第3話 「有機栽培へのチャレンジ」

南インド紅茶を栽培しているオーツ農園。広さは約213ヘクタール。1ヘクタールが大体野球場1個分と考えるとイメージが付きやすいでしょうか。その農場で約300名の人たちが茶摘みや製茶工場などで働いています。

現在オーツ農園の区画では、全て有機栽培でお茶を育てています。

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有機栽培は1988年からスタートしました。当初、お茶の有機栽培というものはインドでは情報も技術もなく、正に試行錯誤するところから始まったそうです。

当初、病気や虫がたくさん出たり、化学肥料を使わないための影響なのか収穫量は半分以下まで落ち込んだそうです。

「虫が出た場合はどのように対応するのですか?」と聞くと

「有機栽培においては薬剤は使用できないからね。虫と一緒に生きていくしかないんだよ」とスタッフは笑いながら答えていました。

オーツ農園では、化学肥料を使う代わりに有機肥料を作ります。牛フンと刈り取った草や木の枝などを積んだ堆肥を作るのです。台形に積まれた材料の中で微生物が活動して、有機物を分解します。発酵が進むと、堆肥は微生物の活動によって熱を発して、湯気が出てくるそうです。分解が進むと、お茶が根から吸収しやすい肥料の状態となるのです。

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堆肥の製造場。有機物を積み上げて発酵させる。

 

「有機栽培をするに当たっての課題はどんなことですか?」と聞くと次の答えが返ってきました。

「とにかく、雑草の処理が大変なんです。慣行農法だったら除草剤を使います。けれども、有機栽培においては手作業でやるしかない。とっても、人手も時間もかなりかかるんですよね。例えば、除草剤を使えば3ヶ月ぐらい草が生えない状況を作れます。1ヘクタールに2〜3人居れば作業は済むでしょう。けれども、大地を汚すことになりますよね。労働者の健康にも影響がある。人の手で除草作業をすると、同じ広さでも30名ぐらいは必要になります。なかなか、大変ではあるんですよ。慣行と有機での収穫量も有機の方が少ないというのも現実です。

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(上)茶園の脇に除去された雑草の山。有機肥料の材料となる。
(下)剪定された樹々の枝も堆肥の材料となる。

けれども、有機栽培を広めていきたい気持ちもあります。現在、どういった草であれば生やしておいて良いのか、他の草をおさえてくれるような草はないのかなど、草に関する情報収集や実験的な取り組みもしています」と案内してくれたラムさんが語ります。

有機栽培を推進するにあたり土壌の分析やさまざまな研究データも活用していると言います。けれども、一番当てになるのは農園で働く300名以上の労働者。土壌や茶葉の状態に異変があれば、随時報告がなされるので心配はないそうです。

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堆肥の状態をチェックする農園の責任者とスタッフ。

オーツ農園には、いろいろな困難がありながらも、有機栽培の面積を拡げてきた経緯があります。「私たちは紅茶の有機栽培の先駆者としての誇りと蓄積されたデータを持っていますよ。有機に切り替えた農園の周囲では慣行農法の農園よりも野生生物の種類が多様との報告もあります。また、有機農園の方が、病気になってしまうスタッフの数が少ないとの報告もあるんですよ。農薬を使って、一番健康被害を被るのは農園で働くスタッフですからね。有機栽培をすることで、スタッフも安心して働けるというわけです」とラムさんは嬉しそうに語ってくれました。

会社と農園の方針として「地球へお返しをしていく」「森を守る」「有機栽培を推進していく」という確固たるポリシーがあるのです。

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