第2話 メキシコとコーヒーの意外な(?)関係

トセパン協同組合の詳しい話しに入る前に、メキシコという国とコーヒーについて簡単に説明していきましょう。

 世界第1位のコーヒー生産国は、ブラジルです。ブラジルにおけるコーヒー生産は主に、先端技術を用いた単一作物のプランテーション栽培です。また、農薬の使用量も多いのが特徴です。しかしメキシコでは対照的に、海岸沿いの傾斜地などを利用した集落ごとの農園において森林農法を行っています。豊かな樹々が生み出す木陰の下でコーヒーが栽培されるのです。これは、コーヒーは日陰を好むため、理にかなった農法なのです。

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背の高い樹々の下にコーヒーの樹が植えられている。

この伝統は、メキシコの農業と文化の歴史に根ざしています。自然と共に生きてきた先住民の知恵がこの魅力的な農法を確立し、原生林をアグロフォレストリ(森林農法の森)として活用してきました。なお、コーヒーはアフリカ原産の植物ですが、メキシコにはヨーロッパを通じて18世紀末に導入されています。

 このような背景から、メキシコのコーヒーの多くは、山岳地域に住む先住民の手により栽培されてきました。コーヒー生産地帯は偶然にも、メキシコにおいて生物多様性が豊かな地域と、ほぼ完全に一致していることも付け加えておきましょう。

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先住民が支えるメキシコのコーヒー

 メキシコのコーヒー生産者総数は、約20万人と考えられます。約90%のコーヒー生産者は、5ヘクタール以下の小規模な土地で耕作をしています。さらに、その内の70%は2ヘクタール以下の土地を耕しています。いわゆる小農民がコーヒー生産を支えているのです。

 世界のコーヒー生産の中で、生産量においてメキシコは第4位、耕作面積において第5位、収益においては第9位を占めています。特筆すべきは、メキシコは世界最大の有機栽培コーヒーの輸出国ということです。有機栽培コーヒーの輸出量は、流通総量の5分の1を占めています。

 メキシコのコーヒー栽培地は、海抜300mから約2.000mの地域にまで広がり、気候、土壌、植生も場所により大きく異なっています。コーヒー栽培に最も適した標高は600mから1.200mで、一般的に気候は半乾燥地帯、熱帯気候と温帯気候の境界地域となります。

 ウインドファームとも縁の深い生態学者のパトリシア・モグエルによると、コーヒー生産に携わるメキシコ先住民は150万人に達し、28の民族が携わっています。主な民族は、サポテコ族、ミクステコ族、ミシェ族、トトナコ族、ナワット族、ウワステカ族、ツェルタル族、ソケ族、トホラバル族、チャティーノ族。ちなみに、トセパンのメンバーは主にナワット族の人々です。

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 また、オアハカ州、チアパス州、ゲレーロ州をはじめとする地域では、ほとんどのコーヒー栽培において農薬を投入せず、生活環境に優しい有機農法が生かされています。

 コーヒーは一般的には農薬を多用する農作物です。世界的に見て、農薬を一番使う作物は綿花と言われています。そして、2番目と3番目を「コーヒー」と「タバコ」が競っているとされています。それは栽培効率や規模、収穫量や収益といったことを優先する中で農薬と化学肥料を前提とした近代的な栽培方法が世界で広まっていることとも関係しています。

森を切り開き、効率的にコーヒーの樹だけを植えていき、病気が出れば農薬を撒き、樹や土が弱れば化学肥料で補うというわけです。農薬や化学肥料を多投するコーヒー農園では、鳥の数が少なくなったり、農民が病気になったりするという事態も一般的に多く見られます。

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コーヒーの苗を育てている現場

 生物多様性が豊かなメキシコの森林にて、先住民の伝統的な知恵を活用しながら農薬や化学肥料に頼らない有機栽培コーヒーが育てられていることの意義は大きいものです。森が守られ、生物の多様性も保護され、人々の暮らしも本当の意味で豊かになるからです。トセパンコーヒーは、こういった森の中で育てられているのです。

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