セラフィールド再処理工場周辺 小児がん発生率 一般の2〜15倍 

原子力施設と小児がん(英国セラフィールド)
(8月 9, 2011 STOP!浜岡原発ブログ)から抜粋

イギリスの湖水地方にセラフィールド核燃料再処理工場があります。
湖水地方はピーターラビットの作者ビアトリクス・ポターが愛した地域でとても美しいところです。

全国平均より2〜15倍高い小児がん発生率
1983年にイギリスの地元テレビ局の番組でセラフィールド再処理工場近くの地域の子どもたちの小児がんや白血病の発生率は、イギリスの全国平均よりかなり高いと報道されました(2.4キロ離れたシースケール町では10倍)。

原子力施設で働く被ばく労働者の父親と小児白血病の子どもの関係
2002年には国際的なガン研究の専門誌(International Journal of Cancer)に、セラフィールド再処理工場で働き被ばくした男性労働者の子どもたちは、他の地域の子どもたちに比べ、白血病、リンパ腫など血液の癌の発生率が2倍近く高く、工場があるシースケール村においては、15倍も高いリスクがあり発表されました。

1990年にはマーティン・ガードナー教授(元サザンプトン大の疫学学者、故人)が、「母親の妊娠前に父親がセラフィールド工場で働き放射線被ばくを受けていたことが、子どもたちの白血病および非ホジキン性リンパ腫のリスク因子である」という仮説を発表しています。

原発周辺地域の子どもの小児がんの危険性を認めたドイツ政府
セラフィールド周辺地域で小児癌の発生率が高いのは紛れもない事実ですが、イギリス政府は、セラフィールド再処理工場との因果関係を認めていません。しかし、2007年にドイツ政府が原発周辺地域に住む子どもと小児がんの危険性を認めています。

英国セラフィールドと日本
セラフィールド再処理工場は日本とは深い関わりがあります。
セラフィールド再処理工場では、浜岡原発など日本の原発の使用済み核燃料を加工しています。今年の9月にはセラフィールドで加工した高レベル放射性廃棄物のガラス固化体76本が青森県六ヶ所村の高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターに搬入されます。

また日本の電力会社との間では、使用済み燃料の再利用とMOX燃料製造に関する合意もありました。しかし、福島第一原発事故の影響で日本のプルサーマル計画が不透明になったことが理由で、MOX燃料工場の閉鎖を2011年8月3日に工場を所有するイギリス政府の外郭団体「原子力廃止措置機関 NDA:Nuclear Decommissioning Authority」が発表しました。

用語について
プルサーマル:ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX燃料:Mixed (Uranium and Plutonium) Oxide Fuel) を従来のウラン燃料と同様に軽水炉 で利用すること。プルトニウムを軽水炉などの熱中性子炉(thermal reactor)の燃料に利用することからこの言い方が使われている。

ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料 [MOX燃料:Mixed (Uranium and Plutonium) Oxide Fuel]:二酸化ウラン(UO2) と二酸化プルトニウム(PuO2)を混合・焼結して作った核燃料。融点が高く、化学的に安定であるが、熱伝導度が小さく、増殖比が小さいなどの特徴がある。この燃料は高速増殖炉 の燃料として用いられているが、軽水炉 での利用(プルサーマル )もフランスなどで行われており、日本でも計画されている。


英国における原子力施設周辺の小児白血病
(09-03-01-01 ATOMICA)

<概要>
 英国の核燃料再処理施設周辺(セラフィールド、ドーンレイ)で小児白血病の発生率が全国平均よりはるかに高いことが1983年発表され、その主たる原因は再処理施設から放出された放射性物質によるものではないかという疑いがもたれた。
 この真偽を確かめるため専門家による諮問委員会等で詳細な検討が重ねられたが、その発生率は環境中に放出された放射性物質の量から推定される期待値よりはるかに高いものであり、説明がつかなかった。現在(2000年1月)も、他の種々な原因について検討中である。 <更新年月>2005年02月   

<本文>
 1983年11月1日、英国ヨークシャーテレビ局は、セラフィールド再処理施設周辺の町村で子供のがんや白血病の発生率が全国平均よりはるかに高く(例えば2.4km離れたシースケール町では10倍)、それは再処理施設から放出される放射性物質によるものであるとした内容のテレビ放送を行なった。

 そこで専門家がその事実の正否について検討を行なった。セラフィールド再処理施設(旧名:ウィンズケール再処理施設)からの放射能の環境中への放出量を調査し、また疫学調査の結果を吟味した結果、放出量から期待される白血病発生率と観察値の間には大きな差のあることが判明した。すなわち、シースケール町(Seascale:イングランドの北西海岸)の1950年集団の住民各個人が、1950~1970年の期間に施設から放出された放射能で受ける赤色骨髄線量を計算すると、約3.5mSvとなる。これは調査期間中の自然放射線による線量の13%に相当する(ただし、この値には1957年のウインズケール原子力発電所での火災に起因する0.8mSvの線量が含まれている)。これよりシースケール住民の白血病の発生リスクを求めると、0.091例という値が得られる。一方、現実には1945年以来、4例の20歳未満の白血病患者がシースケールで発生している。これから自然放射線による白血病発生リスク0.5例を差し引くと、3.5例が過剰発生ということになる。放射性核種放出による過剰発生の期待値は0.091例であるから、この値は期待値の40倍である。したがって、3.5例の過剰発生をすべてセラフィールド再処理施設からの放射性核種放出によるものとは考え難い。

 放射線以外の発がんに関係がありそうな要因や放射線と他の要因との複合作用についても検討したが、この地域に特有な発がん要因は見出されなかった。結局テレビ報道の真偽を立証することができなかったが、そうかといって完全に否定するような有力な証拠も得られなかった。

 この問題はその後も尾を引き、他の再処理施設周辺(ドーンレイ:Dounreay、スコットランド北部西海岸、図1参照)でも同様な調査が行なわれ、専門誌に論文が発表されている。すなわち、ドーンレイ原子力施設から12.5km以内の区域で、1979~1984年間に0?24歳の白血病発生が期待値の約10倍高くなっていた。しかし、1968~1978年には過剰発生はなかった。これらの結果は白血病発生数が調査期間および調査区域に大きく依存することを示している。一方、ドーンレイでの放射性物質放出量と疫学調査の結果とを再検討した他の専門家の研究によると、ドーンレイ原子力施設から25km以内の地区の小児白血病は英国平均の2倍高いが、統計上有意ではない。しかし、12.5km以内では3倍高く統計上有意となること、および1979~1984年間に限ると25km以内でも統計上有意となり、12.5km以内ではさらに10倍も高くなることから、ドーンレイ周辺で若年齢者に白血病の発生が有意に増加していることは確かである(表1参照)。セラフィールド再処理工場周辺でも同じような傾向があることから、再処理工場の何らかの特性がドーンレイ周辺の若年齢者の白血病のリスクの増大をもたらしているということはありうる。

 しかし、一方でドーンレイから放出された放射性物質により周辺公衆のうける線量は、自然放射線、医療放射線、フォールアウトを含めた全体の1.3%とごく低く(表2参照)、1989年の時点での知見では、白血病の過剰発生を放出された放射性物質で説明することはできない(表3参照)。

 1990年、ガードナー等は25歳以下の白血病およびリンパ腫について、行政教区レベル(シースケール町を含む)の小地区、並びに放射能汚染地域一帯と従業員の居住区を含む郡レベルで、症例?対照研究を行った(文献6)。可能性が疑われる9つ以上の要因についてそれぞれ白血病発症との関連を調査した。その結果、一般環境中の放射性物質が関係するような海岸で遊ぶ頻度とか、魚を食べる頻度などの因子について、対照者群に比べ患者群がより多く曝露されていたというデータは得られなかった。しかし表4に示すように、父親がセラフィールドで働いていた場合の相対リスクは高く、さらに被ばく線量別にわけると、線量の大きいほど白血病発症の相対リスクが増加し、線量?反応関係を示した。さらに、受胎前6ヶ月の線量では10mSvで白血病発症の相対リスクが有意に7倍も高かった。また、放射線作業開始後の累積線量が100mSv以上で相対リスクは約6倍と大きく、有意であった。

 しかしながら、その後行われた他の調査では、子供の受胎前の父親の被ばくだけではシースケール町の白血病発症のクラスターは説明できず、Kinlenは人口が粗な地域に大量の人口が流入した場合に生じるウィルス感染に対する免疫力の低下で説明しようとした(この考え方をKinlen人口混合説と呼ぶ、文献6、7)。1983年のテレビ放映以後、この件に関する1990年までの経緯をまとめたものが図2に示してある。

 1994年の論評(文献8)によると、父親の受胎前被ばくとその子供の白血病の発生率との間には関連性があるという仮説は、放射線遺伝学の知見においても、小児白血病の遺伝性に係わる知見においても、またその他の放射線および白血病リスクに関する研究からも支持できず、おそらく父親と白血病との関連性は偶然による可能性が高いこと、またもう一つの可能な説明としては、Kinlenのいう都市部、或いは農村部からの人口流入説もあるが、この説だけでは説明できず、恐らく種々な原因の中の一つであろうとしている。

 スコットランド北部のドーンレイ再処理施設から25km以内で、1968~1991年にわたり、0~24歳の年齢層での白血病・非ホジキンリンパ腫の発生率の期待値5.2に対して、観察値12と約2.4倍で有意(p=0.007)な集積性が観察された。さらに1985~1991年では観察値/期待値は4/1.4で約3倍で有意(p=0.059)であった。しかしながら、セラフィールド施設で見られたような、高い発生率と父親被ばくとの関係は見られなかった(文献9)。

 イングランド・ウェールズにおける原子力施設周辺25km圏と6つの対照地域の発症率を調査した。このうち子供の白血病が有意に高かった施設は2つで、1つはセラフィールドで、もう1つはアルダーマストン・バーグフィールドで観察値/期待値=219/198.7=1.10(p=0.031)であった。これらから、すべての原子力施設近辺で白血病の過剰発生があるとは言い切れない(文献10)。

 イングランド北部で1968~1985年の間に急性リンパ性白血病と診断された15歳未満の小児について地域集積性について調査したところ、5地域に集積が認められたが、放射線以外の環境要因による可能性が高いと報告されている(文献11)。

<図/表>
表1 ドーンレイ地域、0~24歳の白血病登録(1968?1984年)
表2 1960年に生まれたある個人の赤色骨髄への被ばく線量(1960?1984年の線量(mSv)
表3 1950~1984年にドーンレイ付近のサーソ市で生れた4,550人の子供に対する放射線誘発白血病の推定値
表4 ウェストカンブリアの若年者における白血病リスク増加に関する因子
図1 英国における原子力施設
図2 英国原子力施設周辺における若年齢層白血病のこれまでの経緯

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。

<関連タイトル>
イギリスの再処理施設 (04-07-03-09)
セラフィールド再処理工場から海洋への放射性廃液誤放出事故 (04-10-03-01)
白血病 (09-02-05-02)


セラフィールド再処理工場周辺の小児白血病リスクの増加 
父親の放射線被曝労働の影響を再確認

(原子力資料情報室通信339号 2002/8/30)より

上澤千尋

 今年3月26日、国際的なガン研究の専門誌(International Journal of Cancer, pp.437-444, vol.99, 2002)に、英国セラフィールド再処理工場の男性労働者の被曝とその子どもたちに白血病および非ホジキン性リンパ腫(ガンの一種)の発症率が高いことの間に強い関連性がある、という内容の論文が掲載された。研究結果を発表したのは、ニューキャッスル大学北イングランド小児ガン研究部会の、ヘザー・ディキンソンとルイーズ・パーカー両研究員である。

 その後『ニュー・サイエンティスト』誌6月20日号にも紹介された研究の結論は、セラフィールド再処理工場があるカンブリア地方の白血病および非ホジキン性リンパ腫の発症率に比べて、再処理工場労働者のうちシースケール村外に居住する労働者の子どもたちの発症リスクは2倍であり、さらに工場にごく近いシースケール村で1950年~1991年の間に産まれた7歳以下の子どもたちのリスクは15倍にも及ぶ、というものである。

 今回の調査は、1990年のマーティン・ガードナー教授(元サザンプトン大、故人)らによる、母親の妊娠前に父親がセラフィールド工場で働き放射線被曝を受けていたことが、子どもたちの白血病および非ホジキン性リンパ腫のリスク因子である、という仮説(Gardner et al., Results of a case-control study of Leukaemia and lymphoma among young people near Sellafield nuclear plant in West Cumbria, British Medical Journal, pp. 429-434, vol. 300, 1990)が、あらためて確認されたといえよう。

 またディキンソンとパーカー2人の著者の研究はより広い時間的、地理的範囲で調査を行なっており、ガードナー教授が当初発表した、セラフィールド再処理工場で作業をする男性労働者を親に持つ子どもたちのガン発症リスクが親の被曝線量に応じて高くなる、ということも確認している。

 なおディキンソン氏とパーカー氏の研究には、英国核燃料公社(BNFL)が資金を出しているウエスト・レイク研究所からも援助が出ているということである。論文の内容をごく簡単に紹介する。

調査対象と方法

 2人の著者が調査対象としたのは、1951年1月1日から1991年12月31日の間にカンブリア地方に住む母親から正常出産により生まれた子どもたち274,170人である。子どもたちを図1に示すようなグループ分けによって、解析の対象となるコホート(調査対象集団のこと)を設定した。さらに、年代別(1950~1968年までと1969~1991年まで)、年齢層別(0~6歳、7~24歳)により細かいグループに分けた調査も行なっている。

 子どもたちについて、1991年まで追跡調査を行ない、死亡、英国から他国への移住、白血病ないしは非ホジキン性リンパ腫の発病(診断)、25歳の誕生日を迎えるのいずれかのうち、最初に確認された事柄を記録している。これにより「幼・青年期年数」を算出し、その期間あたりの発ガンのリスクを計算したものだ準備中(表1)。

 著者らの研究目的は、(1)セラフィールド再処理工場の男性作業員を父親に持つ子どもたちと、セラフィールドでは一度も働いたことのない男性を父親に持つ子たちの、それぞれの白血病及び非ホジキン性リンパ腫の発症率を、人口統計学的要因(人口の流出入による要因など)を考慮した調整を行なった場合と行なわない場合、それぞれの事例のもとで比較する、(2)白血病および非ホジキン性リンパ腫の発症率が増加していたことが、母親の妊娠前における父親の被曝線量(外部被曝および内部被曝)と相関があるかを評価する、(3)また、そのような関連性は、人口統計学的要因によって説明されうるか、さらにシースケール村の子どもたちのみに限られたものであるかを調べる、ということである。

結論とその意味

 調査結果の一部を準備中表2に示す。原論文には、発症率、発症率比のほかに、95%信頼区間とp値(有意確率)の計算結果が報告されているが、ここでは省略した。発症率は、100,000「幼・青年期年数」あたりの発症患者数で表されている。

 放射線作業労働者の子どもたちは、セラフィールドの再処理工場で1度も働いたことがない男性の子どもたち(非セラフィールド・コホート)に比べて、1.9倍の白血病および非ホジキン性リンパ腫の発症率であることが認められた。そのうち、再処理工場労働者が多く居住するシースケール村の子どもたちの発症率は、非セラフィールド・コホートの9.2倍であり、とくに、7歳未満の子どもたちの発症率は15.0倍にもなることが示されている。

 論文の著者らは、得られたデータに人口統計学的補正を施せば、これらのリスク過剰が人口の流出入に対する要因によって説明できると、言葉では結論するが、データから見るかぎり説得力がない。もとより被曝の要因を否定するものとはいえない。シースケール村では、母親の妊娠前における父親の被曝と人口の流出入による人口の混合率とが関連するからである。

 母親の妊娠前における父親の被曝線量と小児白血病との関連性もはっきり現れている。
 100mSvごとのリスクの見積もりでは、放射線作業労働者コホートにおいて白血病発症リスクは1.6倍、シースケール村内のコホートについては2.0倍のリスクが有意なレベルで確認された、と報告している。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次