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エクアドルのコーヒー農場

銅山開発に代わる永続的な有機コーヒー栽培

自然を想う気持ちに圧倒された

コタカチ市の朝市
コタカチ市の朝市の風景 キチュア族の歓迎会
コタカチ市、キチュア族の歓迎会で
 エクアドルで最初に訪問したのはコタカチ市で、昨年秋に来日して国際有機コーヒーフォーラムに参加した先住民市長のアウキ・チトゥアニャさんが盛大な歓迎会を開催して下さり、アンデス山脈の標高3000m以上にあるクイコチャ湖畔でのシャーマンの儀式や迎賓館でのキチュア族の伝統舞踊や歌に夜遅くまで酔いしれました。楽団や舞踊団だけでなく、地域の幼い子どもからお年寄りまで総出の歓迎に胸が熱くなりました。
 翌朝、エクアドル訪問の最大の目的であるインタグ地区のコーヒー園に乗り合いバスで向かいました。日本のJICA(国際協力事業団)や日系企業が係わる銅山開発に反対しているインタグ地方は、経済政策最優先の政府の方針に反対していることにもなり、道路は舗装されず、山道の崖崩れや土砂崩れがあっても、政府は力になりません。その土砂崩れに私たちも遭遇し、バスを降りて、荷物を抱えて泥道を歩くという体験をした訳ですが、地元の人は、それに加えて、土砂崩れの度に復旧作業もしなければなりません。そういったことの大変さも知っているとインタグ地区の人々の環境保護意識のすごさが分かってきます。
カルロス・ソリージャさんと中村
銅山開発に反対し、有機無農薬コーヒーを栽培しているカルロス・ソリージャさんと
 1時間ほど長靴で歩いて到着したカルロス・ソリージャさんのコーヒー園は、ブラジルなどとは全く違い、様々な樹木や果樹、野菜などの中に「コーヒーの樹もある」といった感じでした。こうした栽培方法は農薬や化学肥料に頼らない最良の方法の一つでもあります。収穫量が少ないことや収穫作業に手間がかかるのが難点ですが、そのぶん自給自足的に野菜や果物も収穫できるため、コーヒーの相場が下がったときなどにも比較的安定した経営をすることが可能になります。ソリージャさんは、有機コーヒー生産者協会会員であると同時に、インタグ地区の住民が組織しているDECOINという環境保護団体の副会長でもあり、原生雲霧林という世界にも少なくなっている森林の保護区管理もしています。私たちを森林に案内したときの彼の話は、樹木や草花や小川のことをまるで自分の家族のことを紹介するように嬉しそうに話すのでした。森を歩いてお腹がすいた私たちは、この農場で栽培された無農薬野菜の手作り料理を大自然をバックにした屋外のテーブルで心ゆくまで満喫したのでした。帰国後に、ソリージャさんからの手紙で知らされた「銅山開発賛成派」からの度重なる脅迫のことなどは、ノーテンキな私には想像もつきませんでした。
 ソリージャさんの最後に言った言葉が思い出されます。「有機コーヒーのフェアトレードが成功すれば、銅山開発を止められます」

初めての経験

ギドさんの農園を訪問
エクアドル、ギド・コシンさんの(左端)コーヒー農場を見学。
 次に訪問したコーヒー園は、有機コーヒー生産者協会副会長のギド・コシンさんの農場です。インタグ地区は標高1000〜1800m、雨量2000〜2700ミリ、気温20〜25度と良質コーヒー生産に適した環境にあるだけでなく、栽培方法が、この地域の伝統的な多品目栽培で行われているため、無農薬栽培に適しています。
 ギドさんの農場もコーヒー単作ではなく、バナナやプラタノ(甘くない料理用バナナ)果樹や樹木を日陰樹としてコーヒーを栽培しています。場所によっては普通の森林より多様性があります。しかし、そうした化学物質に頼らない農法は永続性があるものの、化学肥料や農薬を多用して短期間に沢山の収穫を得るという近代農法に比べれば収穫量も少なく「土壌が死んでいく」数年先のことが分かりにくいことや今、食っていくために仕方なく近代農法に切り替えている人たちもいるようです。協会では、山間地の急斜面の土壌浸食(流失)を防ぐためにも伝統的なコーヒー栽培はとても重要だと考えています。そして、そうした理解を深め、広めるために学習会を開き、環境保護的コーヒー管理、病害虫の防止、有機肥料づくりなどを勉強しています。
 コーヒー園の見学の後、育苗場やコーヒー焙煎場を見学した後、DECOINと有機コーヒー生産者協会の主要メンバー及びインタグ各地のコミュニティの代表者たち30名ほどと長時間の話し合いを持ちました。いずれも、私が想像していた以上に自然保護の意志が強く「メガネグマ、ジャガー、ホエザル、ゴシキドリ、キミミオウムなど30種以上の絶滅に瀕している生物が住む豊かな自然を破壊したくない」「重金属などの有害物質で環境を汚染したくない」「子どもたちに美しい自然ときれいな川を残したい」という想いに溢れています。ただ、地域の中には「銅山開発によって道路が舗装され、地域に働く場ができたり、お金が落ちることで、今の貧困から抜け出せるのなら銅山開発も悪くないのではないか」という人もいます。インタグには電気が通っていない地区も多く、教育を受けられない子どもたちも沢山います。こうした状況のなかでは、ただ単に環境破壊に反対するだけではなく、どうやって貧困から抜け出すかという代案を示し、それを形にしていく必要があります。
 インタグ全域から集まった代表者たちは、長い間、銅山開発に反対する学習を積み重ねる中で、環境を守りながら貧困からも抜け出すためのベストの方策は、地域の伝統的な農法を生かして『有機コーヒー』を生産し、それを『適正な価格で販売する』ことではないかと考えていたため、昨年11月に有機コーヒー生産者協会の代表や住民代表が日本に招待されたことは一筋の希望となっていました。そんな時期に日本から有機コーヒーのフェアトレードを実際にやっている者がやって来たというわけで、彼らの私に訴えかける熱意が並々ならぬものであったのもうなづけます。
 インタグを訪問する前に私は「とにかく今回の訪問は、現地のコーヒー園を見て、現地の人たちの話を聞いてくるだけで、輸入をするかどうかは日本に戻ってじっくり吟味してから返事をしよう」と考えていました。しかし、そんな考えも吹っ飛ぶぐらいに、彼らの自然保護に対する熱い想いは、私に勇気を与えてくれました。後のことを考えずに「とにかく輸入する」と決めてきたのは、初めての経験です。
 DECOIN会長のセシリアさん(小学校教員)が握手をしながら、こう言ってくれました。「インタグの感動を伝えたい。私たち女性と母親の感動です。インタグの皆の気持ちもふくんでいます。初めて、インタグで収穫したコーヒーが日本まで届くことを知った感動です。それは、子どもたちの将来を心配していた女性として、母親として、とても感動的です。私たちの土地の支援に対して、感謝します。DECOINとして、有機コーヒー協会として、巨大な一歩を踏み出したと思います。感謝の気持ちは、神様が返してくれるでしょう。」
 このフェアトレードを成功させるには、様々なハードルがあります。栽培方法、収穫方法、水洗、乾燥、精選方法などの品質面に始まり、流通、販売面など、クリアすべき課題は山積みしています。しかし、彼らとなら、時間はかかっても必ず成功すると思います。いや、成功させるつもりです。

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