2012/05/07

『原発危機と東大話法』 山下俊一教授 と ジョン・ゴフマン博士

ジョン・W・ゴフマン著『人間と放射線―医療用X線から原発まで―』

2000年に他界された物理学者(核化学)高木仁三郎さんが、1997年にライト・ライブリフッド賞の受賞式で「科学者としてこの世で最も尊敬するジョン・ゴフマン教授」とスピーチしたように、ゴフマン博士は多くの心ある科学者に影響を与えました。

京都大学原子炉実験所の今中哲二さんや小出裕章さんが翻訳したゴフマン博士の名著 『人間と放射線―医療用X線から原発まで―』について、小出さんは講演などで「放射線被ばくに関して最も信頼できる本」として、よく引用されています。

ゴフマン著 『人間と放射線―医療用X線から原発まで』

ゴフマン博士の【年齢別、放射能の影響】の研究によれば、55歳以上と子どもを比べると、10歳の児童は200倍以上の影響を受け、0歳の乳児は、300倍以上も大きな影響を受けます。

ゴフマン 年齢別がん死者数グラフ

この本を安富歩・東大教授が『原発危機と「東大話法」』で取り上げています。
(以下、抜粋・要約)

ゴフマン博士は、カリフォルニア大学でプルトニウムの分離の研究をしており、後に医学に転じて心臓医学の正教授となりました。1960年代にアメリカの原子力委員会からの依頼でリバモア研究所の副所長に就任し、生物医学研究部門を設立。膨大な人員と巨額の予算を同委員会から与えられて、放射線が人間や生物に与える影響の研究を行い「低線量放射線の影響が少なくとも20倍は過小評価されている」という原子力委員会の期待に背く結論を出しました。その結果、ゴフマン博士は予算を絶たれ、リバモア研究所を辞任し、1973年には大学の教授職も退き、2007年に亡くなるまで、市民科学者として活動しました。

ゴフマン博士は、「低線量被曝の影響は無視しうる」という結論さえ出しておけば、引き続き莫大な予算を原子力委員会からもらい続け、医学の世界でも出世し続けたに違いありません。しかし彼は、研究費を失い、職も失いながら、「放射能は危険だ」と言い続けたのです。

【ゴフマン博士の重要なメッセージ】小線量の場合でも放射線に害があるということを認めさせるのに、どうして困難がつきまとうのか。その理由は単純明解だ。放射線が健康に及ぼす害は、本当は極めて重大なものである。そして、そのことを日本やその他の国の一般の人びとに知られてしまうことが、原子力産業や、放射線を医療用工業用に使う側にとって最大の脅威なのである。だが、放射線の影響を否定するキャンペーンを大々的に繰り広げることは誤った解決法である。

福島では、まさしくこのキャンペーンが大々的に繰り広げられました。そして、住民の被曝を少なくする方策はほとんど採用されませんでした。


安富歩・東大教授『原発危機と「東大話法」 傍観者の論理・欺瞞の言語』から抜粋

福島の人々が逃げない理由

福島県は猛烈な放射能汚染に見舞われています。その汚染によって、どのような被害が生じるのか、誰も知りません。知りませんが、かなりの被害が出ることだけは明らかです。たとえばそれが、がん死率の1%の増加という、疫学的観測にはかからないような低い水準だとしても、300万人の人口がいれば、そのうち100万人はそもそもがんで死ぬわけですから、1%増加するだけでも、1万人が新たにがん死することになります。1万人を殺すというのは、大変な事態です。しかもその新しいがん死は、若い人に多く生じます。

30キロ圏内は言うに及ばず、圏外でも、飯舘村から福島市に至る地帯が、特に著しく汚染されていることは、もはや確実です。少なくともこの地域に住む人々は、事情が許せば、移住を考えたほうがよいのです。

しかし多くの人々は、そういう考え方をしていません。福島県は山下俊一長崎大学教授をリスクアドバイザーとして雇い、県内各地で講演をして回らせました。その講演はじつに恐ろしいもので、2011年3月21日に行われた「放射線と私たちの健康との関係」講演会で、山下氏は次のように発言しています。

これから福島という名前は世界中に知れ渡ります。福島、福島、福島、何でも福島。これは凄いですよ。もう、広島・長崎は負けた。福島の名前の方が世界に冠たる響きを持ちます。ピンチはチャンス。最大のチャンスです。何もしないのに福島、有名になっちゃったぞ。これを使わん手はない。何に使う。復興です、まず。震災、津波で亡くなられた方々。本当に心からお悔やみを申し上げますし、この方々に対する対応と同時に、いち早く原子力災害から復興する必要があります。国の根幹をなすエネルギー政策の原子力がどうなるか、私にはわかりません。しかし、健康影響は微々たるものだと言えます。

これを見ると福島の人々が被曝したことを喜んでいるようにしか思えませんが、実際、喜んでいるのだと思います。というのも放射線防護学業界では、ヒロシマ、ナガサキ、というのがビッグネームだからです。これだけ大量の人が、一度に被曝した例はなく、しかも米軍とそれに追従した日本政府とによって稠密な疫学調査が行われました。それゆえ、放射線を浴びるとどういう症状が出るのか、についての研究は、ヒロシマ・ナガサキの被爆者を調べたデータが基本になっているのです。

それゆえ、この業界では、ヒロシマ・ナガサキが「世界に冠たる響き」を持っています。おそらくは、このおかげで、日本の学者は大きい顔ができるのだと想像します。山下教授は、長崎被爆者二世であり、長崎大学に所属することで、国際的にこの学会で重きをなしているのでしょう。

この業界では今後は、フクシマが注目されるに決まっています。これだけの数の人が、先進国で同時に被曝したのは初めてであり、今後、多くの人がどういう病歴を持つかを、丹念に調べることが可能だからです。早々に福島に進出し、福島医科大学の副学長ともなった山下教授は、その研究の中心に位置することが確実であって、

「福島、福島、福島、何でも福島、これは凄いですよ」

というのは、彼にとって、嘘偽りのない感情なのだと思います。
2011年7月25日の東京新聞の夕刊に、「甲状腺を生涯検査 福島県、18歳以下36万人」という記事がでておりました。そのなかに次のように書かれています。

同日、福島市で開かれた検討委員会で合意。座長の山下俊一福島県立医大副学長は「世界でも類を見ない甲状腺検査だ」と述べた。県は「生涯にわたって県民の健康を見守る」としている。

彼にとっては「世界でも類を見ない」疫学調査によって、巨大な被曝データベースを作ることが重要なのであって、そう考えると、彼の言動は一貫しています。

これに対して私は、ジョン・W・ゴフマン博士が『人間と放射線』(新装版、明石書店、2011年)の日本語版への序文に書かれた次の言葉を引用したいと思います。

広島・長崎の被爆者は、人類に対して比類のない重要なデータベースを提供してきた。彼らはこのデータベースを、彼ら自身と彼らの愛する人びとの高価な犠牲を基に提供したのである。人類が二度と再びこのようなデータベースを持つことのないよう祈りたい


現役の東大教授が明かす 「平気で人を騙す東大の先生たち」
(2012/05/05 風の便り)から抜粋

着想のきっかけは福島原発事故の直後、NHKに出ずっぱりだった関村直人・東大大学院教授(原子力工学)の話しぶりだったという。関村教授といえば、不安でテレビにかじりつく視聴者に向かって、実際に起こっていそうなことよりも、ずっと楽観的な「安全」を強調し続けた専門家。
1号機が爆発したのではないか、という一報にも「爆破弁を作動させた可能性がある。」などと言い切り、あとにひどい学者不信を招いた。

「過酷事故が目の前で起こっていても、官僚や学者は原発を安全と印象づける『欺瞞言語』を手放さなかった。東大で見聞きする独特の話しぶりにそっくりだと思った。」

ちなみに「東大話法」とは、東大OBが最も巧みに操るだけで、出身大学とは関係なく散見されるとか。爆発事故を「爆発的事象」と繰り返した東北大出身の枝野幸男官房長官の会見も、典型的な東大話法という。

「正しくない言葉で、まずだましているのは自分自身。目の前で爆発が起こっている現実を直視できなくなり、正気を疑うようなことも平気でできるようになる。」

二十代のとき、2年半の銀行勤務の経験もある経済学博士だが、安冨歩教授の研究テーマは、「なぜ人間社会は暴走するのか」。バブルに突き進んだ銀行の暴走と、戦争に向かってひた走った昭和初期の日本社会の相似に気づき、既存の学問分野を超えて探求してきた。

安冨歩(やすとみ あゆむ)教授は、「最も恐ろしいのことは、危機的な事態が起こった際、正しくない言葉を使うこと。それは一人一人から判断力を奪う」と強調する。

危険なものを危険といわず

戦前、戦時中に「日本は神の国だ」などと言い続けたことが客観的な現状認識を妨げ、いたずらに犠牲者を重ねた。そんな「言葉の空転」が原子力ムラでもまん延していると指摘する。

「『危険』なものを『危険』と言わない東大話法が偽りの安全神話を支え、事故を招いた」 先月出版した「原発危機と『東大話法』」(明石書店)では、上から目線の話しぶりに潜む東大話法のウソを暴いた。

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