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セヴァンとの対話 (前)

セヴァン・スズキ <対談> 中村隆市(通訳・辻信一)

ブラジル、リオで12歳のセヴァンが、後に世界中で語られることになるスピーチを行ったのは1992年6月。その2ヶ月後、中村隆市は有機コーヒー農場を調査するためにブラジルを訪れ、そこでセヴァンの名前を知る。「いつか、ゆっくり話が出来ないだろうか」。そのときに抱いた想いは、10年の歳月を経て実現することになった。

ウインドファームの焙煎工場にて 福岡、ウインドファームの焙煎工場にて、セヴァンと中村。

中村隆市(以下、中村)

セヴァンを日本に呼ぶにあたって、ちょっとした物語があるので、そのことから話したい。10年前のリオサミットから2ヵ月後に私がブラジルに行ったとき、セヴァンのスピーチの話を聞いた。セヴァンのことを教えてくれたのは、ブラジルで有機農業を広めようと活動している人だったけど、私は12歳の少女がリオサミットで、最も人びとの心を動かすスピーチをしたという話を聞いて、いつか、その少女に会ってみたいなと思った。そう思った日から6年が過ぎた1998年に、エクアドルのある先住民が、私と辻信一さんとの出会いをもたらしてくれた。それは、私が福岡で国際有機コーヒーフォーラムを開催したときに、エクアドルから招待したアウキ・ティテュアニャという先住民の知事に辻さんが同行してきたために、私たちは出会うことができたわけです。
 その翌年、辻さんと私は一緒にカナダの先住民の重要な祭りに参加しました。これも先住民が取りもつ縁ですが、そこで私はデヴィッドという生物学者と会い、そのあと、環境団体の代表であるタラという女性活動家に会った。そして、この二人と親しい辻さんから「リオサミットで12歳でスピーチしたセヴァン・スズキは、彼らの娘」であることを聞いたわけです。驚いた私は、帰国してすぐ辻さんが翻訳したスピーチの全文と講演の様子を録画したビデオテープを見せてもらいました。それを見た私は、こころを揺さぶられ、さまざまな思いが湧きあがり、自分の人生を振り返りました。感動した私はセヴァンを日本に呼びたいと思い、それが今回のセヴァンツアーにつながったというわけです。

セヴァン

うわー、すごい。

中村

まず、セヴァンとジェフに大変ハードなスケジュールを組んでしまったことのお詫びと、ハードスケジュールにもかかわらず見事に講演ツアーをやりとげた二人に感謝の気持ちを伝えたい。私は、ツアー全体の60%位に同行したからツアーのハードさがよく分るんだけど、各地での歓迎と熱気はすごかった。セヴァンに対する期待の現れでもあったけど、それに対してセヴァンもよくそれに応えてくれたね。この3週間、本当にお疲れさま。

セヴァン

ほんとにハードなスケジュールで疲れたけど、とても充実したツアーになったから、やり遂げたという満足感があるわ。

中村

これからこのツアーを振り返りながら、いろいろと話し合いたいと思うんだけど、私が考えていたこのツアーの目的は、日本国内だけでなく世界の自然を破壊し、環境を汚染し続けている日本、未来世代のことを考えない日本の社会を変えていくキッカケにしたい。そのためには、環境運動に若い世代の参加が必要だと考え、そして、それができるのがセヴァンだと考えた。
 その後、実際にセヴァンツアーを呼びかけるために、2年前からセヴァンのリオでのスピーチを私の会社で発行している冊子やホームページに掲載したり、私自身の講演で紹介し始めると、予想を超える反響があり、この時点で、ツアーの成功を予測できたんだけど、実際に各地での受け入れ準備を進めていくにしたがって、各地の実行委員会に若者の参加がどんどん増えていって、最終的には小学生、中高生、大学生から社会人、主婦、高齢者まで、幅広い年齢層の参加がありました。また、多くのNGOも参加してくれて、NGOの中には、環境問題だけではなく、平和の問題や南北問題、教育や福祉関係の団体、あるいはチェルノブイリ原発事故被害者の支援団体など、いのちを大切にしたいと考えて活動しているNGOが多数参加しました。そして、山田養蜂場のような4300万部の新聞(日本で発行されている新聞の85.5%)に全面広告でセヴァンのスピーチを掲載するようなこれまでにない強力な支援をしてくれる企業も現れてきました。この記事に対する反響もすごかった。
 そして、今回の取り組みには、有機農業や漁業、林業などの一次産業に携わる方がたくさん参加されたのも大きな特長でした。このように、年齢も立場も違う、さまざまな人びとの参加と協力によって、ツアーが大きな成功を収めたんですが、もう一つセヴァンに伝えておきたいことは、今回の各地での取り組みがキッカケとなって、その地域での新しいネットワークができてきているということです。環境問題に留まらず、福祉や平和の問題に取り組む「いのちのネットワーク」のようなものが芽生えています。そして、地域と地域がつながったり、県境を越えたつながりも生まれていて、すでに交流が始まっています。
 そういう面でも、大きな成果があったツアーだったんだけど、この成功を次のステップにつなげていくために、ツアーの中で感じたこと、話し合われたこと、見えてきたこと、これからの課題などについて、気楽に話し合ってみたいと思います。

セヴァン

今の話を聞いて、とてもうれしいです。こういうツアーをやっても、それだけで終ってしまうんじゃ、何にもならないんで、そういうふうに次につながっていくことがうれしいです。今回のツアーで、私は非常に可能性を感じました。特にいろんなグループの間の、ネットワークのやり方とか、とてもよく組織されていて、大きな運動を作りだす可能性を秘めているように感じた。
 非常に興味深く思ったのは、私は皆さんにとって、よそ者なんですが、そういう外の者を象徴的に使う形で、ツアーをめぐってみんなが結集するという、この運動は面白いと思った。

鮎うまー 熊本、川辺川の鮎。

中村

今回のツアーでは子どもたちもたくさん関わっています。子どもたちに伝えておきたいことはありますか?

セヴァン

子どもたちに言いたいのは、環境を守るためにやることはたくさんあるということ。そして、分からないときは、どんどん大人に聞いたらいい。何か必要だったら大人に助けてって言ったらいい。そうすると本当に信じられない所から助けが来たりするわ。本当に大人たちっていうのは、私たちが思うより、助けたがっているものよ。

中村

そうだね、それは、お年寄りもそうだよね。

セヴァン

ほんとにそうだと思う。いろんな与えるものがあるのに、特に子どもと祖父母の関係が、残念ながら都市化のなかで壊れているけれども、それは本来とても自然なつながり方で、精神的な大きな支えになるものだと思う。
 特に、祖父母の世代っていうと、まだ機械化されていなくて、自分たちでいろんなことができた世代でしょ。手作りすることの楽しさとか、多くのことを教えることができる。それなのに、機械化されてきて、必要とされなくなってきている。
 いのちを大切にするということでつながって、一緒に動くという話をされたけど、全くそう思うんです。私たちの活動は、「環境運動」や「平和運動」と言われるけど、本当はそういう狭い、限られたもので言い表せるものではないと思うんです。
 大事なことは、人間であるということはどういうことなのか、だと思います。私たちは、感情を持ち、他の人と共に生きる社会的動物だから、人間とのつながり、自然とのつながり、動物とのつながり、そういうなかで人間であるということはどういうことなのか、ということだと思います。
 例えば、ナマケモノ倶楽部が他のグループと違うのは、自分たちがやっていることを環境とか平和だけに限定しないで、ビジネスや文化など、いろんなところとつながっているところだと思う。そして、その真ん中にあるのは哲学ですね。その哲学をシェアして、皆つながってるんじゃないかな。哲学や思想の部分で。

菊水町での講演は民家を利用 熊本、菊水町での講演。

中村

ツアーの途中で、幼稚園の子どもを持つお母さんからこんな話がありました。「環境運動をやってる人たちの話は、こうしないとダメだとか、こうしなければならないとか、消費を減らさないといけない、節約しないといけない、我慢しないといけない、というふうに、義務のように押しつけてくる」と。その若いお母さんは環境問題をよくしないといけないというのは分かるけれども、そういう雰囲気がすごく嫌だというんです。
 その話を聞いてて思ったんだけど、ナマケモノ倶楽部に若い人たちが集まってくるのは、やりたい人がやりたいことを、好きなようにやれるからだろうなって。そして、ナマケモノのように「ゆっくりやろうよ」というのが合言葉だから、世話人である私自身がとても楽しい。今回のツアーでは、各地に楽しんでやっている人が多かったね。

セヴァン

 ある会議で、こんな話が出ていた。ROR(セヴァンが呼びかけている自分自身に対する「責任の認識」という運動)を皆が守っているかどうか、どのようにチェックしたらいいのか、そういう話がでていた。でも大切なのは、自分が、自分に対して、どんなふうに感じることができるかだと思う。外から教えて、きちんとやっているかチェックするとういうものではないと思う。だから、ナマケモノ倶楽部の合言葉であるスローイズビューティフル(ゆっくりは美しい)という言葉が半分くらい意味を持っているって言われてるけど、RORもそうだと思う。つまり、自分の責任を認識するという、この言葉でもうほとんど半分の意味をもっている。そこで大事なのは、自分がそれを読んで署名したときに、実際に自分が世界に働きかけたり、世界を変えていくことに参加できるということを実感すること。一人だと思っていたのが、こんなにたくさんの人が、同じ流れの中にあるという、その流れを感じることだと思うの。

中村

さっきの若いお母さんといろんな話をしたあとに、最後に私はこう言ったんです。「ひとり一人が自分のペースで、自分がやりたいことや大切にしていることを大事にして、自分自身の人生を充実して生きることが大事なんじゃないかな、それが皆のいのちを大事にすることにつながるんだと思う」って。

セヴァン

まさにそうなんです。世界は要するに自分自身なんです。自然というのは自分自身なんです。自分自身を大事にできない人が、環境も何もない、まさにそういうことを私は言いたかったんです。

中村

先日、辻さんと話した「えっ、いいんですか」っていう話ね。あれ、とても大事な話だと思うんです。若い人たちが、子どものころから危険だからとか、汚れちゃうからとかで、「ああしちゃいけない、こうしちゃいけない」と言われ続けてきた結果、いろんなことを「許可なしにやってはいけない」と思っている若者が多くなっていて、私たちがやっていることを見て、「えっ、そんなことやっていいんですか?」という反応が多い。ナマケモノ倶楽部が、会社を作ったり、カフェを作ったりしていると「NGOがそんなことしていいんですか?」とか、地域通貨の「ナマケ」という紙幣や硬貨を作ったら「えっ、お金作っていいんですか?許可は取ってるんですか?」といった反応が返ってくる。何をやるにも、誰かの許可を取らなきゃいけない、と思っているわけです。

辻信一

「えっ、いいんですか」から「えっ、いけないんですか」に僕は変えようと思うんだけど。つまり、今までは「えっ、いいんですか?」だったけど、これからは、何でもやって、何か言われたら「えっ?いけないんですか?」って聞くようにしようと。だから、セヴァンが言っているのはまさにそのことで、RORでも。

中村

若い人たちがセヴァンのように自由に伸び伸びやるようになったらいいなあ。いま、環境問題にしても、平和の問題にしても、すごく状況が厳しいということを若い世代がかなり感じているんですね。最近、高校教員の友人が、生徒たちに「これから世界はどうなっていくと思うか」という質問をしたんです。すると生徒たちの大半がとても悲観的になっていて、未来に明るい希望を持てないという結果が出た。これは我々の世代の責任でもあるんだけど、でも裏を返すと、生徒たちは、やはり平和を望んでいるし、環境をよくしたいと思っているということの現れだと思うんです。
そして、未来に希望を見出せない状況だからこそ、よけいに水筒運動のように楽しさを語っていくことが重要なんじゃないかと思うんですね。義務とか、ガマンとかじゃなくてね。若い人たちが率直に自分の思いを表現して、もっと自由に活動するようになったら、いろいろ面白いことが起こってくるんじゃないかな。
 ちょっと、まわりには不評なんだけど、この水筒に私は「ハッピースイトー」っていう名前をつけたんです。ハッピーとピースと水筒(好いとう)が一体となっているんだけど、まわりから「また、始まった」って笑われてる・・・

セヴァン

(笑いながら)楽しさっていうのは絶対重要だと思う。楽しい世界のために私たちはやってるわけで、それに至るまでの過程が楽しくないなんてことは、あり得ない。だから、シャレとか、言葉遊びとか、どうやってしゃべるか、どういう言葉使いをするかとか、これはみんな大切なことだわ。
 それから、危機の意識の問題で、私たちはこれまで「第三世界の人たちは貧しくて、厳しい状況にあるから、助けなきゃいけない」という意識があった。でも危機は足元にある、それはもう限界まできているようなそんな危機のなかで私たちは生きているということを、はっきりと見据えていくことが大事だと思う。
 危機という場合に、物質的な危機と精神的な危機がある。物質的な危機は確かにあふれかえっている。しかし、より問題なのは、むしろ精神的な危機ではないでしょうか。例えば、北アメリカで、女の子たちの間で、拒食症や過食症が大変な勢いで広がっている。まるで伝染病みたいな勢いで。若い女性たち、若いお母さんたちまでもが拒食症になり、自ら選んで飢餓で死んでいく。一体こういうことが広まる社会というのは、病気でなくて何だろうか。今までは飢餓とか貧困は、外の問題だと思われていたけど、危機というのは、私たちのまわりに広がっているものだと思います。

コラム:楽しく始めよう、水筒運動

 あなたは、外出していてのどが乾いたらどうしますか?
 駅のホームで、帰り道で、店の前で、自動販売機の前に立っていませんか?
 世界中の国で、日本ほど自動販売機がそこらじゅうに並んでいる国はないんです。なんと22人に1台あるそうです。(1998年には、全国の550万台の自動販売機は、6兆9000億円を売り上げました。飲料の自動販売機は1台1ヶ月あたり、一般家庭の消費電力(平均290kwh)に匹敵する240〜450kwhもの大量の電力を消費します。そして、もし、日本中の自動販売機がなくなったら、原子力発電所がひとつ必要なくなります。どんなに人のこない場所にある自動販売機でも毎日毎日24時間、誰か客がくるのを待ってあかあかと自己主張し、常にジュースを冷たく、温かく用意して立っているのです。さらに、自動販売機を作るためのエネルギー、中に入るペットボトル・カン、その中身。これらを作るエネルギーは原発何基分になるだろう。そして一人が1日1本自動販売機でジュースを飲んでいるとしたら、どれだけの空き缶が出ていることでしょう。
 「すいとう」は福岡の言葉で「I love you.」、「すいとうや?(=水筒屋)」は「Do you love me?」って意味です。それは地球からの最後のラブコール。「今でもすいとう?」ってね。それに私たちは何と答えることができるだろう?「Yes,I do.」って言えるのか。それが問われているんです。人は愛無しでは生きていけない。地球を癒すのは「地球環境汚染反対!」という憎しみではなく、愛なのだというメッセージを込めました。
 低エネルギーでエコロジカルな生活を実践するために、ひとりひとりが外出するときは水筒を持ち歩きましょう!自動販売機で飲み物を買わず、自分で作ったお茶やコーヒーを水筒で持ち歩いたら、電力やゴミを大幅に減らせるし、身体にもいいのです。自動販売機を使うのをただ我慢するのでなく、水筒を持って街に出るのがおしゃれで楽しい行動になるのを目指します。
(ナマケモノ倶楽部ホームページより)

つづく

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