第3話:迫り来る森の危機

その森は、破壊の危機と隣り合わせの受難の森でもあった。
コロンビアの西側からエクアドルの北西部には、類い希な生物多様性に優れた「チョコ生命地域」と呼ばれる地域がある。インタグ地方の森もそこに属してい るが、その多くは牧草地やバナナ、パーム油を栽培するために伐採されてしまい、かろうじて 残っているのがインタグ地方とその近辺の森だけというのが実状だった。

そのうえ豊富な鉱山資源が発見されたインタグの森には、さらなる伐採と破壊の危機が訪れる。
若くリベラルなカトリックの司祭、ジョバンニ神父からインタグに「鉱山業者」が存在することを知らされるまで、カルロス・ソリージャは自分の足下に森林 破壊の危機が迫っていることを知らなかった。鉱山開発計画と大規模な試験採掘は、地元住民との対話が一度もないままに進められていた。

鉱山開発で影響を受ける地域の森林は、500ヘクタールの広さのなかに、アメリカとカナダ全域を合わせた種類よりも多くのハチドリや蘭(ラン)が生息し ているという。多様な生命が躍動する舞台には、絶滅の危機に瀕しているジャガーやホエザル、 メガネグマも生息している。

フニン村での出来事 鉱山開発による被害の実態

1995年から始まる試験採掘の段階から、砒素やカドミウムなどの重金属によって環境汚染は始まっている。なかでも最も深刻な被害を受けたのが、インタグ地方ガルシア・モレノ教区(地図参照)にあるフニン地区だった。

エクアドルの生態系 調査グループの発表によると、「採掘により、フニン村の住民にとって唯一の水源で あるフニン川は汚染され、しかもM社は、それに気づきながらも放置している」とのことだった。
現在、フニン村で自然の豊かさを伝えるエコツーリズムに取り組むエドモンド・ルセロさんは、当時に様子について、次のように語っている。


(ボーリング跡に立つ、フニン村のエコツアーガイドのエドムンド・ルセロさん)

「フニン村はインバブラ県インタグ地区に位置します。この村は他地域からの入植者によって拓かれました。最初に入植した農民は、厳しい生活に直面しながら黒砂糖と蒸留酒の原料となるサトウキビの収入を得て、皆が平和に暮らせるようになりました。

ある日、外部の人が土壌のサンプルを求めて、川沿いを上ってくるまで、この村に鉱脈があることは誰も知りませんでした。彼らはフニン村を訪れた本当の目的は何も言わず、『良い道路ができる』とだけ語り、村から出て行きました。

しかし、彼らは再びフニン村に現れてこう言いました。『エクアドル政府と日本政府、そして三菱マテリアルと合意を結び、試掘を行う』。それから鉱山プロジェクトの関係者は、フニン村だけでなく、インタグ地区の各地に姿を現すようになりまし た。

鉱脈調査の段階で、すでに環境汚染が起こっていましたが、地元の住民は何も知らされず、ガイドとして雇われたり、機械の移動など危険な仕事をさせられました。
鉱山開発の危険を教えてくれたのは、DECOINをはじめとする環境団体です。 彼らは日本人らが将来引き起こす弊害を、私たちに説明してくれました。

鉱山開発の弊害は、自然破壊だけではありません。地域の一般的な額をはるかに超える給与は、鉱山賛成派と反対派の衝突を生み、鉱山開発の反対を訴える人々のなかには、脅迫され、命に危険が及ぶ人もでてきました。鉱山反対派の指導者たちは投獄され、社会は不穏な雰囲気に包まれました。

銅山開発を試みる人々は、様々な形でフニン村の河川や森を破壊し汚染します。河川沿いに設置された鉱山キャンプのトイレから、必要な処理を行わなずに糞 尿を垂れ流し、試掘地域に放置した中毒物質は、降雨により河川へ流れ込みました。原生林に6キロメートルの道を作るため森林が伐採され、試掘が原因で、大 規模な地滑りが発生し、3つの渓谷が埋まり、小川が枯れ果てました。


(汚染された水)

やがて、この鉱山プロジェクトにより、4地域100世帯の住民が退去させられる こと、鉱山開発に利用される4000ヘクタールの森が伐採されること、そして生活 のあらゆることに利用される重要な河川が汚染されることが判明しました。」
(「持続可能な社会作り」というテーマを掲げ、2002年にエクアドルコタカチ郡で開催された第三回有機コーヒーフェアトレード国際会議における発言より抜粋)

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