放射能汚染がれきや汚泥、剪定ごみは燃やしてはいけない

放射能汚染がれきや汚泥、剪定ごみは燃やしてはいけない
(2011年10月14日週刊金曜日)

放射能に汚染された「がれき」のみならず、下水汚泥や草木ごみにも汚染が広がっている。これらを燃やせば大気が汚染され放射能被曝の二次被害になる。

八月のお盆のとき、京都市では、岩手県陸前高田で津波に倒された松を「五山の送り火」に使い、東日本大震災の被害者の霊を弔う計画を立てたが中止になった。原発事故による放射能汚染が松にも及んでいたからである。放射能汚染の影響が、福島以外にも広がりつつあることが、全国に知られることになった。

燃やすがれきの基準示さず

これより先の六月二三日、環境省は、福島県内の放射能汚染されたがれきの処理方法として、(1)可燃ごみは市町村の清掃工場の焼却炉で焼却(2)不燃ごみは除染せず埋立て処分、との方針を発表した。

日本の現行法制度は、放射性物質および放射能汚染物は特別な取扱いを要求し、一般の廃棄物として取扱ってよいのは汚染度がごく低いものに限るとしている (注1)。クリアランスレベルとして定めた基準では、被曝放射線量の被曝規制量は、自然放射線量の100分の1の年間10マイクロシーベルト。放射能濃度の規制値は、放射性物質ごとに決められ、たとえばセシウム134や137は、それぞれ1キログラムあたり100ベクレルとなっていた。

一度廃棄物として流れ出すと、焼却や破砕、埋立てなどの処理過程で周辺にどのような影響を与えるかわからないので、基準値は国際的なすり合わせも経て厳しく設定している。2005年度に施行され、原子炉の解体にあたって排出された基準以下の廃棄物は、産業廃棄物業者に引き取られ、処理処分されてきた。

環境省の方針では、不燃ごみや焼却灰等の埋立てごみはこの基準の80倍の8000ベクレルという緩い規制値を示し、可燃ごみでは、この基準に関係なく、バグフィルター(集塵器)が付設されていればなんでも燃やしてよいとしている。基準無視をつくろうためか環境省は、非公開の「災害廃棄物安全評価検討会」(有識者検討会)を作り、この方針が了解されたとメディアに流した。

有識者検討会の委員の中心人物で、国立環境研究所の大迫政浩資源循環・廃棄物研究センター長は、バグフィルターが付加されていれば、放射性物質を除去できるとし、「煙となって拡散される恐れはない」と週刊誌『AERA』(8月8日号)で語った。その一方で、廃棄物関係の専門誌である『月刊廃棄物』 (九月号)では、「元来放射性物質は廃棄物処理法に含まれていなかったので、われわれ国立環境研究所は、知見もノウハウもほとんどありませんでした」「自治体からの要請に基づいて、排ガス中の挙動や放射能レベルが高くなる原因究明についての調査も行ってゆきます」と語っている

『AERA』では「拡散される恐れはない」、専門誌では「今後調べる」。この矛盾点について10月5日、本人に聞くと、『AERA』 の取材が後で、調査の結果「拡散しないことがわかった」と答えた。「知見もノウハウもない」調査が、それほど簡単にできるはずがない。それにしても単なる技術上の有識者検討会が非公開とは、先進国の資格すらない。

汚染がれき福島以外でも

東日本大震災と津波は、約2万名の死者と行方不明者を出すとともに、東北3県(岩手、宮城、福島) の災害廃棄物(以下、がれき)を2400万トン ー 日本全国で一年間に排出される廃棄物の約半分という膨大な量を生み出した。災害復旧のため、この処理は欠かせない。しかし福島県のがれきの処理に限ってでさえ、5年から10年かかる予定である。それに加え、福島第一原発の事故により、広島の168倍ものセシウム137が環境に放出されている。

放射性物質は、露天に放置されていたがれきを汚染し、がれきの処理はより困難になったしかも7月に見つかった牛肉・稲わら汚染では、宮城、岩手でも露天においていた稲わらの高濃度汚染が明らかになった。環境省は当初、放射能汚染は福島県内のみと考え、福島県内のがれきは、福島県内で処理し、宮城と岩手のがれきは、全国に運んで処理するとした。環境省がこの方針をいまだに変えていないのは大きな疑問だ。このままがれきを全国に運べば放射能汚染を全国に広めることになる。

環境省の方針にもかかわらず、全国の自治体でがれきの受け入れは進んでいない(『東京新聞』9月9日)。国が基準を示していないため、がれきを出す側は、汚染がれきを他の自治体に送るわけにはゆかず、受け入れ側自治体も住民を汚染にさらすことはできないからである。

予測不能な「濃縮」

放射性物質は、東北三県にとどまらず、東日本エリア全域に降り落ちている。東京大学の児玉龍彦教授は著書『内部被曝の真実』の中で、稲わらの何万ベクレルもの高濃度汚染は、放射性物質を含む雨が稲わらに浸み乾燥し再び雨に濡れる ― この繰り返しが原因だと予測した。

今後、降り落ちた膨大な量の放射性物質が濃縮しつづけ、私たちに与える影響が心配である。

福島第一原発から放出された放射性の浮遊物が、風向きと地形によって、距離に関係なくホットスポット(高線量汚染区域)を作ったのも自然の濃縮作用と言える。そしていま心配なのは、汚染物の焼却による人為的な濃縮作用である。

一つは、地上に降り落ちた放射性物質が雨に流されて下水処理場に流れ、固液分離処理によって汚泥に濃縮され、これが処理場によっては燃やされていること。もう一つは街路樹や公園の樹木、庭木に付着した放射性物質も剪定ごみとして、多くの市町村で燃やされていることだ焼やしている所では焼却灰は高濃度汚染を示している。市町村の焼却炉は、有害物の分解装置として造られたものでない。放射性物質は焼却炉で燃やしてもなくなるわけではなく、排ガスと微粒子になる。バグフィルターではガスは除去できず、微粒子もすべて取りきれるわけでない。焼却灰が高濃度に汚染されているということは、煙突から大気中に放射性物質が比例して放出されているということである (注2)。

東京都や国が集計した焼却施設の排ガス中の放射性物質は、検出限度以下の数値なら「不検出」と示され、行政担当者は「出ていない」という。しかしこれはゼロということではない。たとえば東京都の足立清掃工場の焼却炉は、毎時8万立方メートルの排ガスを煙突から出す。「不検出」とされて実際に排出される量が、1立方メートルあたり2ベクレルというわずかな量であっても、1日に38万4000ベクレルの放射性物質を出すことになる。煙が流れる先は、煙突の高さ・地形などによって、特定の場所に流れる。この人為的な濃縮をやめさせる必要がある。

空気をこれ以上汚すな

9月28日、東京都が岩手県のがれきを今年度中に1万トン、最終的には50万トンを引き受けると発表した。民間業者に引き受けさせ、木くずや鉄くず、プラスチックが混じったごみを業者が分別・破砕したうえで焼却し、その焼却灰を東京都が管理する埋め立て処分場に埋め立てるという。しかもその民間業者は東京電力が出資した東電グループの企業で、原発で儲け、汚染ごみ処理でまた儲けるという悪い冗談のような話である。

都民が心配する安全確認方法も杜撰である。岩手県の焼却炉で燃やした結果問題なかったというのである。今回引き受ける民間業者の焼却炉でがれきを燃やして、排ガスも焼却灰も汚染レベルが低かったという話ではない。

岩手県の「焼却炉」で燃やしたデータで、東京の業者の「焼却炉」で燃やしてよいと言うのは、大学入試の替え玉受験の答案内容を正式に認めるのと同じ酷さだ。

環境省が放射能汚染がれきの焼却を安易に認める背景には、東日本各地で、放射能汚染された汚泥や剪定ごみがすでに燃やされ、がれきの焼却が加わっても大勢に影響ないという判断があったと聞く。しかし国民の命と健康を守る立場で考えれば、これまで燃やしていたものも、放射能汚染物となっている以上、燃やせば空気の汚染を進めることになる。埋め立て保管したり、天日乾燥したりする他の処理方法の選択こそが求められている。

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(注1)原子炉等規制法のクリアランス制度。第六一条の二および第七二条の二の二。
(注2)青木泰プログをご覧ください。https://gomigoshi.at.webry.info/

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あおき やすし・環境ジャーナリスト。

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