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子どものペースに合わせた教育を

武本久美子さんインタビュー

学ぶことの意味をもう一度考え直す

「学ぶということは誰にも邪魔されずに、自分の時間をもつことなのです。そして自らのペースで学び続けたいのなら、助けが必要な時にだけ、助けられるべきなのです。・・・今の学校の授業で行われていることを考えてみると、それは教師がほうれん草や牛乳、人参など体に良いとされる食べ物を、生徒一人ひとりの口に大きな器具をはめ込み、彼らの喉に押し込んでいる、そんな姿が想像されるはずです」(ダニエル・グリーンバーグ「学びの原点へ戻る」より)

 「教育」というとまず「学校」。しかし、なぜ子どもが学ぶ場が学校でなければならないのか、根本的に考える人はそう多くないのでは?不登校の子どもの数は10万人ともそれ以上ともいわれるが、やはり学校に行くのが「正常」という考え方が多く、家庭にいる子どもへの風当たりは強い。学校ではなく、家庭を子どもの教育の場として選択するホームエデュケーションの考え方は、欧米では教育のひとつの選択肢として認知されているが、日本ではまだまだ一般的ではない。2人の子どもと共にホームエデュケーションを実践している武本久美子さんにお話を伺ってみた。
(本誌・大倉純子)


―今のような活動を始めたきっかけはなんですか。
 いま中3の1番上の娘が小学校2年生のときに「学校に行きたくない」って言いだして、初めのうちは無理やり連れてったりとかヒドイこともしてたんだけど、「公民館で不登校に関する会をやってるよ」って知りあいに教えられて行ってみたんです。そしたら、「学校に行くことは、子どもにとって義務でも何でもありません」て言われて、「そっかー。義務じゃないんだー」ってコトンと納得がいったんです。それから色々情報収集していくうちに、福岡フリースクール研究会(約10年前に発足。フリースクール、ホームスクーリングに関する情報提供と意見交換の為のミニコミ発行などの活動をしている)と関りだしたんです。1番上の子は中学校から「学校へ行く」って言いだして3年間通ったけど、下2人はほとんど小学校には行っていません。
―「なぎの部屋」について教えて下さい。
 5年前、学校はいらないと思ったものの、一緒にやっていく仲間が欲しかったんです。別のグループと共同で借りている事務所があって週1、2回子どもの居場所として使わせて貰うことにしました。出会えるかなって思って。その後、JR二日市駅そばの一軒家に引っ越しました。多い時は子どもが10人ぐらい来てたときもあるけど、今は子ども4〜5人+大人2、3人かな。いろんなやり方を試してきましたよ。ここをフリースクールにするんだって張り切ってみたり、○○クラスの様なものを作ってみたり、お出かけの日を決めてみたり・・・。  でも、ずーっと大切にしてきたのはミーティングです。人が違えばやりたいことも違ってくるわけで、その時その時、かかわってる大人と子どものやりたいことができるように、「なぎの部屋」が動いていけばいいと思います。子どもたちもミーティングは大切なものだ、という気持ちは受けとめてくれているようです。最近は、外で遊びたいという要望が多いので、何回分かまとめて予定を立てて、出かけていってます。
―今までの学校と違う学校ということで、フリースクールを開こうという試みが日本でも何ヶ所か行われていますが、最近ではホームスクーリングとか、ホームエデュケーションという言葉も聞かれだしましたね。
 一口にフリースクールと言っても、規模も方針も様々です。子どもの自主性を尊重しているところが多いと思うけど。ホームスクーリング、ホームエデュケーションも同様で、どのように進めるかは、その家庭によって違います。○○ゼミみたいな通信教材をやるうちもあるし、親が先生みたいになって、学校の教科書を教えるうちもあれば、子どもに関心があることをするといううちもあります。
 私たちに関していうと、私たちもフリースクール、やろうやろうって言ってたときがあったんだけど、場所やスタッフの問題が解決できなくてうまくいかなかったんです。その後、ジョン・ホルトの「なんで学校にやるの」(一光社刊)を読んだりして、ホームスクーリングの考え方を知りました。「学ぶ」内容を理科とか社会とか科目に分けるのもおかしいし、何歳でこれができなきゃいけない、みたいなカリキュラム的な考えも不自然。生活全ての中に学べることがあるのだから、家庭でもできるんじゃないかって。
―「ホームエデュケーションを実践する家族のためのおしゃべりサークル」を始めた目的は?
 子どもを学校にやらないで、家で教育することを主体的に決めて実行している家族も、それなりに悩みや行き詰まりがあります。でも、その悩みをいうと「子どもが学校に行かないことを悩んでいる」と思われてしまうんです。ホームエデュケーションをしている人達が何でも書ける場が欲しいとおもって、2ヶ月に1回「おしゃべりサークル」を発行しています。
―お子さんが学校にいかなくなって、武本さんご自身はどこが一番変わったと思いますか。
 フェミニストとしての自分自身を自覚したことかな?子どもが学校行かなくなって、最初ものすごく苦しんだんです。すごく苦しくって、どうしてこんなに苦しいんだろうって。一方、夫は無関心じゃないんだけど、でも私のようには苦しんでいない。すごいなー、どうしてだろうって。で、わかったんです。自分には「母親」としての自分しかないって。結婚、出産、育児と夢中で過ごしている間に、「あれ、なんか変だな」って時々感じていたんですが、それがなんなのかわかんなかったんです。私個人としての社会とのかかわりが何もなくなってた。郵便物もね、家族の代表として夫の名前が載ってるのばかり。私は、完全に夫のカゲになったような錯覚をおぼえてました。そうなると、自分の存在価値が夫や子どもを通してしか感じられないんです。不登校の子どもを挟んで夫と向かい合ったとき、「どうして私はこんなに自信をなくしてしまったんだろう」って思ってしまった。夫と向き合っても、私の言葉が出てこない。
 そんな時丁度、高校の非常勤講師の口があって、もう「何がなんでも働きたい」と思いました。娘のことなんて考えてる余裕はなくて、自分が社会で通用することを確かめたい、自分の能力を認めてもらいたい、ただそれだけで、自分のために働きだしました。「娘が学校に戻ってくれたら・・」と思っていましたが、そんな都合よくいくわけもなく、「それなら」と子どもを連れて通勤しました。不登校の悩みより、自分の悩みの方がずーっと大きかったんですね(笑)。
 そうやって自分を取り戻して少々落ち着いてくると、子どもの言葉もちゃんと聞こえるようになるんです。「学校には行きたくない」子どもはそう言ってたんです。
―今、何か取り組んでいることがありますか?
 アメリカのフリースクールでサドベリーバレースクールという学校があります。子どもに完全な自由と自己決定権を与えている学校ですが、その中で、子どもたちは自分のやりたいことと自己の責任を理解し、同時に他人も尊重できる自立した人間へと成長していくそうです。その学校の創立者のグリーンバーグ夫妻を迎えて講演会を開きます。ぜひ、多くの人に聞いて欲しいです。
―もし、今、近くにそのサドベリーバレーみたいな学校ができたら子どもを行かせますか?
 それは、子どもが選ぶかどうかによるんじゃないでしょうか。一番上の子は、中学校になって学校に行きだして3年間通いましたが、授業が面白かったと言っていました。中学で勉強できてよかった、と言っています。でも、いろんな矛盾は感じてますけどね。学校では考え方も決めつけられてるようで、「もっと柔軟に考えてもいいんじゃないかなー」って彼女が言っていたので、「じゃあ、学校じゃない環境で小学時代の4年間を過ごしたことは、あなたにとってよかった?」って聞いたら「うん、よかった」と答えてくれました。
 以前は、普通の学校はダメ、絶対フリースクールだ、ホームエデュケーションだって思ってたんだけど、今は考えが少し変わりました。普通の学校でもフリースクールでも家庭でも、その子が行きたいところややりたいことを選べることが一番大事なんじゃないでしょうか。

武本久美子 (たけもと・くみこ)
福岡フリースクール研究会代表
フリースペース「なぎの部屋」主宰
ミニコミ誌『おしゃべりサークル』発行

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