第4話:インタグコーヒーの芽生え

インタグコーヒー生産者協会の設立まで

巨大な力を持つ開発勢力に対抗するためには、住民が力を合わせて立ち向かう必要がある。そのためにカルロス・ソリージャは、「住民運動を組織しよう」と提案する。 1995年1月、「インタグの生態系の防衛と保護」という名の環境保護団体DECOIN(以下、デコイン)がインタグの住民によって結成され、カルロス・ソリージャは副会長に就任した。

デコインの最初の仕事は情報収集と発信だった。この取り組みには、首都キトで活動する環境保護団体も協力してくれた。ニューヨーク植物園や世界的に著名な生物学者のエドワード・ウイルソンにインタグの森の重要性を証明する手紙を書いてもらい、カルロス・ソリージャはその情報を世界に送った。

その結果、デコインは欧米の森林保護団の支持を得ていく。
海外だけでなく、地元の住民にもこうした情報を提供していった。この鉱山プロジェクトにより、4地域100世帯の住民が退去させられること、鉱山開発に 利用される4000ヘクタールの森が伐採されること、そして生活のあらゆることに利用される重要な河川が汚染されること。

それらの情報は、デコインを通して知ったフニン村の住人に伝わり、そこからさらにインタグ地方全域へと広まっていった。ときには、鉱山開発賛成派の住民からは訪問を拒否されることもあったが、すぐに他地域からの賛同者も増えた。

デコインの結成から10ヶ月後、コタカチ郡で最初の環境保護会議が、インタグ地方のフニン(地図参照)で開催された。この会議には、インタグの20のコミュニテイ(村や集落)から200人以上の参加者が集まり、エクアドルの政府高官や日本のM社、鉱山会社の代表も出席していた。

デコインの活動が、世界の環境保護団体やエアドル国内での関心を高めたことにより、開発側も地域住民の声を無視することができなくなったのだ。この会議 において、鉱山開発問題が初めて正面から取り上げられたこと、そして初めてデコインが公的に鉱山開発に反対の意を表明するという大きな成果を得た。

その後、活動は一気に加速する。インタグ地区全域で反対運動は盛り上がり、特に「女性と生活環境の会」など自立を目指す女性グループの活動は活発で、新聞やテ レビが鉱山開発問題を繰り返し取り上げてくれるようになった。


(民芸品の手づくりに取り組み自立を目指すインタグの女性たち)

しかしその一方で、開発賛成派からの巻き返しも凄まじくなり、カルロス・ソリージャたち中心メンバーは、たびたび脅迫を受けるようになる。

カルロス・ソリージャは経済的に貧しいこの地域で、ただ単に反対するだけでは、長期的な鉱山開発の圧力に負けてしまうと考えていた。豊かな森のなかで自 給的な生活を営んでいるとはいえ、インタグは経済的にはとても貧しい地域だった。国連調査によれば、インタグのアプエラ地区では、46%が食べていくのに 十分な収入がなく、89.6%が貧困ライン以下であるとの結果が出ている。

こうした経済的な貧困を抱える地域では、ただ単に「子どもたちに美しい自然を残したい」と訴えても、鉱山開発をくい止め続けることはできない。銅山開発に替わる発展の形を明確に示す必要があった。
そこでカルロス・ソリージャは、銅山開発に代わる新しいプロジェクトを提案した。エコ・ツアーや女性グループによる民芸品の手づくりなどがそこには織り込ま れていたが、特に大切だと考えていたのが、有機コーヒー栽培の推進で、そのためにはインタグコーヒー生産者協会の設立は欠かせなかった。

もともとカルロスは個人的に海外や首都キトに住む友人に、森林保護を訴えながらコーヒーを販売していたが、それが発展して、コーヒーの収益がデコインの自然保護活動の支援に充てられるようになり、その取り組みが環境保護活動とコーヒー栽培が連動するきっかけになる。

鉱山開発に代わる持続可能な発展は、単なる経済成長ではなく、生活の質の向上を含む、より人間的な意味での発展を意味している。ゆえに、それは経済的、 社会的、生態系的という三つの領域を満たすものでなければならなかったが、この困難な課題のすべてに対する答えとなり得る可能性を持ったものが、伝統的な アグロフォレストリー(森林農法)による有機コーヒーの栽培だった。

生態系の維持という問題に関して言えば、銅山開発以前に、インタグの住民は、日々の営みである農業により、森を浸食していたという事実がある。インタグ では多様な作物が栽培されていたが、農場の拡大は確実に森から樹木を減らした。加えて焼き畑農法は、この問題に拍車をかける。

インタグの住民が生態系の保護を考えるとき、まず自らの農業形態を省みる必要があった。この点で、アグロフォレストリーによる有機コーヒー栽培は、生態系をより豊かに保ちながら、生産できるという特性を持っていた。

銅山開発から森を守り、持続可能な発展を目指して有機コーヒーを栽培しようという意識が地域に浸透していくなかで、1998年3月、ついにインタグコーヒー生産者協会が設立された。


(インタグの森でコーヒーの生産に取り組む生産者)

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