃棄物最終処分場への埋め立てを表明した。

 この処分場では、国の埋め立て基準8千ベクレル以下を根拠に、ごみ焼却場から出た放射性物質を含んだ細かい灰(飛灰)の埋め立てを続けている。飛灰は、最高で約2100ベクレル。当時の汚泥の焼却灰は2353ベクレルでほぼ同レベルだった。

 ところが、抗議が殺到。事前説明の拙速さも明らかになり、発表から5日後に埋め立て方針を凍結した。

 埋め立て地に最も近い本牧・根岸地区連合町内会の岩村和夫会長は朝、自宅を訪ねてきた市の課長とのやり取りを覚えている。

 「6日後から焼却灰を埋め立てる。国の基準内だから安全だ」と言われ、「いきなり言われても判断できない。ちゃんと説明して下さい」と頼んだ。しかし、市はその日の午後、埋め立てを発表。「本当に驚いた。市への信頼を失った」

 埋め立てについて、林市長は20日の定例会見で「なるべく早く行いたいが、近隣住民や関係者の理解を得ることが最優先だ」と強調した。市はこれまでに住民向け説明会を処分場視察を含めて8回開いた。広段雄治・下水道施設管理課長は「分かりやすい資料を配った。徐々に信頼されてきたと思う」と手応えを語る。

 一方、岩村会長は「市の資料は分かりにくい。市が『安全』といって信用できるか難しい。安全の目安にできるとすれば、セメント会社の言う300ベクレルかなぁ」。失った信頼が、大きなつけになっている。

(伊丹和弘)

※下水汚泥焼却灰・・・下水には雨水とともに土砂や落ち葉などが流れ込む。下水に含まれたごく微量の放射性物質は脱水、焼却などの処理で濃縮され、焼却灰の段階では下水の約4万倍の濃度になる。北部センターでは、施設内で焼却灰を建設残土と混ぜ、道路の埋め戻しなどに使う改良土にしている。放射性物質の濃度を下げるため、混ぜる灰の量を減らさざるを得ず、5月末現在で余った灰4700トンを保管している。

下水汚泥の焼却灰、処分進まず セシウム検出、住民反発
(2011年11月20日3時1分 朝日新聞)

 東日本の下水処理施設で下水の処理過程で出る汚泥などから放射性セシウムが検出された問題で、汚泥や汚泥を燃やした焼却灰の処分が進まない。埋め立て処分できる数値の基準を国が示したものの、搬出しようにも住民の反対にあったりして、多くが施設内に保管されたままだ。

 東京・お台場から5キロ離れた海上にある中央防波堤外側処分場。ダンプカーが焼却灰を投じていく。埋め立て場所の広さは東京ドームの4倍超。10月末、東京23区分に加え多摩地区の焼却灰も受け入れ始めた。

 多摩地区10カ所の下水処理施設は施設内で焼却灰を保管していたが、パンク寸前になった。昭島、八王子市長らが9?10月、処分場に隣接する江東区と大田区を訪れ、「やむをえない」とようやく了承を得た。

 東京都によると焼却灰の放射性セシウムの濃度は次第に下がり、現在では搬入の段階で、埋め立てが認められる1キロあたり8千ベクレル以下になっているという。途中で水やセメントで薄めており、基準を超えることがあっても問題ないという。

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