「20ミリ以下は安全」と 帰還をすすめる今、思い出したいこと

福島原発事故で避難している住民の帰還に向け、原子力規制委員会が、年間の被ばく線量が20ミリシーベルト以下であれば健康に大きな影響はないという見解を出し、帰還をすすめている今、思い出したいことがある。

20ミリ以下、大きな影響なし 規制委、住民帰還で提言へ
 (2013/11/08 共同通信)写真は福島民報

福島民報:20ミリ以下、健康影響なし


日赤、被曝線量が1ミリシーベルトを超える恐れがあれば、退避

日赤、原子力災害時に救護指針「累積被曝1ミリまで」
 (2013年6月16日 朝日新聞)から抜粋

 日本赤十字社が、原子力災害時の医療救護の活動指針を作った。住民の立ち入りが制限される警戒区域内には入らず、累積被曝(ひばく)線量が1ミリシーベルトを超えない範囲で活動すると決めた。1ミリは一般住民の平常時の年間限度。これに対し、被曝医療の専門家から「被災者への救護、対応が十分にできない」と見直しを求める声が出ている。

 日赤は法律により、災害時の被災者の救護が業務の一つと定められている。医師1人、看護師3人、運転手1人、事務職員1人が1組の救護班を全国に500組以上、組織している。

 東日本大震災では延べ900組の救護班が被災地に入ったが、当初、原子力災害への備えがなく、東京電力福島第一原発事故直後の福島県内では、救護班がいない「空白期間」が生じた。その反省から、原子力災害の活動指針を作ったという。救護班は線量計や安定ヨウ素剤を携行し、累積被曝線量が1ミリシーベルトを超える恐れがあれば、安全な地域に退避するとした。


福島の帰還基準、避難者増を恐れて強化せず 民主政権時
(2013年5月25日 朝日新聞)から抜粋

 福島第一原発の事故で避難した住民が自宅に戻ることができる放射線量「年20ミリシーベルト以下」の帰還基準について、政府が住民の安全をより重視して「年5ミリシーベルト以下」に強化する案を検討したものの、避難者が増えることを懸念して見送っていたことが、朝日新聞が入手した閣僚会合の議事概要や出席者の証言で明らかになった。

 民主党政権が2011年12月、三つの避難区域に再編する方針を決め、安倍政権も継承。再編は今月中に川俣町を除く10市町村で完了し、20ミリ以下の地域で帰還準備が本格化する。避難対象や賠償額を左右する基準が安全面だけでなく避難者数にも配慮して作られていた形で、議論が再燃する可能性がある。

原発避難区域と5ミリシーベルト地帯

 5ミリ案が提起されたのは 11年10月17日、民主党政権の細野原発相、枝野経済産業相、平野達男復興相らが 区域再編を協議した非公式会合。 議事概要によると、事故当初の避難基準 20ミリと 除染目標1ミリの開きが大きいことが議論となり、細野氏が「多くの医者と話をする中でも 5ミリシーベルトの上と下で感触が違う」と5ミリ案を主張した。

 チェルノブイリ事故では 5年後に 5ミリの基準で住民を移住させた。 年換算で 5.2ミリ超の地域は 放射線管理区域に指定され、原発労働者が同量の被曝で白血病の労災認定をされたこともある。 関係閣僚は「5ミリシーベルト辺りで 何らかの基準を設定して区別して取り組めないか検討にチャレンジする」方針で一致した。

 ところが、藤村修官房長官や川端達夫総務相らが加わった10月28日の会合で「住民の不安に応えるため 20ミリシーベルト以外の線引きを考えると、避難区域の設定や自主避難の扱いに影響を及ぼす」と慎重論が相次いだ。 5ミリ案では、福島市や郡山市などの一部が含まれ、避難者が増えることへの懸念が政府内に広がっていたことを示すものだ。

 11月4日の会合で「1ミリシーベルトと20ミリシーベルトの間に明確な線を引くことは困難」として 20ミリ案を内定。出席者は「20ミリ案は甘く、1ミリ案は 県民が全面撤退になるため、5ミリ案を検討したが、避難者が増えるとの議論があり、固まらなかった」と証言し、別の出席者は「賠償額の増加も見送りの背景にある」と語った。

 当時、5ミリシーベルト/年 地帯は、福島県内の13%に当る 1778km2。 地元自治体は、避難区域が拡大して、人口流出や風評被害が広がることを懸念していた。会合に出席していた閣僚の一人は、「5ミリ案では人口が減り、県がやっていけなくなることに加え、避難者が増えて賠償額が膨らむことへの懸念があった」と証言した。

 安倍政権もこの立場を踏襲しており、改めて 説明を迫られそうだ。


福島第1原発:内閣官房参与、抗議の辞任
(2011年4月29日 毎日新聞)

 内閣官房参与の小佐古敏荘(こさこ・としそう)・東京大教授(61)=放射線安全学=は29日、菅直人首相あての辞表を首相官邸に出した。小佐古氏は国会内で記者会見し、東京電力福島第1原発事故の政府対応を「場当たり的」と批判。特に小中学校の屋外活動を制限する限界放射線量を年間20ミリシーベルトを基準に決めたことに「容認すれば私の学者生命は終わり。自分の子どもをそういう目に遭わせたくない」と異論を唱えた。同氏は東日本大震災発生後の3月16日に任命された。

 小佐古氏は、学校の放射線基準を年間1ミリシーベルトとするよう主張したのに採用されなかったことを明かし、「年間20ミリシーベルト近い被ばくをする人は原子力発電所の放射線業務従事者でも極めて少ない。この数値を乳児、幼児、小学生に求めることは学問上の見地からのみならず、私のヒューマニズムからしても受け入れがたい」と主張した。

 小佐古氏はまた、政府の原子力防災指針で「緊急事態の発生直後から速やかに開始されるべきもの」とされた「緊急時迅速放射能影響予測システム(SPEEDI)」による影響予測がすぐに運用・公表されなかったことなどを指摘。「法律を軽視してその場限りの対応を行い、事態収束を遅らせている」と述べた。

小佐古敏荘「小学生に20ミリSvは 私には許すことができません」

小佐古敏荘「私も除染作業しますが、一番高くて1ミリSv」

原発で働く8万4000人は(年間積算放射線量)平均1.5ミリSv

小佐古敏荘「20ミリSvはとんでもなく高い数字です」

小佐古敏荘「それを私が参与として容認したら」

小佐古敏荘「私の学者生命は終わりですよ」

小佐古敏荘「自分の子どもをそういう目にあわせるのは絶対にいやですよ」


官房参与が辞任・記者会見資料を全文掲載します
内閣官房参与の辞任にあたって(辞意表明) 
(2011年4月29日 NHKかぶんブログ)から抜粋

平成23年4月29日 内閣官房参与 小佐古敏荘

 平成23年3月16日、私、小佐古敏荘は内閣官房参与に任ぜられ、原子力災害の収束に向けての活動を当日から開始いたしました。

 私の任務は「総理に情報提供や助言」を行うことでありました。政府の行っている活動と重複することを避けるため、原子力災害対策本部、原子力安全委員会、原子力安全・保安院、文部科学省他の活動を逐次レビューし、それらの活動の足りざる部分、不適当と考えられる部分があれば、それに対して情報を提供し、さらに提言という形で助言を行って参りました。

 特に、原子力災害対策は「原子力プラントに係わる部分」、「環境、放射線、住民に係わる部分」に分かれますので、私、小佐古は、主として「環境、放射線、住民に係わる部分」といった『放射線防護』を中心とした部分を中心にカバーして参りました。

 ただ、まだ対策が講じられていない提言もあります。とりわけ、次に述べる、「法と正義に則り行われるべきこと」、「国際常識とヒューマニズムに則りやっていただくべきこと」の点では考えていることがいくつもあります。今後、政府の対策の内のいくつかのものについては、迅速な見直しおよび正しい対策の実施がなされるよう望むところです。

1.原子力災害の対策は「法と正義」に則ってやっていただきたい

 この1ヶ月半、様々な「提言」をしてまいりましたが、その中でも、とりわけ思いますのは、「原子力災害対策も他の災害対策と同様に、原子力災害対策に関連する法律や原子力防災指針、原子力防災マニュアルにその手順、対策が定められており、それに則って進めるのが基本だ」ということです。

 しかしながら、今回の原子力災害に対して、官邸および行政機関は、そのことを軽視して、その場かぎりで「臨機応変な対応」を行い、事態収束を遅らせているように見えます。
 
 とりわけ原子力安全委員会は、原子力災害対策において、技術的な指導・助言の中核をなすべき組織ですが、法に基づく手順遂行、放射線防護の基本に基づく判断に随分欠けた所があるように見受けました。例えば、住民の放射線被ばく線量(既に被ばくしたもの、これから被曝すると予測されるもの)は、緊急時迅速放射能予測ネットワークシステム(SPEEDI)によりなされるべきものでありますが、それが法令等に定められている手順どおりに運用されていない。法令、指針等には放射能放出の線源項の決定が困難であることを前提にした定めがあるが、この手順はとられず、その計算結果は使用できる環境下にありながらきちんと活用されなかった。また、公衆の被ばくの状況もSPEEDIにより迅速に評価できるようになっているが、その結果も迅速に公表されていない。

 初期のプリュームのサブマージョンに基づく甲状腺の被ばくによる等価線量、とりわけ小児の甲状腺の等価線量については、その数値を20、30km圏の近傍のみならず、福島県全域、茨城県、栃木県、群馬県、他の関東、東北の全域にわたって、隠さず迅速に公開すべきである。さらに、文部科学省所管の日本原子力研究開発機構によるWSPEEDIシステム(数10kmから数1000kmの広域をカバーできるシステム)のデータを隠さず開示し、福島県、茨城県、栃木県、群馬県のみならず、関東、東北全域の、公衆の甲状腺等価線量、並びに実効線量を隠さず国民に開示すべきである。

 また、文部科学省においても、放射線規制室および放射線審議会における判断と指示には法手順を軽視しているのではと思わせるものがあります。例えば、放射線業務従事者の緊急時被ばくの「限度」ですが、この件は既に放射線審議会で国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告の国内法令取り入れの議論が、数年間にわたり行われ、審議終了事項として本年1月末に「放射線審議会基本部会中間報告書」として取りまとめられ、500mSvあるいは1Svとすることが勧告されています。法の手順としては、この件につき見解を求められれば、そう答えるべきであるが、立地指針等にしか現れない40~50年前の考え方に基づく、250mSvの数値使用が妥当かとの経済産業大臣、文部科学大臣等の諮問に対する放射線審議会の答申として、「それで妥当」としている。ところが、福島現地での厳しい状況を反映して、今になり500mSvを限度へとの、再引き上げの議論も始まっている状況である。まさに「モグラたたき」的、場当たり的な政策決定のプロセスで官邸と行政機関がとっているように見える。放射線審議会での決定事項をふまえないこの行政上の手続き無視は、根本からただす必要があります。500mSvより低いからいい等の理由から極めて短時間にメールで審議、強引にものを決めるやり方には大きな疑問を感じます。重ねて、この種の何年も議論になった重要事項をその決定事項とは違う趣旨で、「妥当」と判断するのもおかしいと思います。放射線審議会での決定事項をまったく無視したこの決定方法は、誰がそのような方法をとりそのように決定したのかを含めて、明らかにされるべきでありましょう。この点、強く進言いたします。

2.「国際常識とヒューマニズム」に則ってやっていただきたい

 緊急時には様々な特例を設けざるを得ないし、そうすることができるわけですが、それにも国際的な常識があります。それを行政側の都合だけで国際的にも非常識な数値で強引に決めていくのはよろしくないし、そのような決定は国際的にも非難されることになります。

 今回、福島県の小学校等の校庭利用の線量基準が年間20mSvの被曝を基礎として導出、誘導され、毎時3.8μSvと決定され、文部科学省から通達が出されている。これらの学校では、通常の授業を行おうとしているわけで、その状態は、通常の放射線防護基準に近いもの(年間1mSv,特殊な例でも年間5mSv)で運用すべきで、警戒期ではあるにしても、緊急時(2,3日あるいはせいぜい1,2週間くらい)に運用すべき数値をこの時期に使用するのは、全くの間違いであります。警戒期であることを周知の上、特別な措置をとれば、数カ月間は最大、年間10mSvの使用も不可能ではないが、通常は避けるべきと考えます。年間20mSv近い被ばくをする人は、約8万4千人の原子力発電所の放射線業務従事者でも、極めて少ないのです。この数値を乳児、幼児、小学生に求めることは、学問上の見地からのみならず、私のヒューマニズムからしても受け入れがたいものです。年間10mSvの数値も、ウラン鉱山の残土処分場の中の覆土上でも中々見ることのできない数値で(せいぜい年間数mSvです)、この数値の使用は慎重であるべきであります。

 小学校等の校庭の利用基準に対して、この年間20mSvの数値の使用には強く抗議するとともに、再度の見直しを求めます。

 また、今回の福島の原子力災害に関して国際原子力機関(IAEA)の調査団が訪日し、4回の調査報告会等が行われているが、そのまとめの報告会開催の情報は、外務省から官邸に連絡が入っていなかった。まさにこれは、国際関係軽視、IAEA軽視ではなかったかと思います。また核物質計量管理、核査察や核物質防護の観点からもIAEAと今回の事故に際して早期から、連携強化を図る必要があるが、これについて、その時点では官邸および行政機関は気付いておらず、原子力外交の機能不全ともいえる。国際常識ある原子力安全行政の復活を強く求めるものである。

以上

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次