六ヶ所あしたの森・共同代表 吉本多香美さんのこと

 「六ヶ所あしたの森」で一緒に共同代表をやっている女優の吉本多香美さんは、原発や核燃料再処理工場の問題にも積極的に発言されています。先日発売されたActioという雑誌(https://www.actio.gr.jp/) 10月号に掲載されたインタビューの一部を紹介します。

——————————————–

美しい森や自然を次世代に手渡したい

–なぜ青森県六ヶ所村に森をつくろうと?

 「六ヶ所あしたの森」が目指しているのは、森とつながる気持ち良い暮らし
を、一人一人の生き方として実現していくことです。なぜ青森県六ヶ所村で森づ
くりを目指すのかと言えば、原発から出る使用済み燃料の再処理工場があるから
です。
 この工場では、とても危険な猛毒のプルトニウムを扱っています。このプルト
ニウム角砂糖1個分で何千万人が死亡する、角砂糖5個分で日本人全員が死ぬと
言われています。再処理工場はそれを年間8トンも作り出す施設で、通常の原発
1年分の放射能がたった1日で海や空に出ます。

 私たちが電気のある便利な生活を享受するために、こんなにも危険なものをつ
くっていいんだろうか?やっぱりこんなことは止めよう。そんな風に疑問を持っ
たり気づいていくきっかけとなる活動がしたい。だから私たちはあえて六ヶ所に
森をつくろうとしているんです。
 もちろんどこで森をつくってもいいんですが、私は今から4年ほど前、鎌仲ひ
とみ監督のドキュメンタリー作品『六ヶ所村ラプソディー』と『ヒバクシャ』に
出会って衝撃を受けたのが原点なんです。恥ずかしいことにそれまで私は、日本
のエネルギー政策や原発、放射能の危険性について何も考えたことがなかった。

 ただ、15歳の時に初めて家族でアフリカを訪れ、以降何度もアフリカに通っ
て、自然の中で生きることの素晴らしさは分かっていました。満天の星空の下で
薪を集めて火をたいて食事をつくり、川で洗濯をする。自然のなかで生きている
マサイ族の人たちの生活に触れて、「こんなにも気持ち良い生き方があるんだ」
と実感できた。
 また、そんな自然のなかで生きている人たちの生命力の素晴らしさにも感動し
ました。皆与えられた命を目一杯生き抜いている。だから環境と人間の体は密接
に結びついていると確信したのです。しかし、そもそもこの日本社会のなかで私
たちは何によって生かされているのかについて、真剣に問い直したことはなかっ
たんです。

 『六ヶ所村ラプソディー』と『ヒバクシャ』は、そんな私に「これが本当の日
本の姿なんだ」と現実をつきつけてくれた。その時一人の女性として、私は子ど
もを生んで命を継いでいく者として、「大切な命を生き切るためには、放射能は
あってはいけないものなんだ」と気づかされました。

 昨今は地球温暖化防止のためにCO2削減が問題になっています。温暖化によっ
て世界中で多くの生命が絶滅の危機に瀕している。だからCO2を出さない「ク
リーンエネルギー」である原子力が必要だと唱えている人もたくさんいますし、
日本政府も国策として原発を推進していますね。でも女性としての本能、子宮で
考えると「そうじゃない」と思います。
 私たち人類はこの地球を借りて生きています。私たち人類が便利な生活をして
生き延びるために、この先何万年にもわたって他の生物を脅かす放射能を撒き散
らしていいのでしょうか?ましてやそのツケは私たち自身にも跳ね返ってきま
す。今すぐには危険性が現れないとしても、何世代も後に私たちの子孫がどんな
影響を受けるかわかりません。一度環境中に出された放射能は食物連鎖や体内濃
縮を通じて人間の体内にはいり、遺伝子を傷つけ、癌や白血病などの原因となり
ます。

 私たちの子孫にも美しい自然を手渡して、「生まれてきてよかった」と思って
もらいたい。安心して水を飲み、食べ物を得られる生活をしてほしい。そのため
には、放射能汚染の問題は決して無視できない。私にもできることをしなけれ
ば、私自身が後悔するなと思いました。
 それで自分なりに色んなことを調べているうちに、音楽を通して環境活動をし
ているパフォーマーの大森秋治郎さんが鎌仲監督との出逢いのきっかけを作って
くれました。そして監督から「あしたの森」の設立準備会立ち上げへの協力を依
頼され、自分の気持ちとフィットしたので代表を引き受けさせていただいたので
す。「ハンタ?イ!」と声高にあげるよりも「こっちのほがキモチイイヨ!」と
生活のなかで実践する。そのほうが説得力もあるんじゃないかと。

メディアにコントロールされない生き方

―原発批判にはリアクションがあるのでは?

 日本ではなかなか本当のことを知るのが難しいですね。私は環境問題に
関心が強いので、テレビでも環境を扱う番組に呼んでいただけることが
あります。しかしどうしても温暖化やCO2削減がメインテーマとなります。
そしてシナリオは「CO2削減のためにご家庭ではどんなことが実現できま
すか?」「オール電化の生活はどうでしょう」となってしまう。
当然にも「原発の問題は話さないでください」と釘を刺されています。

これはある種のメディア・コントロールですよね。私たちは小学校で
「報道の自由」を教えられます。それを信じれば、テレビの報道はとても
正義感あふれるもので、私たちは自由に発言できるし知りたいことは何でも
知れると考えてしまう。その結果テレビで見たものをそのまま信じてしまう
わけです。

だから、「でんこちゃん」が出てきて原発の安全性をアピールしたり、
「もぐら」が出てきて高レベル廃棄物の地層処分は安全だとPRされると、
本当にそうだと考えてしまう。しかし、現実には、原発の風下に住んでいる
人たちの健康状態が悪化し、苦しんでいる人がたくさんいる。

テレビでは決して報道されない真実を知った時、「この国は私が考えていた
国とはちがったな」って。本当のことは自分で調べないと突き止められない、
テレビを鵜呑みにしていたら駄目なんだと気づきました。

私がアースデイでC・W・ニコルさんと対談した際、原発の問題について触れ、
「六ヶ所はどうしても稼動させたくない」と発言したんです。
その時、ちょうど鶴の生態を追うテレビ番組のお仕事が入っていて、
スケジュールもすべて決まっていたんですが、3日前に突然降ろされました。
たまたまその番組のスポンサーが九州電力で、上層部の方がアースディでの
私の発言を「You Tube」でご覧になったみたいで、「ふさわしくない」と。

私は芸能界で長らくお仕事をさせていただいていますが、それまでは良く分か
らなかったんです。その時初めて「テレビは企業だったんだ」とあらためて
痛感しました。スポンサーあっての番組ですし、ドキュメンタリーのなかにも
ディレクターの主観が込められているから、ドキュメンタリーであっても
ドキュメンタリーとは言えない場合もあることは分かっているつもりでしたが、
まさかここまでメディア・コントロールされているとは知りませんでした。
だから結構気にせずに色々と発言していたのですが、実際に番組を降ろされて
「ああ、こういうことだったんだなと。」

坂本龍一さんの「モア・トゥリーズ」に出演した際にも「CO2削減のために
原発を推進するのはおかしいと思う」と仲間と話をしていたから、変な人が横
に来て「君がこういうことをやっていると、女優生命どころか君の命も危ない
ですよ」と脅かされました。

テレビのお仕事には、正義感もあふれる強い人を紹介したり、美しい自然の姿
を伝えたりと、素晴らしい内容もたくさんあります。でもその一方で、「言っ
たほうがいいことを言っちゃいけないの?なんで言うべきことを言ってこんな
に怖い思いをしなきゃいけないの」との疑問も強まるばかりです。

「ここは平和で自由な国だな」と思っていた日本のイメージがガタガタと崩れ
落ちていく感じです。

私は「なぜ周りの人たちももっと発言しないんだろう?」と不思議なんです。
他の問題については正義感溢れる情熱的なディレクターに、「これはすごく
大切な問題だからぜひ番組にして欲しい」と頼んだこともあるんですが、
「生活がかかっているから」と断られました。

私だって生活があるし、周りの人から「大丈夫?」と心配される度に逆に不安
になります。でも私のようなちっぽけな存在が何を言うかビクビクしている人
がいるとすれば、その人たちはきっと本当に後ろめたいことをしているのでしょうね(笑)

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次