TPP参加で生じる医療格差→原発事故被害者の医療費自己負担増

以下の主張は、日本の医療制度を褒め過ぎている(北欧などはもっと優れている)と思う部分もあるが、TPP参加によって「医療格差」が大きくなるという指摘は間違いないだろう。この問題を原発事故で被害を受けた人の立場から見るとどうなるか。

今の政府の「東電や原発を擁護する姿勢」と連動するような原発事故に対する対応(特に、放射能汚染地区からの避難基準や食品の暫定基準が甘すぎる問題)を見ていると、「目先の経済」を重視して、最も大切な子どもたちの健康が軽視されている。

このことによって、将来、日本には大幅に病人が増えることになるが、その因果関係は証明が難しい。さらに、このTPP参加によって、医療システムが「アメリカ型」に近づけば、医療費の自己負担が大きくなり、原発事故の被害者はますます苦難を強いられることになるだろう。

医療についての「現時点では交渉対象ではない」という政府のコメントは、「ただちに影響はありません」と同じで、「将来は影響がある」「将来は交渉対象になる」ということ。

TPPは、原発と同様に一部の人間が利益を得るために多くの庶民を苦しめることになる。

日本の医療をグローバルスタンダードに引きずり落とすな
TPP参加で確実に生じる医療格差 多田 智裕
(2011.11.01 JBpress)

11月12日から開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)が近づいてきました。野田佳彦総理はこの場において、TPP(環太平洋経済連携協定)参加に「大枠合意」の表明をすると見られています。

 TPPへの参加を巡っては、貿易自由化を推進すべきだという意見、農業を保護するために参加すべきではないとする意見など、様々な立場から賛否両論の声が挙がっています。以下では、医療に携わる立場から、なぜTPPに参加すべきではないのかを改めて述べてみたいと思います。

金持ちでなければ医療を受けられないのがグローバルスタンダード

 TPPは、韓国が米国と結んだFTA(自由貿易協定)と比較されることが多く、一般には「加盟国間で取引される全品目について関税を撤廃すること」と理解されているようです。

 しかし、TPPは貿易協定であるFTAとは異なり、「2015年度までに農作物、工業製品、サービスなどすべての商品について、例外なしに関税その他の貿易障壁を撤廃する」ことが目標とされています。

 サービスには、金融や医療も含まれますし、その他の貿易障壁には食料安全基準に加えて、法律などの制度も含まれます。ですから、TPPの問題の本質は関税ではありません。

 金融・医療・食料・法律を含めた、現在日本に存在するありとあらゆる規制を他国(主として米国)に準じて「現在のグローバルスタンダードである市場原理に任せるのか否か」が問われているのです。

 医療に関して言うと、良質の最新医療を受けるならば、多くの家庭では借金しないと支払えないくらいの大金が必要になります。それが、市場原理が支配するグローバルスタンダードに合わせるということです。

 日本の健康保険制度のもとでは、報酬が点数によってあらかじめ決まっているため、医療機関はたいした利益が上がらないような仕組みになっています。この制度が功を奏して、日本はこれまで「国民皆保険制度」で、世界一安くて質の高い医療をすべての人に平等に行ってきました。

その医療制度が、TPPへの参加によって崩壊するのです。

 大金持ちしか満足な医療を受けることができず、中間層以下の人たちは十分な治療を受けられず 命を落としてしまうかもしれない。そんな医療格差を本当につくってしまってよいのでしょうか。

二重の規制が日本国民の健康を守っている

 日本の医療には、他国と比べて決定的に違う規制が2つあります。

 1つ目は、国民皆保険が存在するため、すべての国民が公的保険による医療を受けることができるという点です。

 2つ目は、市場をほぼ100%独占する国民皆保険の価格を決める全国一律の保険点数により、医療費の水準自体を国家が抑え込んでいる(過去10年で言うとマイナス改訂)ということです。

 他国では存在しないこの二重の規制は、50年以上にわたりあまりにも長く、日本では日常的に運営されてきました。そのため、「空気」と同じようになってしまっていて、その恩恵の大きさを認識できていない人たちがほとんどだと思われます。

 でも、この日本特有の「統制経済」である国民皆保険により、医療費が払えなくて破産したり、医療費が払えないために十分な医療が受けられないまま命を落としたりする事態は、日本においてはほぼ皆無なのです。

 そもそも、医療における規制は、医療を受ける人を守るために存在しています。その根本を無視して、「医療界は規制で『保護』されている」と議論されているのを見るのは、医療従事者として悲しい限りです。

「現時点では交渉対象ではない」は詭弁である

 政府はTPP参加を巡る議論の中で、医療について「現時点では営利企業の参入や混合診療解禁は議論の対象外である」と説明しています。これでは多くの人が、「なんだ、今まで通り日本の国民皆保険は守られるじゃないか」と考えてしまうでしょう。

 しかし、TPP参加国の中で、国民皆保険で株式会社の医療への参入を阻害し、混合診療を禁止して、医療価格を全国一律の保険点数で統制し抑え込んでいる国は、日本以外にはありません。

 日本がまだ参加していない時点では、「交渉対象にすらなっていない」のは当たり前なのです。

 さらには、TPPを巡る交渉の場では、参加国すべてが合意しなければならないのです。他の国とは全く異なる医療制度を持つ日本が、TPP参加表明をするということは、「医療についても現在参加している国々に合わせて変化させることを表明した」のとほぼ同義であると、私は思います。

 政府の「現時点では交渉対象ではない」というコメントは、とんでもない詭弁なのではないでしょうか。

価格統制がなくなると医療費はとめどなく上昇していく

 「すべての規制をなくす」という自由市場主義のもとでは、国民皆保険も、医療の全国一律の点数制度も、営利企業が医療サービスで利益を上げる際の「障害」に他なりません。よって、TPP参加は、国民皆保険制度を崩壊に至らしめることになるでしょう。

 加えて、みなさんに知っておいていただきたいのは、「自由な市場に委ねれば競争原理が働いて価格が下がる」ことは、医療では起こり得ないという事実です。

 医療は高度な専門性に立脚しており、情報面において患者は圧倒的に不利なため、価格メカニズムが十分に働かないからです。

 世界一高い米国の医療費が証明しているように、医療費は国家の価格統制なしには、とめどなく高騰していくのです。

 日本が世界に誇るべき医療制度(国民皆保険と保険点数による「全国統一の規制価格」)は、持続できるかどうかの瀬戸際に立たされていると言っても過言ではありません。

 今後の交渉次第とはいえ、政府から日本の「国民皆保険」を守るビジョンが示されることなく、必要な予算措置もなされないのであれば、行く末は見えています。

 TPP参加により国民皆保険は崩壊、医療費は高騰し、医療を受けられない人たちが続出するでしょう。それがグローバルスタンダードに合わせるということなのです。

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