2005年11月19日

第5回 持続可能な社会への道~トセパン・ティタタニスケ協同組合~

 メキシコの先住民族たちや生産者たちは、団結すること、組織化することで、不平等・不公正なグローバリゼーションに対して闘い続けてきた。その中でも、ナワット族の有機コーヒー生産者組合「トセパン・ティタタニスケ協同組合」の活動はモデルケースだと言われ、非常に多様で持続可能な活動を行っている。

 組合のベースにあるのは、ナワット族の考え方、そして文化的背景であり、そこでは常に自然への敬意が払われている。彼らはいつも「母なる大地は、自分たちのプロジェクトの中心である」と表現する。

 トセパン組合は、プエブラ州の山岳地方にあるケツァーランという町を拠点としている。組合員数は5,300世帯。ケツァーランを中心に7つの地域66のコミュニティに暮らす。一般的に、コーヒー栽培に適している標高は600~1200メートルだと言われているが、彼らが暮らす地域は、標高200~900メートルに及ぶ。このうち、コーヒー生産を営む組合員は、標高400~900メートル内に暮らしており、標高200~400メートルではコショウを、200メートル以下ではトウモロコシやサトウキビを生産する組合員たちが暮らしている。

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組合の本部があるケツァーランの町

 トセパン組合がスタートしたのは1977年。食料や生活必需品が不足していたという現状と、コーヒー販売において高い仲介料を取る仲介業者に対抗し、自分たちの暮らしを守り続けていこうと始めた組合運動が最初だった。これをベースとして1980年、正式にトセパン組合が設立された。環境や社会状況を悪化させるグローバル化が進む中、自給的な作物と商品作物を栽培することで、安定した経営を目指してきた。

 現在トセパンが生産し、販売している作物は、有機コーヒー、オールスパイス(香辛料)、マカダミアナッツ、シナモン、はちみつ、である。この他、コーヒーの豆を加工する段階で出るコーヒー豆の果肉や皮を利用して堆肥をつくったり、機械用のアルコールを精製したり、資源を捨てることなく循環させて、さまざまな活動を行っている。また、女性の自立を目指した活動も多く行われている。パン屋、トルティーヤ(とうもろこしからつくる主食)製造、日用品販売、手工芸品製作と販売などがそれである。この他、近年、図書館、研修施設、パソコンルーム、宿泊施設を含む環境教育センター「カルタイクスペタニロヤン」を設立。子どもから大人に至るまで、組合全体での環境教育に力を入れている。

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環境教育センター ”カルタイクスペタニロヤン”

 各生産活動にはプロジェクトリーダーがそれぞれおり、グループごとのミーティングから始まり、全体総会も定期的に行われ、メンバーたちの意見や知識をシェアする場がきちんとつくられている。

 トセパン組合のリーダーは、4年を任期とし、民主主義によって選ばれる。まず、66のコミュニティそれぞれから代表者が選ばれ、この66人の代表者会議によって組合の代表者が選ばれている。組合の代表に選ばれる者には、ナワット語が話せること、知識と経験が豊富なこと、そして組合員の尊敬を得られること、という3つの条件を満たすことが必要とされている。こうして選ばれたリーダーのもと、多様なプロジェクトが行われるのである。

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組合内での代表者会議

 しかし、これだけ多様な活動を行っていくには、資金が必要となる。トセパンの人たちは、資金も外部に頼らず、組合内の活動に必要な予算や、組合員それぞれが生産のために必要とする資金については、組合内に設けた自らの金融機関「トセパン・トミン」(ナワット語で、「お金はみんなのもの」を意味する)でまかなっている。お互いの信頼関係で成り立っているこの機関では、組合員は担保なしでお金を借りることができるが、だからと言って、ローンの返済が滞ったという事例はこれまで一つもない。

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トセパントミン

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トセパントミンの報告集会

 トセパン組合の活動が素晴らしいのは、環境や組合員一人一人に配慮した持続的な活動を行っているというのはもちろん、ナワット族の文化や伝統を守りながら、それを活動の中にしっかりと反映させているというところにある。このように、地域の環境や自らの文化を守りながら、独自の活動に取り組むトパンは、メキシコ政府から「環境賞」や「フォーレスト賞」などを受賞し、高い評価を得るに至っている。

投稿者 akira : 12:45

2005年11月12日

第4回 グローバリゼーションと闘う ~メキシコの現状とフェアトレード~

 熱帯地方に位置する多くのコーヒー生産国は、途上国と呼ばれる国々である。コーヒーはここ10年間、一般市場価格においては下落傾向が見られている。こうした経済危機の中、森林は伐採され、若者たちは仕事を失って都市部などに働きに出、村々には、年老いた人たちのみが暮らし続けるという厳しい状況が強いられている。この経済的な危機は、メキシコを始めとするコーヒーの生産国に対して大きな影響を与えている。

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荒れていく農地

 一方で、消費者の方を見てみると、数で言えば、この地球上の人口の約40%の人がコーヒーを消費すると考えられている。その中でも、より多くのコーヒーを消費しているのがヨーロッパ、そしてアメリカである。しかし残念なことに、このコーヒーの約80%がアメリカやヨーロッパの企業によって流通させられていて、約8つの企業の手によって支配されている、つまり、価格がコントロールされている。一般的に市場では、需要と供給によって価格は上下しているが、大企業が自由市場という中で自由に振る舞い、在庫の管理、流通の量などを調整して価格を管理しているというのが現状となっている。

 他のラテンアメリカ諸国と同じように、メキシコでもこの30年間、経済のグローバル化という現象が進んできた。自由市場が経済の中に持ち込まれると、北と南の間で競争をしなくてはならなくなる。しかし、これは、非常に不平等な市場での競争になってくる。

 メキシコは、アメリカやカナダと自由貿易協定を結んだために、国家が、農民たちに自由に補助金などを提供することができなくなってきている。一方で、北の国々というのは、自由に補助金を出しているという非常に不公平で不平等な状況が展開されているのである。

 こうした状況の中、メキシコでは、1994年に、サパティスタ解放戦線というゲリラ活動の蜂起があった。これは、自由主義が北から持ち込まれることに対しての抵抗活動と考えられている。一方で、この厳しい現状を前にして、生産者たちで組織作りを行っていこうという動きが出始め、その中で、北とは直接競争できない分野で競争していこうという流れになっている。

 その一つの例が、メキシコ・プエブラ州にあるトセパン・ティタタニスケ協同組合である。実際、トセパンに限らず、生産者組織は北の国々からの多くの助けを得て、商品をフェアトレード市場で販売し、利益をあげるようになってきている。このようなかたちで北との連携を築くことで、持続可能な生産というのを南北で築いていこうという動きが生まれているのである。

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サパティスタ民族解放戦線

 メキシコは、有機栽培のコーヒーにおいては世界第一位の生産量を誇る国であり、生産者組織の数も一番多いと言われている。フェアトレードのように、一般の市場とは異なる市場の中で、生産者が認証を得えようとする動きがある。それは、「木陰で生まれたコーヒー」、「鳥類にやさしいコーヒー」といったようにさまざまである。そして、最終的には「持続可能なコーヒー」という名がつけられ、広まっていくことになる。認証印というのは環境、または生産を助長するだけではなく、フェアトレードの市場にくい込むためにも役立っている。そして消費国である日本は、フェアトレードのコーヒーを選ぶことで、メキシコを始めとする第三世界の小さな生産者組織の闘いを支えることにつながるのである。

※サパティスタ民族解放戦線:メキシコ南部に位置するチアパス州において活動する先住民の武装組織。北米自由貿易協定(NAFTA)が発行した1994年にチアパス州にて蜂起。

投稿者 akira : 12:47

2005年11月10日

第3回 メキシコと日本をつなぐ ~パトリシア・モグエル~ 

 コーヒーの国際市場価格の暴落、大企業によるコーヒー豆の買いたたき、開発による森林破壊など、コーヒー生産国、そして生産者たちを取り巻く現実は厳しい。コーヒー生産量世界第5位、そして有機コーヒーの生産量では世界第1位を誇るメキシコでも、その現実は同様だ。そん中、メキシコで昔から行われてきた森と共生しながらコーヒーを栽培するアグロフォレストリーを守り、「協力」と「分かち合い」という意識を持って、この困難に立ち向かう生産者たちがいる。そして、そこにはいつも、彼らとともに闘う一人の女性パトリシア・モグエルの姿がある。

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パトリシア・モグエル

 生物学者である彼女は、メキシコのラテンアメリカン大学の教授として教べんを執り、多様な作物や果樹と共にコーヒーを育てるアグロフォレストリーが、生態系に与える恩恵や影響について研究している。メキシコのアグロフォレストリー研究の第一人者だ。また、地元の町では、女性たちによる環境活動グループのリーダーも務め、積極的に環境保護活動にも取り組んでいる。常に弱い立場の人たちの側に立ち、環境問題や社会問題に取り組んできた。

 伝統的な有機コーヒー栽培、アグロフォレストリーでは、自然や生態系を保護しながらコーヒーを生産する。しかし、何の考慮もない安い価格でしか生産物を取引できない以上、収入を得るためには、こうした伝統を捨てざるを得なくなる。メキシコの先住民たちは、昔から受け継がれてきた「協力」、「分かち合い」という素晴らしい姿勢をもって、こうした状況を乗り切ろうとしている。そんな生産者らの現状や切なる訴えを、パトリシアは、まるで自分自身のことであるかのように強く訴える。それは、パトリシアが、不公平な状況にある生産者の立場に、自分を置き換えて、考え、感じることが出来る人だからなのだろう。こうした貧困や差別に対する彼女の問題意識や行動力は、一体どこから生まれてきているのだろうか。

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説明するパトリシア

 彼女は言う。「私の人生に一番大きな影響を与えたのは、弁護士だった父親です」 と。彼女の父親は、公平な世の中の実現へ向けて、常に高い意識を持っていた人だった。弁護料を払えないような貧しい人たちの依頼をすすんで引き受け、彼らのために無償で闘っていたという。パトリシアは、この父から「貧しい人たちのために闘うこと、分かち合うという精神を持つこと、そして社会に矛盾や疑問を感じたら、それをはっきりと訴え、行動することが大切」ということを教わった。この父親からの教えは、パトリシアにとってかけがえのない宝物であり、彼女の大きな原動力になっている。

 そしてもうひとつ、彼女の生き方に大きな影響を与えたことがある。それは、イスラエルのキブツ(イスラエルで発達した世界的に有名な共同体社会)での生活だ。キブツの哲学は、「社会的平等を得て幸せになるためには、皆が協力しあって懸命に働かなくてはならない」、「皆が平等の権利を持つべきである」というもので、これは、彼女自身が成長する上で学んできた考え方ととても良く似ていた。大学進学を目の前にした多感な時期に半年ほどキブツで生活し、農業を始め、さまざまな仕事を体験した彼女は、さらに半年、イスラエル国内を旅して多くの人と出会い、その生活、農業、自然を見て回った。こうした経験を通し、パトリシアは、社会問題に対してさらに強い意識を持つとともに、農業、環境、生物や生態系といったことにも興味を抱くようになった。この後、大学へ進み、先住民の環境意識やコーヒー生産の研究にも従事することになる。彼女が、単なる研究者に留まらず、活動家として多くの問題と関わる根底には、こうした経験がある。

 パトリシアはよく言う。「研究者と呼ばれる人たちは、いつも頭(知識)ばかり使っています。でも、それだけではだめなんです。 本当の研究というのは、ハート(こころ)でするものなのですから」、と。彼女の言葉や行動が、いつも人を引きつけ、人の心に入っていくのは、この言葉が象徴しているように、パトリシア自身がいつも「ハート」をもって人びとの心に語りかけ接しているからだろう。

 「以前は、こんな世の中に悲観的になることもありました。でも今は違います。メキシコの生産者と日本の消費者との強い絆をつくっていくという未来に、私は大きな希望をもっているのです」。日本とメキシコをつなぐ大きな掛け橋として、パトリシアは今日も現場で活動し続ける。

投稿者 akira : 13:18

2005年11月02日

第2回 アグロフォレストリー(森林農法)

 メキシコを始め、そのほとんどが熱帯に位置するコーヒー生産国では、一時的な開発やコーヒーのみを栽培するプランテーション栽培などにより、森林伐採、そして温暖化の問題が深刻なものとなっている。こうした深刻な森林伐採から、森を守ろうと取り組まれている方法の一つに、「熱帯の庭園」という名前で呼ばれる『アグロフォレストリー(森林農法)』というシステムがある。

 メキシコでは昔から、このシステムを用いたコーヒー栽培が、さまざまな先住民族によって行われてきた。彼らは、さまざまな方法での資源活用を身に付けており、自らの宇宙観と関わり合いながら生物多様性を守り、森を活用してきた。そして、彼らは保護すると同時に、何百年もの時間をかけて森というのをデザインしてきた。そうして生まれてきたのが、アグロフォレストリーである。

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トセパンの女性(ナワット族の伝統衣装)

 先にプランテーション栽培(一つの作物のみを大量に生産する)について述べておくと、これはアグロフォレストリーとは全く逆のシステムである。これは、近代的な手法によってつくりあげられたもので、生態系を全く無視した場所になっている。 プランテーションで生産する場合、まず商業栽培の部分だけを残して、原生種を始め、すべての樹木を切り払う。また、プランテーション栽培を維持するためには、非常に集中的に農薬などを使う必要が出てくる。土地を傷めつけてしまうこの方法は、限られた期間しか栽培することができない。これは、先住民が自然の生態系を活かしながらデザインし、森自身が再生する力を持ったアグロフォレストリーシステムとは全く異なる。

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プランテーション栽培

 では、具体的にアグロフォレストリーとはどういう農法なのだろうか。ひと言で言えば、自然の森の中に、コーヒーなどの商業作物を始め、果樹や木材用の樹木、作物などを混植する方法である。本来の生態系を活用して出来上がったものであるため、森の豊かさや生物多様性を保護する場所にもなっている。また、商業作物を導入することで、森から収入を得ることができ、自家用の作物なども得られる。多様な作物を栽培するので、収入を一つの作物のみに頼ることなく、比較的安定した経営を行うことができる。

 メキシコのトセパン組合では、アグロフォレストリーの森1ヘクタールあたり150種ほどの有用な作物が生産されており、この森がどれほど生物的に豊かであるかということがわかる。これらの作物の中には、地元の市場だけでなく、海外の市場に出される商品作物もある。それは、トセパン組合を始め、先住民たちが、長い年月をかけて、森との付き合い方、どう管理したらいいのか、とても豊富な知識と経験を持っているあかしでもある。

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アグロフォレストリーの森

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 また、アグロフォレストリーの森は、二酸化炭素を吸収するという機能を持っている他、野生生物たちが暮らす場所としても役立っている。例えば、トセパン組合のあるプエブラ州北部の地域では、1,000種類近くの鳥類が確認されていて、その多くが絶滅の危機に立たされている。アグロフォレストリーの森は、この鳥類にとっても最後の隠れ家でもあるのだ。

 さらには、この地に暮らす先住民たちは、アグロフォレストリーの森を作り上げていく中で、自分たちの文化や伝統、そして暮らしをもつくってきた。つまり、この森は、経済的や環境的のみならず、社会的にも文化的にも、そして歴史的にも重要な意味を持つ場所となっているのである。

投稿者 akira : 17:41