アグロフォレストリーに関する記述(パトリシア・モグエル)

ビクトル・トレド/パトリシア・モグエル
(メキシコ国立自治大学付属環境センター メキシコ・モレーリア州)

<メキシコにおける持続可能なコーヒーの模索 多様な植生と文化の重要性>
(要約:ウインドファーム)
世界第1位のコーヒー生産国は、ブラジルです。ブラジルにおけるコーヒー生産は主に、先端技術を用いた単一作物のプランテーション栽培です。また、農薬 の使用量も多いのが特徴です。しかしメキシコでは対照的に、海岸沿いの傾斜地などを利用した集落ごとの農園で、農業用森林内に生育している植物の木陰にお いて栽培されています。こうした農法は、先住民によって確立され、彼らは原生林を農業用森林として活用してきました。このような背景から、メキシコのコー ヒーの多くは、先住民の手により栽培されています。さらには、コーヒー生産地帯は偶然にも、メキシコにおける生物の宝庫と呼ばれる地域と、ほぼ完全に一致 します。
この報告では、コーヒー生産のプロセスを通じて、植生と共に文化の豊かさを保護する重要性を強調したいと考えています。同時に、コーヒー栽培システム、 メキシコの生物と文化の多様性の中にある相互関係にも、着目していきたいと思います。これは、持続可能なコーヒーについての新たな概念の実行と定義に向け た、基本的な視点としても捉えることができると思います。
*メキシコにおけるコーヒー生産の5つのシステム
筆者の調査(モグエル1996年、モグエルとトレド1996年)によると、コーヒー生産に携わる先住民は150万人に達し、28の民族が携わっていま す。また、オアハカ州、チアパス州、ゲレーロ州をはじめとする地域では、ほとんどの有機コーヒー栽培において、原生林に農薬を投入することなく、生活環境 に優しい農法が取られています。

メキシコでは、植生構造の違いと、本来のエコシステムの管理方法により、主に以下の5種類の栽培方法に分類できます。

?山岳(又は農村)地域の伝統栽培方法:
山岳方式、又は農村方式と呼ばれるこの生産方法は、単に熱帯林や温帯林の土壌にコーヒーの木を植えて育てます。このシステムによる原生林への影響は、最小 限に保たれます。その理由は、原生植物の階層構造を守り、コーヒーの木を植えることで、植生の最下層を除去するにとどまるからです。

?伝統的多品目栽培:
木陰におけるコーヒー栽培方法としては、原生林のエコシステムより進んだ管理下にあります。?の方法と同様に、コーヒーは原生林の木陰の下に栽培されま す。ここで異なるのは、コーヒーの木が、原生林や非在来種の植物とともに、進んだ管理の下で有益な植物との栽培が行なわれていることです。この方法を用い れば、豊かなコーヒー農園が誕生して、あらゆる種類の樹木、潅木、原生林などが育ちます。

?商業用多品目栽培:
原生林上層部の植物の完全除去と、コーヒー栽培に適した木陰用樹木の移入。この栽培方法を用いる森林では、コーヒー導入以前の原生林は見られず、木陰樹に 適した樹木が植えられます。 原生種ではありませんが、より適した樹木としてゴムやコショウ、シダ、インガ、チャラウイテなどが、柑橘類、バナナ、コー ヒーなどの商用作物に木陰を与えて多品目栽培を形成します。

?木陰単一栽培:
この栽培方法は5番目の栽培方法と同様、ここ20年内にメキシコに導入された最も近代的な栽培方法です。インガと呼ばれる豆科の植物を活用して、ほぼ豆科の植物のみがコーヒーに日陰を提供します。こうして特定の植物の下に、単一植物によるプランテーションが形成されます。

?木陰無し単一栽培:
この栽培方法は、これまでに示した森林農法の様式から大きく逸脱した農法です。木陰をつくる樹木は皆無で、コーヒーの木は、太陽に完全にさらされていま す。このコーヒー生産システムにおいては、多くの化学肥料や殺虫剤を必要とします。また、1年を通して、機械や集約的労働も必要とされます。また、この栽 培方法では、栽培面積単位で最も多くの収益が見込まれます。

1989年INMECAFE(メキシココーヒー機構)によるコーヒー国勢調査を分析し、主要コーヒー栽培地の7地域を直接調査した結果、メキシコ における60%から70%のコーヒーは、伝統的な森林農法による?の栽培方法が行われていました。さらに、20%から30%は?。そして10%は?の栽培 方法でした(1996年)。
*伝統的なコーヒー栽培システムにおける生物多様性
筆者の調査の結果、木陰の下にある伝統的コーヒー林(主に先住民によって管理されている)は、生物多様性の宝庫であることがわかりました。 この森で は、50種から100種の植物、そして20種から60種の樹木が確認できました。また、着生植物の種類は、樹木の総種類の3倍に達しました。植物学上の調 査においては、各調査地における有用な植物の数は、50種から80種にも達するとの結論があります。さらには、コーヒー農園には600種類以上の節足動 物、主にクモ、アリ、チョウ、ミツバチ、セミの仲間などが生息しています。また、甲虫も棲息しています。 一方で、草木の種類の豊かさも、おそらく節足動 物の種類の豊かさに大きく効果を与えていると考えられます。
また、あらゆる研究結果が伝えるとおり、アグロエコシステムを構成する植物や構造の多様性が乏しくなることと、害虫発生および害虫の個体数の多さは、直接的な関係があります。
その他、木陰の下の伝統的コーヒー農園における特徴は、常住、渡り鳥、地域固有種の多くの鳥類の数にあります。コーヒー農園の鳥類の総数は、雲霧林 (100種から110種)、マツやナラの茂る湿潤な森林(80種から100種)、ナラの森(60種)、マツの森(50種)などを大きく上回ります。メキシ コのコーヒー農園にある、“環境の色彩”と言えます。
*メキシコのコーヒー栽培システムの文化的相違
言語学者によれば、21世紀には3.000から6.000の言語が消えてなくなると言います。また、約2.400の言語が、消え行く危機に直面すると言 われます。そして、600の言語のみが安定的とされる言語で、それには、少なくとも10万人の話者が各言語に必要と言われます。もし、最低限10万人の話 者が必要とされるのであれば、メキシコのほとんどの先住民は、絶滅の淵にいることになります。
メキシコでは、150万の先住民がコーヒー栽培の担い手とされています。また、彼らは異なる29の民族に分かれています。先住民の地域社会は、あらゆる植生が共生する、伝統的な木陰を用いる農業用森林の管理責任者であり、その創造主でもあります。
コーヒー生産に携わる先住民は、その人口から3つに区分できます。20万人以上の人口を抱える民族が5つ。10万から15万の人口を抱える民族が3つ。 10万人以下の人口の民族が5つ。もう1つ大切なことは、コーヒー生産者の置かれた立場は、独自文化の存続に深い関係があるということです。
*結論
あらゆる動植物の棲息する木陰がある農業用森林の維持は、持続可能なコーヒーおける決定的な要素を形成します。なぜなら、この栽培システムが、生物多様 性と共に、文化の多様性をも持続可能なものにしているからです。局地的、又はより広い視点で見ても、伝統的なコーヒー栽培林は生物の宝庫であり、土壌流出 を防止して土壌の質を保証する最良の方法です。その他、水の確保、二酸化炭素放出の抑制、化学肥料を含まない健全な生活環境の創出につながっています。そ して、先住民の文化保全にも関わっているのです。
コーヒーの消費者と流通業者は、伝統的なコーヒー生産システムを再認識する必要があります。生産者に対して、評価できる最大限の価格を提示する。そし て、生産者が、持続可能で環境に優しい生産方法に転換するための費用をサポートする。こららの対価の支払いは、コーヒーという魅力的な飲み物や、その持続 可能な栽培方法から生まれるものではないのです。これは、生産者、販売者、消費者のそれぞれの意識により生まれてくるものなのです。

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