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環境ホルモンの実態について

〜ブラジル・有機コーヒー・フェアトレード国際会議での
 藤村靖之さんの講演より

 今年4月にブラジルで開催した有機コーヒーフェアトレード国際会議に日本から参加して下さった藤村靖之さんの環境ホルモンをテーマにした講演は、多くの参加者に感動を与えました。
 藤村さんは科学者であり、発明家であり、企業家でもありますが、私は藤村さんを最も熱心な環境保護活動家の1人だと思っています。
 今、藤村さんは「非電化製品」の研究開発に取り組み、既にいくつかの非電化製品を開発しています。 「非電化」というのは「電」=エネルギー、「化」=化学物質を使わないというものです。電気や化学物質を使わないエアコン、洗濯機や除湿機、今までの製品の10%程度の電気しか消費しない冷蔵庫などが既に発明されており、商品化が待たれています。
 藤村さんは、古くからのジャカランダコーヒーのフアンでもあり、農場を見学し、カルロスさんにも会っていただくことができました。その時の感想をコラムに書かれていますが、それは次号に掲載予定です。 (中村隆市)  

喘息を引き起こす日本の生活環境

 みなさん、こんにちは。みなさんにお話しする機会を与えていただきまして、大変光栄に存じます。私に与えられたテーマは日本における環境ホルモンの実態です。環境ホルモンの話をする前に、私は日本の子どものアレルギーの問題をみなさまに少しだけお話したいと思います。なぜかと言いますと、化学物質の被害が最も顕著に、そして最も象徴的に現れているのが、この子どものアレルギーの問題だからです。
 私が子どものアレルギー問題の研究に着手したのは、今から16年前、1984年のことです。私の2歳になる子どもが喘息にかかったのがきっかけでした。私は大変驚きました。思いっきり空気のきれいなところで大事に育てた子どもが喘息にかかる、それは私の科学者としての理解のはるか外だったからです。驚いて、いろんな事を調べてみました。2つの事が分かりました。まず、1つ目。喘息にかかっているのは私の子どもだけではなく、日本の多く子どもたちが喘息にかかっているということです。約2%の子どもが喘息にかかっていました。そして、1年間に600人の子どもが喘息で命を落としているのです。そしてもう1つ分かったこと。喘息はアレルギーの一種ですが、喘息を含めたアレルギーの主な原因は、環境の悪化―特に室内の環境の悪化、あるいは飲食物、あるいは私たちが身につけている衣服−そういう室内の環境の悪化だという事がわかったのです。
 私が一番最初に着手した仕事は、喘息の子どもたちの発作をなんとか押さえることができないだろうか・・・そういう研究でした。この研究は比較的うまくいきまして、私が発明した装置で喘息の子どもの約75%が発作を押さえることができました。今では、日本全国に18万人、外国では約2万人、合計20万人の喘息の子どもたちがこの装置で喘息の発作をおさえています。もし、この会場のみなさんのなかで、喘息のお子さんをお持ちで苦労してらっしゃる方がいらっしゃいましたら、ぜひ、おっしゃって下さい。私が作った装置をプレゼントして差し上げたいと思います。
 この装置はアレルギーの発生を押さえるわけではなくて、単純にアレルギーにかかってしまった、喘息にかかってしまった子どもの発作を押さえるだけのそういう装置でした。

増え続けるアレルギーの子どもたち

 そうこうしているうちに、アレルギーの子どもはますます増えていきました。1984年、今から16年前、喘息を含むアレルギーの子どもはぜんぶの子どもの25%、4人に1人がアレルギーという非常に異常な事態でした。これはいうまでもなく、世界中でずば抜けて高い数字です。ブラジルの子ども達のアレルギーの率は、私の記憶している数字ではたしか0.5%です。1984年、日本の子ども達のアレルギーの率は25%です。現在のブラジルの50倍というわけです。最初、私を含む日本の科学者は、全員がこのアレルギーの問題を大変軽く見ていました。アレルギーの原因は、アレルギーを引き起こす原因となる物質―例えば、花粉アレルギーなら、花粉が原因物質と言うわけですが―この原因物質が多すぎるからアレルギーが増えるんだ。こういう風に単純に考えていたわけです。しかし、アレルギーはますます増えていきました。今日では、去年1999年の例で申しますと、喘息の子どもは1984年に2%だったのが、1999年には3.8%になりました。喘息で命を落とす子どもは1984年には600人、1999年は、なんと6000人です。医学は進歩したはずなのに、喘息で命を落とす子どもは、10年間でなんと10倍です。そして喘息を含むアレルギーの子どもは、ちょうど50%、これが去年の数字です。ブラジルの0.5%のちょうど100倍、これが日本のアレルギーの実態です。

増加する化学物質、減少する体の微生物

 こういう事になって、日本の母親達、父親達は大変おびえはじめました。大きな社会問題にもなりました。そして私たち科学者は、どうもアレルギーの原因をあまく、単純に見過ぎてしまった、実は私たちは何にも分かっていなかったのだということに気がつき、そして研究を進めてきました。
 そして2つのことが分かりました。1つめの話、アレルギーの原因の大きなものは、化学物質が多すぎるという事です。私たちの子どもの周りには化学物質があまりにも多すぎるのです。例えば、子どもたちが夜寝る布団。布団からは私が見つけだしただけで、28種類もの化学物質が検出されました。例えば、ホルムアルデヒドです。布団の形が崩れないように強化剤というものを使うのですが、その主成分がホルムアルデヒドでした。こういったような事が次々に分かってきて、アレルギーの少なからぬ原因、もしかしたら一番大きい原因は、実は子どもたちを取り巻く環境に化学物質が多すぎるということがわかってきました。
 もう1つ分かったことがあります。子ども達の体の中、体の表面に微生物があまりにも少なくなりすぎています。例えば、私が関わったある研究では、子どもの腸の中の微生物の数はこの10年間で約半分に落ちています。あるいは、これは微生物といえるかどうか知りませんが、寄生虫の話があります。私たちが子どもの頃はほとんど100%の子どもの体内に、寄生虫が生息していました。しかし、最近の子どもの体内には寄生虫がほとんど全く生息していません。しかし最近の研究でこの寄生虫に対する抗体物質はアレルギーを引き起こすような抗体―例えば、カビの抗体ですとか、花粉の抗体ですとか―こういうものをブロックする役割があることが分かりました。ですから、体の中から寄生虫が消えたということは、アレルギーの症状がますます起こりやすいということを意味します。みなさんにとっては耳を疑うかもしれないことが最近日本では起こっています。寄生虫が生息していない人が寄生虫の卵を飲みます。わざわざ寄生虫を生息させようとするわけです。そうすると、寄生虫に対する抗体ができて、その抗体がアレルギーを起こす抗体をブロックするというわけです。私も最初この話を聞いたときは耳を疑いました。わざわざ寄生虫を生息させるなんて本当だろうか?このことをやっている医者は私の友人でしたので尋ねてみました。本当にやっているのです。
 こういう風にしてアレルギーの原因が実は化学物質が多すぎること、体内微生物が少なくなりすぎていること、この2つが大変大きな原因だということが分かってきたのです。今、私たち日本の科学者は分かったような気になっているわけですが、もしかしたらまた10年経つと、なにも分かってなかったのだ、ということになるかもしれません。でも、少なくともこの2つの原因、子どもにとって化学物質が多すぎる、体内微生物が少なすぎる、この2つの原因はすべてではないにしても、非常に大きな原因であることは間違いないと思っています。
 この話はいみじくも今回のテーマである有機無農薬農産物の話と相通ずるような気がします。農薬を使いすぎると土の中の微生物がどんどん減っていきます。そして、木は健康に育つことができなくなる。これと全く同じ事が、実は私たちの子どもの体の中でおこっていると思われます。

そして、環境ホルモンが引き起こす異常事態

 環境ホルモンの話に移します。環境ホルモンの影響はもう私からお話しするまでもなく、みなさんよくご存じの事だと思います。 環境ホルモンの影響は主に3つ出てきます。1つは性ホルモンの異常。精子が少なくなったり、あるいは性行動が異常になったり、生殖器が奇形になったり・・・みなさんよくご存じの話でしょうから、この話は省略します。
 2つ目。免疫系統の異常です。私たちの免疫、外からいろんな外敵が来るとそれと闘う、そして私たちの体を健康に維持する、これが免疫でありますが、この免疫はほとんどすべて体内のホルモンでもってコントロールされている訳ですから、環境ホルモンが、免疫機能に影響を及ぼすことは大変理解しやすい話です。この話も、先ほどアレルギーの話をたくさんしましたので、省略します。
 3つ目、脳神経に及ぼす影響です。とりわけ私たちの前頭葉、額の部分にある前頭葉に及ぼす影響が大きい事がよく知られています。前頭葉というのは、みなさんご承知のように、自分の行動を外から(第三者の目で)客観的に見て、自分の行動をコントロールする―別の言葉で言えば、情緒を安定させるのが、この前頭葉の主な働きです。最近、日本ではこの前頭葉の働きが異常をきたしているのではないかと思われる事件が相次いでいます。1997年から突然、子どもたちが衝動的な行動を起こし始めました。例えば1997年、14歳の子どもが自分の教師をメッタ突きにして殺してしまいました。1998年には、同じく14歳の子どもが小学生の首を切って、その首を小学校の門の前に、この首だけを置きました。この事件に日本の親は大変ショックを受けました。少年の衝動的な行動という話は、アメリカではよく聞いていました。あれはアメリカだけの話だと思っていたのです。しかし、日本でもこういう事件が相次いで起こりました。
 社会的なシステムの問題だ、という説明を、初め、社会学者が試みました。しかし、この試みは説得力を欠きました。そして、一部の科学者が―私もその1人ですが―これは環境ホルモンの影響なのではないか、ということを疑い始めました。そして、いろいろな調査をしてみました。環境ホルモンの影響で、こういう衝動的な行動をする子どもが増えているということを説明する材料がたくさん見つかりました。例えばLD症候群―Learning Disability Symptom―学習能力欠乏症の子ども達が、日本でも異常に増えているのです。LD症候群の典型的な症状というのはこうです。パピプペポと自分では言ったつもりなのに、パプピペポと言葉がひっくりかえってしまう。前頭葉の機能が正常な人は、あ、言い間違えた、ということで「失礼。パピプペポです。」と、言い直します。ところが前頭葉の機能が損なわれている人はパプピペポと言ったとしても、自分ではそれが正しく言ったとしか認識できないのです。第三者として自分の言動を見ている部分が欠落してしまうからです。日本では1つの調査では12%、もう1つの調査では5%の子どもがLD症候群でした。大変異常な数字です。LD症候群は、アメリカでも現れています。ここでも2つの調査が報告されています。1つの調査では20%の子どもがLD症候群です。もう1つの調査では12%でした。いずれにしても異常な話です。これは社会のシステム、教育の問題、こういったような社会的な問題ではどうしても説明できないのです。ですから、私たちは相当高い可能性で環境ホルモンの影響ではないか、と疑っています。
 このような色々な影響をもたらす環境ホルモン物質は、いま日本では67種類が環境ホルモンとして環境庁から指定されています。しかし、疑わしい物質があと百数十種類見つかっています。

ダイオキシン 日本の異常な排出量

 それらの物質の中で、一番大きな問題になっているのはダイオキシンの問題です。南米でも牛乳からダイオキシンが見つかって、大きな問題になっているという話はよく聞いていますが、日本でも大変な問題です。日本では1年間でダイオキシンが3キログラム生産されています。1年間かかって日本全国でたったの3キログラムです。しかし、みなさんはもうご承知の通り、環境ホルモンというのはキロ単位ではかるものではありません。ピコグラム、1兆分の1の単位で量るべきものですから、ピコグラムで表しますと、日本では1年間に3千兆ピコグラムの環境ホルモンが製造されている事になります。これは国民1人当たりでわり算しますと、3千万ピコグラム。この3千万ピコグラムの0.001%、つまり10万分の1が何らかの形で体内に吸収されると仮定します―この仮定は決して大げさな仮定でなく、おそらく妥当といっていいと思われます―国民1人当たり、1年間に300ピコグラムのダイオキシンが体内に吸収されるという計算になります。
 ほどほど安全と言われる数字は10ピコグラム程度ですから、日本の現実は、100倍以上高い値です。異常な値です。これは世界中で日本だけでの話です。1年間で3千グラムが製造されています。スウェーデンでは1グラム、日本の3千分の1です。ドイツでは、1年間に2グラム。日本の1500分の1です。ブラジルでは何グラムでしょうか? ご存じの方、いらしゃいますか?私の知っている数字では、たしか1年間に数十グラムです。ですから、先ほどの計算で言うと、まだ安全な範囲にとどまっています。

母乳を与えるべきか、否か、問われる日本の母たち

 ダイオキシンがこれだけ異常な値になっているために、日本ではお母さんたちが、特に乳幼児を抱える母親あるいは妊婦の母親が大変おびえています。多くのお母さん達は自分の母乳を与えるべきか、普通のミルクを与えるべきか、迷っています。そして、私の推測では10%位のお母さんは、母乳を与えることをやめてしまいました。母乳が出るのに母乳を与えないで、スーパーマーケットで買ってきたミルクを与えている訳です。  これはなぜか、みなさんならよくご存じの通りです。ダイオキシンというのは、脂肪に溶けるからです。例えば魚の脂肪に溶け、体内に吸収されたダイオキシンは、母親の脂肪に溶けます。そして、そのうちの98%が、体内にとどまってしまいます。体外に排出されるのは2%以下です。そのようにしてどんどん母親の体内の脂肪層には、ダイオキシンが蓄積されていく訳です。そして、子どもに母乳を与えるとき、一体なにが起こるでしょうか?
 母乳というのは、みなさんご存じの通り、血液が体中を巡って、そして体の中から、例えば、骨からはカルシウムを、そして脂肪層から脂肪を、その他色々な栄養素を溶かして、そして乳房で濃縮されて子どもに与えられます。脂肪は約10倍に濃縮されます。ですから、1日600ccの母乳を飲む子がいたとしますと、約6000ccの血液に相当する脂肪を吸収します。50キログラムの体重の母親の血液の量は、3.8リットルですから、その1.8倍、つまり母親の体内を1.8回巡回して溶かした脂肪を、乳幼児に移動することになります。この計算でいきますと、母親の体内に5年間も10年間もかかって蓄えられた脂肪は、約40日で100%乳幼児に移動されます。そして乳幼児の時期というのは、最も環境ホルモンの影響を受けやすい時期です。ですから、この話に日本の母親は脅えてしまったわけです。そして日本の母親の約10%は自分の母乳を子どもに与えることをやめてしまった訳です。こういう切ない話が日本で実際に進行しています。ですから、いま、日本の消費者は環境ホルモン、あるいはさっき「大地を守る会」の吉田さんがお話になった遺伝子組み換え作物、こういったようなものに大変神経質になっています。ですから、日本の消費者が、いま、切に求めていることは、けして安いものではありません。安いことは大事な事ですが、3番目に重要な事と考えています。一番大事なことは、まず、安全な事、そして2番目が品質―おいしくて栄養があること―で、価格は3番目の問題です。

子どもたちの未来を奪うこの世界への警鐘

 みなさんご存じのように「奪われし未来」"Our stolen future"という書物が、1996年に出版されました。この書物によって世界中が環境ホルモンの問題に注目しました。この書籍は200万部が世界中で売られて、そして世界中が震え上がったわけです。この本の3人の著者の1人、ダイアン・ダマノスキーさんを招いて、私は1998年の11月3日に東京でシンポジウムを開きました。「子ども達の未来を奪い返せ」という激しいタイトルをつけたシンポジウムです。このシンポジウムには日本全国から約500人の方が参加して下さって、盛況でした。ダイアン・ダマノスキーさんにまず1時間お話ししていただきました。ダマノスキーさんは次のようなお話をして下さったのです。

―「私たちは環境ホルモンの影響を世界中で調べました。例えばフロリダの鷲はオス同士でしかつがうことをしなくなりました。マイアミのカモメは、子どもを生んでも全く育てることをやめてしまいました。人間の男性の精子は半分に減りました。こういった事を調べていくうちに、私たちは絶望感に打ちのめされそうになりました。どう考えても、あと数世代、たった数世代でこの人類は絶滅せざるを得ない−こういう絶望感に打ちのめされてしまいました。しかしさらに調べていくうちに、一筋の光明がさしてきたのです。遺伝子までは変わっていないということに気がついたからです。遺伝子まで変わってしまっていたら、それこそもう取りかえしがつかないことになってしまいますが、遺伝子が変わっていなかったら、環境ホルモン物質を減らしさえすれば人類は生存できるんじゃないか、ということに気がついて、やっと元気を取り戻して、この実態を世界に訴えることが必要だという事を感じました。そしてこの本を出すことにしました。そのときに"Our stolen future"というタイトルをつけるときに大変悩みました。なぜかというと「もう奪われてしまった未来」というタイトルは非常に過激だからです。しかし、このタイトルしかないと私たちは考えました。なんとかなる、しかし、急がなければ取り返しがつかないんだと、そういうことを訴えるには、どうしてもこの"Our storen future"というタイトルが必要だったのです」─

 ダイアン・ダマノスキーさんは涙を流しながらお話しして下さいました。そして500人の聴衆は全員が涙を流しました。

最も優れたスウェーデン、最も貧しい日本の行為

 私はこのシンポジウムにもうひとりスウェーデンからレイナ・リンダルさんという女性を招きました。なぜかといいますと、私はスウェーデンこそが、今この環境ホルモンあるいは化学物質に関して、世界のお手本だと思っているからです。もっとも優れた行為をしているのがスウェーデン、そしてもっとも貧しい行動をしているのが日本、残念ながら日本をそういう風に考えています。ダイアン・ダマノスキーさん、そしてレイナ・リンダルさん、そして私も加わって3人でパネルディスカッションを行いました。どうしたら子ども達の未来を奪い返せるのだろうか・・・を真剣議論しました。
 結論はたったひとつです。日本方式をやめてスウェーデン方式に切り替えよう。「悪いことが証明されて、そして法律で禁止されたらイヤイヤながらやめよう」これが日本方式です。今まではこの方式でもなんとか子どもたちの安全は守られてきたのですが、環境ホルモンの話はこの方式では追いつきません。1つの物質が環境ホルモンとして影響があるということを証明するのには、少なくとも1年間、できれば2年間の期間が必要です。今、1週間に3000種類の新しい化学物質がアメリカのデーターバンクに新たに登録されます。1年間に3千の間違いではなくて、1週間に3千種類、これだけの新しい化学物質が次々に生み出されているわけです。しかし、これを悪いと証明するのには1年から2年かかるわけです。追いつくはずがありません。私たちの子ども達の安全を守れるはずがありません。ですから、この日本方式ではもう全くうまくいかないわけです。ですからスウェーデン方式―「いいと分かっているモノしかやらない。もちろん悪いことはやらない」―これがスウェーデン方式です。スウェーデンでは「環境ホルモンとして悪いと証明されているモノはこれこれです。証明されてないけど、疑わしいとされているモノはこれこれです。科学者が単純に想像しているのはこれこれです・・・」と、すべてのデータを常に国民に公表してしまいます。疑わしいだけで証明されていないのだから使おうと思うのか、証明されてないけど使わないとするのか、親の責任に任されています。
 ダイオキシンに話を戻しますと、日本では1年間に3000グラム製造されています。スウェーデンでは1グラム。日本の3000分の1です。スウェーデンではダイオキシンの原因物質の塩化ビニールの製造を禁止してしまいました。悪いと分かったら直ぐに禁止してしまいました。そして例えばラップ。塩化ビニリデンですとか、こういったダイオキシンの原因となるラップの販売も使用も、法律で禁止された訳ではないのに、ある日ある時一斉にやめてしまいました。たった1グラムのスウェーデンが、塩化ビニールの製造はしない、ラップの販売も使用もしない。3000グラムの日本では全く禁止されていません。相変わらず販売され、相変わらず使われ続けています。このスウェーデン方式と日本方式、これが世界の両極端だと思っています。ですから、このダイアン・ダマノスキーさんを招いて行ったシンポジウムでは、「スウェーデン方式にしよう、日本方式を一刻も早くやめよう」これが結論です。
 ここにお集まりのみなさん、ブラジルのみなさんも、メキシコのみなさんも、エクアドルのみなさんも、みなさんの国々ではダイオキシンに例を採ると、まだ安全な範囲です。ですから、みなさんの国で作ったものを私たちは安心して輸入することができます。日本で作ったものは心配で使えなくなっているのです。この状態をぜひ維持していただきたい。維持するためには、日本をマネしないで頂きたい。ぜひ、スウェーデンをマネしていただきたいと思います。私たちが安心して子どもを育てられることに協力していただきたいと思います。
 私の話はここまでですが、私の話を終わる前に、最後にみなさんに詩を1つプレゼントしたいと思います。日本の長田弘さんという方が作った「あべこべのくに」と題する詩です。
 私たち子どもを持つ親たち、孫をもつ親たちは、この「あべこべの国」を、今は昔あるところ、の物語にする必要が確実にあると思います。今は昔あるところ、の話にするには親達がバラバラでは不可能です。親たちが手を取り合って、そして子どもを守ることによって初めて、子どもたちの未来を奪い返せるのだろうと思います。みなさん、手を取り合って、そして子ども達の未来を奪い返しましょう。ご静聴ありがとうございました。

あべこべのくに   長田 弘

いまはむかし あるところに あべこべの くにがあったんだ
はれたひは どしゃぶりで あめのひは からりとはれていた
そらには きのねっこ つちのなかには ほし
とおくは とってもちかくって ちかくが とってもとおかった
うつくしいものが みにくい みにくいものが うつくしい
わらうときには おこるんだ おこるときには わらうんだ
みるときには めをつぶる めをあけても なにもみえない
あたまは じめんにくっつけて あしで かんがえなくちゃいけない
きのない もりでは はねを なくした てんしを
てんしをなくした はねが さがしていた
はなが さけんでいた ひとは だまっていた
ことばに いみがなかった いみには ことばが なかった
つよいのは もろい もろいのが つよい
ただしいは まちがっていて まちがいが ただしかった
うそが ほんとうのことで ほんとうのことが うそだった
あべこべの くにがあったんだ いまは むかし あるところに

ふじむら・やすゆき

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