インタグコーヒー生産者協会 <エクアドル共和国・インバブーラ県コタカチ郡 インタグ地方>

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命あふれる森を汚染する鉱山開発との対立

世界有数の生物多様性を誇るエクアドル・インタグ地方。そこでは亜熱帯の風が霧を呼び、雲を運び、雨を降らせ、樹木をみずみずしく保ちます。そこに育まれる熱帯雲霧林は、いのち溢れる豊かな森。

その森に大規模な鉱山開発プロジェクトの話が持ち上がります。鉱山開発では試掘の段階から、ヒ素やカドミウムなどの重金属による環境汚染が引き起こされます。住民たちはそれを阻止するため、環境保護団体DECOIN(デコイン)を立ち上げました。

しかし、経済的にとても貧しい地域であるインタグにおいて、ただ反対するだけでは鉱山開発の圧力に負けてしまいます。鉱山開発に替わるものとして、経済的、社会的、生態系的という三つの領域を満たす発展の形を示さなければなりませんでした。その答えとなり得たのが、伝統的なアグロフォレストリー(森林農法)による有機コーヒーの栽培だったのです。

コーヒーの花と蝶

こうして1988年に設立されたのが、インタグコーヒー生産者協会(AACRI:アークリ)です。それまでインタグ地方では、とうもろこしやサトウキビを栽培し、それが仲介業者に安く買いたたかれるという現状にありました。コーヒー栽培についても、それぞれが自分たちで飲む分を細々と育てる程度。アークリの設立はそんな状況から始まった挑戦でした。

AACRIのメンバー

地域でコーヒーの有機栽培を広めていくためには生産者だけでなく、地域の技術指導員を増やしていくことが必要です。そのためにエクアドル全国生産者組合から講師を招き、栽培や加工技術を学ぶ機会を設けました。またコーヒーを日本に輸出する際も、梱包の仕方やどういった手続きが必要かわからない状態で、手探りで作業を進めました。

それから20年以上が経ち、インタグのインフラ設備も格段とよくなりました。また、栽培技術の向上やコーヒー生産・出荷に関わる機材も導入され、コーヒーの品質は飛躍的に向上しています。

協会の新たなかたち

アークリが設立されてから20年以上経った現在、新たなる問題も出てきています。それは、さまざまな理由から、会員数や生産量が下がってきているということです。生産者たちの収入が上がることで、子どもたちの教育機会が増えたのですが、町に出て高等教育を受けた子どもたちは、そのまま町に留まってしまうことが多くなりました。これによって、農園を受け継ぐ若い世代がいなくなり、生産者の高齢化が問題となってきたのです。

また、気候変動による異常気象で、これまでにはなかったコーヒーさび病が蔓延し、従来の病害対策では効かなくなってしまい、コーヒー栽培をやめる生産者も出てきました。

それでもアークリは苗木と肥料をセットにしたキットを生産者に配布したり、コーヒーの樹木を深く剪定して木を若返らせることを積極的に行い、コーヒー生産量の増加を目指しています。

さらに女性たちにスポットを当て、インタグで女性たちが幸せに暮らせることを願って、女性生産者だけで作るコーヒーのブランドを立ち上げました。エクアドルの農村地域では、男尊女卑の風潮がいまだに根強いなかでのこうした取り組みは画期的です。

女性の作るコーヒーの焙煎に携わるソニア・アリアスさん

アークリの協会員たちは、設立当初の思いを大切に、未来を見据えながら有機コーヒーの栽培を続けているのです。
アークリが設立されるまでの物語、またインタグの人々の暮らしや鉱山開発ではないオルタナティブな開発への取り組みなどを、下記の「インタグコーヒー物語」で詳しくお届けします。

インタグコーヒー物語 目次

第1話:インタグコーヒーを育むその風土から・・・
第2話:森の人 カルロス・ソリージャとの出会い
第3話:迫り来る森の危機
第4話:インタグコーヒーの芽生え
第5話:アウキ知事の取り組み
第6話:終わらない鉱山開発
第7話:インタグコーヒーの作り手たち 〜その1 コルネリオさん
第8話:インタグコーヒーの作り手たち〜その2 オルヘル・ルアレスさん
第9話:インタグに移り住む人々  〜その1 アンニャ・ライトさん
第10話:インタグに移り住む人々 〜その2 メアリー=エレン・フューイガーさん
第11話:インタグコーヒーの作り手たち〜その3 ホセ・クエヴァさん
第12話:インタグコーヒーの作り手たち 〜その4 アルフレド・イダルゴさん
第13話:インタグコーヒーの作り手たち 〜その5 アンヘル・ゴメスさん

インタグコーヒー生産者協会

エクアドル・インタグコーヒー生産者協会のコーヒー、麻袋

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