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旅を振り返って

優しさをベースにした逞しい行動力への期待

 今回、南米に行くのにアメリカのヒューストン経由でエクアドルの首都キトに向かったのですが、霧のため標高2800mのキトに着陸できず、標高がゼロに近くて蒸し暑い港町のグアヤキル空港に真夜中の緊急着陸。当然、現地の出迎えの人はいません。さらに悪いことは重なるもので、ヒューストンで乗り換えた飛行機にトランク類が積み替えられておらず、荷物も届かない。さらに、コーヒー産地に向かう途中、大雨で土砂崩れのためバスが立ち往生したりと、トラブル続きでした。しかし、そんなことを笑い話にできるくらいに素晴らしい出来事や出会いが待っていたのでした。

 エクアドルには明治学院大学国際学部の辻信一さんグループと同行しました。辻さんは大学助教授としては型破りな人で、20代30代を北米で過ごし、文化人類学者である彼は、日本や南北アメリカの先住民族の友人たちやアジアの人々と環境保護運動をダイナミックに進めています。
 今回は辻さんのエコツアーの呼びかけに応じた学生8名(何故かすべて女性)と2週間行動を共にしました。先住民族や黒人、混血の人々との交流や環境保護のイベントに参加するなかで起こった白人の黒人に対する差別的態度への応対など、彼女たちの行動を身近に見ていて、人間としての優しさと逞しさとを感じました。

 20世紀に私たち大人が種をまき、巨大化させ、刈り取ることができない怪物=環境問題を解決するには、21世紀を担う若い人たち、特に女性たちの「これから生まれてくる子どもたちのことを考えた」優しさをベースにした逞しい行動力がカギを握っているのは間違いないと感じました。
 そうした若い女性たちに無言の手本となっている人がミュージシャンで環境保護活動家のアンニャ・ライトさんです。彼女は今回のエクアドル・エコツアーを辻さんと計画し、現地コーディネーターを務めてくれました。アンニャに接した多くの人が彼女のギターの弾き語りと穏やかでやさしい人柄に魅了されます。
 「両親は命あるものを大切にするよういつも私に教えてくれました。ですから高校の時に、自分の人生を母なる大地を癒すために捧げようと決意したことは、とても自然な成り行きでした」という彼女は、木を切るためのチェーンソーの前に立ちはだかったり、森林伐採阻止のための平和的行動で逮捕され拘留されても、環境保護活動をやめようとしない人です。
 こうした人たちと、小社のブラジル事務所から参加した陽気でいたずら好きなクラウジオ・ウシワタと、家族から「いい加減で、無責任な男」といわれている私が、旅先でさまざまの活動に取り組んでいる人々と出会う珍道中でした。私にそのことを上手く伝える表現力がないのが残念ですが、旅の終わりに学生の1人が「私、生まれてきて良かった」とつぶやいたように、このエコツアーに参加した皆が、それぞれに得難い体験をした旅でした。

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