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産む側の主体性を尊重したお産を

家庭出産に取組む金子由香利さん

 以前は日本中どこでも家庭またはそれに近いところで行われていた出産。それが1960年代から急激に病院での出産が増え始め、今では助産院も極まれにしか見かけない。出産に医療の手が入ったことで周産期死亡・新生児死亡が減少したことは確かだが、一方で、陣痛促進剤による被害が報道され、女性たちからも「もっと自然なお産がしたい」という声が出始めている。ここで私事だが、私は第三子を自宅で出産した。取り上げてくれたのは「マザーズハウスかねこ」の金子由香利さん。「産婆」というにはかなり若いが、「母親の産む力を信頼した自然なお産」「産む側が主体性を持つお産」にかける信念は強い。「家族に囲まれた家庭出産」を提唱する金子さんにインタビューしてきた。
(本誌・大倉純子)


―最初から助産婦を目指したわけじゃないんですよね。
 最初は、北海道の酪農の大学に行ったんです。サークルも乳牛研究会。だから初めて見たお産も牛のお産(笑)。牛は大抵ね、自力で産んでしまいます。朝学校行ったら仔牛が歩いてた、とか。
―それが又どうして助産婦さんに?
 学生結婚して、大学4年の時に子どもを産んで、卒業後もしばらくは専業主婦だったんですが、下の子が生まれて1歳の時に、一生続けられる仕事がしたいと思って、働きながら看護学校に通い、助産婦の資格をとりました。
―金子さん御自身の出産はどうだったんですか?
 いやーそれが(笑)、1人目のときは産む2日前まで授業に出て、予定日通りに生まれるように病院で陣痛促進剤使って計画出産。2人目の時は微弱陣痛だったんで自分から「(促進剤の)点滴して下さい。」とお願いして、3時間で生まれました。でも、それなりに感動したんでしょうね、その感動があったから助産婦になりたいな、と。
―いつ頃から「自然なお産」や自宅出産に取り組み出したんですか? 
 最初、大きな総合病院の産婦人科で働き始めました。1年目は自分の仕事を覚えるのに精一杯。2年目になって春日助産院というところから、「助産婦の勉強会をするから来ませんか」というお誘いがあって「まあ、行ってみようかな」程度の気持ちで行ってみたんです。そこで、「へー、こんなお産もあるんだー」と。それまで病院のお産しか知らなかったですからね。で、勉強会を続けるうちに「今本当にお母さんたちの援護者として出産に立ち会ってるのだろうか」という疑問が湧いてきて病院勤務を続けるのが辛くなり、2年後に病院をやめて「マザーズハウスかねこ」を開きました。経済的に成り立っていく見込みはほとんどなかったんだけど。
―病院のお産と金子さんが目指しているお産はどこが1番違うと思いますか?
 病院は、各病院それぞれのシステムがあってその制約が大きいんですよ。例えば妊婦さんに付き添ってて、もうすぐ生まれそうでも勤務時間が終われば交代しなければならない。産む方も不安ですよね。あるときなんか、分娩係は私1人しかいないのに、生まれそうな妊婦さんが3人もいたことがありました。病院だから心音と陣痛を計る機械をつけていて記録をつけないといけないんです。だから妊婦さんに寄り添ってる暇なんかないんですよ。1巡したらすぐまた記録の時間になって、妊婦さんじゃなくてモニターばっかりみてました。
 産むときも、ほとんどの病院は高い分娩台の上にあがるんだけど、あれも医者や助産婦が診やすいようにあるのであって、おかあさんにとって楽だからじゃないんです。私がお母さんの自宅で出産のお世話をする場合は、お風呂に入ろうが、座って生もうが、歩き回ろうが、叫んだほうが楽なら叫ぼうが自由にしてもらっています。そのなかで、おしゃべりしたりマッサージしてあげたり、少しでもお母さんが安心して産めるようにお手伝いしています。
 根本的に見方が違うと思うんですよね。例えば微弱陣痛でも、医師の考えでは赤ちゃんが疲れるから薬を使って子宮を収縮させて、会陰切開して早く出そうとする。でもそれはかえって赤ちゃんやお母さんに大変なストレスをかけることになり、心音が落ちたりして吸引で早く赤ちゃんを引っ張りだしたり、帝王切開になることも多いような気がします。
 自然出産の考え方では、陣痛が微弱なのは赤ちゃんが疲れているからで、逆にゆっくり待って休ませてあげようと考えるんです。そうして待ってると自分の力でちゃんと生まれてきます。心音計がついてれば心音が下がると「あ、大変大変」ってなっちゃうと思うんだけど、機械がないから待てるんですね。
 中には勤務時間中に生ませようとか、休みにかからないように生ませようとかで、陣痛促進剤を使ったりする先生もいるんですよ。出産は誰のものなんだって言いたいですね。
―病院での出産が増えた理由は、「もし何か異常が起こったら」という不安があるからだと思うんだけど、その点はどうしてるんですか?
 出産中に何かあればすぐ受け入れてもらえるように産婦人科の病院と連絡をとっています。でも、そうならないためにも妊娠中からのお母さんとの触れ合いを大事にして、お母さん自身の健康管理をきちんとしてもらうようにしています。必要な検査はしてもらって、心配な症状があれば事前に治療してもらう。
何事もなく無事に生まれてくるほうが、圧倒的に多いですけど、ヒヤッとしたことが1回だけあります。お産自体は軽かったんだけど出血が多かったんです。幸い持参した収縮剤の点滴1本で止まったからよかったんだけど。その人の場合は、妊娠38週目で急に受け入れることにしたんだけど、次の検診前に出産になってしまったんです。やっぱり事前に十分なコミュニケーションが必要だなと反省しました。
―助産院を開こうとは思わないんですか。
 んー、「開いて欲しい」という声もあるんだけど、私自身としては家庭出産が1番いいと思ってるんですよ。生も死も人間の日常から切り離されたものではなくて、おみそ汁の匂いとか子どもたちの遊んでる声とかそんな生活の1部としてあるものだと思うんです。だから、出産だけじゃなくて死ぬときも、孫の声とか家庭の匂いとか音とかそういうものに囲まれて死ねたらいいな、と。
 「マザーズハウスかねこ」も出産という場面だけを入院中だけ見るんじゃなくて、思春期から妊娠・出産・子育てそして更年期まで、女の人の一生のそれぞれの場面を支援していきたいと思っています。
 自宅出産で産まれてきた子は、落ち着いていてあまり泣きません。お母さんも「もう、ホントにかわいい。無条件にかわいいって思える」って言うんです。上の子どもたちやお父さんも体験を共有できるので、産まれてきた子を自然に受け入れることができます。病院だと赤ちゃんは新生児室で、決められた時間にガラス越しの対面。我が子を腕に抱けないなんて変じゃないですか。病院だから感染防止の意味もあり仕方ないのでしょうが、家庭分娩の場合、家族しかいないのでそんなに神経質になる必要はないですね。
―自然なお産がしたいと、助産院や自宅で産もうとする人は増えてますか?
少ないですねエ(笑)。助産院もあまり変ってないんじゃないかな?私の場合は開業1年目で自宅出産が2人、2年目は4人、3年目の今年が5月の時点で3人。今回、嬉しいことに1年目に生んだ人が2人目も、と言ってきてくれて、初のリピーター(笑)。電話での問合せは多いんだけどね、こっちが色々説明すると「わかりました。家族を説得してみます。」って言ってそれっきり。やっぱり家族に反対されるというのが多いみたいですね。もっと家族の方の理解が欲しいですね。
―何か新しい試みをしてみたいという希望は?
特にないんですよ。やっぱり産む本人のお母さんがどういうお産をしたいか、じゃないでしょうか。私じゃなくて、お母さんと家族が主役なんだから。その人がどんなお産をしたいかを聞いて、じゃあそのためにどうしようかって一緒に考えていく。私は家庭出産は1番贅沢なお産だと思っています。自分のお産てものをきちんと捉えていて、家族の協力があって、健康の面でも心配がない人にしかできないのだから。家庭出産ならではの良さこそあれ、リスクは少ないと思います。
―これから出産する人に言いたいことは?
一体誰のためのお産か、考えて欲しい。フランス料理を出したり、ホテルのような贅沢さを売りにしている病院が増えているけど、それが本当に赤ちゃんにとっていいことなのかを考えて、産むところを選んで欲しい。お母さん達が求めるものが変れば、病院も変らざるを得ない。病院を変えていくのもお母さんたちの力だと思います。

「私の出産体験記」

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