パトリシア・モゲル講演録 アグロフォレストリーとコーヒー生産

パトリシア

皆さん、こんにちは。今日はお招きいただきまして、ありがとうございます。皆さんと一緒にこのような時間を持てることをとても嬉しく思いますし、このような場を設けてくださった皆さんにも感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。

またこの京都という町に来られたことも非常に嬉しく思っています。この京都に対しては、世界で最も大切な条約といいますか取り決めの一つである京都議定書 が締結されたことで、多くの国々も参加し、この地球の温暖化という最も危機的な状況というものを食い止めるための一歩が踏み出された場所ということも私は 認識しています。

この先、地球温暖化が進行することで、どのような危機的な状況が招かれるかということは、まだまだ私たちはわかっていません。しかしながら、この状況を 食い止めるための一歩を踏み出したということがまず大切だと考えています。北の国々というのは、二酸化炭素、メタンガス、さまざまな温暖化の要素というの を出しており、一方で南の国々の危機的な状況というのは一般的に森林伐採と考えられています。

この危機的な状況を前に、さまざまな会議が開かれて、例えば南の国…発展途上国の多くが集まる国では、森林伐採がより少なくなるように、また地球温暖化が食い止められるような試みというのが少しずつ進められています。この南の国々から発せられている政策はいろいろありますが、その一つとして「熱帯の庭園」という名前で呼ばれる『アグロフォレストリーシステム』というのがあります。このシステムは、主に第三世界と呼ばれる国々の先住民、または農民たちが取る農法であって、北の国々の人たちと結びつき、そして団結力を強め、フェアトレード市場というのを築いています。

熱帯地域は、世界で7%の地域になるのですが、環境保護がなされている地域の約70%がこの少ない7%の中に含まれているという現状があります。だいた い年間1,500万ヘクタールという森林が失われてきており、それは生物多様性に満ちた地域の1%に相当する面積になっています。世界的に生物多様性の豊かな国は、一番上からブラジル、インドネシア、コロンビアと続きますが、私たちの国メキシコは第5番目を占めています。生物多様性に満ちたこれらの地域は 文化的にも豊かな地域になっています。この地域には、だいたい6,000の先住民グループが住むと言われていて、それぞれ異なる独自の文化を保ち続けています。

メキシコは先住民族が多く、約56のグループがあります。生物多様性をみていく中で、彼ら先住民の文化も見ていかなくてはいけません。彼らは、何百年、そして何千年という時間をかけて、どこに何があるかという資源の利用方法というのを確立していますし、エコシステムの働きについても、十分に体験的な知識を持っています。また彼らの信仰や宇宙観も相まって、自らが住む地域において生活環境が構成されていると考えられます。

マヤイズムについて例を挙げますと、やはりすべての資源を管理する、そして利用する方法を身に付けています。資源に関してもさまざまな方法での活用というのを身に付けており、いつも彼らの宇宙観と関わり合って生物多様性が展開されています。こうして先住民族は森を活用してきたのですが、彼らは保護すると同時に、何百年もの時間をかけて森というのをデザインしてきました。森をデザインすることで、最終的にアグロフォレストリーの森というのが生まれてきました。

アグロフォレストリーの森
  アグロフォレストリーの森

アグロフォレストリーのイラスト拡大版
アグロフォレストリーの森

この写真はアグロフォレストリーの森なんですが、先住民が築いてきた、そしてデザインしてきた森になります。さきほども申し上げたように、熱帯の農業森林とも呼ばれるアグロフォレストリーの森が自然に満ちた場所というのがわかるかと思います。この中央にはコーヒーが植えられています。これはアグロフォレストリーシステムが用いられるに際して、ナワット族が近隣の森にコーヒーを導入したというかたちで作り上げられたアグロフォレストリーシステムになっています。ですから、天然のエコシステムに商業栽培用の作物を持ちこんでアグロフォレストリーの森がつくられたということです。この商業栽培が行われることで、森から収入を得ることができ、そして別の利用方法ができる植物も植えられ、活用されています。これからそれを見ていきたいと思います。

アグロフォレストリーシステムの中には、コーヒー、カカオ、ゴム、ヤシといった植物が、天然のジャングル、森の中に導入されて作られてきました。つまり、天然のエコシステムを活用して出来上がったものであり、同時に森の豊かさ、多様性というのを保護する場所にもなっています。この森は、一般に経済的な面で評価を受けてきたのですが、経済面だけではなく、もう少し総合的な評価というのも必要とされています。この森は、社会的にも文化的にも、そして歴史的にも重要な意味を持つ場所となっています。

プランテーション栽培
  プランテーション栽培

この写真はプランテーション栽培です。さきほどのアグロフォレストリーの写真を比較していただくとわかるのですが、これは近代科学が作り上げた栽培方法であって、もう後30年も経てば続かないような栽培方法と私は考えています。逆に左側は、先住民が築き上げてきた天然林、アグロフォレストリーシステムが採用された森です。

プランテーションは、近代的な手法によってつくりあげられたコーヒー栽培であって、技術の結集、そして近代化のたまものと言える場所ですが、その反面、エコシステムというのを最大限簡略した場所にもなっています。

このプランテーションで生産する場合、商業栽培の部分だけを残して、原生種を始め、すべての樹木を伐採します。プランテーション栽培を維持するためには、非常に集中的に農薬などを使う必要が出てきます。一方で、アグロフォレストリーシステムというのは先住民が築いてきた森ですが、森自身が再生する力を持っています。コーヒーというのは一般的に山の斜面などを利用して栽培される作物です。近代的なプランテーション栽培も、もちろん山の斜面を活用しているわけですが、すぐに土壌が乏しくなってきます。そして、次第に水資源や地域的な気候にも影響が出始めてきます。一般的にメキシコは、コーヒー栽培においてアグロフォレストリーシステムが多く採用されており、多様性が保たれています。

しかし、ここ15年を見てみますと、アグロフォレストリーの森は徐々に近代的なプランテーションに取って代わっている現状もあります。このアグロフォレストリーの森を失うということは、商業作物だけを残してその他の樹木がすべて失われていくことになります。そして大きな影響というのは、そこに住む人々、 その家族にも及びます。この森をみるにあたっては、森の保護や樹木の保存という観点から見るだけでは十分ではないのです。その地域や住民全体を含めてみていく必要があります。

アグロフォレストリーの森は、さきほどお伝えしましたが、商業栽培が行われている場所でもあり、自然の生態系が保護されている場所でもあります。そして 調査の結果では、この森の92%の種が原生種、8%が外来種という結果があります。生産性に関して言いますと、適切な管理をすることで、プランテーション栽培よりも多くの収量を得るという考え方もできます。例えば商業作物としてのコーヒーを考えますと、やはりコーヒーというのは木陰が必要な植物であって、さまざまな樹木によってもたらされる木陰が必要になってきます。森は先住民によってつくられるわけですが、このようなかたちで多くの植物が植えられることで生産性が高まり、エコシステムが保護されるというふうにも考えられます。

森の変遷
プランテーション化する森の移り変わり
(一番上はアグロフォレストリーの森、一番下がプランテーション栽培)

この図は、どのようにして近代化によって森が変化していくかというのを示していますが、下から二番目は少ない種の栽培がされており、その森では、2種の木がコーヒーに陰を落とすというかたちになっています。そして一番下は、すべての木陰が排除されています。そのため、アグロフォレストリーシステムが環境に与える影響としては、自然の保護が大きく挙げられます。

メキシコのアグロフォレストリーシステムの例を挙げると、まず二つ大きく分けられます。一番上の図は粗放型とも言われるかたちで、先住民が木陰の管理、 または種の管理など一切せず、森にただコーヒーを植えるというかたちのアグロフォレストリーシステムになります。この場合は、コーヒーを単に植えただけで すので、生産性は低いアグロフォレストリーシステムになっています。

そして上から二番目の図は、熱帯の庭園とも言われる伝統的な複合栽培が行われる森になります。ここの森では、コーヒーが植えられるだけではなくて、その 他の多くの商品作物が栽培されます。例えばバナナ、柑橘類、マカダミアナッツなども植えら、多くの種が管理され、木陰の管理もされます。そのために、生産 量が基本的に伸びる結果になっています。この2つのアグロフォレストリーシステムの特徴として、一番上のシステムから生まれるコーヒーは「ナチュラルコーヒー」と言われますが、有機認証などは得ていません。実際、先住民は農薬や化学薬品などは一切使ってはいませんが、認証を得るための知識や経済的な資源な どがありませんので、有機認証はないけれどもナチュラルコーヒーと呼ばれるコーヒーが産出されています。認証を得るか得られないかというところもありますが、もうひとつポイントとしては、メキシコというところはだいたい1960~1970年の間に多く化学薬品が用いられるようになってきましたので、それ以 前に栽培されていたコーヒーは一般的には認証はありませんが、有機栽培で育ってきたコーヒーと言えます。

この近代的な農法で栽培されるところでは栽培される種も少なくて、コーヒー、カカオなど1~2種類の栽培が限界と考えられています。この先住民によるアグロフォレストリーシステムは、この写真に見られるように、多くの作物が栽培されて、そして活用されています。メキシコのナワット族の例を挙げますと、1ヘクタールあたり150種ほどの有用な作物が生産されています。このいくつかは、地域の市場に流れていくだけではなく、世界的な市場にも出される作物になっています。

森の変遷のイラスト
アグロフォレストリーの森ができるまで
(上から下に向かって、アグロフォレストリーが出来上がっていく様子が示してある)

逆に、プランテーション栽培からアグロフォレストリーシステムというのがいかにして出来上がるのかということをお話しますと、メキシコの例ではさきほど ありましたように、天然の森にコーヒーを導入してアグロフォレストリーシステムの森というのが完成していました。もう一つの方法としては、インドネシアの 森で見られる例ですが、一般にプランテーション栽培、または牧草地だったところに先住民が20~40年という時間をかけて、森をデザインしていく という動きがあります。この段階を経て、少しずつ植生を変えていく動きがあるんですけども、例えば初年度は一つの作物で、次は別の樹木を植え、というよう なかたちで長い時間を経て自然というのを段階的に変化させ、最終的には森というのをかたちづくる方法をとっています。

この先住民の生産する商業作物ですが、やはりさまざまな用途を持った植物が栽培されており、エコシステムというのを十分管理しているというのがわかります。

多様な作物
アグロフォレストリーの森から得られる多様な作物
(とうもろこし、チリ、豆類など)

この写真でわかるように、とうもろこし、トマト、チリ、そしてアボガドなどいろいろな作物が生産されています。非常に有益な多様性の管理ですが、それは やはり先住民が、知識と経験を持って熱帯地域において活動してきたということがあります。これから生物的、また環境的な視点から見ていきたいと思うのですが、この調査は、メキシコを始め、南北アメリカ、アジアなどさまざまな地域で行われており、アグロフォレストリーシステムの非常に肯定的な面の影響というのをお見せできるかと思います。

まずその一つ、二酸化炭素の吸収というのが挙げられますが、気候変動が激しい地球において、この森が二酸化炭素を吸収するという機能は、地球温暖化の抑制に役立つ部分だと思っております。そして私たちが活動しているメキシコのプエブラ州北部の地域では、1,000種類近くの鳥類が確認されていて、その多くが絶滅の危機に立たされています。この鳥類にとっても最後の隠れ家という場所になっています。そして動物にとっても植物にとっても、とても重要な地域になっています。

例えば、この鳥類に関してですが、やはりアグロフォレストリーシステム、特にメキシコのアグロフォレストリーシステムの森では多くの渡り鳥がカナダ、そ してアメリカからやってきて越冬しています。アメリカの消費者の間で調査をしたところ、約7,000万人の人々がバードウォッチングを楽しむという結果があり、「鳥が棲む森で生まれるコーヒー」という付加価値というのをコーヒーに付け、さらに知識、その普及というのを深めていこうという動きも起こっていま す。

メキシコの地図(生物多様性)
生物多様性とコーヒー生産地を示したメキシコの地図

この赤い地域がコーヒーを栽培している地域で、緑色の土地が生物多様性の保護が必要とされる地域です。これからわかることは、コーヒーが栽培されている地域は、生物多様性に富んだ場所でもあるということです。このようなことからも、生物が多く棲むところは、国定公園など保護されている地域ではなくて、コーヒーが栽培されているところでもあるということがわかります。トセパン組合がある地域も、この赤い色の地域になります。

テラスでのアグロフォレストリー
斜面でのアグロフォレストリーシステム

これは山の斜面にあるアグロフォレストリーシステムを表しているのですが、この斜面の上部においてアグロフォレストリーシステムが行われていて、その下の部分は他の方法によって農業が行われている場合もあります。そして一番下の方には、例えば海や川があるということも考えられますが、ここで一つ重要なのは、アグロフォレストリーシステムが標高の高いところで行われることによって、標高の低いところの地域、または人々にも恩恵がもたらされるということです。例えば土壌の安定、環境の安定、バランスの取れた生態系がもたらされます。そして全体のバランスが非常に健全に働いているということで、住民、または下流の川や湖なども多くの恩恵を受けることができます。

しかし、ここで問題となるのがやはり価格です。コーヒー、カカオを始めとして、ここ10年間、一般市場価格においては下落傾向が見られています。こうした経済危機の中、森林は伐採され、若者たちは仕事を失って他の地域に働きにいくという現状も見られています。また村々には、年老いた人たちのみが暮らし続けるという厳しい状況が強いられています。この経済的な危機は、コーヒーの生産国に対して大きな影響を与えています。コロンビア、インドネシア、メキシコを始め、多くの生産者が住む国では、全体で500万人がコーヒー生産に携わる人たちであり、その周辺産業で働く人を含めると、2,000万人はゆうに超えるであろうと考えられています。

一方で消費国、例えばヨーロッパや日本といった地域では、一部の国々が多くの利益を独占してきたという現状になっています。他のラテンアメリカ諸国もそうですけども、特にアメリカとカナダ、そしてメキシコの間で結ばれた自由貿易協定というものがあります。この自由貿易協定によって、結果的には非常に不平等な条件のもとで私たちメキシコ、第三世界側が競争していかなければならないという現状が強いられています。具体的な例としては、北の国々は農民たちに補助金などを与えて援助を続けていますが、一方で南の国々というのは補助金が農民たちに回らないようになってきてしまっています。

コーヒーの加工段階
コーヒーができるまで
(左上から時計まわりに、収穫作業、加工、コーヒーとして製品になるまでを示している)

コーヒー1キロ単位で生産者がどのような利益を得ているのかということをお話しますと、右下にある果肉のついた状態のコーヒー豆を1キロ販売しますと、生産者に渡る収入は、約2ドルになると考えられています。一方で、生豆の状態(果肉を取った状態)ですと、2,5ドルの収入があると考えられています。そして最終的に焙煎した状態のコーヒーになりますと、1キロあたり5ドルの収入が生産者に回ると考えられます。そしてこの1キロのコーヒー豆でどれくらいのコーヒーが飲めるかといいますと、一般的なコーヒー価格に換算しますと100杯になります。そして、この1杯は、平均1ドルで販売されているのが現状になっています。

メキシコでは、サパティスタ解放戦線というゲリラ活動があります。これは、自由主義が北から持ち込まれることに対しての抵抗活動と考えられています。北から押し付けられる政策というのは非常に不平等なものとなっています。この厳しい現状を前にして、生産者というのは組織づくりをしてきました。この組織づくりをしていくことで、北とは直接競争できない分野で競争していこうという流れになっていて、一つのオルタナティブな考えになっています。実際、北の国々からの多くの助けを得て、この商品はフェアトレード市場で販売され、そして利益をあげるようになっています。このようなかたちで北との連携を築くことで、 持続可能な生産というのを南北で築いていこうという動きが生まれています。

先住民が取ってきた農法が、人間的な部分を忘れずに近代的な農法と結びつくことで、フェアトレード市場に参入できるような流れが出てきつつあります。このような流れを確立することで、最終的に持続可能な栽培というのが可能になるかと思います。

メキシコは、有機栽培のコーヒーにおいては第一位の生産量を誇る国であり、その生産者組織の数も一番多いと考えられています。オルタナティブな市場の中で、生産者が認証を得えようとする動きがありますが、この認証にもさまざまあり、例えば「木陰で生まれたコーヒー」としての認証があります。そして、最終的には「持続可能なコーヒー」という名がつけられ、広まっていくことになります。認証印というのは環境、または生産を助長するだけではなくて、フェアトレードの市場にくい込むためにも役立っています。トセパンの場合、コーヒーは、日本で中村さんの企業(ウインドファーム)において、フェアトレードの方法で販売されています。

反対運動の人
環境破壊、貧困などの社会問題に抗議する人びと

最後にこの写真を見ておわかりかと思いますが、このような反対運動というのは日々、多くなっていると私は考えています。と言いますのも、グローバル経済において不平等な世の中が助長されることにより、苦しむ人々の数が増えているからです。例えば、世界の人口のうち、たった350人の人が、世界中の富の半分以上を独占するという現状があるのです。

54%の飲料水というのが人間の活動によって使われていて、25%の鳥類が絶滅しました。そして全体では、毎日100種以上の生物が絶滅していっているという現状があります。ですから、皆さんに意識していただきたいのは、この地球環境を守ること、もしくは貧困にあえぐ人びとをいかにして助けられるかということなのです。実際には、貧困に苦しむ人びとは30億人を数えると考えられています。ですから、こうしたグローバル化が続けられていくのかどうか、深く考えていただきたいと思います。

ガンジーの言葉に、「地球は人々の欲望のために存在するのではない」という言葉があります。その意識と思いを持って皆さんにメッセージを伝えることで、今日は終わりにしたいと思います。ありがとうございました。

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