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私の出産体験記

大倉 純子

それは、まるで祝祭のような出来事だった

 まだ3人目を妊娠中、妊婦検診のとき、金子さんから酪農を専攻していたと聞いて、一瞬自分が牛になったような錯覚に襲われた。だけど考えてみると、牛でも他の動物でも自然の営みの一部として、母親の力だけでお産をするのに、どうして人間だけが医療器具に囲まれないと赤ちゃんを生めなくなったんだろう?

 私たち夫婦の場合、もともと薬や会陰切開のない自然なお産をしたいという希望があったが、1人目の時は破水して、病院に行きそのまま出産。「会陰切開は嫌だ、粉ミルクはあげないで」と言っても受け入れてもらえなかった。根本的に信じているものが違っていて、産む側の希望など端から聞く気がないように感じた。

 そんな経験から2人目は、助産院で出産。3人目もそこで、と考えていたが、そこの助産婦さんが入院してしまい、どうしたものかと迷っているときに、「マザーズハウスかねこ」を発見した。そこで金子さんに連絡をとって会ってみると、何と私よりン歳も年下。でもとても頼もしい人で、こちらの話によく耳を傾けてくれる人だった。

さて、出産。夜中に陣痛が始まった。「風呂に入ると陣痛が軽くなる」と聞いていたので、夫に風呂を沸かしてもらい、何回も入る。金子さんから「そのままそこで生んだら?」と言われたが、それは辞退。陣痛はおもいっきしキツかったが、陣痛が来るたびに金子さんと夫が的確に1番楽になるところを押さえたりマッサージしてくれた。

 明け方いよいよ生まれそうということで、5歳の娘と3歳の息子を起こし、「夜中でも絶対呼んでね」と言われていた友人に連絡する。半分うつぶせの様な横向きの姿勢でいきんだときに赤ちゃんが生まれてきた。

 産まれた子はぜんぜん泣かず、部屋の中の様子をキョロキョロっと見て一言「アーイ」(夫の故郷のアイルランドで「YES」という意味。偶然だろうけど・・・)と言った。しばらく私の横で寝かせた後、夫がへその緒を切った。後産の胎盤も試食した。産後の回復には効果バツグンだそうだ。

 夫は赤ちゃんをバスタオルにくるんで「ここが台所よ」「この人がお姉ちゃんよ」と家の中を案内していた。今思いだしてもほのぼのするような、私にとっては祝祭のような出産だった。

 金子さんは産後も1週間毎日来てくれて、私の様子を見たり、赤ちゃんを沐浴させてくれた。それ以降も赤ちゃんが便秘したときなど、心配事で電話したらすぐ来てくれて、本当に頼りになる存在だった。

 これは個人的な感想だけど、酪農を専攻して動物達と関った経験は、金子さんにとって大きな意味があったのではないだろうか。生き物の「産む力」に対する信頼を自然に身に付けている人だと思う・・というわけで、主体的なお産をしたい人、家族と体験を分かち合いたい人には、家庭出産、超オススメなのだ(ちなみに、経済的負担も軽いです)。

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