日本から、セヴァンへの質問

 セヴァンを日本に招待するにあたり実行委員会が作られましたが、実際の来日前にセヴァンが今、何を考え、思うのか、聞いてみたいということから、質問が送られました。その答えとともに、ここにご紹介いたします。

Q & A

今、関心のある環境問題は?

 まずなにより、わたしたちは世界の「環境」について真剣に考えなければならないと思います。これは別に樹木のこととか、野生生物のことだけではありません。「環境」とはあなたを取り巻いているもののことを指すのです。この地球上のどんなところにいても、都会においてもそうです。あなたに物理的に影響を及ぼすもの、すべてがそうなのです。環境とは我々を取り巻くすべてのものをさすのであり、私たち自身と私たちを取り巻く環境とは相互に影響を及ぼしあっている、ということを理解することは大変重要であると私は思います。これが理解できれば、環境問題があなたの生活に大きな関係を持っていることがわかると思います。

 私たちは、私たちを取り巻く環境から完全に切り離されてしまっています。私たちは生存するために周囲の環境に依存している、という事実をもはや忘れてしまっています!私たちは自分たちの食べ物がどこからやってくるのか考えもしません。私たちが実は私たちの車が排気ガスを垂れ流している空気を吸っているのだということも。そして私たちがトイレで流す汚水がどこに行くのかということに思いを巡らすこともないのです。
 これこそが私たちが今深刻な環境問題を抱えている原因です−私たちは「環境」の中での生活の現実から、自分たちを切り離してきてしまったのです。

 環境に関して多くの問題があります。例えば、大気や水、土壌の汚染。これらは私たちの健康や農水産物といった私たちの資源に影響をおよぼします。そしてそれが転じて、貧困の増加や社会的不平等の拡大といった社会問題を引き起こしているのです。
 私たちの経済も影響を受けています。でも私には問題の根幹は、特に先進国において、人間が環境から切り離されていることにあるように思えるのです。人間がどのように自分達を支えてくれる自然のシステムの一部としてその役割を果たしているのか、私たちは再びそこに立ち返って学ぶ必要があります。私たちの将来はそれができるかどうかにかかっています。

 では、具体的にどうすればいいでしょう?私たちは、自分たちが使う水や空気がどこから来てどこに行くのか、また、私たちが食べる食物がどこから来ているのか、あるいは私たちのライフスタイルがどのような影響を及ぼしているか、学び始めています。でも、もっとも大事なことは、もっと多くの時間、自然の中で過ごすことです。たくさんの地球規模の課題があります。でも私は、自分の身近な問題への取り組みを始めるためには、すべての人が自分自身の国、自分自身の家庭、そして自分自身を見つめ直すことが最も大事だと思います。

地球憲章策定にたずさわった中で印象に残っていることは?

 地球憲章策定委員会で活動したことは素晴らしい経験でした。私はインドのカムラ・チャウドリ、ロシアのミヒャエル・ゴルバチョフ、オランダのRuud Lubbers など、多くの素晴らしい人々と共に過ごすことができました。その一方で、すごく大変な時もありました。私たちは世界中から集まったメンバー(30名以上)全員の合意の上で、かつ、それぞれの信念が反映された憲章を作り上げようとしました。ですから大変な時間がかかったし、また、あまり個々具体的な記述もできませんでした。でも最終的には、私たちは自分たちが誇りにできるものを作り上げることができました。

 この前の冬、フランスの「地球対話集会」で策定委員会のメンバーたちと最後に会ったときは特に楽しかったです。たくさんの委員がそこに参加していましたが、それはまるで家族の再会みたいでした。そして、社会問題や環境問題において地球憲章の倫理を生かそうと、自分たちの国で献身的に活動しているという意味においても、すべてのメンバーは一致していたのです。
 各人が自分の国や町やコミュニティで、ものすごくユニークな方法で地球憲章を利用していて、それは傾聴に値するものでした。私たちが世界各地で取り組んでいる個々のプロジェクトについて分かち合う中で、私は「地球共同体」という言葉の意味を実感しました。この人達は「Think globally, Act locally(地球規模で考え、それぞれの場で実行する)」を実践しているのです。本当に感動的でした。

 私は地球憲章がスピリチュアリィ(霊性)について触れているところが好きです。地球憲章は自然が神聖な力であると認めています。わたしはそれはとても重要だと思います。多くの宗教や国々で、自然は聖なるものとされています。そのように考えれば、環境に対する私たちの意識の覚醒が何より重要であるということが、もっと簡単に分かるのではないでしょうか。

日本の環境に対して思うこと(心配なこと)は?日本をどんな国だと思う?

 日本が抱える課題は、人口密度が高い他の先進国と似ていると思います。しかし、日本は島国なので、きっと世界の他の国からの資源に依存しているという意識は高いのではないでしょうか。
 私が日本で深刻だと思う問題は−−空気でしょうか?日本では大気汚染がとてもひどいと聞いています。ケイボー(辻信一)は、きれいな肌をした小学生は殆どいないと言っていました。ほとんどの子ども達が空気が汚いせいでひどい皮膚になっていると。これは本当?だとしたら、なんて恐ろしい!きれいな空気は私たちの生来持っている権利です。きれいな空気を求めて闘うべきです!

 もし、空気が汚染されているなら、きっと水もでしょうね。私たちの体はほとんど水でできています。私たちが毒された水をのめば、私たちの体も毒でできているということになります。先進国の人々が水を買っているという事実は私には恐ろしいことです(この先進国には大変水の美しいカナダも含まれています)。これはつまり、私たちが水はきれいでないという事実を受け入れてしまっていること、そして水を買うお金がない人たち−水は水道から流れてくるのですから−を見捨ててしまっていることを意味しているのです。水も私たちの生得の権利です。水に関しても私たちは闘わなくてはなりません。

 もう一つ重要な問題は食料です。日本同様、ブリテッシュ・コロンビア州も海からたくさんの食料を得ています。今日、水産資源は枯渇しつつあります。鮭がいなくなってしまったらどうしたらいい?カナダの西海岸ではすでに手に入らない状態になっています。日本では、必要量を確保するために世界中から魚を運んで来なければなりません。私たちの食料がどこから来るか、そして私たちが食べ物を取ってしまう結果、どのようなことが起こっているか知るのはとても重要なことです。私たちは、自分たち自身の資源を破壊していることを認識する必要があると思います。そして、もっと長期的に利用していくための新しい計画を立てる必要があると思います。

 これらが、私たちの環境問題です。これらはまた健康の問題、社会問題でもあります。重要な点は、私たちの環境に関する課題は、健康に関する、また社会的な課題だということです。これらの問題に取り組む第一歩は、まず、問題そのものについて知ること、それから問題のすべての原因、その原因についてどのような解釈がされているかについて学ぶことです。また、環境がどのように私たちの健康、社会、経済に影響を及ぼすか、そしてその逆についても学ばなければなりません。それから私たちは問題の解決に踏み出せるのです。

セヴァンの周りで楽しく環境活動に取り組んでいる人たちについて教えて。

 それは私です!私たちは若いんだもん!洋々たる前途が私たちの前にあるんだから!楽天家でなくっちゃ、と思ってます。そして、世界は信じられないくらい美しい場所です。絶対にその美しさを経験してみなくっちゃ!そして私たちの子どもたちも必ず美しい世界が経験できるようにしなくてはいけないと思っています。美しい惑星地球は、私たちの曾祖父母が祖父母達に残し、そしてまた祖父母達が私たちの両親に残してきたものです。この遺産を私たちの代で終わりにするわけにはいきません。

 私たちの世代は大きな課題を抱えています。時には、問題があまりに大きすぎるように見えます。人類が作り出してきた不均衡を考えて落ち込んでしまいそうになります。でも、環境保護の活動をしてきたおかげで、私は最高にすばらしい経験ができたんです。活動を通して、情熱に満ち、私にたくさんの刺激を与えてくれる人々に会うことができました。私は本当に多くのことを学びました。活動を通して、私はどうやって人々とつながっていったらいいか、そして人々にとって何が大事なのか、学びました。そして、その中でも多分一番大事なことは、活動を通して私が元気をもらったということです。
 環境をなんとか守りたい、と活動するなかで、私は同じ道を歩んでいる人が他にもたくさんいることを知りました。自分たちのコミュニティを少しでもよくしよう、よりよい仕組みをみつけようと努力している人が世界中にたくさんいるのです。他の人々が個人で、あるいはグループで、どのような取り組みをしているのか知ることは大変刺激になります。

 日本の環境保護活動家はどんな事をしていますか?きっと日本でもみんな活動しているはず。私はその人達がどんな人たちで、どんな活動をしているのか、ぜひとも知りたいと思っています。

ヨハネスブルクサミットに集まる人たちに伝えたいメッセージは?

 私は二つのことに焦点を絞っています。一つは社会問題、健康問題、環境保護問題の三つの課題を相互に関連づけること、もう一つは私たちの抱える問題に対して、一人一人が責任ある態度をとるようになることです−そしてこれが会議の本当のテーマです!

セヴァンから見て、国際政治を動かす大人達はこの10年でどう変わったと思う?

 政治の持つ問題点の一つは、政府が短期的な視野でしか考えないことです−次の選挙で再選されるまでのことしか。だから私は、リオで、政治家の人たちに自分自身の子ども達の事を考えてくださいと言ったのです。彼らに、長期的に責任を持たなくてはいけない、真の課題について考えてもらうために。残念ながらこの10年を見れば明らかなように、政治の世界のリーダー達は全然長期的視点で考えようとはしてきませんでした。
 私は9.11のアメリカ合衆国での自爆事件のあと、人々が地球規模の不均衡にもっと目をむけるようになる事を期待していました。そして、「持てる者」と「持たざる者」の間の、あのような常軌を逸した国際的な攻撃を防ぐためには、地球規模での解決案を長期的視野にたって真剣に見つけなくてはならないということに人々が気づいてくれたらいいと。でも、残念ながら合衆国政府のとった対応は、悪漢退治という短絡的なものでした。「悪漢」が生まれてきた背景を考えてみようというものではなかったのです。

今の若者がすべきことってなんだと思う?

 自然の中に飛び込んで行ってください。このことはいくら強調してもしすぎることはありません。若者が自然の感覚を身につけながら成長することは本当に大事なことです。これはまた、わたしたち一人一人の肉体的・精神的健康のためにも大事だと思います。私たちはますます自然から縁遠くなっていくのではないか、そして私たちの世代が自然にまつわる子ども時代の思い出をもたない最初の世代になるのではないか、と私は心配しています。

 私はこのことと、都市の子ども達がますます不健康になっていることには関係があると思っています。これはとても危険なことです。自然の事を知りもしないで、どうやって自然をまもれるでしょうか?なぜ自然が重要なのか知らなければ、おそらく私たちは自然なんか必要ない、と思ってしまうでしょう。屋外の、自然の中で多くの時間を過ごせば、私たちはなぜ私たちが自然界を保全しなくてはならないのか、知り、かつ覚えておくことができるでしょう。

 自然のシステムについて、あるいは私たちがどのように自然に適応し、かつ、自然に依存しているのか学ぶ中で、「自然の中に出ていく」ということは重要な位置を占めています。私たちは自分たちが食べるものがどこから来るのか、空気や水が木や海によってどのようにきれいにされるのか、そして私たちのライフスタイルが自然にどのような影響を与えているのか、もう一度学び直す必要があります。これらについて学ぶことで、私たちは数々の難問への解決に一歩近づくことができるでしょう。

今のセヴァンの夢は?

 これはすごい質問ですね!私は未だ学び、研究している身で、そうしながら人類の明るい未来(これは実現可能なんですよ!)はどのようなものだろうか、考え続けています。もし、私たちが軍備とか宣伝とか、あるいは化粧品なんかに使っているお金を全部、持続可能な解決方法を見つけることに振り向ければ、多分、もう解決しなきゃいけない問題自体がなくなってしまうでしょうね。

 私は、私たちの価値観の一大転換が必要だと思っています。いま、私たちは短期的なサバイバルばかり見せられています。政府のその短い任期中の出来事とか、四半期ごとのビジネスレポートとか。私たちは「どんな未来を希望するのか?」という問いかけをすることを教えられていません。学校で私たちは多くの情報を得ます。でも、私たちは人類として、どうやって自然界に適合していったら良いのか、またどうやって自分たち自身を、あるいはお互いを、そして地球を大事にしていったら良いのか、教えられることはないのです。私たちはそれらが重要な事だとは教わりません。もっとそれらを学ぶことの重要性を強調していかなくてはならないのです。

 将来、都市に革命が起こるでしょう。都市は変わらなくてはなりません−今のやり方では都市は持続していくことはできません。将来的には、人々がコミュニティに住めるようになったらいいなと思います。そこでは私たちは何らかの形でお互いが関係しあっている事を実感し、近隣の人たちと連帯の気持ちを持つことができる、そんなコミュニティです。私の考えでは、どの都市も、たくさんのコミュニティ農園を持つべきです。そこでは近隣の人たち同士が共同で責任を持つと同時に収穫物を分かち合うことができるのです。そこにはまた、効果的で廉価な公共交通機関も必要になります。

 私たちの未来を持続可能なものにするために、そして私たちが住む都市をもっと楽しい場所にするために、私たちにできることはたくさんあります!これは取り組みがいのある課題です。私たちは問題を解決しなくてはならないのです!成功する可能性はかなり大きいです。多くの都市で、積極的な取り組みがされている例がたくさんあります。

 この最後の質問「あなたの将来の夢は?」、私はこの質問こそが前に進んでいくための最初の一歩だと思います。この同じ質問を、私は子ども達、若者、大人達にしたい。あなたの夢はなんですか?そしてどうすれば私たちはその夢に到達できるでしょう?この質問はこのインタビューの最後を飾るにふさわしい質問です。なぜならこの質問が解決の始まりなんですから。私は、あなた達の夢がなんなのか、みなさんに是非聞いてみたいです。そうすれば、その夢をどうやって実現するのか、私たちはその方法を考え始めることができるのです。

 みんな、ありがとう!

 愛を込めて
 セヴァン
 2002年6月5日


翻訳:ウインドファーム