中日新聞2002年6月18日掲載
「有機コーヒーいかが」

中日新聞記事

関心高まる「カフェ・スロー運動」

 大手コーヒーショップチェーンが店舗拡大などにしのぎを削る一方で、有機無農薬コーヒーへの関心も高まっている。背景にあるのは、安全性はもとより「フェアトレード(公正貿易)」や環境保全など、産地とのつながりを大切にしようという動き。安くファーストフード化されたコーヒーに対して、産地固有の価値を尊重する「カフェ・スロー運動」の取り組みを紹介する。(井上 昇治)

安全で味もマイルド

 東京都府中市の有機コーヒー店「カフェ・スロー」で五月下旬、有機栽培コーヒーを焙煎(ばいせん)度合いを変化させて味の違いを飲み比べるイベントが行われた。浅い焙煎でいれたコーヒーはきれいな琥珀(こはく)色で、口に含むと、柔らかい味がじわっと広がる。
 普通、コーヒー豆は焙煎を深くすると苦みが増し、逆に浅いと雑味が出やすい。そのため品質の悪い豆も焙煎を深くすれば、苦みでマイナスの味を隠すことができる。イベントは、画一化した「カフェブーム」の味に対してコーヒー本来の味を見直すのが目的だ。
 手間をかけて育てた有機コーヒーは浅い焙煎でマイルドな味が楽しめる」と、イベント主催者の一人で、ウインドファーム(本社福岡県)代表の中村隆市さん(46)。中村さんは、中南米の有機コーヒー産地と提携、フェアトレードで輸入し、焙煎から販売まで一貫して手掛けている。
 中村さんが、無農薬コーヒーの輸入を始めたのは1988年。「生産者のメッセージや産地の社会背景、環境問題も伝えたい」と考え、翌89年にはブラジルに。以後、同国やエクアドル、メキシコの生産者と交流を続け、有機コーヒーの普及に努めてきた。
 しかし、新興勢力ベトナムの輸出増などで、コーヒー生豆の国際相場が低迷。中南米では、生産農家の困窮や失業問題が深刻化している。中村さんのもとにも、現地の知人から「生産者が生活できなくなっている」という声が届く。
「現地の森林や生産者たちの生活を守るために、有機コーヒーを飲んでくれる理解者を日本に増やす必要がある」。中村さんが行うフェアトレードでは、生産原価の保証が原則であり、国際価格が暴落している現在、約3倍の価格で買い取っている。産地の環境を保全、先進国と発展途上国の格差を是正し、現地の営農を安定させるのが狙いだ。


 コーヒー生産者を応援する、こうした「カフェ・スロー運動」に賛同するカフェがブラジル、エクアドル、東京、福岡に広がり、仙台、大阪などでも始めたいという人が出ている。
 今春、大学を卒業した藤岡亜美さん(22)もその一人。9月にエクアドルで開催される「有機コーヒー・フェアトレード国際会議」に参加。現地の生産者と交流し、帰国後、来春にも東京都内にカフェを開店する。
 「コーヒーを販売するだけでなく、現地の環境や生産者の生活など、地球の反対側でコーヒーを作っている人たちの背景を常に意識することで、新しいつながりを築いていきたい」と意欲的だ。
 今後は、中村さんら関係者が「カフェ・スロー運動」に協力する全国のカフェを紹介する地図を製作。今年中に活動内容をまとめた本「カフェ・スロー宣言」も出版する計画を進めている。

「スローフードな人生!」の著者で、ノンフィクション作家の島村菜津さんの話

 誰がどこで作ったのか、食べ物の実態が見えなくなり、食品のスピード化、画一化が進んでいます。スローフード運動は多様な味の世界を守ること。食のグローバル化は、コーヒー豆も例外でなく、多国籍企業に大量流通、大量生産が握られています。生産地に目を向け、ファースト化した生き方を反省する「カフェ・スロー運動」は、スローフードの考え方と同じです。