カルロス・ソリージャ講演録 <その2>

解決策の一部か問題の一部か
皆さんに良く考えて欲しいのは、次のことです。「こういった問題は遠い国の話で、自分たち自身とは大した関係がない」と思う方もいらっしゃるかと思いますが、実はそうではありません。

いわゆる先進諸国の人々とも大いに関係する問題なのです。というのも、インタグでの鉱山開発を推進する、鉱山を必要とするようなライフスタイルはほ とんど先進諸国の人々のものなのです。日本もその中に含まれているOECD諸国は世界人口の15%程度を占めていますが、消費している鉱物やエネルギーは 60~75%にもなると言われています。

皆さんの消費者としての日々の選択が、インタグの森の破壊につながっている可能性があるのです。
皆さんに意識してもらいたいのは、皆さんも「生き物のコミュニティ(biological community)」という視点に立てば、自然や地球、世界の人々とつながっているのです。どの国に住んでいようが、街だろうが田舎だろうが、関係あり ません。この母なる地球の上では、私たちはひとつのコミュニティに属していて、各自がそのコミュニティに責任を持っていて、果たすべき役割があるのです。

例えば、樹を思い浮かべてください。樹は鳥に食べものを分け与え、葉っぱを落として土壌を豊かにし、着生植物が生息する場所も提供します。地球上に 生きる生物は多くをこのように分かち合うことをしています。人間だけが、自分のことばかりを考えているように思えてしまいます。


Photo by Zorrilla

「自ら解決策の一部にならなければ、それは直面する問題にあなた自身が加担するということだ」という言葉があります。どうか、インタグの鉱山開発問題を遠い国のものと考えずに、どのようにつながりを作れるかを考えてください。
森林農法によるコーヒーのフェアトレード
インタグとつながる方法のひとつに地域で営まれているポジティブな実践例を応援することがあります。インタグでは、鉱山開発に「No」を突きつけるだけで はなく、代替案(オルタナティブ)として、さまざまな実践を展開しています。森の中で有機栽培のコーヒーを育てること、エコツアーのプログラムを提供する こと、女性グループが民芸品を作成することなどです。

コーヒーの話を少ししましょう。コーヒーの森林農法は小規模農民にとって確実に現金収入につながる良いモデルとなりました。もともとインタグの農民 たちは森の中でコーヒーを育てるということをしていました。そこで、AACRI(インタグコーヒー生産者組合)を立ち上げ、有機栽培の推進と収穫できた コーヒーの販売を展開し始めたのです。

森の中でコーヒーを作ることのメリットはいくつもあります。コーヒーは日陰を好む植物なのですが、色々な木々があることが好条件となります。

多様な樹木が葉を落とし、それが土壌を豊かにします。バナナの木はとても良い役割を果たしてくれますね。そのため、わざわざ肥料を買って投入すると いうことを軽減することができます。私の農園は25年森林農法をやっていますが、以前よりも土壌の状態は断然豊かになっています。

また、背の高い木々が日の光をさえぎることもあり、雑草の広がりを抑えることができます。躍起になって草刈をしなければいけないということから解放 されます。森林農法のコーヒーは化学肥料も使いませんからとてもゆっくり成長します。じっくり成長することで、とても良い香りと味をコーヒーが醸し出すよ うです。だから、インタグのコーヒーは味がとても良いのです。

農家はさまざまな果樹や食べものを森から得ることが出来るため、食料に困ることがありません。バナナ、オレンジ、グアバ、アボガドなどなど。本当に 多様な食べものを得られます。仮にコーヒーの収穫が良くなくても、家族は何とか食べていけるでしょう。そして、良い物を食べるので健康も維持できます。

さらには、森の存在自体が、生物多様性を育むという効果もあります。蘭などの美しい花やイワニワドリやハチドリなどの美しい鳥が森に生息することができるのです。

こういった過程で生み出されるコーヒーをAACRIはフェアトレードという形でウインドファームとやり取りしているのです。フェアトレードは経済的な面、つまり価格の面も大切なのですが、並行して社会的な側面や環境的な側面もとても大切なのです。

社会的な面とは労働者の働く環境であったり、コミュニティのあり方のことです。コーヒー栽培があることで、農民が街に出て働かずとも家族で一緒に働 きながら過ごすことができます。これは、とても大切なことですね。環境面というのは、先ほど紹介した豊かな森が守られ、育っていくということです。

ぜひこのポジティブな実践例を皆さんにも応援して欲しいと思っています。コーヒーの国際価格の上昇や燃料費の上昇などに伴って、インタグコーヒーは価格を上げざるを得ない状況にありますが、今後とも皆さんからの応援をお願いしたいと思っています。


Photo by Zorrilla


発展の枠組みを問い直す
インタグとつながる方法としてフェアトレードを支持することを挙げましたが、「それだけでは十分ではない」と私は思っています。森林農法のコーヒーを買う というだけではなく、私たちのライフスタイルをより倫理的なものに変える、より地球というコミュニティの一員として責任あるものに変えていく必要がありま す。

そのためには、「発展」という考え方の枠組み自体を問い直す必要があるでしょう。エクアドルの小農民の中にも、「自然は利用するもの」というような意識を持っている人たちもいます。資源を持続可能ではない形で使い続けることは、破壊でしかありません。

鉱山開発で潤うのは少数の人間ですが、環境破壊などの悪影響を受けるのはとても多くの人間です。それは、世代を超えた影響ももたらします。「発展」というのもが、「経済」「お金」「物質」という側面からのみ捉えられていることがこういった現象の大きな原因でしょう。

今の世の中は如何に多くの金を得るか、モノを作り出すか、GNPはどれだけ上がったか、そんなことばかりに躍起になっています。そうではなくて、「経済」「社会」「環境」「こころ」の側面からトータルに発展を考える必要があります。

ひとつの例を紹介しましょう。インタグの女性グループがカブヤという植物から麻の繊維を取り出し、バックや水筒ホルダーなどいろいろなものを手づくりしています。


Photo by Zorrilla

ある時、エコツアーで訪れたある旅人が「これは素晴らしい。インタグに小さな工場を作って、そこに皆が集まって製造をすればもっと効率的にできるはずだ。そしたら、もっと製品が売れるようになって儲かると思う」といったことを言いました。

でも、インタグの女性たちはこう答えました。「そんなことはしたいと思わないわ。私たちは、家にいて家族と一緒に時間を過ごす中で手づくりすること が好きなのよ。子どもをあやしたり、友達とおしゃべりしたり、旦那に食事の用意をしてやったり。そんな中で出来る範囲で作る方が良いわ」と。

社会やコミュニティ、暮らしという観点から発展を捉えれば、インタグの女性たちが選択していることの方がより良いと言えるでしょう。如何により良く 生きるか、コミュニティを大切にするか、自然と調和するか、精神的な充足感を得るか。そういった観点から発展を考え直す必要があると思っています。
希望を作る 私たちにできること
さて、今日は皆さんにこの会場から出る際にぜひ「希望」を持って欲しいと思っています。「ああ、今日は遠い国の面白い話を聞いたなぁ」「きれいなスライドを見たなぁ」というだけではなくて、希望を作り出していくという意識を持ってください。

世の中の問題があまりに大きいので、「多国籍企業のやっていることに対して自分ができることなどほとんどない」だとか「環境問題などもう何をやって も手遅れだ」といった考え方もあるでしょう。けれども、生き物のコミュニティの一員として、私たちが倫理的に生きようとするならば、できることはたくさん あるはずです。

現に、インタグの人々は大規模鉱山開発に反対して、持続可能性を信じ、さまざまな実践を展開し、森を守ってきました。今のところ、それなりに成功しています。私たちには出来たのです。あなたたちにできないはずがありません。

今日この会場から出た瞬間からでも、明日からでも、仕事場ででも家庭ででも、コミュニティの中ででも、できることはたくさんあるはずです。

ある大学ではフェアトレードのものを買うように推進する運動が起きていると聞いています。車を使うのではなく、公共交通機関を活用し始めている人も います。お箸を持ち歩くのも良いでしょう。地方自治体の議員に立候補して環境政策を作り出そうという人もいます。そういった候補に投票することも大切で しょう。

ぜひ、自分が住む地域でできること。テーマでつながっている仲間と一緒にできること。いろいろな希望を実践し作り出してください。私たちにはそれをする力があると思っています。問題ではなく、答えを生きるのです。

ご静聴ありがとうございました。

写真:©カルロス・ソリージャ(photo by Zorrilla)
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