第7話 森を守り、森を育てるコーヒー

 トセパンに加盟している山岳先住民の農家たちは森を守り、森を育てる森林農法によってコーヒーを栽培しています。この農法は先住民たちが自然と共に森で生きるために伝統的に採用して来た農法です。トセパンコーヒーを「森林農法」という視点(7話)とフェアトレードという視点(8話)から見ていきましょう。

 

近代化農法の広まりと環境の変化

 先住民たちが伝統的に営んで来た森林農法ですが、1960年代には大きな変化もありました。それまでは森と調和した形で行われていたコーヒー栽培に、収穫量と収益の増大、効率化という名の下に農薬や化学肥料を前提とした近代化農法が国策の後押しもあり広がっていったのです。この変化は、いわゆる第三世界の農業を近代的に改革しようという「緑の革命」の一環でもありました。

 政府はメキシココーヒー研究所を設立し、 以下の取り組みを進めました。農民達に収穫増大を呼びかけ、農薬の多投・農園内の植樹の高密度化・病害虫や病気に耐性を持つ改良品種の導入・単一のコーヒー品種を植えるプランテーション農法を推進しました。場合によっては効率化を進めるため、日陰となる在来種の木々を全て伐採させました。効率、生産性を重視する方向へメキシコのコーヒー生産を変革していったのです。

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トセパンが組合員から集めたコーヒー生豆を保管する倉庫

 ある計算によるとメキシコでは1980年から1990年の間に森林農法が導入されていたコーヒーと他の作物との混作農地およそ20万ヘクタール近くが、コーヒーだけのモノカルチャー(単一栽培)へと変えられてしまったと言います。この数字は、当時のメキシコのコーヒーの全作付面積の30-40%に相当します。トセパンが活動する地域も、この変化の例外ではありませんでした。

 メキシコのコーヒー栽培地域における近代化計画がもらたしたものは、生態系と景観の変化でした。本来、メキシコの山岳地帯は複雑で多様性に満ちた森林生態系を持ち、コーヒーは自然に存在する植生の一つでした。しかし、近代化農法は、自然の摂理を無視した単純化されたコーヒー栽培です。農薬も多投するため、森の多様性、そこに生きる動植物の多様性を失わせてしまうのです。

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森林農法への回帰

 トセパンが活動する地域も含めて、メキシコ各地で近代農法が導入されましたが、それは森の豊かさを減少させることになりました。森から鳥が少なくなり、景観も変わり、人々が得ていたキノコや果樹などの森からの恵みも少なくなりました。確かに、コーヒーの収穫量は近代農法によって増えるのですが、コーヒーの価格も不安定な中では暮らしも安定しません。

 そういった状況下で、はやり「森と共に生きていこう」という流れが生まれ、トセパンでは森林農法を復活させ増やしていく取り組みが展開されていきました。

 森林農法の導入に尽力したトセパンの初代会長ドン・ルイスさんは次のように語ります。

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「政府機関が、収穫量が増えるという栽培方法を教えに来たんだよ。私たちはないも知らずに教えられた通りにやったんだ。森を切り拓いて、コーヒーばかりを植えていくのさ。コーヒーの樹の周りは草を刈り、化学肥料を使う。病気や害虫が出れば農薬を撒いて駆除する方法さ。この方法は確かに収穫量は増えるけど、森が壊れていったんだよ。切り開かれて露出した地面は荒れて、下草の生えない地面には虫もいなくなる。虫をエサにしていた鳥もいなくなる。以前は100種類以上も見ることが出来た鳥が数種類に減っていったんだ。これはただ事ではないと思ったよ。

 一度はプランテーション農法を導入したけれども、収穫量は減っても森と共に生きていける森林農法の方が良いことが分かったんだ。それまでは当たり前に考えていた森の豊かさ、森と共に生きていく安心感に気づいたんだよ。それで、トセパンの活動を通じて森林農法を地域に広めていったんだ。

森林農法が広がることで、森が守られる。一度、プランテーション農法を導入した土地でも、森林農法を始めれば、また森は豊かに育つんだよ。私たち農家が森を守らずに、誰が森を守るというんだい。」

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森の豊かさと人々の暮らしの様子を表現した絵画

 森林農法のコーヒーは、その栽培プロセスの中で森を守っていいく、維持していくことができます。さらに、一度荒れてしまった土地でも在来の樹木などを総合的にデザインして植えていくことで、森を育てていくことも出来るのです。まさに、コーヒーが森を守り、森を育てるということが出来るのです。

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